【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

80 賊というなら  緋色

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「こんな大勢を収容するような場所、うちには無いんやけど」
「捕まえたはええけど、どうしよ」

 生け捕りにしたの数が想像より多くて、鶴丸つるまる松吉まつきちが途方に暮れている。
 平和な領地だったようだ。まあ、領主一族を見ていたら自ずと分かることだが。

「一応、聞いてみよか。なあ、こんな田舎の端っこの村に、何目当てで来たん? 収穫期も済んで、奪うもんもあんまり無いんやけど」
「見ての通り、食いっぱぐれの集まりや。何ぞ腹に溜まるもんか、金品を頂こう思て来たに決まっとる」

 剛毅にも、一人が口を開いた。そう言えと仕込まれてきたか。口上は、なかなかにすらすらと出てきた。

「そういう賊はな。今まで必ず西中さいちゅう国側に行きよったんやけど」
「どこへ行こうと、うちらの勝手や」
「まあ、そやな」

 西賀さいか国の特産の葡萄の収穫期は終わった。この後の季節は、どこの国でも同じように育つ野菜を育てるだけだ。それもまだ収穫期を迎えていない。この者たちが賊だと言うなら、人の少ない西賀さいか国側の外れの村を襲って得るものが少な過ぎる。それなら、もう少し人の数の多い西中さいちゅう国の外れの村を襲う方が身入りがいい。小さな森を挟んですぐの場所に存在するのだから、わざわざ身入りの少ない側を襲うなどおかしいといえる。実際、これまでずっとそうであったようだ。だいたい、普段、山から下りてくる獣を相手にしている西賀さいか国の警備隊は手強い。派手に襲ったところで、返り討ちにあうのがオチだ。
 まあ、どこを襲おうと勝手だと言われれば、その通りではあるのだが。

「迷いなく、西中さいちゅう国の中を進んでおります」

 一ノ瀬の手短な報告の声が響き、周囲にはがっかりとした空気が漂った。
 西賀さいかと皇国の連絡役を担っているという一ノ瀬相間そうまが、荘重むらしげから言伝てを頼まれて素早く戻ってきたものらしい。よく道を知る者が全力で駆けてきたので相当に速い。こちらは、大量の賊を一人ずつしっかりと縛り終えたばかりだ。
 両手を縛って転がした者たちからは、息を呑む音が聞こえた。

「躾がなってねえなあ」
「いや。躾がなってるんじゃねえっすか?」
「ああ。ちゃんとお家に帰ったから?」
「そうそう」

 力丸りきまるの合いの手に、ははと笑いが起こった。転がる者たちは、ぞわりと体を震わせたようだが。

西中さいちゅう国の者やな」

 鶴丸つるまるの言葉に返事はない。返事があると思ってはいないので、特に思うところもない。逆に、返事があったら驚いたかもしれんな。

「えらいことしてくれたで。たまたま、皇国から緋色ひいろ殿下と妃殿下がお忍びで西賀さいか国に遊びに来られとる時に襲撃やなんて」
「偶然、視察していた村が襲われたなど、驚きだな」
「ほんまです。誰もお怪我が無うて良かったです」
「子どもを連れている時にあんな事があるとは物騒だ」
「いやー、殿下。こんな賊やなんて、うちの辺りに出ること無かったんですけどねえ。あ、賊やなかったか」

 早めに口を割る方が身のためだぞ。
 うちの伴侶と友人の子どもが屋敷で待っているからな。早く帰りたいと気が急いて、少々手荒になってしまうかもしれん。
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