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兄貴のせいで散々な目に
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「城崎岳斗(きのさきやまと)君、だよね?よかったら連絡先交換しない?」
「は、はい。」
岳斗は、高校に入学したら毎日のように女の人から声を掛けられた。これは、もしかしてモテ期到来か、などと一瞬考えた岳斗。だが、
「岳斗君、これお兄さんに渡してくれないかな?」
何やらプレゼントを渡されたり、
「岳斗君、おうちの場所、教えてもらっていいかな?」
などと、キラキラした目で言われたり。
「岳斗君、今お兄さんは何してるの?」
と、SNSで聞かれたり。そう、岳斗は分かっていた。以前からこういう事がよくあったから。一年間、兄と違う学校に通っていたせいで忘れていたのだ。岳斗は昔から散々、兄のせいでひどい目に遭ってきたのだ。
岳斗には一つ年上の兄がいる。名は城崎海斗(かいと)という。地元の中学に通っていた頃、岳斗はよく、海斗目当ての女子から声を掛けられたものだった。家で一緒に勉強しようと言われ、岳斗が二、三人招けば、海斗が通り過ぎる度にキャー!と悲鳴を上げる女子たち。やっと岳斗の事を好きになってくれた女子がいたかと思えば、二人で歩いている時に海斗とバッタリ会い、
「うそ、あの人が城崎君のお兄さん?……カッコいい!!」
悲しいかな、彼女は海斗に心を奪われた。
そんなわけで、岳斗は恋愛で上手く行った試しがない。一番衝撃が大きかったのが、小学生時代から仲良くしていた男友達が、毎日岳斗の家に通っていたのは、実は海斗と遊びたかったからだと知った事。中一の時にその彼は海斗に告白し、玉砕した。それ以後岳斗とも全く遊ばなくなったのだった。親友だと思っていたのに。
学校で、岳斗がよく言われる言葉がある。多くの女子からは、
「あんなお兄さんがいて、いいねー。」
一方で多くの男子からは、
「あんな兄貴がいるなんて、可哀そうになあ。」
だが、時々男子でも、
「あんな兄貴がいて、いいなあ。うらやましい。」
と言う人がいる。海斗は女子にも男子にもモテるのだな、と岳斗は思っていた。
岳斗と海斗の勉強のデキは同じくらいだが、容姿には大きな差があった。少なくとも、岳斗はそう思っていた。岳斗から見ると、海斗は両親の良いとこ取り。顔は母親似で、背の高いところは父親似。一八〇cmを越えている。岳斗よりも十cmも高い。更に細かく見ると、目が大きいのは母親似で、まつ毛が長いのは父親似。鼻が高いのは父親似で、鼻筋が通っているのは母親似。唇の形が良いのが母親似で、ほどよくエラが張って精悍な顔立ちなのは父親似。一方岳斗自身は、全てにおいて真ん中を取ったようで、両親のどちらかに似ているというわけではないと思っていた。
更に、運動能力も雲泥の差だった。岳斗はあまり運動が得意ではないが、海斗は何においても得意でスーパースター。ずっとサッカーをやっており、サッカー部では不滅のストライカーだ。岳斗はと言うと、小学校の時には少しサッカークラブに入ってみたものの、兄と比べられるのが嫌で辞めてしまった。中学ではバドミントン部に入ったが、レギュラーにはなれたものの、都大会には出られずに終わるという、悪くもないがそれ程すごくもない、至って普通の結果だった。岳斗の引退試合は海斗も見に行ったのだが、バドミントン部の女子たちが、岳斗の応援そっちのけで海斗にキャーキャー言っていて……。岳斗にとって、思い出しただけでもため息の出るエピソードである。もう自分はスポーツをやらない方がいい、と思う岳斗である。
それでも、うっかりと兄と同じ高校に進学してしまった岳斗。学力も同じくらいだし、兄弟がいると入学金が免除だからと母親に勧められ、剣星大学付属高校に進学したのだった。ここならば大学受験なしで進学できるうえ、家からも近い。それに、やたらと海斗が勧誘したのだ。お前もこの高校に来いと。
海斗はサッカー部に入っている。そこそこ強い部で、朝練と夕錬が毎日ある。そのうえ文化祭で演奏するためのバンドの練習もしており、海斗はとても忙しそうだった。
「岳斗ぉ、助けてー。」
学校から帰ってくると、海斗は玄関でバタンキュー、という事がよくある。岳斗が呼ばれて二階から階段を下りて行くと、荷物を肩や腕に下げたまま、突っ伏している。
「何やってるんだよ、海斗。」
「ダメ、疲れた。引っ張ってー。」
それで岳斗は海斗を担いで階段を上る。部活の後にシャワーを浴びてくる海斗は、体は汚れていないのだが、カバンの中には汚れものがいっぱい詰まっている。だが、この疲れ様では洗濯物を出す事もできそうにない。
「ほら、部屋に着いたよ。」
岳斗は海斗をドサッとベッドに乗せる。
「岳斗~、ありがとなぁ。」
ふにゃふにゃ言って、そのまま眠ってしまう海斗。とにかくひと眠りしないとご飯も食べられないのだ。
「頑張り過ぎだって。」
岳斗は海斗の制服を脱がせ、ハンガーに掛ける。そして、カバンの中からユニフォームなどの汚れ物を出し、洗濯かごに入れた。
兄のせいで散々な目に遭ってきた岳斗だが、それでも人気者でスーパースターの兄には誇らしさも感じる。そんな兄を自慢したい気持ちにもなる。それに、海斗はいつも岳斗に優しい。こうやって甘えてくる事も多々あるけれど。
