【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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七十

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 ひと眠りした良庵と草庵が部屋から出てきたのは、主人たちは起きてこないが、外が暗くなる前に家へ戻るとするか、と通いの使用人たちが相談していた刻限であった。
 伊良これよしは、その育ちや、じっとしていられない性格から家の手伝いを率先してしているため、炊事洗濯掃除まで、家仕事がお手のものである。良庵、草庵が遅くまで帰らぬ時にも、伊良ちゃん、後は任せたよ、とたみさん達が安心して帰って行くことが多かった。
 陽が落ちるのが早い季節である。行成ゆきなりさまもそろそろ戻りませんと、と護衛役の左近が行成に声をかけていた。行成は、いつもは、行成を送ってからもう一度良庵の屋敷へ戻る左近を気にして早めに戻るのだが、本日は、良庵と話をしたくて、暗くなるぎりぎりまで待っていたのだ。
 左近は、朝にはまた行成を迎えに行くので、直井の屋敷で寝泊まりをしたらよいようなものなのだが、家でくらいのんびり過ごしたい、と言って必ず戻ってくる。寛げる場所があるのは何よりだが、どんな時も戻ってこようとするのはよろしくなかった。大雨が降り始めたのに濡れそぼって戻ってきたときには、良庵にひどく叱られていた。そうして、左近がとにかく戻ってこようとするくらいに、この屋敷が寛げる場所であるというのは、共に暮らしている伊良にとってはとても嬉しいことだ。とはいえ、無理はしないでほしい。

「良庵先生。この後もしっかり休むんですよ。先生に何かあっちゃ、あたしらもおまんま食い上げなんですからね」

 たみさんは、まだ疲れた顔をしている良庵にそんな声を掛けて帰って行った。そうして、他の者の食い扶持もその肩に乗っかっているのだ、という物言いをした方が良庵は養生すると分かっている、たみさんならではの言葉だった。

「先生。疲れているところすまない。飯原家から気になる文が届いたので確認がしたい。良庵先生に、時実さま殺害の嫌疑がかかっていること、御存じか?」
「へ?」
「は?」

 良庵と草庵は、二人同時にぽかんと口を開けた。

「うん。まあ、そうだろうな。そんなわけがないことは、私たちが誰より知っている。まずもって、そんなことをする筋合いがない」

 行成は、冷静に一つ頷いて言った。

「な、な、なんだってそんなことに?」

 草庵が、怒りに声を震わせる。

「助けられなかったと、もう少しできることがあったかもしれないと、寝床で若様を悼んで涙を流すうちの先生が、若様を殺した、だって? 一体、何がどうしたらそんなことになるんでえ!」
「草庵」
「だって先生。そんな馬鹿な話はありませんや。お、おいら、そんなの……」
「落ち着け。知っているか、と行成さまはお尋ねなのだ。答えは、否と、それでよい」

 目を凝らしてみれば、良庵の目元は赤く、声は掠れている。良庵は、時実さまを助けられなかったと、疲れ果てて転がった寝床で泣いていたのだ。

「分かった。よく分かった」 

 行成はそう言うと、直井のお屋敷へと戻っていった。
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