【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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23 ◇父へのプレゼン

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「頭痛い? 痛み止めもあった方がいいかな。あー、熱が高いね。ちょっと先生呼んでくるわ。お水、飲めそうなら飲んでいいよ。ご飯はお昼ごはんから食べようか。もうあと一時間半もすれば配膳されるからね」

 てきぱきと、一太の左腕に点滴をつけ直しながら看護師は言った。合間に体温も測って、書類に数値を書き込む。諦めてベッドに横になった一太が目を閉じると、目に溜まっていた涙がつう、と頬を伝っていった。胸をつかれた晃がその涙の意味を考えている間に、看護師が医師を連れてきて診察が始まる。一太はもうぼんやりと、されるがままにベッドに横たわっていた。
 今のうちに、と晃が売店に水とスリッパを買いに出ている間に、一太はまた眠ってしまっていた。点滴の中に、眠くなる成分の薬も入っているのかもしれない。
 水を飲ませてあげたかったな、と思いながら、ベッド脇の椅子に腰を下ろす。少しだけ一太の呼吸が楽になっている様子にほっとして、晃もうつらうつらと目を閉じた。

「晃。晃」

 父の声に、びくりと体を揺らす。座ったまま、うとうとと寝ていたせいで首が少し痛んだ。

「父さん」

 まさか昨日の今日で父が来るとは思わずに、目を見開く。木曜日。平日だから父も母も急に休みを取ることはできず、来るとしても長姉辺りだろうと思っていた。

光里ひかりに軽く話は聞いたが、あれの話はどうも感情的で分かりにくい。私にも一から説明しなさい。談話室へ行こう」

 子どもの頃の晃がしょっちゅう入院していたので、病院の仕組みに詳しい父が提案してくる。晃は、少し迷って一太の寝顔を見た。時折眉をしかめて、苦しそうに息を吐いている。

「心配なので、ここで話しても構いませんか?」
「ここは大部屋だ。迷惑だろう?」

 そう言われて辺りの気配を探る。昼だからか、他のベッドの周りからも人の気配があり、テレビの音や話し声はそれなりに聞こえている。それぞれが周りを囲うカーテンを引いていると、はっきりとした音が漏れている訳でもない。

「あの、いっちゃん……村瀬くんは入院するのが初めてで、何かあったらこのボタンを押すってことも分かってないです。今朝、起きた時も弱ってて、トイレまで歩けなくて……。もし、談話室で話してる間に目が覚めて僕がいなかったら、とても不安だと思う」
「家族に連絡は? 朝起きたときに聞けなかったのか?」
「はい。トイレを済ませたらまた寝てしまって。昼ごはんは、起こして食べさせて欲しい、と看護師にお願いされています」
「分かった」

 父へのプレゼンは成功したようで、病室に立て掛けてあった折り畳み椅子を持ってきて一太のベッド横に設置し、腰かけてくれた。眠る一太の横でパイプ椅子に座って父と向かい合う。
 まずは昨日の出来事から、そして一太の住むアパートの様子、更に普段の一太の様子まで、気付けば事情聴取のように詳しく聞き出されていた。
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