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231 ◇卒業旅行 9
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安倍の狙い通り、早めの大浴場には誰もいなくて貸し切りだった。
「おー、やった! 貸し切り!」
大喜びした安倍が、手早く浴衣と下着を脱いで小さなタオル一つを手に風呂場へ飛び込む。一太も、何を気にする様子もなく浴衣と下着を脱いでそれに続いた。そうなると、浴衣を脱ぐのをためらっている事がバカバカしくなって、晃も思い切りよく浴衣と下着を脱いで風呂場へ入っていった。
「遅せーぞ、松島」
すでに、体中に石鹸の泡を付けた安倍が振り返る。その隣で一太も、大慌てで体を洗っていた。
「安倍くんが色々早すぎなんだよ」
晃は呆れた声を上げながら、一太の後ろに立って手を出した。一太が自然な様子で、晃に泡のついたタオルを渡す。温まって更に色んな色を見せる一太の小さな背中を、晃はそっと優しく擦った。
「お前ら、いっつも一緒に風呂入ってんの?」
「え、うん?」
「松島、流れるように自然に村瀬の背中流してんのな」
「え? あ……」
「いや、当たり前過ぎて気付かなかった的な顔ヤメロ、村瀬」
「あ、安倍くんも流す?」
一太が慌てて言うと、安倍は一太に目を向け、次いで晃に目を向けて苦笑いした。
「いやあ、何か止めとく。もう終わったし」
「そう?」
タオルを晃から受け取った一太は、自分の仕上げをしてしまうと急いで泡を流す。シャワーで自分の泡を流す前に、晃に温かいシャワーをしばらく掛けることは忘れなかった。
そうしてから、晃の背中も流し終えた一太が浴槽に浸かると、何だか変な顔をした安倍がぼそっと言った。
「仲良いんだな」
「え? あ、うん?」
「男同士だと、こういう時も一緒にいられていいんかもなあ」
「大浴場じゃなければ一緒に入ってるんでしょ」
浴槽へ歩いてきた晃が、笑いながら安倍に答える。
「ま、そりゃそうだ」
「入ってるんだー」
「一緒にいたら入るだろ」
「へえ」
何だか可笑しくなって、晃はくすくす笑った。
「なんだ。すました顔してそういう話もいけるんかよ、松島。入るに決まってんだろ、ばーか」
少し照れている安倍が何だか可笑しい。
「すました顔って何? 普通にするでしょ、そんな話くらい」
言ってから、晃ははっと一太の方を見る。一太は首を傾げていた。
「あ、いや、まあ、それなりにって事で」
「あー。ふーん。そういう欲もそれなりにあるって事ね、お前は」
「ん。んんっ」
安倍は、首を傾げている一太を見て、だよなあと呟いた。
「まあ松島、頑張れ」
謎の激励に、一太がますます首を傾げている。
「晃くんは、何を頑張るの?」
「それも、ゆっくり教えてもらえ」
「?」
一太は、結局また首を傾げたが、それ以上聞こうとはしなかった。助かった。
「もう熱い」
後から入った一太と晃だが、ざばりと浴槽から体を出す。安倍は、まだゆったりと浸かっていた。浴槽の縁に腰かけて、足だけお湯に浸けた二人の方へ視線を向けた安倍が、ふと眉を上げる。
「お前らさ、偉えな」
「え?」
「頑張って生きたな。偉えよ」
お湯で温もった体の傷痕たちは、普段より色を鮮やかにして浮かび上がっていた。風呂場に入った時に何も言われなかったから、すっかり頭から手術痕のことが消えていた晃は、改めて自分の体を見下ろす。体が大きくなった分、痕は小さくなった。色や傷痕も落ち着いて、そんなに目立たなくなっている。一太の体中の痣も、塗り薬でだいぶ色が薄くなってきている気がする。
もう、大した事じゃない。
「そう?」
晃は軽く返して、もう一度湯に浸かった。顔をばしゃばしゃ洗って目に浮かんだものを誤魔化す。
