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八十五
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「すべては余四郎さまのためにございます。その為ならば、我が家は喜んで身を引く所存」
「不要だ、飯原。私は、伊良がよい」
父が大袈裟なほどの物言いで言いかけた提案は、余四郎にあっさりと拒否された。
「え? ……あ、いや、しかし、余四郎さま。それは男で……」
「それ?」
「あ、いえ、いの……んんっ、こ、これよしは男。この先、余四郎さまに何ももたらしは致しませぬ」
「当たり前だ。父上がそのようにしたのだ」
「……し、しかし、今なら。時行さまも余四郎さまも先を望むことができるやも……」
「伊良を側に置けない先などいらん」
「四郎さま……」
伊良の方を向いて笑う余四郎は、いつも通りの子どもらしい笑みだ。
「私も同意だな。行成を側に置けない先などいらん」
「そ、側に置きたいなら側仕えとしておけば」
「それは良い案だ、飯原殿。そのように殿に提案申し上げ……」
「この話は終いだと、つい先ほど言うたをもう忘れたか!」
時行が大きな声を上げた。すでに声変わりのすんだ低い声には、誰にも分かる怒りが込められていた。
「は、ははっ」
思わず、といった調子で、父や、共に声を上げていた者が頭を下げる。
「三度目はない。心せい!」
「はあっ」
一斉に下がる頭を見下ろしながら時行が続ける。
「後は、何だったか……。ああ。伊良の烏帽子親であり、私と四郎の担当である医師、良庵の嫌疑? 良庵が治療するたび、時実兄上が悪くなった、といったのだったか?」
「は、はは。左様に聞き及びましてございます」
父が、得たりと顔を上げたようだった。
だが。
「は、馬鹿馬鹿しい」
時行は即座に吐き捨てる。
「だというなら何故、時実兄上の担当医は何度も良庵に治療の手伝いを頼んだのだ? 良庵には良庵の仕事があるというのに?」
至極もっともだ。
周りの者と同じように頭を下げながら伊良は思った。
良庵の担当は、時行と余四郎の二人。他の医師より一人多く、その分忙しい。それは、他の医師も分かっているはずだった。それに、良庵の出自が低いことを馬鹿にする言葉を伊良は何度も聞いたことがある。わざわざ耳に入れに来た者も一人や二人ではなかった。良庵のことを下に見る者が家中には多いということだろう。
だというのに、時実の担当医は、何度も良庵に頼った。一度だけでなく、何度も。何度も頼ったから、良庵が治療するたびになんて言葉が出てくるのだ。
もし本当に良庵を頼った後で悪化するなら、何度も頼るわけがない。自分の力ではどうしようもなくなった際に、実力の勝る良庵に声を掛けざるを得なかったのではないかと考える方が合点がいく。
悪化することが分かっていて頼ったなら、大問題だ。怪しいのは、良庵ではなく時実の担当医ではないか!
「不要だ、飯原。私は、伊良がよい」
父が大袈裟なほどの物言いで言いかけた提案は、余四郎にあっさりと拒否された。
「え? ……あ、いや、しかし、余四郎さま。それは男で……」
「それ?」
「あ、いえ、いの……んんっ、こ、これよしは男。この先、余四郎さまに何ももたらしは致しませぬ」
「当たり前だ。父上がそのようにしたのだ」
「……し、しかし、今なら。時行さまも余四郎さまも先を望むことができるやも……」
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「四郎さま……」
伊良の方を向いて笑う余四郎は、いつも通りの子どもらしい笑みだ。
「私も同意だな。行成を側に置けない先などいらん」
「そ、側に置きたいなら側仕えとしておけば」
「それは良い案だ、飯原殿。そのように殿に提案申し上げ……」
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「は、ははっ」
思わず、といった調子で、父や、共に声を上げていた者が頭を下げる。
「三度目はない。心せい!」
「はあっ」
一斉に下がる頭を見下ろしながら時行が続ける。
「後は、何だったか……。ああ。伊良の烏帽子親であり、私と四郎の担当である医師、良庵の嫌疑? 良庵が治療するたび、時実兄上が悪くなった、といったのだったか?」
「は、はは。左様に聞き及びましてございます」
父が、得たりと顔を上げたようだった。
だが。
「は、馬鹿馬鹿しい」
時行は即座に吐き捨てる。
「だというなら何故、時実兄上の担当医は何度も良庵に治療の手伝いを頼んだのだ? 良庵には良庵の仕事があるというのに?」
至極もっともだ。
周りの者と同じように頭を下げながら伊良は思った。
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だというのに、時実の担当医は、何度も良庵に頼った。一度だけでなく、何度も。何度も頼ったから、良庵が治療するたびになんて言葉が出てくるのだ。
もし本当に良庵を頼った後で悪化するなら、何度も頼るわけがない。自分の力ではどうしようもなくなった際に、実力の勝る良庵に声を掛けざるを得なかったのではないかと考える方が合点がいく。
悪化することが分かっていて頼ったなら、大問題だ。怪しいのは、良庵ではなく時実の担当医ではないか!
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