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百六十一
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相馬の一件を皮切りに、良時は家臣たちの勤めについての精査を推し進めた。時行と行成の帰還で格段に動きやすくなったこともあり、事は面白いように進む。謹慎中の者たちは、片端からお役御免となっていった。
もちろん、いきなり役目を取り上げたわけではない。今の勤めは荷が重そうだとみえる者に、少しづつ簡単な勤めを任せる事にしただけだ。それもできなければ、更に簡単な勤めに回すという形にした。
大抵の者が、何故私がこんなことをしなくてはならぬのかと憤り、ろくに役目を果たせず、城から出される事となった。が、浪人を増やすのは外聞が悪く、治安にも不安が残る。なので、国境の各所にある領地を治める家々への禄を増やして頼み込み、その傘下へと降らせた。そこでも勤めを果たせず出奔するということであれば、その先は預かり知らぬ。良時なりに、昔から仕えていた者たちに挽回の機会は与えた措置のつもりだ。
慣例がないとか、これまで仕えてきた家にあまりに無慈悲な仕打ちだとか、様々に意見する者はあった。大きな反発も、小さな騒動もあった。だが、良時は改革の手を緩めはしなかった。
余りの四郎と蔑まれ、身分に見合った扱いも期待もされてこなかった良時と、幼い頃は武家の扱いすらされず市井の者に混じって学んでいた伊良にとって、身分は大した意味をなさなかったのだ。二人にとって重要なのは先祖の功績ではなく、今ここにいる者が何を成すかであった。借金だらけの香山藩に、勤めを果たさぬ者を雇う余裕などないのである。
それに、特に伊良の中で、働かぬ者食うべからずは不動の価値観であった。勤めも果たさぬのに給金を寄越せと言う者の心情は、伊良には、全く理解できない。給金が欲しいならしっかりと役目を果たせばよいのに何故ちゃんとしないのか、と首を傾げてしまうのだ。今の職がどうしても自分に合わぬというなら、他にできることを探せばよいではないか。武家という身分は身分として、それに囚われることもない。伊良の養い親である良庵のように、良く学べば医師になることだってできるのだから。自分のできることを探して精進してほしい、と思うばかりだ。
職を失くしてすがる者、喚く者などを見ても伊良が心を揺らす様子がないことに気付いた良時は、ますます容赦がなくなっていった。
勤めを果たしていないとみなされた者は、身分が高かろうが低かろうが役替えをされ、給金を減らされていく。有能なものは身分に関係なく重用し、その仕事量に見合った給金を渡した。
とはいえ、元手があまり無いので、大幅に増やしてやることができなかったのが残念である。それでも、たくさんの仕事をこなしながらも手柄を上司に横取りされていた者や、有能でありながら身分が足りぬと重職に就くことのできなかった者が少しづつ引き上げられて正当に評価されるにつれ、藩の財政はみるみる好転していった。
良時や伊良は質素な衣装を身に付ける生活を続けた為、身分の低い者が取り立てられても登城のための衣装に困ることがなかった事も、この体制を整えるに当たって良いように働いたらしい。
良時と伊良は、皆も同じようにせよとは言わなかった。それぞれの給金の範囲内で楽しく暮らせ、と常々口にしていた。なので、商売人たちの売り上げが落ちたのは少しの間で済んだようだ。良時の言葉を体現するかのように、着物に少々こだわりのある行成がそれなりの着物を誂えて身に付けていた事も、周囲の者にとって分かりやすい見本となった。
ところで、表舞台に戻ってきた時行の眼帯の下に傷があることには、重臣たちだけでなく城で勤める者たち皆すぐに気づいたが、それについて直接問いかける者はいなかった。まあ、当然である。しかと学んだ者であれば、領内で争いがあったとお上に伝われば、どんな沙汰が下るか分からぬことを知っているのだ。皆でかしこく口をつぐむことで、復帰した時行は正式に城代としてたち、弟の良時と共に領内をよく治めた。
