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二十三
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結局のところ、余四郎が行きたいと本気で言っている時に、止められる者はいないのだ。
余四郎と護衛と小姓、それに伊之助と草庵の五人は、てくてくと歩いて、伊之助が元々通っていた寺子屋へと向かった。余四郎の足に合わせて歩くので、大層時間がかかった。
余四郎は、目に映る何もかもが珍しかったらしい。道端の雑草や、地面を這ったり飛んだりしている虫たちに大興奮して、あれはなんだ、これはなんだと足を止めた。
「いの。いの。うごいてる」
「その虫は、いつもたくさんで並んで歩くんですよ、四郎さま。いっぱいいますね」
「わ、わわ。とんだ。とんだぞ、いの」
「その緑の虫は飛びます」
「あはは、そうか。どこにいった? まて」
「あ、四郎さま。寺子屋はそっちじゃありません」
伊之助は、一緒になってしゃがみ込んだり、走って虫を追いかける余四郎を追いかけたりしながら、寺子屋へと進んだ。初夏の陽気は程よくて、気持ちの良い散歩となった。しばらく布団の上にいた伊之助にとっても、このくらいの歩みがちょうど良かった。
伊之助は、楽しくて仕方なかった。一人じゃないというのは、こんなに楽しいのか。これから先も、ずっとこんなに楽しいことが続くのか。弾む心に、先ほど余四郎が言った言葉が残っている。
許婚はいいな。ずっと共にいられるのだものな。
本当にそうだ、と思う。ずっと、こうして共に居られるのなら、四郎さまの許婚になれて良かった。それが自分で、本当に良かった。
二人は、存分に散歩を楽しんだ。草庵と護衛は、ただ黙ってそんな二人についてきてくれた。小姓は、眉間のしわをもう隠しもしなかったが、余四郎の決めたことに逆らうことはできなかったらしく、しぶしぶとついてきた。
そうして、もうすっかりお昼時となる頃に、ようやく寺子屋へと辿り着いた。
「こんにちは。ご無沙汰してしまってすみません」
伊之助が顔をのぞかせると、元から部屋のあちらこちらで騒いでいた子どもたちは、わああ、と更に大きな声を上げた。
「伊之助! 伊之助だ!」
「その腕どうしたんでえ」
「まーた転んだのか」
「伊之助はよく転んで怪我をするからなあ。また転んで怪我でもしたんじゃねえかってみんなで言ってたんだ」
すぐに駆け寄ってくる仲間たち。
「わ、折れてんのか、これ。本当にこんなひでえ怪我してるたあ、思わなかったよ」
「なあ? 本当に気ぃ付けろよ、伊之助」
「どんくさいにも程があるぞ」
「伊之助。痛い?」
善吉が、眉をへにょりと下げながら、伊之助の側へ寄ってくる。小さい、小さい、と思っていたが、久しぶりに会ってみると、余四郎より少し大きかった。
「善吉。今は痛くないよ。お医者様に治療してもらったんだ」
「そうか」
「うん。心配かけてごめんね」
「うん、いいよ。伊之助、手持って」
「うーん。今日は持てないんだ。ごめんな、善吉」
「明日?」
「明日も無理かなあ」
「じゃあ、明日の次?」
「それも、まだ無理かもなあ」
「じゃあ、明日の次の次?」
「う、ううーん」
「しばらくうごかしたらだめだ、とりょうあんがいっていたぞ」
ぽかん、と伊之助と皆の口が開く。
寺子屋に着いて、大騒ぎする子どもたちの声を聞いた小姓が、若様、決して中に入ってはいけません、と外にとどめていたはずの余四郎の声だ。
「し、四郎さま……」
「誰?」
「たまのがわよしろう。いののいいなじゅけだ」
余四郎と護衛と小姓、それに伊之助と草庵の五人は、てくてくと歩いて、伊之助が元々通っていた寺子屋へと向かった。余四郎の足に合わせて歩くので、大層時間がかかった。
余四郎は、目に映る何もかもが珍しかったらしい。道端の雑草や、地面を這ったり飛んだりしている虫たちに大興奮して、あれはなんだ、これはなんだと足を止めた。
「いの。いの。うごいてる」
「その虫は、いつもたくさんで並んで歩くんですよ、四郎さま。いっぱいいますね」
「わ、わわ。とんだ。とんだぞ、いの」
「その緑の虫は飛びます」
「あはは、そうか。どこにいった? まて」
「あ、四郎さま。寺子屋はそっちじゃありません」
伊之助は、一緒になってしゃがみ込んだり、走って虫を追いかける余四郎を追いかけたりしながら、寺子屋へと進んだ。初夏の陽気は程よくて、気持ちの良い散歩となった。しばらく布団の上にいた伊之助にとっても、このくらいの歩みがちょうど良かった。
伊之助は、楽しくて仕方なかった。一人じゃないというのは、こんなに楽しいのか。これから先も、ずっとこんなに楽しいことが続くのか。弾む心に、先ほど余四郎が言った言葉が残っている。
許婚はいいな。ずっと共にいられるのだものな。
本当にそうだ、と思う。ずっと、こうして共に居られるのなら、四郎さまの許婚になれて良かった。それが自分で、本当に良かった。
二人は、存分に散歩を楽しんだ。草庵と護衛は、ただ黙ってそんな二人についてきてくれた。小姓は、眉間のしわをもう隠しもしなかったが、余四郎の決めたことに逆らうことはできなかったらしく、しぶしぶとついてきた。
そうして、もうすっかりお昼時となる頃に、ようやく寺子屋へと辿り着いた。
「こんにちは。ご無沙汰してしまってすみません」
伊之助が顔をのぞかせると、元から部屋のあちらこちらで騒いでいた子どもたちは、わああ、と更に大きな声を上げた。
「伊之助! 伊之助だ!」
「その腕どうしたんでえ」
「まーた転んだのか」
「伊之助はよく転んで怪我をするからなあ。また転んで怪我でもしたんじゃねえかってみんなで言ってたんだ」
すぐに駆け寄ってくる仲間たち。
「わ、折れてんのか、これ。本当にこんなひでえ怪我してるたあ、思わなかったよ」
「なあ? 本当に気ぃ付けろよ、伊之助」
「どんくさいにも程があるぞ」
「伊之助。痛い?」
善吉が、眉をへにょりと下げながら、伊之助の側へ寄ってくる。小さい、小さい、と思っていたが、久しぶりに会ってみると、余四郎より少し大きかった。
「善吉。今は痛くないよ。お医者様に治療してもらったんだ」
「そうか」
「うん。心配かけてごめんね」
「うん、いいよ。伊之助、手持って」
「うーん。今日は持てないんだ。ごめんな、善吉」
「明日?」
「明日も無理かなあ」
「じゃあ、明日の次?」
「それも、まだ無理かもなあ」
「じゃあ、明日の次の次?」
「う、ううーん」
「しばらくうごかしたらだめだ、とりょうあんがいっていたぞ」
ぽかん、と伊之助と皆の口が開く。
寺子屋に着いて、大騒ぎする子どもたちの声を聞いた小姓が、若様、決して中に入ってはいけません、と外にとどめていたはずの余四郎の声だ。
「し、四郎さま……」
「誰?」
「たまのがわよしろう。いののいいなじゅけだ」
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