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夢物語(雄斗)
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しおりを挟む「………ママを本当に殺すの?」
「…………」
「良いわね……その瞳……パパとそっくり。」
「父さんと、同じね……」
「ええ。覚悟が決まっていてとっても素敵よ。」
覚悟なんてない。
本当は、生きたい心を殺しているだけだ。
「でも……パパも優柔不断だったわね。」
「だから母さんのせいで自殺したんだろ。」
「あら……ふふっ……。」
やめろ
笑うな
「覚えてる?パパの自殺現場。麻耶ってば泣いて大変だったわよね……それに対して雄斗は泣かないし肝が座っていて……その強さはママに似たのね。」
父さんの自殺。
今でも鮮明に覚えている。
その日は父さんと母さんが大喧嘩をしていた。
普段、優しい父さんは珍しく母さんを睨んでいた。
怖くなった俺と麻耶は自分の部屋へ戻り、寝る準備をしていた。
夜遅くに、母さんが部屋に入ってきた。
おいで、と普段よりも優しい声でそう言うから何かあるのかと思い俺と麻耶も走って部屋へ向かった。
部屋にあったのは父さんの死体だった。
見た途端に、首吊りだと分かった俺は体が動かなくて、麻耶が泣いていることにも気づけなかった。
泣いてる麻耶を叱っている母さんが怖くて、俺は父さんのことで泣かないように頑張っていた。
(父さんそっくりの”覚悟”………)
「………母さんが言う”覚悟”は死ぬ覚悟だろ。」
「…………」
この人は、まだ気づいていない。
「母さんには死ぬ覚悟がない。だから、泣いているんだよね。」
灯油を撒いていた時も
火を付けた時
自分が殺されることに気づいた時だって、ずっと母さんは涙を流している。
「………あれ?……ふふ、気づかなかった。やっぱり、私に似た子供なんて誰もいない。全員パパ似ね。」
母さんは涙を拭き、俺に近づく。
「………覚悟は決まっているわ。」
「…………」
「だって……ママがぜーんぶ悪いんでしょ?」
「何で、悪いのか分かってる?」
最後の確認。
父さんの死因、麻耶の死因、これを掴んでいるのは母さんのはずだ。
「…………うーん……」
口元を手で押さえながら、必死に考えている。
酷く落ち着いた、優しい声で母さんは俺の想像通りに期待を裏切る。
「わかんない。」
「…………」
返事をする気もない。
俺よりも汚れた、人間じゃない母さんを俺は簡単に殺せる。
良かった。
此奴が人じゃないことを確認できて。
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