【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

文字の大きさ
162 / 188

百六十一

しおりを挟む
 *
 相馬の一件を皮切りに、良時は家臣たちの勤めについての精査を推し進めた。時行と行成の帰還で格段に動きやすくなったこともあり、事は面白いように進む。謹慎中の者たちは、片端からお役御免となっていった。
 もちろん、いきなり役目を取り上げたわけではない。今の勤めは荷が重そうだとみえる者に、少しづつ簡単な勤めを任せる事にしただけだ。それもできなければ、更に簡単な勤めに回すという形にした。
 大抵の者が、何故私がこんなことをしなくてはならぬのかと憤り、ろくに役目を果たせず、城から出される事となった。が、浪人を増やすのは外聞が悪く、治安にも不安が残る。なので、国境くにざかいの各所にある領地を治める家々への禄を増やして頼み込み、その傘下へと降らせた。そこでも勤めを果たせず出奔するということであれば、その先は預かり知らぬ。良時なりに、昔から仕えていた者たちに挽回の機会は与えた措置のつもりだ。
 慣例がないとか、これまで仕えてきた家にあまりに無慈悲な仕打ちだとか、様々に意見する者はあった。大きな反発も、小さな騒動もあった。だが、良時は改革の手を緩めはしなかった。
 余りの四郎と蔑まれ、身分に見合った扱いも期待もされてこなかった良時と、幼い頃は武家の扱いすらされず市井の者に混じって学んでいた伊良にとって、身分は大した意味をなさなかったのだ。二人にとって重要なのは先祖の功績ではなく、今ここにいる者が何を成すかであった。借金だらけの香山藩に、勤めを果たさぬ者を雇う余裕などないのである。
 それに、特に伊良の中で、働かぬ者食うべからずは不動の価値観であった。勤めも果たさぬのに給金を寄越せと言う者の心情は、伊良には、全く理解できない。給金が欲しいならしっかりと役目を果たせばよいのに何故ちゃんとしないのか、と首を傾げてしまうのだ。今の職がどうしても自分に合わぬというなら、他にできることを探せばよいではないか。武家という身分は身分として、それに囚われることもない。伊良の養い親である良庵のように、良く学べば医師になることだってできるのだから。自分のできることを探して精進してほしい、と思うばかりだ。
 職を失くしてすがる者、喚く者などを見ても伊良が心を揺らす様子がないことに気付いた良時は、ますます容赦がなくなっていった。
 勤めを果たしていないとみなされた者は、身分が高かろうが低かろうが役替えをされ、給金を減らされていく。有能なものは身分に関係なく重用し、その仕事量に見合った給金を渡した。
 とはいえ、元手があまり無いので、大幅に増やしてやることができなかったのが残念である。それでも、たくさんの仕事をこなしながらも手柄を上司に横取りされていた者や、有能でありながら身分が足りぬと重職に就くことのできなかった者が少しづつ引き上げられて正当に評価されるにつれ、藩の財政はみるみる好転していった。
 良時や伊良は質素な衣装を身に付ける生活を続けた為、身分の低い者が取り立てられても登城のための衣装に困ることがなかった事も、この体制を整えるに当たって良いように働いたらしい。
 良時と伊良は、皆も同じようにせよとは言わなかった。それぞれの給金の範囲内で楽しく暮らせ、と常々口にしていた。なので、商売人たちの売り上げが落ちたのは少しの間で済んだようだ。良時の言葉を体現するかのように、着物に少々こだわりのある行成がそれなりの着物を誂えて身に付けていた事も、周囲の者にとって分かりやすい見本となった。
 ところで、表舞台に戻ってきた時行の眼帯の下に傷があることには、重臣たちだけでなく城で勤める者たち皆すぐに気づいたが、それについて直接問いかける者はいなかった。まあ、当然である。しかと学んだ者であれば、領内で争いがあったとお上に伝われば、どんな沙汰が下るか分からぬことを知っているのだ。皆でかしこく口をつぐむことで、復帰した時行は正式に城代としてたち、弟の良時と共に領内をよく治めた。
しおりを挟む
感想 284

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

a life of mine ~この道を歩む~

野々乃ぞみ
BL
 ≪腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者≫  第二王子:ブライトル・モルダー・ヴァルマ  主人公の転生者:エドマンド・フィッツパトリック 【第一部】この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~  エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。  転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。  エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。  死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 【第二部】この道を歩む~異文化と感情と、逃げられない運命のようなものと~  必死に手繰り寄せた運命の糸によって、愛や友愛を知り、友人たちなどとの共闘により、見事死亡フラグを折ったエドマンドは、原作とは違いブライトルの母国であるトーカシア国へ行く。  異文化に触れ、余り歓迎されない中、ブライトルの婚約者として過ごす毎日。そして、また新たな敵の陰が現れる。  二部は戦争描写なし。戦闘描写少な目(当社比)です。 全体的にかなりシリアスです。二部以降は、死亡表現やキャラの退場が予想されます。グロではないですが、お気を付け下さい。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったりします。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 閑話休題以外は主人公視点です。 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

処理中です...