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救済
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しおりを挟む「……何を言ってるんだ……」
「……本当、何言ってるんだろうね。」
瞳を伏せて隼人は言う。
「梶原持つから手を離してよ。」
「……信用できない。」
「あらま。それなら遥奈ちゃんこっちおいで、おんぶしてあげる。」
「………いいえ、結構です。」
「もったいぶらないでよ。遥奈ちゃんも梶原と同様に結構危ない状態だよ。」
「…………っ」
ここからでも判る。
遥奈の顔が少し赤い。
さっきまでと、全然違う。
(……………)
「よっと……、ほら、もうちょっとで出口だから頑張ろう。」
「…………」
「……廣瀬はさ、この後どうするの?」
「……………」
「そっか、教えてくれないか。」
何故
何故、平気な顔をしている。
「……ふーくんに、捨てられたんじゃないのか……?」
「捨てられた?あー、そうだね。しつこく止めたら怒られちゃった。」
「……怒られたくらいで、ふーくんを危険な目に合わせたの……?」
「……違うよ。あんなに必死な梶原、初めてみたから……」
「…………」
「言っておくけど、俺はまだ梶原が大好きだからね!」
「……うるさい、整形が。」
「えっ?!なんで知ってるの?!」
「遥奈から情報を聞いた。」
「っええ?!遥奈ちゃん?!!なんで、なんで知ってるの?ねぇ~!!」
「……ふふっ、」
「なに?その反応~!わかんないよ~」
(隼人……整形していることが意外にもコンプレックスだっんだ。)
梶原のために、整形したのかな。
梶原のために、手を離して俺のほうへ向かわせた。
梶原のために……俺たちを助けてくれている。
「………………」
(俺が、いなくなっても心配はなさそう。)
「死のうとしてない?」
「………してない。」
「嘘つけ!!すーぐ死ぬとか生きるとかの2択で考えるのやめなさい!好きな人がいるなら、生きる選択肢1つでしょ!!」
「っ………!」
「……梶原だって、そうなんだから。」
「……ふーくん………」
「……ゆ、……と……」
(…………嗚呼、そうだ。)
これが、生きている実感だ。
「ほら、廣瀬家の生き残り。生の実感を味わえたならあとはこの扉を開くだけだよ。」
「……………」
いつもと見慣れた扉。
ふーくん、麻耶、俺とこの扉を開けて外で遊んでいた。
そんな、昔の記憶が走馬灯のように巡り返す。
(愛おしい……)
きぃ…………
「っ……、中野隼人さんですね?!勝手に入っては行けませんよ!!!只今治療を行うので他の3名もこちらへ!!!」
「……………」
「えっと……廣瀬さんで間違いないですね?お名前は言えますか?」
「……………?」
「……廣瀬さん?」
ガタッと腰が一気に落ちる。
後ろの くんはそのまま落ちてしまった。
(……あ、)
周りの人よりも反応が遅れてしまう。
「………………」
外に出れたのに、まだ視界が霞む。
「こっちの子も重体だ!!すぐに搬送しろ!!!」
「……………」
メイド服を着た女性が、とても辛そうにしている。
くんも、
「廣瀬さん、聞こえますか?」
「…………」
救急隊員に視界を移す。
何か、驚いた顔をしてる。
「こち も重 です!!2人 の担架と、こち にも救急 を呼んでくだ い!!!」
「……あの、」
「体は くないですかー?!頷い り、視界 動 す けで 構です 」
「……………?」
段々、声が遠くなる。
(あ、…………)
後ろにいる、ふ くん と目が合う。
(…………あれ、)
彼を見た瞬間に、さっきまでうるさかった心臓が静かになる。
そして、自分が涙を流していることに気づく。
「………え」
その瞬間、
プツリ、と意識が途絶えた。
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