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第三部:兵糧戦線、前進!
第三十四話:米断たれ、麦に活路
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武藤家の大軍は、戦場への行軍を続けていた。
日々運ばれる兵糧は、飢えた数万の胃袋に比べれば、常にぎりぎりの量だった。
そんな中、兵糧隊に衝撃的な知らせが届いた。
後方から来るはずの、主要な「米」の輸送隊が、敵の奇襲を受けたか、あるいは天候不順で完全に足止めを食らい、当面到着の見込みがないというのだ。
陣営にざわめきが広がる。
米が来ない。
それは、この飢餓の戦いにおける、最も恐れていた事態の一つだ。
米は、兵士たちが最も慣れ親しんだ主食であり、他の雑穀よりも炊きやすく、食べやすい。
その米の供給が途絶えるということは、これまでの飢餓が、さらに深刻な段階に入ることを意味する。
千兵衛は、第二師団の兵糧責任者として、現時点での備蓄品目録を確認した。
米は、あと数日分しか残っていない。
しかし、幸いなことに、米ほどではないにしても、麦(むぎ)や粟(あわ)、稗(ひえ)といった、いわゆる「雑穀」の備蓄は、比較的多く残っていた。
これらは、米に比べて不人気で、兵士たちもあまり好まない。
しかし、今はこれを主食とするしかない。
炊事場の兵士たちの間に、落胆の色が広がる。
「また麦飯か……」
「これだけじゃ腹が膨れねえんだよな……」
「もう、美味い米は食えねえのか……」
麦は米に比べて硬く、パサつきやすい。
美味しく炊くには工夫がいる。
兵士たちは、麦飯を「まずい」「腹が膨れない」ものとして嫌っていた。
この麦を、これから主食として食べさせなければならない。
単に炊くだけでは、兵士たちの士気はさらに落ち込むだろう。
千兵衛は、残った雑穀の備蓄を見ながら、この状況を打開するための「いくさ飯」を考えた。
麦を、兵士たちが「これなら食べられる」「腹持ちが良い」と感じられるような、確かな主食にする方法だ。
それは、単に飢えをしのぐだけでなく、麦という粗末に見られがちな穀物に、兵士が納得するだけの「力」を与えることだ。
千兵衛は、主に麦と、備蓄の粟や稗を混ぜ合わせたものを使うことにした。
麦は、そのまま炊くと硬い。
彼は、まず麦をたっぷりの水に、通常よりも長時間水に浸すことから始めた。
こうすることで、麦は水分を吸い込み、柔らかく、ふっくらと炊きあがりやすくなる。
水に浸した麦と雑穀を混ぜ合わせる。
そこに、手に入るわずかな量の、細かく刻んだ根菜や、乾燥野菜、そして栄養価の高い豆(炒り豆の砕いたものなど)を加える。
これらは、麦飯に食感のアクセントと、栄養、そして彩りを加える。
塩で味を調え、全体を丁寧に混ぜ合わせる。
調理は、蒸し器(第十七話、第二十話で活用)を使うことにした。
大きな釜に水を張り、その上に蒸し籠を乗せる。
混ぜ合わせた麦飯の素を蒸し籠に移し、蓋をする。
火にかけると、釜の水がぐつぐつと沸騰し、大量の湯気が立ち上る。
もくもくと立ち上る湯気が、麦飯の素をほわほわと優しく包み込み、芯までじっくりと熱を通していく。
じっくりと時間をかけて蒸し上げる。煮炊きと違い、焦げ付きの心配も少ない。蒸し器からは、麦と雑穀、そして混ぜ込まれた野菜や豆の、こうばしい、優しい香りがふわりと漂う。
それは、単なる麦飯の匂いとは違う、どこか期待を抱かせる香りだった。
蒸しあがった「滋養麦飯蒸し」は、見た目にもふっくらとして、一粒一粒がつやつやと輝いている。
混ぜ込まれた野菜や豆が、彩りを添えている。手で触れると、驚くほど柔らかい。
千兵衛は、出来上がった滋養麦飯蒸しを、その日の夕食として配給させた。
兵士たちは、配られた飯が麦飯であることに気づき、一瞬、落胆の顔をする。
しかし、見た目がいつもと違うこと、そして立ち上る香りに、ん?と首を傾げる。
千兵衛は、滋養麦飯蒸しを手に、この料理に込めた思いを語った。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
