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フェリクスの提案
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学園に戻ると宿舎の廊下でフェリクスに会った。アルバートとお父様の話を聞いた後で世間話をする気持ちになれずそのまま通り過ぎようとすると
「どうしたエマ? なんだか顔色が悪いぞ」
どうしてフェリクスはこうやっていつも私の変化に簡単に気がつくのだろう。
「そう? いつもどおりよ?」
「いつもどおりのわけがないだろう。カフェでなにかあったのか?」
「……別に何もないわ」
そう答えて笑顔を作ろうとしたけれどうまくできずにひきつった笑いになってしまう。その顔を見たフェリクスが表情を曇らせる。
「何かあったんだな? ……どうして君はそうやっていつもなんでも一人で抱え込むんだ」
「別に抱えこんでなんて……」
「心配ごとがあるのならどうか話してくれ。君のことは俺がまも……」
フェリクスの言葉を遮って私は言う。
「誰かに守ってもらうほど弱くない」
思わずキツい言葉が出てしまう。フェリクスを怒らせてしまったと思ったけれど返ってきたのは思いがけない優しい言葉だった。
「……別に押しつけるつもりはない。ただ俺がそうしたいと思っていると伝えたかっただけだ」
自分が申し訳なかった。今日の私はちょっとどうかしている。アルバートなんて目の前に現れたってまたやり返してしまえばいい。
「俺は君のためならどんな苦労だってしたいんだ。わかってくれるだろう?」
フェリクスの言葉にどう答えていいか分からず私は小さな声で言った。
「……そんな風にしてもらう理由がないもの」
「理由なんてそれは……」
言いかけてフェリクスが途中で言葉を詰まらせる。
「お、俺たちは仲間だし、君は俺を二度も救ってくれた。今度は俺が君の力になりたい」
フェリクスの言葉に胸が熱くなる。こんな風に私のことを心から思いやってくれる人は今まで身の回りにはいなかった。
アルバートのことを話しても迷惑をかけるだけだと思ったけれど、恐らくアルバートは遅かれ早かれこの学園にやってくるだろう。そしてユリアの時のようにきっとまたルークやフェリクスに迷惑をかけることになる。もう隠しておいても仕方がない。私はアルバートのことをフェリクスに話した。
・
・
・
「本当にしつこい男だな」
フェリクスが顔を真っ赤にして怒っている。こんなにフェリクスが腹を立てるとは予想だにしていなかった。
「俺に考えがある」
「考え?」
「王太子との婚約が決まっているという口実で結婚はできないと追い返せばいい」
「は?」
突然のフェリクスの提案に私はぽかんと口を大きく開いてしまう。
「……決まってないけど」
「だから口実だと言っているだろう」
「口実……って、そんな嘘、すぐにバレるに決まってるわ」
「なら実際に婚約してみんなの前でお披露目すればいい」
「で、できるわけないでしょ?! そんなことしたら本当に結婚しないといけなくなるじゃない?!」
「本当に結婚すればいい」
「ど、どうしてそうなるのよ?!」
「なにか問題があるか?」
「問題があるも何も私たちそういう関係じゃないでしょう?」
「だからフリのまま結婚すればいいと言っている」
フェリクスの言っていることにわけがわからず頭のなかがこんがらがってきた。
「本当に結婚しちゃったらフリじゃなくなるじゃないの!」
「君の中ではフリのつもりでいればいい」
「なっ……?! そ、そんなことできるわけないでしょ?」
「なぜ?」
「だ、だって結婚っていうものはお互いが愛しあって……」
私が照れながらそう言うとフェリクスはくすっと笑った。
「君は案外頭が固いんだな。日々の鍛錬と将来の夢の勉強ばかりしている君が愛や恋に目覚める日を待っていたら気がついた時にはお互いじいさんばあさんになってしまっていそうだが?」
「し、失礼です!」
……たしかに考えてみれば日々の鍛錬や勉強、仕事に明け暮れて自分の恋愛や結婚などのことを考えている余裕はなかったけれど。
「頭が固いとかそういう問題じゃないわ。王太子妃よ?! フリでなっていい立場ではないわ」
「俺が別にいいと言っているのだから問題ないだろう。君は元々は侯爵家の令嬢だし、王太子妃になっておかしなことは何もない」
「そ、そういう意味ではそうかもしれないけど……」
「相手が俺では不満か?」
「だから不満とかじゃなくて、私たち、別にそういう関係じゃないでしょう」
「俺を利用したらどうだ? 俺は王太子だぞ? 忘れているかもしれないが」
「……忘れているわけがないでしょう」
「そうかな? 普通大抵の女子は俺が王太子という肩書を持ってじっとその瞳を見つめれば熱のこもった眼差しで見返してきてくれるのだがどうやら君はそうではないのでな」
「……随分な自信ね」
私は小さくため息をつく。
「今回その元婚約者を追い払ったとしてもこれから先も君の身には恐らく勝手な縁談が持ち込まれてくるのではないか? そのたびに手をわずらわされるのはうんざりだろう? 自分で生きていく力を身につけて夢を実現したい君にとって俺は最強の政略結婚の相手だと思うが?」
フェリクスの言うことは一理ある。お父様は恐らくこれから先も私が誰かと結婚するまで私を自身の家を繁栄させるための駒として縁談を強要し続けるに違いない。
フェリクスは私の不都合な身の上に同情してそこまで言ってくれているのだろうけど、フェリクスは本当にそれでいいのかしら? 他に好きな女の子がいたりするんじゃ……。そう考えて、なんだか胸がきゅうと痛んだ。……なにかしら、これ。
「あ、あなたが私を救うためにそこまで言ってくれるのはありがたいけど……あなたは大切な友達だもの。私の事情で愛してもいない私なんかと政略結婚させるなんてできないわ」
私の返事にフェリクスはハトが豆鉄砲でもくらったような表情をする。そして次の瞬間、さもおかしそうに声を立てて笑い始めた。
「き、君って人は本当に面白いな、なるほど、愛してもいない女とね……! 君と言う人は本当に観察力があるんだかないのだか、鋭いのだか鈍いのだかさっぱり分からないな」
「な、なにがおかしいの……?!」
フェリクスがあんまり笑うのでなんだか恥ずかしくなってきた。なんだかよくわからないけれど完全にからかわれているみたい。
ひとしきり笑った後で呼吸を落ち着かせながらフェリクスが言う。
「俺の方は別になんの問題もないさ。俺だってどうせ国王である父上からあれこれと妃候補をすすめられるに違いない。そんなのはうんざりだからな。気心知れた君とのほうがずっと上手くやれそうだ」
その返答を聞いてなんだか複雑な気持ちになる。……フェリクスって案外軽いのね。そんな風に結婚相手を決めてしまうなんて。愛してなくても私がフェリクスにとっても都合がいいということよね? そう思ったらなんだか胸がチクリと痛かった。……さっきから心臓がおかしいわ。なんなのかしら?
