【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
176 / 1,325
第三章 幸せの行方

77 緋色 58

しおりを挟む
 昨日から落ち着きの無かった成人なるひとは、店に入ってしばらく、ぽかんと口を開けて、ただただ周りを見渡していた。

「飴はこの辺りだぞ。」

 と力丸りきまるに呼ばれて、ようやくそちらに動いていく。その間も、ぽかんとしたままだ。あまりの量に圧倒されているんだろう。俺も、驚いた。駄菓子屋ってこんな感じだったか。おやつに興味がある訳じゃないし、子どもの頃に数回、常陸丸ひたちまるに連れてきてもらったが、あまり記憶に無かった。
 飴のところで、成人なるひとが悩んでいる。すぐに傷む訳じゃなし、欲しいものを何でも買ったらいいんだが、自分のお金で買いたいんだろうな。
 プラスチックの入れ物に入ったラムネが気に入ったらしい。手に持って、くるくると中身を見ている。力丸りきまるが、ラムネは口で溶けるから食べられるぞ、と教えていた。

「これ、面白いわねえ。すごい色。」
「うわあ。この色で、美味しいんでしょうか?」

 母上と乙羽おとわのはしゃぐ声が聞こえてきた。母上が外出するのは、随分と久しぶりだ。見知らぬ人に会うのが怖いと震えていたのが嘘のように、病状は落ち着いてきたようだ。先日は、成人なるひとが部屋に来ない、と迎えに出たらしい。城中が驚いたが、決して騒がないようにと通達して、通常の挨拶ですれ違うよう徹底したら、何事もなく歩いて外へ出た。成人なるひとは、母上の部屋へ向かう途中で、蝶々を追いかけていたらしい。ひらひらと飛んでいたと、夜に興奮して教えてくれた。無事に合流した後は、二人で蝶々を追いかけて散歩したのだと聞いて、父上も兄上も驚いていた。
 飴の前で悩んでいた成人なるひとがふらつく。悩みすぎて貧血とか面白過ぎる。抱き止めて、落ち着け、と声をかけるとそのまま俺の腕の中で考えはじめた。

「りっくん、明日、誕生日でしょ?何か買ってあげるよー。」

 乙羽おとわ力丸りきまるの側で、大きな飴を手に、これは?と言っている。

「俺、雑貨屋で選びたいなあ。食べ物は、食べたら無くなるからさ。」
「分かった。後でね。」
力丸りきまる、誕生日なの?」
「おう。俺は明日、十八歳になるんだ。」
「俺も誕生日、あるよ。」
「………いつ?」
「三月十三。」

 成人なるひとが、満面の笑みで言った。そういえば、皆に伝えていなかったか。

「もうすぐじゃん。義姉上あねうえ成人なるひとももうすぐ誕生日だって。」
「あら、おめでとう!なる。何か欲しいものあったら言ってね。」
「なんで?」
「誕生日はめでたいから、プレゼント貰えるんだよ。」
「ふーん。」

 首を傾げているのは、仕方の無いことかもしれない。誕生日を知らなければ、祝われることも無かったろう。その意味も、よく分かってはいないのだ。
 力丸りきまるの誕生日祝いを盛大にやれば、その十日後の自分の誕生日に期待が高まるかもな。明日は、力丸りきまるを祝ってやるか。
 
しおりを挟む
感想 2,500

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...