【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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154 切れないえにし

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 春休みは忙しいから帰れない、と晃が連絡した次の週の土曜日には、陽子と誠が二人で訪ねてきた。二年生になるとすぐに施設実習や保育実習が始まるので、その前に少しでも稼ぎたい一太はアルバイトが忙しかったのだ。何故か、晃も同じような予定にしていたらしい。晃は、夏休みには帰るから、と言ってあっさり電話を切ってしまっていた。
 一太はそもそも、どこかに帰る、という発想がなかった。陽子から、春休みはいつ帰ってくる? と何度かメールで尋ねられても、晃に聞いてくれという事だと思っていたのだ。

「一太くんに、電話ではできない大事な話があってね」

 用があったのは晃ではない、と誠は言った。一太は驚いて固まってしまう。自分に用事があって訪ねてくる人がいる、なんて思ってもみなかった。……いや。一度だけあったな。弟ののぞむがいきなり訪ねてきて、顔を見るなり殴られたのだっけ?
 そんなことを考えて、ぶると体を震わせる。

「ああ。そんなに固くならないでくれ。君の意思を、色々確認したいだけなんだ」
「はい」

 この人は、いつも必ず俺の気持ちを聞いてくれるんだなあ、と一太は不思議な気分になる。君はどうしたい? 一太くんはどう思う? そんな言葉のひとつひとつが耳に届くたび、どうして聞いてくれるんだろう、と思ってしまう。
 そして、悩んでいる一太がすぐに答えを出せなくても待ってくれる。その上で、気持ちに沿うような提案をしてくれる。ありがたくて、嬉しかった。

「一太くんは、家族……血縁の人とは、もう関わりたくないと望んでいるんだよね?」
「はい!」

 この人以外には、こんなにはっきりと意思表示など出来なかっただろう。家族は共に居て当たり前、血縁こそ一番大切な絆だ、と言う人たちに、児童養護施設へ帰りたいとの一太の言葉は、一度も届かなかった。泣いて訴えても、入れ代わり立ち代わりくる大人たちに、こんこんと普通はどうであるのかを諭されて諦めた。自分はおかしい。おかしいから家族と仲良くできないんだ、と諦めた。
 でもこの人は、のぞむと二度と一緒に暮らしたくない、と言った一太に、おかしいと言わなかった。追い返してくれた。晃くんと暮らせるようにしてくれた。だから、本当の気持ちを口にできる。おかしければきっと、どうおかしいのかを教えてくれるだろう。

「結論から言うと、完全に縁を絶つことはできない。現状の法律では、どうしても血縁関係を切れないんだ」
「え……」
「例えば、一太くんが誰かの養子になっても、扶助義務や相続関係は残ってしまう」
「扶助義務?」
「親子、兄弟は互いに助け合うべし、というものだな。親は子どもを養育して、成人してからも困っていたら助けなければならないし、逆に、親が困っていたら子どもが助けなければならない。兄弟もまた然り。つまり、君が母親や弟から助けてほしいと言われたら助けなければならないんだ。相続もそうだ。亡くなった親族に借金があれば、借金を相続することになる」
「え……あ、いや……」
「借金は、相続放棄をすることで払う義務を無くすことができるから、もしプラスの遺産があってもいらない、と言うのなら、相続放棄の手続きをしたらいい。その時は、必ず協力すると約束しよう」
「いらない。いらないです。何もいらない!」

 一太は、ぶんぶんと首を横に振った。あの女に貰いたいものなど何もない。何かをして欲しいとか、そんな気持ちもない。ただただ、もう二度と関わらないでほしい。

「分かった。相続は、もしもの時はそのようにしような。それで、扶助義務だが……。この間、弟くんの件で話がきただろう? ああいう義務が、どうしても無くならない」

 一太は、その言葉に絶望した。働き始めたらまた、今度はのぞむを引き取れるか、と連絡がくるのだろうか……。
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