モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央

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弁当を届けに

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 一時間目が終わると、岳斗は恐る恐る二年生の教室がある階へと足を踏み入れた。上履きが学年カラーになっているので、周りの二年生からジロジロと見られる。恐怖心を堪え、岳斗は一つの弁当を手に、海斗のクラスを探し歩いた。
 その日の朝、岳斗が自分の弁当を持って出かけようとすると、母の洋子が、
「岳斗、これ海斗に渡して。お願い。」
と言って、海斗の弁当を岳斗に渡し、手を合わせて拝んできた。海斗はいつも朝練があるので出かけるのが早い。洋子の弁当作りが間に合わず、やむなく岳斗に海斗の分も預けたという事だが、岳斗は何となく、これからそういう回数が増えていくのではないかと思った。人間、楽な方に流されるものだ。洋子にとって、一時間以上も早く弁当を用意するよりも、二つを岳斗に渡した方が楽に決まっている。だが、毎回これは勘弁してほしい、と岳斗は思った。早めに母に訴えておかねばならない。
 やっと海斗のクラスである二年五組の教室を見つけた岳斗は、中を覗いた。しかし、探すまでもない。席の場所など関係なく、海斗はクラスの真ん中にいた。皆が何となく海斗を見ている。話している相手も、その他の人達も。そんなにも、海斗は人を惹きつけるのか。そうか、こうやって皆に見られているから余計に外では疲れるのかもしれない。だから家ではあんなにダラダラと……と、岳斗は考えた。
「あれ?岳斗、どうした?」
海斗が岳斗に気づき、教室の入り口までやってきた。そして、岳斗が恐れていた通り、教室中の視線が岳斗に集まる。また厄介な事に巻き込まれる回数が増えそうだ、と岳斗は思った。
「これ。」
見れば分かるだろ、とばかりに岳斗は弁当を差し出した。
「ああ、サンキュー。」
そう言って、海斗は弁当を受け取り、そして岳斗の頭を撫でた。
「いい子だな、お前は。」
頭を少し傾げて、優しそうな顔で笑う海斗。すると、教室のあちこちでキャー!という歓声が。いや奇声と言うべきか。
「海斗!一コしか違わないのに、子供扱いするなよ!」
岳斗はつい、そんな風に言って海斗の手を払いのけた。そしてクルッと踵を返して走り出した。一刻も早くここから逃げ出したかったのだ。穴があったら入りたい心境。
「やまとー!ごめーん!」
遠くで海斗の声がした。最近、海斗は家にいてもほとんど寝ていて、岳斗よりも早く出かけて行く。考えてみたらあまり話をしていなかった、と岳斗は思った。だから、いつまでも自分の事を子供だと思っているのかもしれない。もっと家で話すようにしないといけないな、と岳斗は考えた。日曜日は海斗も家にいるし、一緒に暮らしているのだから、少しくらい話す時間はあるだろう。
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