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第五部:帰還、そして束の間の平穏
第五十三話:故郷の味、甘味と団らん
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帰還行軍は、単調に続いていた。
兵士たちは、帰途の糧包(第五十一話)で体力を、養生水(第五十二話)で体の調子を維持していたが、その足取りは重く、表情は乏しい。
戦場の飢餓と恐怖、そして多くの仲間を失った哀しみは、彼らの心に深い影を落としていた。
故郷が近づいているという希望はあるものの、その道のりは長く、毎日同じことの繰り返しだ。
単調な行軍は、兵士たちの心をじわじわと疲弊させていく。
「……まだ、着かないのか……」
「……あいつ、死んじまったな……」
兵士たちの口から漏れるのは、弱々しい愚痴や、失われた仲間への追悼ばかりだ。
笑い声はほとんど聞こえず、会話も少ない。
彼らは、体だけでなく、心も飢えていた。
生きるための希望という名の糧が、不足していたのだ。
兵糧方・千兵衛は、そんな兵士たちの様子を注意深く見ていた。
食は、腹を満たすだけでなく、心も満たすものだ。
この単調で苦しい道のりの中で、兵士たちの心に灯を灯すような「いくさ飯」が必要だと考えた。
彼は、補給部隊からもたらされた物資の中にあった、甘みのある乾燥果実(干し柿や干し芋など)、そして貴重な蜂蜜、香ばしい木の実や胡麻といった、心を和ませるような食材に注目した。
これらを使い、兵士たちが団らんできるような、故郷を思い出させるような「甘味」を作ることにした。
夕暮れの野営地。
兵糧隊の兵士たちは、いつものように炊事にとりかかるが、千兵衛が指示したのは、主食だけでなく、特別な一品の準備だった。
上質の穀物(米粉や麦粉)を使い、水で練り、潰した乾燥果実や蜂蜜、甘く煮詰めた豆などを混ぜ込む。
それを小さく丸めたり、平たくしたりと、様々な形に整える。そして、静かに蒸し上げる。
釜からは、これまでの食事とは違う、甘く、こうばしい香りがふわりと漂う。
それは、戦場の匂いとも、単調な行軍の匂いとも違う、優しく、懐かしい香りだ。
炒った木の実や胡麻を加えることで、香ばしさと食感もプラスする。
出来上がったのは、「故郷の味、甘味と団らん(ふるさとのあじ、あまみとだんらん)」だ。
見た目は素朴な団子や平たい餅状のものだが、湯気が立ち上り、甘く、こうばしい香りを放っている。
夕食の後、兵士たちにこの「甘味」が配られた。
兵士たちは、差し出された、温かく、そして良い香りのする甘味を見て、目を見張った。
行軍中に甘いものが配られるのは、非常に珍しいことだったからだ。
兵士たちは、驚きと喜びを込めて、甘味を手に取った。
その温かさを感じながら、口に運ぶ。
もぐもぐと噛みしめる。
口いっぱいに広がる、穀物の優しい甘みと、乾燥果実や蜂蜜の濃厚な甘さ。
炒った木の実や胡麻のこうばしい香りとカリカリとした食感が、良いアクセントになる。
それは、戦場で食べたどんなものとも違う、優しく、そして美味しい甘味だ。
「う、うまい……!」
「なんだ、この美味さ……!」
兵士たちの間に、喜びの声が上がる。
彼らは、皆、この甘味によって、戦場の記憶から一時的に解放されたような感覚を味わっていた。
それは、故郷で祭りの時に食べた甘味、家族と共に囲んだ食卓の味を思い出させる。
皆、自然と顔がほころび、隣の兵士と顔を見合わせて笑顔になる。
甘味を頬張りながら、久しぶりに弾んだ声で会話をする。
失われた仲間への哀しみは消えないが、この瞬間だけは、温かい団らんの空気が流れる。
千兵衛は、甘味を食べて明るくなる兵士たちの様子を静かに見守っていた。
