【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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47 ◇電話

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 一太の電話が鳴ることは珍しい。表示された番号に首を傾げながらも電話に出た一太を見て、ベッドの上、隣り合わせで座ってテレビを見ていた晃は、テレビの音量を下げ、立ち上がってトイレへと入った。一緒に暮らし始めて一ヶ月近く、よほど相性がいいのか、共にいるのが当たり前のように気楽に暮らしているから、このままの関係を保てる配慮はしたい。
 晃は、わざとゆっくりとトイレから出てきたが、一太はまだ電話を手にしていた。いや、電話を手に固まっている? 狭い部屋なので、軽く震えているのが見えてしまった。

「いっちゃん? どうかした?」

 慌てて近寄ると、電話からは、

「もしもし? もしもし? 村瀬さん?」

 と、声がする。
 震えながら晃を見上げてきた一太が血の気を失っているのを見て、晃は咄嗟に電話のスピーカーボタンを押した。

「もしもし。どちら様ですか?」

 一太の手の中の電話に向かって声を出すと、

「え? ええ?」

 と、戸惑う声が返ってきた。相手は大人の男、ということしか分からなかった。
 何か怪しい電話なのなら、こちらの情報を与える訳にはいかない。晃は、震える一太の隣に座って肩を抱き、携帯を持つ手に自分の手を添えた。

「あ、あの、あき……」
「しっ」

 震える声で晃に話そうとする一太を制して、相手が話すのを待つ。
 しばらくの沈黙の後で、ようやく電話の向こうから声がした。

「あー、その。君は?」
「質問しているのはこちらです」
「ええと、村瀬さんは……?」

 無差別に掛けてきた電話では無さそうだ。先程から名前を呼んでいる。

「貴方に怯えてしまって、声も出せない様子です」
「怯え……? いや、私は」

 相手は慌てて名前を名乗った。役所の人? しっかりと町の名前も言っているし、一太のことをフルネームで呼んだ。詐欺とかそういう類いではない?

「村瀬くんが以前住んでいた町の、ですか? 村瀬くんはもう住民票も移してあるので、そちらとは何の関わりも無い筈です。延滞している税金なども無いと思うのですが」

 共に役所に行って、様々な手続きに付き合ったので知っている。一太は、住民票を移した。戸籍は、母親が筆頭者の戸籍に入っているのでどうにもしようがなかったが、基本的には、一太の辛い記憶の多いその町に、一太は今、何の関わりも無い筈だ。

「いや、いやいや。そういったお話ではなく。今、村瀬さんにも説明をしていたのですが、弟さんを村瀬さんに引き取って頂くことはできないか、というご相談なんです」
「…………はあ?」
「お母さまが家を出られて、連絡が取れなくなりましてね。弟さんが未成年なので、成人している親族に連絡をしているのですが」

 弟? たまに一太の話に出てきていたが、そんなに小さい子どもというわけでは無かった筈だ。それに、何より。

「成人していると言っても、村瀬くんは学生ですよ? 子どもを引き取って育てろって、そんな馬鹿な」
「ああ、いや。しかしですね。このままでは弟さんは児童養護施設に保護されることになります。それより、ご家族で暮らされた方がお互いに良いのじゃないかと思いまして。弟さんは、お兄さんの連絡先も知らないとのことでしたので、こうしてお調べして連絡を」
「無理に決まっているでしょう」

 何を言っているんだ、この人は。
 一太の体の震えが、肩を抱いた腕から伝わってくる。

「しかし、弟さんが言うには、お兄さんが貯金通帳を全部持っていったから暮らしがたち行かなくなったと。家族のお金を持ち出して出ていって、大学に通っている、ということなら、その」
「ち、違う。家の金なんて使っ……な、はあ、あ、ぜ、全部、俺が稼い……はっ、はっ……俺……俺の……、あっ、はっ、はっ、あ……」
「いっちゃん? いっちゃん?」
「え? もしもし? 村瀬さん? もしもし?」

 一太の呼吸がおかしい。これ、これはどうしたら……。
 みるみる蒼白になっていく一太の顔色に、晃は自分の携帯電話を取り出した。

「いっちゃん。いっちゃん、しっかりして」

 混乱しながら連絡した救急センターの人に、過呼吸の対処法を教えてもらって落ち着いた頃には、一太の電話は切れていた。
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