【完結】『月の影、刃の舞 ~女武芸者の隠された使命~』

月影 朔

文字の大きさ
87 / 95
第五章:終焉の舞、未来への黎明

第十話:仲間の絆

しおりを挟む
 九条兼定が放つ圧倒的な力に、さつきの剣は弾かれ、彼女の攻撃は全く通じない。

 月詠山は激しく鳴動し、空に渦巻く黒い雲からは禍々しい光が降り注ぎ、この世の終わりを告げるかのようだった。

「もはや、私を止められる者など、この世には存在せぬ!」

 兼定の高笑いが、荒れ狂う風に乗って響き渡る。
その声は、かつてないほどの威圧感を伴っていた。

「くっ…このままでは…!」

 さつきは、必死に兼定に食らいつくが、彼の周囲を覆う邪気は、彼女の「月の剣」の輝きをも弾き返す。

 絶望的な状況の中、彼女の脳裏に、かつて玄心が語った言葉が蘇る。
「真の強さは、汝自身の中にある」。

(私の強さは…一体、どこに…?)

 その時、背後から激しい声が響いた。

「さつき様!諦めるな!」

 それは、小夜の叫びだった。
彼女は、辛うじて藤次郎を支えながら、地面に這いつくばっていた。
その小さな体が、震えながらも、さつきを鼓舞しようと必死だった。

「小夜…!」

 さつきが振り向くと、右京が血を流しながらも立ち上がり、兼定に向かって私兵たちに号令をかけていた。

「皆の者!怯むな!
奴の企みを、ここで食い止めるのだ!」

 右京の私兵たちは、次々と兼定に向けて矢を放ち、刀を振るう。

 しかし、彼らの攻撃も、兼定の強大な力の前に、まるで無意味なものとして弾き飛ばされる。
多くの兵士が、兼定の放つ邪気によって吹き飛ばされ、負傷していく。

「馬鹿な真似を…!
蟻が象に挑むがごとき所業!」

 兼定は、その光景を嘲笑する。

 その中で、藤次郎が、痛みを押して必死に顔を上げる。
彼の視線は、兼定が立つ祭壇の中央に向けられていた。

「さつき…!あの男の…力の源は…!」

 藤次郎は、痛みに喘ぎながらも、懸命に言葉を紡ぐ。

「…祭壇だ!
あの祭壇の…中央にある…禍々しい輝きを放つ結晶が…奴の力の源に違いない!」

 兼定の祭壇を操るような仕草、そして、祭壇から立ち上る邪気が、彼の言葉を裏付けていた。

 藤次郎は、自身の槍使いとしての道を絶たれてもなお、その研ぎ澄まされた洞察力で、兼定の弱点を見抜いたのだ。

「祭壇…!」

 さつきの目が、兼定の背後にある祭壇の結晶に捉えられる。
兼定は、自身の力を誇示するかのように、その結晶に手をかざしていた。

「ならば…あの結晶を…!」

 さつきは、決意を秘めた目で兼定を睨み据える。
しかし、兼定の周囲には、黒曜会の兵士たちが幾重にも陣を敷き、祭壇へと続く道を阻んでいた。

「さつき様!道は、私たちが開きます!」

 小夜が、懐から煙玉を取り出し、地面に叩きつけた。
白い煙が視界を遮り、兵士たちの動きを鈍らせる。

「右京殿!
兵を率いて、陽動を!」

 藤次郎が、右京に指示を飛ばす。右京は、迷いなく頷いた。

「わかった!
皆の者!さつき殿のために、道を拓け!」

 右京の号令と共に、残された義勇兵たちが、兼定の兵士たちへと突撃していく。

 彼らは、さつきがかつて助けた人々だった。
その顔には、恐怖よりも、さつきへの信頼と、この国を守るという強い意志が宿っていた。

「無駄だ…!
全ては、私の掌の上にある…!」

 兼定は、再び巨大な邪気を放ち、向かってくる者たちを薙ぎ払おうとする。

 しかし、兵士たちは、次々と倒れながらも、兼定への道を開こうと必死に足掻く。
その姿は、まるで小さな灯火が、巨大な嵐に立ち向かうかのようだった。

「みんな…!」

 さつきの胸に、仲間たちの想いが熱く込み上げる。
彼らは、自分のために、そして未来のために、命を懸けて戦ってくれている。

 その時、さつきの剣から、微かな光が溢れ出した。

 それは、復讐の炎ではなく、仲間たちの想いと、未来を守ろうとする彼女自身の強い意志が、月光の呼吸と共鳴し始めた証だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】『紅蓮の算盤〜天明飢饉、米問屋女房の戦い〜』