彼の作ったこの甘味が、兵士たちの心に灯を灯し、失われた笑顔を取り戻させている。
それは、兵糧が体だけでなく、心も満たすという、千兵衛の哲学そのものだった。
千兵衛は、甘味を頬張りながら笑い合う兵士たちを見て、食の持つ、単なる生命維持を超えた力を確信し、その兵糧哲学を静かに心で唱えた。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
軍目付代の井上治部少輔は、この野営地の変化に驚きを隠せなかった。
数時間前まで、皆、重苦しい雰囲気の中で黙々と食事をしていた。
それが、千兵衛の甘味一つで、これほどまでに活気を取り戻すとは。
井上は、千兵衛の元へ歩み寄り、その甘味を一つ手に取った。
一口噛みしめ、その優しく豊かな甘さに目を見開く。
そして、兵士たちの笑顔を見つめながら、深く頷いた。
千兵衛の兵糧術は、もはや物理的な計算では理解できない領域にある。
帰還の旅は続く。
体力の回復、病の予防、そして心のケア。
千兵衛の「いくさ飯」は、帰還兵たちの様々な側面を支えながら、故郷への道を共に歩む。
故郷の味は、兵士たちに生きる希望を、そして帰るべき場所があることを思い出させてくれる、いくさ飯だった。
【今回のいくさ飯】
『故郷の味、甘味と団らん』
帰還行軍中の兵士たちの心を癒やし、士気を高める甘味。
第五部、戦場からの帰還の途についた兵士たちのために、補給部隊からの穀物、乾燥果実、蜂蜜、木の実、胡麻などを活用して作られた甘味。
穀物粉をベースに、甘みのある食材や香ばしい炒り木の実・胡麻などを混ぜ込み、蒸し上げた団子状あるいは餅状のもの。
戦場の記憶による心の疲弊や、単調な行軍による士気の低下に対し、喜びと安らぎを与える。
故郷の祭や団らんを連想させ、兵士の精神的な回復と、仲間との絆を促す。
井上治部少輔もその心理的な効果を認め、帰還兵站の重要な要素となる。
(現代の和菓子、スイーツ、コンフォートフードの概念。帰還、士気向上、心のケア、団らん、美味しさ)
兵士たちは、帰途の糧包(第五十一話)で体力を、養生水(第五十二話)で体の調子を維持していたが、その足取りは重く、表情は乏しい。
戦場の飢餓と恐怖、そして多くの仲間を失った哀しみは、彼らの心に深い影を落としていた。
故郷が近づいているという希望はあるものの、その道のりは長く、毎日同じことの繰り返しだ。
単調な行軍は、兵士たちの心をじわじわと疲弊させていく。
「……まだ、着かないのか……」
「……あいつ、死んじまったな……」
兵士たちの口から漏れるのは、弱々しい愚痴や、失われた仲間への追悼ばかりだ。
笑い声はほとんど聞こえず、会話も少ない。
彼らは、体だけでなく、心も飢えていた。
生きるための希望という名の糧が、不足していたのだ。
兵糧方・千兵衛は、そんな兵士たちの様子を注意深く見ていた。
食は、腹を満たすだけでなく、心も満たすものだ。
この単調で苦しい道のりの中で、兵士たちの心に灯を灯すような「いくさ飯」が必要だと考えた。
彼は、補給部隊からもたらされた物資の中にあった、甘みのある乾燥果実(干し柿や干し芋など)、そして貴重な蜂蜜、香ばしい木の実や胡麻といった、心を和ませるような食材に注目した。
これらを使い、兵士たちが団らんできるような、故郷を思い出させるような「甘味」を作ることにした。
夕暮れの野営地。
兵糧隊の兵士たちは、いつものように炊事にとりかかるが、千兵衛が指示したのは、主食だけでなく、特別な一品の準備だった。
上質の穀物(米粉や麦粉)を使い、水で練り、潰した乾燥果実や蜂蜜、甘く煮詰めた豆などを混ぜ込む。
それを小さく丸めたり、平たくしたりと、様々な形に整える。そして、静かに蒸し上げる。
