変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi

文字の大きさ
31 / 56

フェリクスの提案

しおりを挟む
  学園に戻ると宿舎の廊下でフェリクスに会った。アルバートとお父様の話を聞いた後で世間話をする気持ちになれずそのまま通り過ぎようとすると

「どうしたエマ? なんだか顔色が悪いぞ」

  どうしてフェリクスはこうやっていつも私の変化に簡単に気がつくのだろう。

「そう? いつもどおりよ?」

「いつもどおりのわけがないだろう。カフェでなにかあったのか?」

「……別に何もないわ」

  そう答えて笑顔を作ろうとしたけれどうまくできずにひきつった笑いになってしまう。その顔を見たフェリクスが表情を曇らせる。

「何かあったんだな? ……どうして君はそうやっていつもなんでも一人で抱え込むんだ」

「別に抱えこんでなんて……」

「心配ごとがあるのならどうか話してくれ。君のことは俺がまも……」

  フェリクスの言葉を遮って私は言う。

「誰かに守ってもらうほど弱くない」

  思わずキツい言葉が出てしまう。フェリクスを怒らせてしまったと思ったけれど返ってきたのは思いがけない優しい言葉だった。

「……別に押しつけるつもりはない。ただ俺がそうしたいと思っていると伝えたかっただけだ」

  自分が申し訳なかった。今日の私はちょっとどうかしている。アルバートなんて目の前に現れたってまたやり返してしまえばいい。

「俺は君のためならどんな苦労だってしたいんだ。わかってくれるだろう?」

  フェリクスの言葉にどう答えていいか分からず私は小さな声で言った。

「……そんな風にしてもらう理由がないもの」

「理由なんてそれは……」

  言いかけてフェリクスが途中で言葉を詰まらせる。

「お、俺たちは仲間だし、君は俺を二度も救ってくれた。今度は俺が君の力になりたい」

  フェリクスの言葉に胸が熱くなる。こんな風に私のことを心から思いやってくれる人は今まで身の回りにはいなかった。

  アルバートのことを話しても迷惑をかけるだけだと思ったけれど、恐らくアルバートは遅かれ早かれこの学園にやってくるだろう。そしてユリアの時のようにきっとまたルークやフェリクスに迷惑をかけることになる。もう隠しておいても仕方がない。私はアルバートのことをフェリクスに話した。





「本当にしつこい男だな」

  フェリクスが顔を真っ赤にして怒っている。こんなにフェリクスが腹を立てるとは予想だにしていなかった。

「俺に考えがある」

「考え?」

「王太子との婚約が決まっているという口実で結婚はできないと追い返せばいい」

「は?」

  突然のフェリクスの提案に私はぽかんと口を大きく開いてしまう。

「……決まってないけど」

「だから口実だと言っているだろう」

「口実……って、そんな嘘、すぐにバレるに決まってるわ」

「なら実際に婚約してみんなの前でお披露目すればいい」

「で、できるわけないでしょ?! そんなことしたら本当に結婚しないといけなくなるじゃない?!」

「本当に結婚すればいい」

「ど、どうしてそうなるのよ?!」

「なにか問題があるか?」

「問題があるも何も私たちそういう関係じゃないでしょう?」

「だからフリのまま結婚すればいいと言っている」

  フェリクスの言っていることにわけがわからず頭のなかがこんがらがってきた。

「本当に結婚しちゃったらフリじゃなくなるじゃないの!」

「君の中ではフリのつもりでいればいい」

「なっ……?! そ、そんなことできるわけないでしょ?」

「なぜ?」

「だ、だって結婚っていうものはお互いが愛しあって……」

  私が照れながらそう言うとフェリクスはくすっと笑った。

「君は案外頭が固いんだな。日々の鍛錬と将来の夢の勉強ばかりしている君が愛や恋に目覚める日を待っていたら気がついた時にはお互いじいさんばあさんになってしまっていそうだが?」

「し、失礼です!」

  ……たしかに考えてみれば日々の鍛錬や勉強、仕事に明け暮れて自分の恋愛や結婚などのことを考えている余裕はなかったけれど。

「頭が固いとかそういう問題じゃないわ。王太子妃よ?! フリでなっていい立場ではないわ」

「俺が別にいいと言っているのだから問題ないだろう。君は元々は侯爵家の令嬢だし、王太子妃になっておかしなことは何もない」

「そ、そういう意味ではそうかもしれないけど……」

「相手が俺では不満か?」

「だから不満とかじゃなくて、私たち、別にそういう関係じゃないでしょう」

「俺を利用したらどうだ? 俺は王太子だぞ? 忘れているかもしれないが」

「……忘れているわけがないでしょう」

「そうかな? 普通大抵の女子は俺が王太子という肩書を持ってじっとその瞳を見つめれば熱のこもった眼差しで見返してきてくれるのだがどうやら君はそうではないのでな」

「……随分な自信ね」

  私は小さくため息をつく。

「今回その元婚約者を追い払ったとしてもこれから先も君の身には恐らく勝手な縁談が持ち込まれてくるのではないか? そのたびに手をわずらわされるのはうんざりだろう? 自分で生きていく力を身につけて夢を実現したい君にとって俺は最強の政略結婚の相手だと思うが?」

