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第四部:決戦、飢餓の戦場
第四十三話:戦場の保存食、灰汁の奇跡
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決戦は、血と泥の中で続いていた。
太鼓の音と怒号が響き渡り、兵士たちは疲弊しながらも武器を振るう。
剣戟(けんげき)の音、悲鳴、そして呻き声が絶えない。
その中で勝鬨握り(第四十一話)は食べ尽くされ、滋養液(第四十二話)の配給も追いつかない。
兵士たちは、飢えと渇き、そして極限の疲労に苛まれていた。
「腹が、減った……」
「もう、動けねえ……」
力の尽きた兵士が、その場に崩れ落ちる。
戦場の真っただ中で、立ち止まって食事をする余裕などない。
かといって、水と火を使ねば食べられない干飯(乾飯)のような従来の兵糧は、この状況では無力だ。
兵士たちは、瞬時に、そして手軽に、腹を満たし、力を取り戻せる何かを求めていた。
千兵衛は、この状況を予測していた。
戦場の飢餓は、行軍中の飢餓とは異なる。
それは、休息も調理もままならない極限下での、即時性を求める飢餓だ。
彼は、この時のために、特別な「いくさ飯」を用意していた。
それは、薩摩の兵が朝鮮出兵の際に用いたという、灰汁(あく)で炊いた保存食にヒントを得たものだ。
その「いくさ飯」とは、「灰汁炊き団子(あくたきだんご)」だ。
これは、糯米(もちごめ)を、灰を水に溶かした「灰汁」で炊き上げ、竹の皮(竹の皮)で包んだものだ。
灰汁で炊くことにより、米は独特の弾力と、冷めても硬くならない柔らかさを持つ。
さらに、灰汁の強いアルカリ性が、雑菌の繁殖を抑え、驚くほどの保存性をもたらす。
この、乏しい資材と知恵で生み出された保存食を前に、千兵衛は自身の兵糧哲学を確かな声で語った。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
この灰汁炊き団子は、戦いが始まる前に、千兵衛の兵糧隊によってじっくりと時間をかけて大量に準備されていた。
糯米を灰汁に浸け、丁寧に炊き上げ、一つ一つ孟宗竹の皮で包む。
それは、戦場の混沌とは無縁の、静かで、しかし確かな作業だった。
灰汁炊き団子は、兵士たちの携帯食料として、勝鬨握りや水筒と共に、最初から支給されていた。
しかし、勝鬨握りのような即効性がないため、あるいは見た目の地味さから、すぐに食べられずにいた者も多い。
だが、今、勝鬨握りが尽き、飢えが限界に達した兵士たちが、その存在を思い出す。
戦場のわずかな小康状態。
兵士の一人が、体に力が入らないのを感じ、腰の袋に手を伸ばした。
そこには、竹の皮に包まれた、見慣れない「団子」が入っている。
それが、千兵衛殿が「灰汁炊き」と呼んでいたものだ。
兵士は、急いで竹の皮を解いた。
竹の香りと共に現れたのは、琥珀色のような、ぬるりとした光沢のある団子だ。
手に取ると、ぷるんとした、独特の弾力がある。
硬くない。
そして、火も水も使わず、このまま食べられるのだ。
兵士は、その団子をむぎゅっと噛みしめた。
もっちりとして、しかし歯切れの良い食感。
味はほとんどない。
微かに、米の甘みと、土のような、不思議な風味がする。
だが、噛めば噛むほど、腹にずっしりと収まる感じがする。
これは、単なる腹の足しではない。
噛みしめるごとに、団子の滋養が体中にじわりと染み渡るようだ。
先ほどの絶望的な空腹感が薄れていく。
体力が持続するのを感じる。
乾燥した干飯のように水で戻す必要もなく、粥のように煮る必要もない。