釜からは、これまでの食事とは違う、甘く、こうばしい香りがふわりと漂う。
それは、戦場の匂いとも、単調な行軍の匂いとも違う、優しく、懐かしい香りだ。
炒った木の実や胡麻を加えることで、香ばしさと食感もプラスする。
出来上がったのは、「故郷の味、甘味と団らん(ふるさとのあじ、あまみとだんらん)」だ。
見た目は素朴な団子や平たい餅状のものだが、湯気が立ち上り、甘く、こうばしい香りを放っている。
夕食の後、兵士たちにこの「甘味」が配られた。
兵士たちは、差し出された、温かく、そして良い香りのする甘味を見て、目を見張った。
行軍中に甘いものが配られるのは、非常に珍しいことだったからだ。
兵士たちは、驚きと喜びを込めて、甘味を手に取った。
その温かさを感じながら、口に運ぶ。
もぐもぐと噛みしめる。
口いっぱいに広がる、穀物の優しい甘みと、乾燥果実や蜂蜜の濃厚な甘さ。
炒った木の実や胡麻のこうばしい香りとカリカリとした食感が、良いアクセントになる。
それは、戦場で食べたどんなものとも違う、優しく、そして美味しい甘味だ。
「う、うまい……!」
「なんだ、この美味さ……!」
兵士たちの間に、喜びの声が上がる。
彼らは、皆、この甘味によって、戦場の記憶から一時的に解放されたような感覚を味わっていた。
それは、故郷で祭りの時に食べた甘味、家族と共に囲んだ食卓の味を思い出させる。
皆、自然と顔がほころび、隣の兵士と顔を見合わせて笑顔になる。
甘味を頬張りながら、久しぶりに弾んだ声で会話をする。
失われた仲間への哀しみは消えないが、この瞬間だけは、温かい団らんの空気が流れる。
千兵衛は、甘味を食べて明るくなる兵士たちの様子を静かに見守っていた。
彼の作ったこの甘味が、兵士たちの心に灯を灯し、失われた笑顔を取り戻させている。
それは、兵糧が体だけでなく、心も満たすという、千兵衛の哲学そのものだった。
千兵衛は、甘味を頬張りながら笑い合う兵士たちを見て、食の持つ、単なる生命維持を超えた力を確信し、その兵糧哲学を静かに心で唱えた。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
軍目付代の井上治部少輔は、この野営地の変化に驚きを隠せなかった。
数時間前まで、皆、重苦しい雰囲気の中で黙々と食事をしていた。
それが、千兵衛の甘味一つで、これほどまでに活気を取り戻すとは。
井上は、千兵衛の元へ歩み寄り、その甘味を一つ手に取った。
一口噛みしめ、その優しく豊かな甘さに目を見開く。
そして、兵士たちの笑顔を見つめながら、深く頷いた。
千兵衛の兵糧術は、もはや物理的な計算では理解できない領域にある。
帰還の旅は続く。
体力の回復、病の予防、そして心のケア。
千兵衛の「いくさ飯」は、帰還兵たちの様々な側面を支えながら、故郷への道を共に歩む。
故郷の味は、兵士たちに生きる希望を、そして帰るべき場所があることを思い出させてくれる、いくさ飯だった。
【今回のいくさ飯】
『故郷の味、甘味と団らん』
帰還行軍中の兵士たちの心を癒やし、士気を高める甘味。
第五部、戦場からの帰還の途についた兵士たちのために、補給部隊からの穀物、乾燥果実、蜂蜜、木の実、胡麻などを活用して作られた甘味。
穀物粉をベースに、甘みのある食材や香ばしい炒り木の実・胡麻などを混ぜ込み、蒸し上げた団子状あるいは餅状のもの。
戦場の記憶による心の疲弊や、単調な行軍による士気の低下に対し、喜びと安らぎを与える。
故郷の祭や団らんを連想させ、兵士の精神的な回復と、仲間との絆を促す。
井上治部少輔もその心理的な効果を認め、帰還兵站の重要な要素となる。
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