月影 朔
歴史・時代
江戸、天明三年。未曽有の大飢饉が、大坂を地獄に変えた――。 飢え死にする民を嘲笑うかのように、権力と結託した悪徳商人は、米を買い占め私腹を肥やす。 大坂の米問屋「稲穂屋」の女房、お凛は、天才的な算術の才と、決して諦めない胆力を持つ女だった。 愛する夫と店を守るため、算盤を武器に立ち向かうが、悪徳商人の罠と権力の横暴により、稲穂屋は全てを失う。米蔵は空、夫は獄へ、裏切りにも遭い、お凛は絶望の淵へ。 だが、彼女は、立ち上がる! 人々の絆と夫からの希望を胸に、お凛は紅蓮の炎を宿した算盤を手に、たった一人で巨大な悪へ挑むことを決意する。 奪われた命綱を、踏みにじられた正義を、算盤で奪い返せ! これは、絶望から奇跡を起こした、一人の女房の壮絶な歴史活劇!知略と勇気で巨悪を討つ、圧巻の大逆転ドラマ!  ――今、紅蓮の算盤が、不正を断罪する鉄槌となる!

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~

川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる …はずだった。 まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか? 敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。 文治系藩主は頼りなし? 暴れん坊藩主がまさかの活躍? 参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。 更新は週5~6予定です。 ※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。

『五感の調べ〜女按摩師異聞帖〜』

月影 朔
歴史・時代
江戸。盲目の女按摩師・市には、音、匂い、感触、全てが真実を語りかける。 失われた視覚と引き換えに得た、驚異の五感。 その力が、江戸の闇に起きた難事件の扉をこじ開ける。 裏社会に潜む謎の敵、視覚を欺く巧妙な罠。 市は「聴く」「嗅ぐ」「触れる」独自の捜査で、事件の核心に迫る。 癒やしの薬膳、そして人情の機微も鮮やかに、『この五感が、江戸を変える』 ――新感覚時代ミステリー開幕!

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

【完結】『江戸めぐり ご馳走道中 ~お香と文吉の東海道味巡り~』

月影 朔
歴史・時代
読めばお腹が減る!食と人情の東海道味巡り、開幕! 自由を求め家を飛び出した、食い道楽で腕っぷし自慢の元武家娘・お香。 料理の知識は確かだが、とある事件で自信を失った気弱な元料理人・文吉。 正反対の二人が偶然出会い、共に旅を始めたのは、天下の街道・東海道! 行く先々の宿場町で二人が出会うのは、その土地ならではの絶品ご当地料理や豊かな食材、そして様々な悩みを抱えた人々。 料理を巡る親子喧嘩、失われた秘伝の味、食材に隠された秘密、旅人たちの些細な揉め事まで―― お香の持ち前の豪快な行動力と、文吉の豊富な食の知識、そして二人の「料理」の力が、人々の閉ざされた心を開き、事件を解決へと導いていきます。時にはお香の隠された剣の腕が炸裂することも…!? 読めば目の前に湯気立つ料理が見えるよう! 香りまで伝わるような鮮やかな料理描写、笑いと涙あふれる人情ドラマ、そして個性豊かなお香と文吉のやり取りに、ページをめくる手が止まらない! 旅の目的は美味しいものを食べること? それとも過去を乗り越えること? 二人の絆はどのように深まっていくのか。そして、それぞれが抱える過去の謎も、旅と共に少しずつ明らかになっていきます。 笑って泣けて、お腹が空く――新たな食時代劇ロードムービー、ここに開幕! さあ、お香と文吉と一緒に、舌と腹で東海道五十三次を旅しましょう!

処理中です...