【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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239 卒業式 1

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 校門前に卒業式の看板は設置されていなくて、来た人は皆、足早に校門をくぐって行った。空いててラッキー、と喜んだ陽子は、学校名の書かれた校門の横に晃と一太を立たせて、まずは一枚、写真を撮った。

「ふふ。穴場」

 卒業式かどうかは分かりにくいと思うが、陽子が喜んでいるからまあいいだろう、と男性三人で顔を見合せて笑う。四人で門をくぐると、二年間通った学校とも今日でお別れか、と一太はふいに思った。何だか寂しかった。

「なんか、寂しいね」
「うん」

 晃も同じ気持ちだったらしい。

「僕、卒業式でこんな気持ちになったの初めてだ。大学、楽しかった」
「俺も」

 同じだ、と一太は思った。大学生活は、本当に楽しかった。こんなに楽しい生活を送れるなんて、夢にも思っていなかった。いや、夢にみていた普通の学校生活を送ることができた、と言えるのかもしれない。一太が想像していたよりもっとずっと、夢のように楽しい日々だった。

「今は、こうして幾つも看板を立ててくれるから助かるわ。お姉ちゃんの時は、一つに大行列だったもの」
「学校側も、色々考えてくれてるんだよ」

 卒業式が行われる体育館前の開けた場所に、看板が幾つも設置してあった。どれにも同じように、卒業式の大きな文字と大学名と何年度の卒業生かということが書かれていて、どこで撮っても同じになっている。それぞれに少しずつ行列ができていた。女性の多い大学ならではの華やかさで、ほとんどの人が袴姿で綺麗に髪を結い上げていた。
 適当な所に並んで順番を待ち始めると、おーい、と声がする。校門から走ってきた安倍が、晃と一太の側へ来て、おはようと言った。すぐに真後ろに並んで、陽子や誠にも丁寧に挨拶をして頭を下げている。

「黒いから見つけやすかった」

 そう言って笑った安倍も、同じようなスーツ姿だった。

「おはよう。一人?」
「いや? 母と早織が一緒だけど?」

 後ろから、つよし! と大きな声が響いた。

「あんた! 小さい頃から何にも変わってないね! 勝手に走っていくなといつもいつも……」

 元気な女の人が近くに早足で歩いて来ながらそこまで言いかけて、口を噤む。それから、晃と一太、陽子と誠へと視線を走らせた。

「ああー! 松島くんでしょう? こっちは村瀬くん? お父さんとお母さんですか? いつもうちの剛と早織ちゃんがお世話になってます。仲良くしてもらってありがとうね!」
「俺がお世話してんだよ」
「うるさい。あんたは黙ってて」
「はいはい」

 安倍は、安倍の母と一緒に歩いてきた岸田を隣に並ばせてから、口にチャックをする仕草をした。あはは、と一太は笑う。岸田も、くすっと笑顔を見せた。岸田の親は来ていないらしい。でも今、安倍の母が、うちの剛と早織ちゃんと言っていた。なら、いいのか、と一太は思った。自分と一緒だ。見守ってくれる人がいる。

「おはようございます。こちらこそ、うちの晃といっちゃんがお世話になってます。安倍くん、本当にありがとう」
「いえいえ。女の子の多い学校で、一緒にいられる友だちを見つけることができて本当に良かったと思ってたんですよ」

 母親同士が盛り上がり始めて、晃と安倍が顔を見合せる。安倍はまた、チャックを開く仕草をしてから口を開いた。

「うちの母ちゃん、うるさくてごめんな」
「うちも同じだよ。ごめん」
「いやあ、なんか松島んち上品だからさ」
「どこが?」

 一太は、岸田の格好がどうしても気になって聞いてしまう。

「袴じゃないの?」

 岸田は、一太たちと似たような黒っぽいスーツ姿だったのだ。

「あれ、レンタルで七万九千円」
「ええっ?」

 あまりの金額に、一太は絶句してしまった。

「学校斡旋でそれだった。着付けと髪の毛を結うのとメイクと、写真も一枚撮ってくれるのがセットなんだって。一応、レンタル試着会をやってたから見に行ったんだけどね。九月頃だったかな。二社来てて、もう一つの会社は八万六千円だった」

 無理無理無理、と一太は首を横に振る。女性用の、卒業式の袴レンタルの斡旋広告が掲示板に貼られていたことは何となく覚えているが、確かそこに値段は書いてなかったように思う。そんな値段が書いてあったら、きっと忘れない。

「でしょ? だから、入学式の時と同じスーツでいいことにしちゃった」
「言ってくれたら、半分出したのに」

 安倍が、ちょっと眉を下げて口を挟む。

「駄目だよ。高過ぎ。だいたいそのお金を出してたら旅行に行けなかったよ、私たち。私は旅行の方が良かったから、これで良かった」
「そりゃそうだけど」

 入学式の一太のように、スーツすら無い状態ではない。ちゃんと出席できるんだからこれでいい、と胸を張れる岸田は格好良いな、と一太は思った。そうやって、お金の使い所を選んで、皆生きているのだ。自分も、そうできる人でありたい。

「それにね」

 そう言って、岸田は携帯電話に保存されている写真を見せてくれた。

「試着、とか言って色々着せてもらって、写真も撮ってもらったんだ」
「わ。可愛い」

 そこには、着物と袴を着た岸田がにっこりと笑って立っていた。色んな柄の着物、袴を試着したらしく、何枚も写真がある。

「一人で選べないので、後で帰って親と選ぶから写真撮ってくださいって言ったら、髪の毛に飾りまで付けてくれてさ」

 ね、いいでしょ? と岸田は笑う。

「すごくいい」

 一太の言葉に岸田は、ふふんと胸を張った。覗き込んだ安倍が、その写真、もらってないと言った。

「え? いるの?」
「いるに決まってる」
「試着だよ?」
「本番と何にも違わねえじゃん」
「あはは。そうかも。後で送るね」
「全部な」
「え? 一番似合うって言われたこれだけでよくない? ほら、これ」
「全部な」
「えー? そう?」

 そりゃ全部欲しいに決まってる。そこは一太は安倍に賛成だった。どの柄の着物も、それぞれ岸田に似合っていたのだから。
 看板の順番が来たあとは、一人ずつの写真を撮り、二人ずつの写真を撮り、四人でも撮って家族でも撮って、最後に後ろに並んでいた人に頼んで全員でも撮ってもらった。卒業式の看板が隠れそうなほどに詰めて並んで、大笑いした。時間に余裕があったからできたことだ。

「ほら、早く来て良かった」

 陽子が、満足気に笑って言った。
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