戦場の、今、この瞬間に、そのまま食べられる確かな糧だ。
別の場所では、負傷して動けなくなっている兵士が、仲間に灰汁炊き団子を分け与えられていた。
固形物を噛む力もない兵士でも、この団子の柔らかさならば、少しずつ口にすることができる。
飢えと渇き、そして負傷の痛みに苦しむ兵士にとって、この団子は命を繋ぐ希望となる。
軍目付代の井上治部少輔は、後方で戦況を見守りながら、前線近くで灰汁炊き団子が兵士たちによって食べられている様子を、時折目にした。
彼は、その驚異的な保存性と、兵士がそのまま食べられるという利便性の高さを改めて認識した。
かつての厳格な兵站観では考えられなかった、画期的な携行食だ。
千兵衛の「いくさ飯」は、自身の常識を遥かに超えている。
この灰汁炊き団子は、戦場の長く、そして先の見えない飢餓と戦うための、千兵衛の新たな答えだった。
それは、数百年後の世でも「保存食」として生き続ける、兵士たちの生き抜く知恵が詰まった糧だ。
戦いは続く。
灰汁炊き団子は、飢えと疲労に苦しむ兵士たちの、静かなる支えとなる。
だが、この団子にも限りがある。
そして、戦場は、この団子だけでは凌ぎきれない、さらなる飢餓と絶望に満ちていく。
【今回のいくさ飯】
『戦場の命を繋ぐ保存食。 灰汁炊き団子(あくたきだんご)』
第四部、戦場での兵士携帯用糧として、大戦前に準備された保存食。
糯米を灰(藁などを燃やした灰)を水に溶かした「灰汁」で炊き上げ、孟宗竹の皮で包んだもの。
灰汁のアルカリ性により驚異的な保存性を持ち、冷めても硬くならず、そのままで食べられるのが最大の特徴。
戦場の火や水がない状況で、瞬時に摂取できる確かな糧として兵士の腹を満たし、体力を維持する。
薩摩藩の「あくまき」をモチーフとしている。
第四部の主要な「いくさ飯」の一つ。
(現代のあくまき、保存食、防災食。即時摂取、長期保存、戦場での生命線)
太鼓の音と怒号が響き渡り、兵士たちは疲弊しながらも武器を振るう。
剣戟(けんげき)の音、悲鳴、そして呻き声が絶えない。
その中で勝鬨握り(第四十一話)は食べ尽くされ、滋養液(第四十二話)の配給も追いつかない。
兵士たちは、飢えと渇き、そして極限の疲労に苛まれていた。
「腹が、減った……」
「もう、動けねえ……」
力の尽きた兵士が、その場に崩れ落ちる。
戦場の真っただ中で、立ち止まって食事をする余裕などない。
かといって、水と火を使ねば食べられない干飯(乾飯)のような従来の兵糧は、この状況では無力だ。
兵士たちは、瞬時に、そして手軽に、腹を満たし、力を取り戻せる何かを求めていた。
千兵衛は、この状況を予測していた。
戦場の飢餓は、行軍中の飢餓とは異なる。
それは、休息も調理もままならない極限下での、即時性を求める飢餓だ。
彼は、この時のために、特別な「いくさ飯」を用意していた。
それは、薩摩の兵が朝鮮出兵の際に用いたという、灰汁(あく)で炊いた保存食にヒントを得たものだ。
その「いくさ飯」とは、「灰汁炊き団子(あくたきだんご)」だ。
これは、糯米(もちごめ)を、灰を水に溶かした「灰汁」で炊き上げ、竹の皮(竹の皮)で包んだものだ。
灰汁で炊くことにより、米は独特の弾力と、冷めても硬くならない柔らかさを持つ。
さらに、灰汁の強いアルカリ性が、雑菌の繁殖を抑え、驚くほどの保存性をもたらす。
この、乏しい資材と知恵で生み出された保存食を前に、千兵衛は自身の兵糧哲学を確かな声で語った。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