彼は、米が乏しい今、この麦飯こそが兵士たちの力となる糧であり、工夫次第で麦も兵士を支える確かな主食になりうることを説いた。
兵士たちは、おそるおそる滋養麦飯蒸しを口にする。もぐもぐと噛みしめる。
驚いた。
いつものパサパサで硬い麦飯とは全く違う。
米のようにふっくらとして、もっちりとした食感もある。
混ぜ込まれた豆や野菜のつぶつぶとした食感がアクセントになり、噛むほどに穀物本来の甘みと、ほのかな野菜の滋味が広がる。
それは、確かに麦飯だが、十分に美味しく、腹持ちも良さそうだ。
「おお……!」
「美味いぞ、これ!」
「本当に麦か!?」
兵士たちの顔に、驚きと、そして安堵の色が広がる。
米が無くても、これほどの飯が食える。
それは、彼らにとって、絶望的な状況の中での、確かな希望となった。
皆、夢中で滋養麦飯蒸しをかき込んだ。
軍目付代の井上治部少輔は、この日の炊事場の様子を見てはいなかった。
彼が見ていれば、千兵衛がまた「無駄な工夫」をしていると批判したかもしれない。
しかし、兵士たちの間で行き交う「美味い」「これならやれる」といった声は、やがて彼の耳にも入るだろう。
この滋養麦飯蒸しは、米という主要な兵糧が途絶えたという、飢餓との戦いにおける最大の危機の一つに対する、千兵衛の答えだった。
兵士たちが敬遠する麦を、工夫次第で確かな主食に変える。
それは、千兵衛のいくさ飯が、どんな困難にも適応できることを示した。
しかし、この麦飯が、いつまで兵士たちの士気を維持できるのかは分からない。
米の供給は再開されるのか。
そして、これから直面する戦場では、この麦飯をいかにして兵士に届けるのか。
飢餓との戦いは、新たな、そしてさらに厳しい局面を迎える。
【今回のいくさ飯】
『米が無くても戦える! 滋養麦飯蒸し』
米の供給が途絶えた状況で、主食として活用された麦(主に)と他の雑穀を使い、長時間水に浸すこと、そして蒸すこと(第十七話、第二十話で活用)で、硬い麦をふっくら、もっちりと柔らかく美味しく仕上げたもの。
刻んだ根菜や豆を混ぜ込み、栄養と食感を加える。
兵士が敬遠しがちな麦を、工夫次第で十分な主食になりうることを示した一品。
米がなくても戦える、という兵士の自信と安心に繋がる。
(現代の押し麦ご飯、麦とろご飯のアレンジ。主食の切り替え、適応力)
日々運ばれる兵糧は、飢えた数万の胃袋に比べれば、常にぎりぎりの量だった。
そんな中、兵糧隊に衝撃的な知らせが届いた。
後方から来るはずの、主要な「米」の輸送隊が、敵の奇襲を受けたか、あるいは天候不順で完全に足止めを食らい、当面到着の見込みがないというのだ。
陣営にざわめきが広がる。
米が来ない。
それは、この飢餓の戦いにおける、最も恐れていた事態の一つだ。
米は、兵士たちが最も慣れ親しんだ主食であり、他の雑穀よりも炊きやすく、食べやすい。
その米の供給が途絶えるということは、これまでの飢餓が、さらに深刻な段階に入ることを意味する。
千兵衛は、第二師団の兵糧責任者として、現時点での備蓄品目録を確認した。
米は、あと数日分しか残っていない。
しかし、幸いなことに、米ほどではないにしても、麦(むぎ)や粟(あわ)、稗(ひえ)といった、いわゆる「雑穀」の備蓄は、比較的多く残っていた。
これらは、米に比べて不人気で、兵士たちもあまり好まない。
しかし、今はこれを主食とするしかない。
炊事場の兵士たちの間に、落胆の色が広がる。
「また麦飯か……」
「これだけじゃ腹が膨れねえんだよな……」
「もう、美味い米は食えねえのか……」
麦は米に比べて硬く、パサつきやすい。
美味しく炊くには工夫がいる。
兵士たちは、麦飯を「まずい」「腹が膨れない」ものとして嫌っていた。
この麦を、これから主食として食べさせなければならない。
単に炊くだけでは、兵士たちの士気はさらに落ち込むだろう。
千兵衛は、残った雑穀の備蓄を見ながら、この状況を打開するための「いくさ飯」を考えた。
麦を、兵士たちが「これなら食べられる」「腹持ちが良い」と感じられるような、確かな主食にする方法だ。
それは、単に飢えをしのぐだけでなく、麦という粗末に見られがちな穀物に、兵士が納得するだけの「力」を与えることだ。
