モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央

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浮気?

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 ピンポーン
夜、岳斗と海斗がシャワーを浴びた後、誰かが家に来た。海斗がドアを開けると、外国人男性が立っていた。
「ハーイ、海斗。君のハニーはどんなボーイなの?見に来ちゃったよ。」
と言いながら、その男性は入って来た。
「マーク、困るよ。」
その男性が海斗よりも背が高い事に、岳斗は思わず驚いた。
「初めまして、マークです。よろしくね。」
マークは岳斗に握手を求めて来た。岳斗は握手をしつつ、「誰?」という視線を海斗に送る。
「バイト先の常連さん。英会話教室の先生やってるんだって。」
と、海斗が説明した。マークは日本がペラペラだ。
「ふーん、可愛い子だねえ。どうだった?初めての感想は?」
この人、何言ってんだ?と岳斗が目をパチクリさせていると、
「ちょっと、マーク、やめろよ。もういいだろ。帰ってくれよ。」
と、海斗が慌ててマークに言う。けれども、マークに帰ろうとする気配はない。
「最近海斗とあまり会えないからさあ、寂しくて。僕もまた、このベッドで寝たいなあ。」
マークがそう言って、二人のベッドに座ってベッドの表面を撫でた。
(はあ!?どういう事?この人、このベッドに寝たの?このおっさんを海斗が泊めた事があるって事か?大学の友達なら分かるけど、このおっさんを?)
岳斗の脳内はパニックを起こす。
「マーク!やめろよ。」
海斗は本気で怒ったようだ。睨みつけられたマークは、肩をすくめて立ち上がった。
「分かったよ、今日は帰るよ。じゃあね。」
マークはそう言うと、海斗の頬にキスをして出て行った。岳斗は眩暈がした。まさか、海斗がマークと浮気を……。
「海斗、このベッドに、他に誰が寝た?」
「や、岳斗、怒るな。」
「何人が寝たんだよ!」
「マークだけだよ。」
海斗がそう言った事で、逆に岳斗の体に衝撃が走った。友達も泊めていないのに、マークだけを泊めた。これは絶対に“そういう事”だ。
 岳斗が黙ってしまったので、海斗はオロオロとし始めた。
「岳斗、あの、ごめん。違うんだ、ただ俺は、お前の為に、マークに教えてもらっただけなんだ。好きなわけでも何でもないんだ。」
「教えてもらった?つまり、そういう事、したんだな?」
海斗はハッとして岳斗を見つめた。
「サイテー!このベッドで、他の人とするなんて……。」
岳斗の手は、わなわなと震えた。出て行きたいけれど、どこにも行くところがない。
「ここに寝たくないけど、仕方ないから寝る!」
岳斗は怒りに任せてそう言うと、ベッドにもぐりこんで布団をかぶった。涙が出た。
(最悪だ。海斗が他の男と。信じられない。)

 いつの間にか、岳斗は眠っていた。だが、何しろまだ早い時間だったので、夜中に目が覚めてしまった。寝返りを打とうとして、岳斗はハッとした。すすり泣きが聞こえたような気がしたのだ。そっと寝返りを打つと、台所の灯りだけをつけ、椅子に座っている海斗が見えた。海斗は氷の入ったグラスを片手に持ち、もう片方の手で目の辺りを押さえ、泣いていた。岳斗の胸がズキンと痛んだ。海斗が泣いたのは、萌との間を邪魔されて喧嘩した時以来だった。あの時も、岳斗が海斗に怒鳴ったのだ。そして海斗が寝込んで、泣いて岳斗に謝った。海斗は岳斗に怒られると、泣く。その事に、岳斗は気づいた。
 海斗が手にしているグラス、そしてテーブルに置いてある瓶、あれは酒だろう。海斗が酒を飲むのを初めて見た。二十歳未満なのに、どうやって買ったのだろう、などと岳斗はぼんやり考えた。
 そうだ、と岳斗は気が付いた。海斗の誕生日は明後日だ。いつも家族の誕生日には、洋子がケーキを作り、それを食べてお祝いしていた。特にプレゼントを渡したりもらったりはしていなかったので、岳斗はうっかり忘れるところだった。明後日、海斗は二十歳になるのだ。酒も堂々と飲めるようになるのだ。
 カランと音がして、海斗が酒を飲んだ。そして、海斗の目に、岳斗の姿が留まった。
「岳斗。」
海斗は手で目を擦り、それから岳斗の方へ歩いて来た。
「岳斗、ごめん。俺、どうかしてた。後悔してる。お前の為だって思ってたけど、お前の気持ちを考えたら、間違ってたって、分かったよ。ほんと、ごめん。許してくれ。」
海斗はベッドの端まで来たけれど、それ以上近づかず、そう言って頭を下げた。岳斗は体を起こし、ベッドの上に胡坐をかいて座った。
「ここ、座れよ。」
岳斗は顎でベッドの上を指し示した。海斗は叱られた子供のように、のっそりとベッドに上がり、正座をした。涙でぐちゃぐちゃになった顔。いい男が台無しじゃないか、と岳斗は思った。それに、大きな体を目いっぱい小さくして正座をしている姿を見たら、なんだか可笑しくなった。怒っていても、岳斗は海斗が好きだった。だから、いつまでも怒っていたってしょうがないと思った。
「もう、いいよ。泣くなよな、もうすぐ二十歳だろ。」
岳斗がそう言うと、海斗の目が揺れて、更に涙が流れ出た。まったく、しょうがない。岳斗は膝で立って一歩近づき、海斗の事を抱きしめた。そして、頭を撫でた。いつも海斗が岳斗にするみたいに。
「もう、浮気するなよな。その代わり、誕生日のプレゼントに……あげるから。」
海斗がガバッと顔を上げた。
「え?何を?」
「だから、えっと……俺を。」
岳斗のその言葉を聞いた瞬間、海斗は岳斗の背中に、がしっと腕を回した。
「ほんと?」
「う、うん。だから泣くなよ、な。」
「うん!岳斗、愛してる~。」
海斗はそう言って、岳斗の胸に顔をグリグリ擦り付けた。
「お前、俺のパジャマで涙拭いてるだろ。」
「あははは、気のせいだよ、気のせい。あ~岳斗~。」
尚も海斗はグリグリした。
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