そうか、偉いのか。僕は、僕といっちゃんは頑張って偉かったのか。
安倍の言葉は、晃の胸にすとんと落ちた。
「おー、やった! 貸し切り!」
大喜びした安倍が、手早く浴衣と下着を脱いで小さなタオル一つを手に風呂場へ飛び込む。一太も、何を気にする様子もなく浴衣と下着を脱いでそれに続いた。そうなると、浴衣を脱ぐのをためらっている事がバカバカしくなって、晃も思い切りよく浴衣と下着を脱いで風呂場へ入っていった。
「遅せーぞ、松島」
すでに、体中に石鹸の泡を付けた安倍が振り返る。その隣で一太も、大慌てで体を洗っていた。
「安倍くんが色々早すぎなんだよ」
晃は呆れた声を上げながら、一太の後ろに立って手を出した。一太が自然な様子で、晃に泡のついたタオルを渡す。温まって更に色んな色を見せる一太の小さな背中を、晃はそっと優しく擦った。
「お前ら、いっつも一緒に風呂入ってんの?」
「え、うん?」
「松島、流れるように自然に村瀬の背中流してんのな」
「え? あ……」
「いや、当たり前過ぎて気付かなかった的な顔ヤメロ、村瀬」
「あ、安倍くんも流す?」
一太が慌てて言うと、安倍は一太に目を向け、次いで晃に目を向けて苦笑いした。
「いやあ、何か止めとく。もう終わったし」
「そう?」
タオルを晃から受け取った一太は、自分の仕上げをしてしまうと急いで泡を流す。シャワーで自分の泡を流す前に、晃に温かいシャワーをしばらく掛けることは忘れなかった。
そうしてから、晃の背中も流し終えた一太が浴槽に浸かると、何だか変な顔をした安倍がぼそっと言った。
「仲良いんだな」
「え? あ、うん?」
「男同士だと、こういう時も一緒にいられていいんかもなあ」
「大浴場じゃなければ一緒に入ってるんでしょ」
浴槽へ歩いてきた晃が、笑いながら安倍に答える。
「ま、そりゃそうだ」
「入ってるんだー」
「一緒にいたら入るだろ」
「へえ」
何だか可笑しくなって、晃はくすくす笑った。
「なんだ。すました顔してそういう話もいけるんかよ、松島。入るに決まってんだろ、ばーか」
少し照れている安倍が何だか可笑しい。
「すました顔って何? 普通にするでしょ、そんな話くらい」
言ってから、晃ははっと一太の方を見る。一太は首を傾げていた。
「あ、いや、まあ、それなりにって事で」
「あー。ふーん。そういう欲もそれなりにあるって事ね、お前は」
「ん。んんっ」
安倍は、首を傾げている一太を見て、だよなあと呟いた。
「まあ松島、頑張れ」
謎の激励に、一太がますます首を傾げている。
「晃くんは、何を頑張るの?」
「それも、ゆっくり教えてもらえ」
「?」
一太は、結局また首を傾げたが、それ以上聞こうとはしなかった。助かった。
「もう熱い」
後から入った一太と晃だが、ざばりと浴槽から体を出す。安倍は、まだゆったりと浸かっていた。浴槽の縁に腰かけて、足だけお湯に浸けた二人の方へ視線を向けた安倍が、ふと眉を上げる。
「お前らさ、偉えな」
「え?」
「頑張って生きたな。偉えよ」
お湯で温もった体の傷痕たちは、普段より色を鮮やかにして浮かび上がっていた。風呂場に入った時に何も言われなかったから、すっかり頭から手術痕のことが消えていた晃は、改めて自分の体を見下ろす。体が大きくなった分、痕は小さくなった。色や傷痕も落ち着いて、そんなに目立たなくなっている。一太の体中の痣も、塗り薬でだいぶ色が薄くなってきている気がする。
もう、大した事じゃない。
「そう?」
晃は軽く返して、もう一度湯に浸かった。顔をばしゃばしゃ洗って目に浮かんだものを誤魔化す。
そうか、偉いのか。僕は、僕といっちゃんは頑張って偉かったのか。
安倍の言葉は、晃の胸にすとんと落ちた。
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