相馬の一件を皮切りに、良時は家臣たちの勤めについての精査を推し進めた。時行と行成の帰還で格段に動きやすくなったこともあり、事は面白いように進む。謹慎中の者たちは、片端からお役御免となっていった。
もちろん、いきなり役目を取り上げたわけではない。今の勤めは荷が重そうだとみえる者に、少しづつ簡単な勤めを任せる事にしただけだ。それもできなければ、更に簡単な勤めに回すという形にした。
大抵の者が、何故私がこんなことをしなくてはならぬのかと憤り、ろくに役目を果たせず、城から出される事となった。が、浪人を増やすのは外聞が悪く、治安にも不安が残る。なので、国境の各所にある領地を治める家々への禄を増やして頼み込み、その傘下へと降らせた。そこでも勤めを果たせず出奔するということであれば、その先は預かり知らぬ。良時なりに、昔から仕えていた者たちに挽回の機会は与えた措置のつもりだ。
慣例がないとか、これまで仕えてきた家にあまりに無慈悲な仕打ちだとか、様々に意見する者はあった。大きな反発も、小さな騒動もあった。だが、良時は改革の手を緩めはしなかった。
余りの四郎と蔑まれ、身分に見合った扱いも期待もされてこなかった良時と、幼い頃は武家の扱いすらされず市井の者に混じって学んでいた伊良にとって、身分は大した意味をなさなかったのだ。二人にとって重要なのは先祖の功績ではなく、今ここにいる者が何を成すかであった。借金だらけの香山藩に、勤めを果たさぬ者を雇う余裕などないのである。
それに、特に伊良の中で、働かぬ者食うべからずは不動の価値観であった。勤めも果たさぬのに給金を寄越せと言う者の心情は、伊良には、全く理解できない。給金が欲しいならしっかりと役目を果たせばよいのに何故ちゃんとしないのか、と首を傾げてしまうのだ。今の職がどうしても自分に合わぬというなら、他にできることを探せばよいではないか。武家という身分は身分として、それに囚われることもない。伊良の養い親である良庵のように、良く学べば医師になることだってできるのだから。自分のできることを探して精進してほしい、と思うばかりだ。
職を失くしてすがる者、喚く者などを見ても伊良が心を揺らす様子がないことに気付いた良時は、ますます容赦がなくなっていった。
勤めを果たしていないとみなされた者は、身分が高かろうが低かろうが役替えをされ、給金を減らされていく。有能なものは身分に関係なく重用し、その仕事量に見合った給金を渡した。
とはいえ、元手があまり無いので、大幅に増やしてやることができなかったのが残念である。それでも、たくさんの仕事をこなしながらも手柄を上司に横取りされていた者や、有能でありながら身分が足りぬと重職に就くことのできなかった者が少しづつ引き上げられて正当に評価されるにつれ、藩の財政はみるみる好転していった。
良時や伊良は質素な衣装を身に付ける生活を続けた為、身分の低い者が取り立てられても登城のための衣装に困ることがなかった事も、この体制を整えるに当たって良いように働いたらしい。
良時と伊良は、皆も同じようにせよとは言わなかった。それぞれの給金の範囲内で楽しく暮らせ、と常々口にしていた。なので、商売人たちの売り上げが落ちたのは少しの間で済んだようだ。良時の言葉を体現するかのように、着物に少々こだわりのある行成がそれなりの着物を誂えて身に付けていた事も、周囲の者にとって分かりやすい見本となった。
ところで、表舞台に戻ってきた時行の眼帯の下に傷があることには、重臣たちだけでなく城で勤める者たち皆すぐに気づいたが、それについて直接問いかける者はいなかった。まあ、当然である。しかと学んだ者であれば、領内で争いがあったとお上に伝われば、どんな沙汰が下るか分からぬことを知っているのだ。皆でかしこく口をつぐむことで、復帰した時行は正式に城代としてたち、弟の良時と共に領内をよく治めた。
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