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66 友だちの家に遊びに来た時のルールについて
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「ドレッシング……。俺、ですか? なんで……?」
「なんでって?」
そこで、あ、と一太は思い出した。自分が、いかにぼんやりしたままに、友だちの家という場所で過ごしてしまっていたのかということを。
「ああ、いや。そうだ。陽子さん、すみませんでした。俺、ご飯買うの忘れてて。もう、昨日は楽しくて、何にも考えずに遊び歩いてしまって……。昨夜は、甘えてご馳走を頂いてしまって、すみません。とても美味しかったです。すき焼き、見たことはあったけど、食べたのは初めてでした。あの、お代は幾らお支払いすればよろしいですか?」
「へ?」
昨日は、とても上等なご飯をご馳走になってしまった。美味しかった。幸せだった。対価が少々高くても、払う価値はある。ただし、その分我慢しなくちゃいけないこともある。
「朝ご飯は、その、大丈夫です。昨日、たくさん食べたから。電車に乗る前に、何か買います」
晃くんに聞けば、地元のスーパーに連れて行ってくれるだろう。まあ、一日くらい食べなくても平気だ。最近は毎日三食しっかり食べて、なんならおやつまで食べているから、二日くらい食べなくても持つかもしれない。
うん。大丈夫。
それから、はたと目の前のマグカップを見た。
そういえば今また、紅茶なんて高級そうな飲み物を頂いてしまった……。
「あ。あー。紅茶、そのミルクティ? も美味しかったです。あの、その分も請求してください。お泊まりの代金とか、よく知らないので足りるか不安なんですけど」
全国どこにでもある銀行にお金を預けてあるから、ATMさえ開けばお金はおろせる。平日だから手数料もかからない。よし。
「いっちゃん」
「もちろん、お手伝いもしますので何でも」
「いっちゃん」
「はい」
強い口調で名前を呼ばれて、一太は背筋を伸ばした。
「息子の友だちから、お金なんて取らないわ」
「へ?」
「お友だちの家に遊びに来た時には、ありがとう、とお礼を言えばそれでいいのよ」
「はい……?」
そんなルールが?
いやでもまさか。
あんな上等なご飯を頂いて、大きなお風呂に入らせてもらって、ふかふかで肌触りの良い布団を借りた。タオルや石鹸、シャンプーにリンスも使用した。晃が勧めてくれるままに過ごしたが、ありがとうとのお礼の言葉だけで済むような金額ではない。
旅行でのお泊まりなんて、かなりお金がかかることくらいは知っている。……修学旅行に行けなかったのだから。
「いっちゃん。お手伝いも嬉しいんだけれど、のんびり過ごしてくれても私は嬉しい」
何で?
対価も無しに、何かを手に入れることなんてできないのに。
首を傾げる一太の両手を取って、陽子は言葉を重ねた。
「晃が、初めてお友だちを家に招いてくれた。それだけで、私は今、とっても嬉しい。あの子が、ちゃんと心を許せる相手を作れたことが、嬉しい。晃の大切な人をおもてなし出来ることが、嬉しい。それでね。いっちゃんが、私がやりたくてやっているおもてなしを受けて、喜んでくれたらいいなって思ってる」
おもてなし……。
よく、分からない。
俺が陽子さんの淹れてくれた紅茶を、美味しいと言って飲むことが、陽子さんにとって嬉しいってことなのか?
本当に?
本当に、ありがとうだけで……?
「なんでって?」
そこで、あ、と一太は思い出した。自分が、いかにぼんやりしたままに、友だちの家という場所で過ごしてしまっていたのかということを。
「ああ、いや。そうだ。陽子さん、すみませんでした。俺、ご飯買うの忘れてて。もう、昨日は楽しくて、何にも考えずに遊び歩いてしまって……。昨夜は、甘えてご馳走を頂いてしまって、すみません。とても美味しかったです。すき焼き、見たことはあったけど、食べたのは初めてでした。あの、お代は幾らお支払いすればよろしいですか?」
「へ?」
昨日は、とても上等なご飯をご馳走になってしまった。美味しかった。幸せだった。対価が少々高くても、払う価値はある。ただし、その分我慢しなくちゃいけないこともある。
「朝ご飯は、その、大丈夫です。昨日、たくさん食べたから。電車に乗る前に、何か買います」
晃くんに聞けば、地元のスーパーに連れて行ってくれるだろう。まあ、一日くらい食べなくても平気だ。最近は毎日三食しっかり食べて、なんならおやつまで食べているから、二日くらい食べなくても持つかもしれない。
うん。大丈夫。
それから、はたと目の前のマグカップを見た。
そういえば今また、紅茶なんて高級そうな飲み物を頂いてしまった……。
「あ。あー。紅茶、そのミルクティ? も美味しかったです。あの、その分も請求してください。お泊まりの代金とか、よく知らないので足りるか不安なんですけど」
全国どこにでもある銀行にお金を預けてあるから、ATMさえ開けばお金はおろせる。平日だから手数料もかからない。よし。
「いっちゃん」
「もちろん、お手伝いもしますので何でも」
「いっちゃん」
「はい」
強い口調で名前を呼ばれて、一太は背筋を伸ばした。
「息子の友だちから、お金なんて取らないわ」
「へ?」
「お友だちの家に遊びに来た時には、ありがとう、とお礼を言えばそれでいいのよ」
「はい……?」
そんなルールが?
いやでもまさか。
あんな上等なご飯を頂いて、大きなお風呂に入らせてもらって、ふかふかで肌触りの良い布団を借りた。タオルや石鹸、シャンプーにリンスも使用した。晃が勧めてくれるままに過ごしたが、ありがとうとのお礼の言葉だけで済むような金額ではない。
旅行でのお泊まりなんて、かなりお金がかかることくらいは知っている。……修学旅行に行けなかったのだから。
「いっちゃん。お手伝いも嬉しいんだけれど、のんびり過ごしてくれても私は嬉しい」
何で?
対価も無しに、何かを手に入れることなんてできないのに。
首を傾げる一太の両手を取って、陽子は言葉を重ねた。
「晃が、初めてお友だちを家に招いてくれた。それだけで、私は今、とっても嬉しい。あの子が、ちゃんと心を許せる相手を作れたことが、嬉しい。晃の大切な人をおもてなし出来ることが、嬉しい。それでね。いっちゃんが、私がやりたくてやっているおもてなしを受けて、喜んでくれたらいいなって思ってる」
おもてなし……。
よく、分からない。
俺が陽子さんの淹れてくれた紅茶を、美味しいと言って飲むことが、陽子さんにとって嬉しいってことなのか?
本当に?
本当に、ありがとうだけで……?
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