【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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百四十四

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 庭番の弥助は、翌々日には調べをすませてきてくれた。

「何ほども調べるまでもありませんや、伊良さま」

 書面にするのは苦手だとの事で、口頭での報告である。小姓の徳丸が、聞いた話を書き留めるべく、真剣な面持ちで筆を握って近くに控えていた。

「うん、そうか」

 目論見がはまって、伊良の声は弾む。

「腕を見込まれれば雇って貰えるってんで、屋敷は職を求める浪人たちで溢れかえり、商人たちの出入りも激しい。夜には、新たに雇った者をもてなすんだと芸者や遊女も呼ばれて来てるってんですから、まあ、羽振りの良いこと、良いこと」
「ええ……」

 せめてこっそりやるという考えは無いものか。あまりの傍若無人ぶりに呆れるしかない。考えていたより派手な暮らしぶりに、伊良はそれ以上の言葉を続けられなかった。
 謹慎、させてるんだよな?
 謹慎というのは、行動を自粛する事、なんだけど……。もしかして、屋敷から出ないことが謹慎である、と思っているのか?
 謹慎させるに当たって扶持を減額したことは、全く堪えていないようだ。
 やはり、行方の知れない金は……。
 藤兵衛が切り落とした髷が元通りに結えるようになるまで登城が出来ない、という曖昧な謹慎期間にも関わらず、家督を息子に譲る素振りも見せない。いつから元通りに生活できるようになるか分からない不安など、微塵も感じられない生活ぶり。

「定められた俸禄だけであんな生活が出来るわけありませんや」
「……だな」
「ただ、御大は頭巾を被って屋敷の奥に引っ込んでいるようで」
「ん?」

 くくっ、と弥助は笑う。

「何ともみっともない頭のまま、整わないんだそうで……ふっ、くくっ」
「んー?」

 何かを思い出したのか、は、ははは、と遂には声を上げて笑い出した。

「はあ、おかしい。くくくっ。いやね、近隣の、髪結いという髪結いが皆、何やかんやと理由をつけては呼び出しを断っているそうでして。ずうっとあの、切られた日のままの、は、はははっ」
「あ……!」

 思い当たる節がある。いつになくひどく腹を立てていた伊良は、相馬と髷を切ったもう一人、宇津木のかつらやつけ毛を、準備しないようにできないものか、と実家の使用人、たみさんの前で呟いたのだ。 
 もう、本当に本当の本気で、しばらく顔も見たくなかったので!

「あ、ああ~。なるほど?」

 これは、もしかして、いや、もしかしなくても、顔の広いたみさんが本気を出してくれたのではないだろうか。
 ありがたい事である。

「如何致しましょうか、伊良さま」

 ようやく笑いを納めた弥助が、きりっと真面目な顔で聞いてきた。
 ふむ。
 例の費目は、奥の存在しない間は計上しない事とする、という通達は出した。この先、相馬の懐へ金が流れる事は無いだろう。放っておいても立ち行かなくなりそうではあるが……。

「ん?」

 思案する伊良の耳に、廊下の方から何やら騒ぎが聞こえる。

「確認して参り……」

 弥助が身軽に立ち上がって戸を開けようとした所で、先に戸が開いた。

「伊良っ!」
「え? 行成さま?」

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