【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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百四十六

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 ほ、とした空気が部屋に漂った。部屋の外に感じていた人の気配も、徐々に少なくなっているようだ。

「はあ」

 左近が、大きなため息を吐くのが聞こえて、伊良は驚いてそちらを向いた。

「あ、いや、すみません、伊良さま。馬で駆け通しだったもので……。今の今まで、行成さまの気迫にあてられて、疲れなど感じてはいなかったのですが、その、今、急にどっと疲れが」
「ああ」

 ふふ、と伊良は笑う。

「ご苦労様、左近。よくぞ無事に行成さまを連れ帰ってくれた」
「はい。いやもう、ほんとに……」
「少し何か腹に入れてから、湯を浴びるとよい。……行成さまも」
「何を言う、伊良。私はこのまま奴の屋敷へ行く。流石に、二人で行くは厳しい故、少々手勢が欲しいと頼みに来たにすぎん」

 え……?

あるじ、無理です。私は今、お供しても役に立てそうにありません。手も足も、ろくに力が入らないです。同じようにここまで駆けてきた主だって、私と同じことになっているはず。すぐに動くのがいい、というなら、良時さまに任せるべきです」
「何を申す、左近。私がこの手でケリをつけずに何とする」
「……どうしてもやるってんなら、命に代えてもお守りしますがね。、何が何でも生き残ってくださいよ?」

 物騒な話になってきた。

「あの。まずは体を万全に整えましょう、行成さま。腕の立つ浪人を集めているらしい、と聞く屋敷に攻め入るとなると、それなりの人数でいかねばなりません。さすれば、大勢でやり合うことになる。大勢でやり合えば、必ず誰か傷つくこととなるでしょう。傷つくだけでは済まないやもしれません。私は、そんなのは嫌です。大切な人を、誰一人危ない目に合わせたくない。危ない目に合ってほしくない。近隣の住民たちや建物にも被害を出したくない」
「伊良……」
「分かっています。分かっているつもりです。こんな考えでは大切な人を守れない時もあること。けれど、此度は。此度は、攻め込まずとも追い詰めることができるやもしれません。少しだけ、少しだけ私に時間をいただけませんか」

 行成は、目を丸くして伊良を見た。それから、ゆっくりぱちぱちと瞬きをする。
 しばらく、部屋はしんと静まり返った。

「あの……」

 返事がないことに不安になって、伊良はおずおずと行成に声を掛ける。

「あ、ああ」

 行成は、どこか呆然と答えた。

「そう、そうか。そう……」
「……?」
「男児三日会わざれば刮目して見よ、か……。うん」

 一度目を閉じ開いた行成は、口角をゆるゆると上げて上がっていた肩を下げていた。

「伊良の策を聞かせてくれ」
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