千兵衛は、主に麦と、備蓄の粟や稗を混ぜ合わせたものを使うことにした。
麦は、そのまま炊くと硬い。
彼は、まず麦をたっぷりの水に、通常よりも長時間水に浸すことから始めた。
こうすることで、麦は水分を吸い込み、柔らかく、ふっくらと炊きあがりやすくなる。
水に浸した麦と雑穀を混ぜ合わせる。
そこに、手に入るわずかな量の、細かく刻んだ根菜や、乾燥野菜、そして栄養価の高い豆(炒り豆の砕いたものなど)を加える。
これらは、麦飯に食感のアクセントと、栄養、そして彩りを加える。
塩で味を調え、全体を丁寧に混ぜ合わせる。
調理は、蒸し器(第十七話、第二十話で活用)を使うことにした。
大きな釜に水を張り、その上に蒸し籠を乗せる。
混ぜ合わせた麦飯の素を蒸し籠に移し、蓋をする。
火にかけると、釜の水がぐつぐつと沸騰し、大量の湯気が立ち上る。
もくもくと立ち上る湯気が、麦飯の素をほわほわと優しく包み込み、芯までじっくりと熱を通していく。
じっくりと時間をかけて蒸し上げる。煮炊きと違い、焦げ付きの心配も少ない。蒸し器からは、麦と雑穀、そして混ぜ込まれた野菜や豆の、こうばしい、優しい香りがふわりと漂う。
それは、単なる麦飯の匂いとは違う、どこか期待を抱かせる香りだった。
蒸しあがった「滋養麦飯蒸し」は、見た目にもふっくらとして、一粒一粒がつやつやと輝いている。
混ぜ込まれた野菜や豆が、彩りを添えている。手で触れると、驚くほど柔らかい。
千兵衛は、出来上がった滋養麦飯蒸しを、その日の夕食として配給させた。
兵士たちは、配られた飯が麦飯であることに気づき、一瞬、落胆の顔をする。
しかし、見た目がいつもと違うこと、そして立ち上る香りに、ん?と首を傾げる。
千兵衛は、滋養麦飯蒸しを手に、この料理に込めた思いを語った。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
彼は、米が乏しい今、この麦飯こそが兵士たちの力となる糧であり、工夫次第で麦も兵士を支える確かな主食になりうることを説いた。
兵士たちは、おそるおそる滋養麦飯蒸しを口にする。もぐもぐと噛みしめる。
驚いた。
いつものパサパサで硬い麦飯とは全く違う。
米のようにふっくらとして、もっちりとした食感もある。
混ぜ込まれた豆や野菜のつぶつぶとした食感がアクセントになり、噛むほどに穀物本来の甘みと、ほのかな野菜の滋味が広がる。
それは、確かに麦飯だが、十分に美味しく、腹持ちも良さそうだ。
「おお……!」
「美味いぞ、これ!」
「本当に麦か!?」
兵士たちの顔に、驚きと、そして安堵の色が広がる。
米が無くても、これほどの飯が食える。
それは、彼らにとって、絶望的な状況の中での、確かな希望となった。
皆、夢中で滋養麦飯蒸しをかき込んだ。
軍目付代の井上治部少輔は、この日の炊事場の様子を見てはいなかった。
彼が見ていれば、千兵衛がまた「無駄な工夫」をしていると批判したかもしれない。
しかし、兵士たちの間で行き交う「美味い」「これならやれる」といった声は、やがて彼の耳にも入るだろう。
この滋養麦飯蒸しは、米という主要な兵糧が途絶えたという、飢餓との戦いにおける最大の危機の一つに対する、千兵衛の答えだった。
兵士たちが敬遠する麦を、工夫次第で確かな主食に変える。
それは、千兵衛のいくさ飯が、どんな困難にも適応できることを示した。
しかし、この麦飯が、いつまで兵士たちの士気を維持できるのかは分からない。
米の供給は再開されるのか。
そして、これから直面する戦場では、この麦飯をいかにして兵士に届けるのか。
飢餓との戦いは、新たな、そしてさらに厳しい局面を迎える。
【今回のいくさ飯】
『米が無くても戦える! 滋養麦飯蒸し』
米の供給が途絶えた状況で、主食として活用された麦(主に)と他の雑穀を使い、長時間水に浸すこと、そして蒸すこと(第十七話、第二十話で活用)で、硬い麦をふっくら、もっちりと柔らかく美味しく仕上げたもの。
刻んだ根菜や豆を混ぜ込み、栄養と食感を加える。
兵士が敬遠しがちな麦を、工夫次第で十分な主食になりうることを示した一品。
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