「は、はい。」
岳斗は、高校に入学したら毎日のように女の人から声を掛けられた。これは、もしかしてモテ期到来か、などと一瞬考えた岳斗。だが、
「岳斗君、これお兄さんに渡してくれないかな?」
何やらプレゼントを渡されたり、
「岳斗君、おうちの場所、教えてもらっていいかな?」
などと、キラキラした目で言われたり。
「岳斗君、今お兄さんは何してるの?」
と、SNSで聞かれたり。そう、岳斗は分かっていた。以前からこういう事がよくあったから。一年間、兄と違う学校に通っていたせいで忘れていたのだ。岳斗は昔から散々、兄のせいでひどい目に遭ってきたのだ。
岳斗には一つ年上の兄がいる。名は城崎海斗(かいと)という。地元の中学に通っていた頃、岳斗はよく、海斗目当ての女子から声を掛けられたものだった。家で一緒に勉強しようと言われ、岳斗が二、三人招けば、海斗が通り過ぎる度にキャー!と悲鳴を上げる女子たち。やっと岳斗の事を好きになってくれた女子がいたかと思えば、二人で歩いている時に海斗とバッタリ会い、
「うそ、あの人が城崎君のお兄さん?……カッコいい!!」
悲しいかな、彼女は海斗に心を奪われた。
そんなわけで、岳斗は恋愛で上手く行った試しがない。一番衝撃が大きかったのが、小学生時代から仲良くしていた男友達が、毎日岳斗の家に通っていたのは、実は海斗と遊びたかったからだと知った事。中一の時にその彼は海斗に告白し、玉砕した。それ以後岳斗とも全く遊ばなくなったのだった。親友だと思っていたのに。
学校で、岳斗がよく言われる言葉がある。多くの女子からは、
「あんなお兄さんがいて、いいねー。」
一方で多くの男子からは、
「あんな兄貴がいるなんて、可哀そうになあ。」
だが、時々男子でも、
「あんな兄貴がいて、いいなあ。うらやましい。」
と言う人がいる。海斗は女子にも男子にもモテるのだな、と岳斗は思っていた。
岳斗と海斗の勉強のデキは同じくらいだが、容姿には大きな差があった。少なくとも、岳斗はそう思っていた。岳斗から見ると、海斗は両親の良いとこ取り。顔は母親似で、背の高いところは父親似。一八〇cmを越えている。岳斗よりも十cmも高い。更に細かく見ると、目が大きいのは母親似で、まつ毛が長いのは父親似。鼻が高いのは父親似で、鼻筋が通っているのは母親似。唇の形が良いのが母親似で、ほどよくエラが張って精悍な顔立ちなのは父親似。一方岳斗自身は、全てにおいて真ん中を取ったようで、両親のどちらかに似ているというわけではないと思っていた。
更に、運動能力も雲泥の差だった。岳斗はあまり運動が得意ではないが、海斗は何においても得意でスーパースター。ずっとサッカーをやっており、サッカー部では不滅のストライカーだ。岳斗はと言うと、小学校の時には少しサッカークラブに入ってみたものの、兄と比べられるのが嫌で辞めてしまった。中学ではバドミントン部に入ったが、レギュラーにはなれたものの、都大会には出られずに終わるという、悪くもないがそれ程すごくもない、至って普通の結果だった。岳斗の引退試合は海斗も見に行ったのだが、バドミントン部の女子たちが、岳斗の応援そっちのけで海斗にキャーキャー言っていて……。岳斗にとって、思い出しただけでもため息の出るエピソードである。もう自分はスポーツをやらない方がいい、と思う岳斗である。
それでも、うっかりと兄と同じ高校に進学してしまった岳斗。学力も同じくらいだし、兄弟がいると入学金が免除だからと母親に勧められ、剣星大学付属高校に進学したのだった。ここならば大学受験なしで進学できるうえ、家からも近い。それに、やたらと海斗が勧誘したのだ。お前もこの高校に来いと。
海斗はサッカー部に入っている。そこそこ強い部で、朝練と夕錬が毎日ある。そのうえ文化祭で演奏するためのバンドの練習もしており、海斗はとても忙しそうだった。
「岳斗ぉ、助けてー。」
学校から帰ってくると、海斗は玄関でバタンキュー、という事がよくある。岳斗が呼ばれて二階から階段を下りて行くと、荷物を肩や腕に下げたまま、突っ伏している。
「何やってるんだよ、海斗。」
「ダメ、疲れた。引っ張ってー。」
それで岳斗は海斗を担いで階段を上る。部活の後にシャワーを浴びてくる海斗は、体は汚れていないのだが、カバンの中には汚れものがいっぱい詰まっている。だが、この疲れ様では洗濯物を出す事もできそうにない。
「ほら、部屋に着いたよ。」
岳斗は海斗をドサッとベッドに乗せる。
「岳斗~、ありがとなぁ。」
ふにゃふにゃ言って、そのまま眠ってしまう海斗。とにかくひと眠りしないとご飯も食べられないのだ。
「頑張り過ぎだって。」
岳斗は海斗の制服を脱がせ、ハンガーに掛ける。そして、カバンの中からユニフォームなどの汚れ物を出し、洗濯かごに入れた。
兄のせいで散々な目に遭ってきた岳斗だが、それでも人気者でスーパースターの兄には誇らしさも感じる。そんな兄を自慢したい気持ちにもなる。それに、海斗はいつも岳斗に優しい。こうやって甘えてくる事も多々あるけれど。
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