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二十九
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「……私は、父にも母にも似ていなくて……」
先の小太郎の言葉に返事のできなかった伊之助を気にすることなく、小太郎は言葉を続けた。その目は、手にした湯呑みをじっと見ていて、伊之助の方を向いてはいなかった。
伊之助は、話の行く先が分からずに、そんな小太郎をじっと見て耳を傾けた。
「父も母も、どちらも、割と体格が良いし、信次郎もがっしりとしているのに、私だけ……。顔も、おなごのようだと、ずっと言われ続けていて……」
伊之助としては小太郎の美しい顔がとても好きだったが、おなごのようだ、と言われるのが嬉しくないことは分かる。それは大概、からかいを込めて言われるからだ。伊之助も、似たようなからかいを受けたことが何度もあった。体格が良くなってきた最近は、そうしたからかいを受けることもなくなってきたのだが。
「とても美しかったと評判の、父方の祖母によく似ているらしいから、父と母の子であることを疑われたりすることはないのだけれど。でも……」
伊之助は、黙って小太郎の話を聞く。伊之助が、父の子だとすぐに認められたのは、父や兄に似た特徴を持っているからだったっけ、なんて考えながら。その特徴が何だったのか、聞かされた時が幼すぎて覚えていないが、本当にいまいましい、と奥方様にぶたれたことだけは覚えている。
「本当にあんな線の細いのが跡取りでいいのか、もう一人立派な男児がいるのだから、差し替えればよいではないか、とか言うやつらが何も言えなくなるような男になってやろうと思って、たくさん飯を食って、たくさん勉強も鍛錬もして。なのに、嫁にいけって……」
小太郎は、震えて始めた声をごまかすように一度口を閉じた。手にしている茶を一口飲んで、ぐっと唇を噛みしめる。
「小太郎さまは、いつもすごいです。勉強で、私が分からないところを聞いたら何だって教えてくれるし、剣を持ったら、何合か打ち合えるのは梅千代、あ、いえ、時行さまだけじゃありませんか」
真剣な顔で伊之助は言った。勉強で分からないところを聞いても、そんなことも分からないのか、と言うだけの藩校の先生などあてにはならぬ。いつだって頼りになるのは小太郎だった。伊之助だけではない。時行だって余四郎だって小太郎を頼りにしている。剣を持てば、小太郎のことを、おなごみたいだ、とからかっていたやつらの誰も、小太郎に勝てる者はいなかった。それだけの努力を、小太郎は重ねてきたのだ。家の跡取りでなくなってからもずっと。
小太郎は、目を上げて伊之助を見た。うるんだ目元が、少し、笑うように歪んだ。
先の小太郎の言葉に返事のできなかった伊之助を気にすることなく、小太郎は言葉を続けた。その目は、手にした湯呑みをじっと見ていて、伊之助の方を向いてはいなかった。
伊之助は、話の行く先が分からずに、そんな小太郎をじっと見て耳を傾けた。
「父も母も、どちらも、割と体格が良いし、信次郎もがっしりとしているのに、私だけ……。顔も、おなごのようだと、ずっと言われ続けていて……」
伊之助としては小太郎の美しい顔がとても好きだったが、おなごのようだ、と言われるのが嬉しくないことは分かる。それは大概、からかいを込めて言われるからだ。伊之助も、似たようなからかいを受けたことが何度もあった。体格が良くなってきた最近は、そうしたからかいを受けることもなくなってきたのだが。
「とても美しかったと評判の、父方の祖母によく似ているらしいから、父と母の子であることを疑われたりすることはないのだけれど。でも……」
伊之助は、黙って小太郎の話を聞く。伊之助が、父の子だとすぐに認められたのは、父や兄に似た特徴を持っているからだったっけ、なんて考えながら。その特徴が何だったのか、聞かされた時が幼すぎて覚えていないが、本当にいまいましい、と奥方様にぶたれたことだけは覚えている。
「本当にあんな線の細いのが跡取りでいいのか、もう一人立派な男児がいるのだから、差し替えればよいではないか、とか言うやつらが何も言えなくなるような男になってやろうと思って、たくさん飯を食って、たくさん勉強も鍛錬もして。なのに、嫁にいけって……」
小太郎は、震えて始めた声をごまかすように一度口を閉じた。手にしている茶を一口飲んで、ぐっと唇を噛みしめる。
「小太郎さまは、いつもすごいです。勉強で、私が分からないところを聞いたら何だって教えてくれるし、剣を持ったら、何合か打ち合えるのは梅千代、あ、いえ、時行さまだけじゃありませんか」
真剣な顔で伊之助は言った。勉強で分からないところを聞いても、そんなことも分からないのか、と言うだけの藩校の先生などあてにはならぬ。いつだって頼りになるのは小太郎だった。伊之助だけではない。時行だって余四郎だって小太郎を頼りにしている。剣を持てば、小太郎のことを、おなごみたいだ、とからかっていたやつらの誰も、小太郎に勝てる者はいなかった。それだけの努力を、小太郎は重ねてきたのだ。家の跡取りでなくなってからもずっと。
小太郎は、目を上げて伊之助を見た。うるんだ目元が、少し、笑うように歪んだ。
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