この灰汁炊き団子は、戦いが始まる前に、千兵衛の兵糧隊によってじっくりと時間をかけて大量に準備されていた。
糯米を灰汁に浸け、丁寧に炊き上げ、一つ一つ孟宗竹の皮で包む。
それは、戦場の混沌とは無縁の、静かで、しかし確かな作業だった。
灰汁炊き団子は、兵士たちの携帯食料として、勝鬨握りや水筒と共に、最初から支給されていた。
しかし、勝鬨握りのような即効性がないため、あるいは見た目の地味さから、すぐに食べられずにいた者も多い。
だが、今、勝鬨握りが尽き、飢えが限界に達した兵士たちが、その存在を思い出す。
戦場のわずかな小康状態。
兵士の一人が、体に力が入らないのを感じ、腰の袋に手を伸ばした。
そこには、竹の皮に包まれた、見慣れない「団子」が入っている。
それが、千兵衛殿が「灰汁炊き」と呼んでいたものだ。
兵士は、急いで竹の皮を解いた。
竹の香りと共に現れたのは、琥珀色のような、ぬるりとした光沢のある団子だ。
手に取ると、ぷるんとした、独特の弾力がある。
硬くない。
そして、火も水も使わず、このまま食べられるのだ。
兵士は、その団子をむぎゅっと噛みしめた。
もっちりとして、しかし歯切れの良い食感。
味はほとんどない。
微かに、米の甘みと、土のような、不思議な風味がする。
だが、噛めば噛むほど、腹にずっしりと収まる感じがする。
これは、単なる腹の足しではない。
噛みしめるごとに、団子の滋養が体中にじわりと染み渡るようだ。
先ほどの絶望的な空腹感が薄れていく。
体力が持続するのを感じる。
乾燥した干飯のように水で戻す必要もなく、粥のように煮る必要もない。
戦場の、今、この瞬間に、そのまま食べられる確かな糧だ。
別の場所では、負傷して動けなくなっている兵士が、仲間に灰汁炊き団子を分け与えられていた。
固形物を噛む力もない兵士でも、この団子の柔らかさならば、少しずつ口にすることができる。
飢えと渇き、そして負傷の痛みに苦しむ兵士にとって、この団子は命を繋ぐ希望となる。
軍目付代の井上治部少輔は、後方で戦況を見守りながら、前線近くで灰汁炊き団子が兵士たちによって食べられている様子を、時折目にした。
彼は、その驚異的な保存性と、兵士がそのまま食べられるという利便性の高さを改めて認識した。
かつての厳格な兵站観では考えられなかった、画期的な携行食だ。
千兵衛の「いくさ飯」は、自身の常識を遥かに超えている。
この灰汁炊き団子は、戦場の長く、そして先の見えない飢餓と戦うための、千兵衛の新たな答えだった。
それは、数百年後の世でも「保存食」として生き続ける、兵士たちの生き抜く知恵が詰まった糧だ。
戦いは続く。
灰汁炊き団子は、飢えと疲労に苦しむ兵士たちの、静かなる支えとなる。
だが、この団子にも限りがある。
そして、戦場は、この団子だけでは凌ぎきれない、さらなる飢餓と絶望に満ちていく。
【今回のいくさ飯】
『戦場の命を繋ぐ保存食。 灰汁炊き団子(あくたきだんご)』
第四部、戦場での兵士携帯用糧として、大戦前に準備された保存食。
糯米を灰(藁などを燃やした灰)を水に溶かした「灰汁」で炊き上げ、孟宗竹の皮で包んだもの。
灰汁のアルカリ性により驚異的な保存性を持ち、冷めても硬くならず、そのままで食べられるのが最大の特徴。
戦場の火や水がない状況で、瞬時に摂取できる確かな糧として兵士の腹を満たし、体力を維持する。
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(現代のあくまき、保存食、防災食。即時摂取、長期保存、戦場での生命線)
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