  フェリクスの言うことは一理ある。お父様は恐らくこれから先も私が誰かと結婚するまで私を自身の家を繁栄させるための駒として縁談を強要し続けるに違いない。

  フェリクスは私の不都合な身の上に同情してそこまで言ってくれているのだろうけど、フェリクスは本当にそれでいいのかしら? 他に好きな女の子がいたりするんじゃ……。そう考えて、なんだか胸がきゅうと痛んだ。……なにかしら、これ。

「あ、あなたが私を救うためにそこまで言ってくれるのはありがたいけど……あなたは大切な友達だもの。私の事情で愛してもいない私なんかと政略結婚させるなんてできないわ」

  私の返事にフェリクスはハトが豆鉄砲でもくらったような表情をする。そして次の瞬間、さもおかしそうに声を立てて笑い始めた。

「き、君って人は本当に面白いな、なるほど、愛してもいない女とね……! 君と言う人は本当に観察力があるんだかないのだか、鋭いのだか鈍いのだかさっぱり分からないな」

「な、なにがおかしいの……?!」

  フェリクスがあんまり笑うのでなんだか恥ずかしくなってきた。なんだかよくわからないけれど完全にからかわれているみたい。

  ひとしきり笑った後で呼吸を落ち着かせながらフェリクスが言う。

 「俺の方は別になんの問題もないさ。俺だってどうせ国王である父上からあれこれと妃候補をすすめられるに違いない。そんなのはうんざりだからな。気心知れた君とのほうがずっと上手くやれそうだ」

  その返答を聞いてなんだか複雑な気持ちになる。……フェリクスって案外軽いのね。そんな風に結婚相手を決めてしまうなんて。愛してなくても私がフェリクスにとっても都合がいいということよね? そう思ったらなんだか胸がチクリと痛かった。……さっきから心臓がおかしいわ。なんなのかしら?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜

華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。 日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。 しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。 続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574 完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。 おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。 合わせてお楽しみいただければと思います。

「この結婚はなかったことにしてほしい、お互いのためだ」と言われましたが……ごめんなさい!私は代役です

涙乃(るの)
恋愛
男爵家の双子の姉妹のフィオーリとクリスティナは、髪色以外はよく似ている。 姉のフィオーリ宛にとある伯爵家から結婚の申し込みが。 結婚式の1ヶ月前に伯爵家へと住まいを移すように提案されると、フィオーリはクリスティナへ式までの代役を依頼する。 「クリスティナ、大丈夫。絶対にバレないから! 結婚式に入れ替われば問題ないから。お願い」 いえいえいえ、問題しかないと思いますよ。 ゆるい設定世界観です

令嬢から成り下がったメイドの分際で、侯爵様と目が合ってしまって

真好
恋愛
彼はメイドの私に手を差し出した。「私と、踊っていただけませんか?」 かつては公爵令嬢として、誰もが羨む生活を送っていたエルナ。 しかし、国家反逆罪で家は没落し、今は嫌な貴族の下で働く「身分落ち」のメイド。 二度と表舞台に立つことなどないはずだった。 あの日の豪華絢爛な舞踏会で、彼と目が合うまでは。 アルフォンス・ベルンハルト侯爵。 冷徹な「戦場の英雄」として国中の注目を集める、今もっともホットで、もっとも手が届かない男。 退屈そうに会場を見渡していた彼の視線が、影に徹していた私を捉えて。 彼は真っ直ぐに歩み寄り、埃まみれの私に手を差し出した。 「私と、踊っていただけませんか?」 メイドの分際で、英雄のパートナー!? 前代未聞のスキャンダルから始まる逆転劇。

ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人
恋愛
 私は冒険者ギルド職員ロックウィーナ。25歳の女で担当は回収役。冒険者の落し物、遺品、時には冒険者自体をも背負います!  素敵な恋愛に憧れているのに培われるのは筋肉だけ。  しかし無駄に顔が良い先輩と出動した先で、行き倒れた美形剣士を背負ってから私の人生は一変。初のモテ期が到来です!!  ……とか思ってウハウハしていたら何やら不穏な空気。ええ!?  私の選択次第で世界がループして崩壊の危機!? そんな結末は認めない!!!! ※【エブリスタ】でも公開しています。  【エブリスタ小説大賞2023 講談社 女性コミック9誌合同マンガ原作賞】で優秀作品に選ばれました。

追放された悪役令嬢は貧乏になっても図太く生きますわ!

ワールド
恋愛
貴族の娘として生まれた公爵令嬢クラリッサ。 陰謀の濡れ衣を着せられ、華やかな社交界から追放――そして辿り着いたのは、ボロ小屋と畑だけの辺境村!? 「結構ですわ! 紅茶がなければハーブティーを淹れればいいじゃありませんの!」 貧乏生活でも持ち前の図太さで、村の改革に乗り出すクラリッサ。 貧乏でも優雅に、下剋上でも気高く! そんな彼女の前に現れたのは、前世(王都)で彼女を陥れた元婚約者……ではなく、なぜか彼の弟で村に潜伏していた元騎士で――? 「俺は見てた。貴女の“ざまぁ”は、きっとまだ終わっちゃいない。」 ざまぁとスローライフ、そしてちょっとの恋。 令嬢、辺境で図太く咲き誇ります!

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

処理中です...