【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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160 ◇壮大な恋愛話

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 ある日、一太は真面目な顔で晃に言った。

「晃くん。恋愛はやっぱり、男女でするものなのかもしれない」
「んん?」

 晃は、口に入れたばかりの夕食を吹き出しかけた。

「恋愛して、結婚して子どもを産んで血を繋ぐことが人類の営みだとしたら、始まりが同性なのはやっぱりおかしいよ」
「じ、人類の営み……」

 そういえば一太は地頭がとても良いのだった、と晃は思い出す。栄養不足と、詰め込んだコンビニバイトのシフトでふらふらしていた一年前期の成績も、座学は素晴らしかった。晃と暮らし出してからは元気いっぱいだからか、課題以外の勉強を特別にしているようには見えないのに、常に最高評価をもらっている。
 唯一の趣味のように読んでいる本で、様々な知識を吸収しているのかもしれない。
 それにしても、恋愛のお勉強のはずが、どうしてそうなった?

「同性では血を繋げない。だから、法律でも、結婚できないことになっているんじゃないかな」
「う、うん……?」
「俺が晃くんのことを好きで、こうして一人占めしているのは、少子化を促進していることになるのかもしれない」

 壮大な話になってきた。もしかしてこれは、遠回しな別れ話なんだろうか。そういえば、一太が読んでいた恋愛小説は、最後に別々の道を歩くものが多かったかもしれない。

「あ、あの。それでも僕は、いっちゃんが好きなんだけど」

 おずおずと口を挟んでみると、眉を下げて頷く一太がいる。とてもとても困った顔で。

「俺も、晃くんが好きで好きでたまらない。種の保存のことを考えれば、本能が拒否してくれたら良さそうなものなのに」
「うん?」

 別れ話ではない?
 それどころか、かなり熱烈に告白されている?

「色んなところで認められていないのに、俺は晃くんと離れたくないんだ。どうしたらいいんだろう……」
「あー。ええっと……」

 普通でありたいと願ってきた一太に、普通の食事や普通の衣服、普通の住処をできる範囲で提供して共に楽しく過ごすつもりが、一番大切な関係性のところで普通でないことをしてしまった。それについては、晃もかなり悩んだのだ、これでも。
 自分が同性愛者だなんて思ったことはなかったし、世間と大きくズレていると感じたこともなかった。 
 生まれつきの心臓病は他の人と違う体験で、治療の際にできた大きな傷痕も他の人には無いものだったが、それだけだ。普通の家庭で、普通に育てられた。いや、たぶん普通より恵まれているんだろう。
 口うるさいと思っていた母は、よく考えればいつだって、晃の体調などを気にする時だけうるさいのであって、何かをしろ、または、するなと無理強いすることは決してなかった。命にかかわること以外では。
 厳しくて話しにくいと思っていた父も、本気で話せば必ず本気で返してくれるのだと、一太と知り合ってから知った。
 姉たちにもとても甘やかされているのだということにも、一太と知り合ってから気付いた。
 そんな恵まれた普通の人生を歩んできて、一太に普通のおすそ分けをすることなんて簡単だったはずだ。
 なのに、普通でない感情を一太に持って、抑えきれずに巻き込んでしまった。こうして、悩ませてしまった。

「いっちゃん、ごめんね。僕も離れたくない。だから、このまま一緒にいてもいいかな」
「晃くん……」
「悩ませて、ごめん。でも、大好きだよ」
「うん……」

 ずっと伝え続けるから、いっちゃんも僕のことを好きな間は側にいて。
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