「どうしたエマ? なんだか顔色が悪いぞ」
どうしてフェリクスはこうやっていつも私の変化に簡単に気がつくのだろう。
「そう? いつもどおりよ?」
「いつもどおりのわけがないだろう。カフェでなにかあったのか?」
「……別に何もないわ」
そう答えて笑顔を作ろうとしたけれどうまくできずにひきつった笑いになってしまう。その顔を見たフェリクスが表情を曇らせる。
「何かあったんだな? ……どうして君はそうやっていつもなんでも一人で抱え込むんだ」
「別に抱えこんでなんて……」
「心配ごとがあるのならどうか話してくれ。君のことは俺がまも……」
フェリクスの言葉を遮って私は言う。
「誰かに守ってもらうほど弱くない」
思わずキツい言葉が出てしまう。フェリクスを怒らせてしまったと思ったけれど返ってきたのは思いがけない優しい言葉だった。
「……別に押しつけるつもりはない。ただ俺がそうしたいと思っていると伝えたかっただけだ」
自分が申し訳なかった。今日の私はちょっとどうかしている。アルバートなんて目の前に現れたってまたやり返してしまえばいい。
「俺は君のためならどんな苦労だってしたいんだ。わかってくれるだろう?」
フェリクスの言葉にどう答えていいか分からず私は小さな声で言った。
「……そんな風にしてもらう理由がないもの」
「理由なんてそれは……」
言いかけてフェリクスが途中で言葉を詰まらせる。
「お、俺たちは仲間だし、君は俺を二度も救ってくれた。今度は俺が君の力になりたい」
フェリクスの言葉に胸が熱くなる。こんな風に私のことを心から思いやってくれる人は今まで身の回りにはいなかった。
アルバートのことを話しても迷惑をかけるだけだと思ったけれど、恐らくアルバートは遅かれ早かれこの学園にやってくるだろう。そしてユリアの時のようにきっとまたルークやフェリクスに迷惑をかけることになる。もう隠しておいても仕方がない。私はアルバートのことをフェリクスに話した。
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「本当にしつこい男だな」
フェリクスが顔を真っ赤にして怒っている。こんなにフェリクスが腹を立てるとは予想だにしていなかった。
「俺に考えがある」
「考え?」
「王太子との婚約が決まっているという口実で結婚はできないと追い返せばいい」
「は?」
突然のフェリクスの提案に私はぽかんと口を大きく開いてしまう。
「……決まってないけど」
「だから口実だと言っているだろう」
「口実……って、そんな嘘、すぐにバレるに決まってるわ」
「なら実際に婚約してみんなの前でお披露目すればいい」
「で、できるわけないでしょ?! そんなことしたら本当に結婚しないといけなくなるじゃない?!」
「本当に結婚すればいい」
「ど、どうしてそうなるのよ?!」
「なにか問題があるか?」
「問題があるも何も私たちそういう関係じゃないでしょう?」
「だからフリのまま結婚すればいいと言っている」
フェリクスの言っていることにわけがわからず頭のなかがこんがらがってきた。
「本当に結婚しちゃったらフリじゃなくなるじゃないの!」
「君の中ではフリのつもりでいればいい」
「なっ……?! そ、そんなことできるわけないでしょ?」
「なぜ?」
「だ、だって結婚っていうものはお互いが愛しあって……」
私が照れながらそう言うとフェリクスはくすっと笑った。
「君は案外頭が固いんだな。日々の鍛錬と将来の夢の勉強ばかりしている君が愛や恋に目覚める日を待っていたら気がついた時にはお互いじいさんばあさんになってしまっていそうだが?」
「し、失礼です!」
……たしかに考えてみれば日々の鍛錬や勉強、仕事に明け暮れて自分の恋愛や結婚などのことを考えている余裕はなかったけれど。
「頭が固いとかそういう問題じゃないわ。王太子妃よ?! フリでなっていい立場ではないわ」
「俺が別にいいと言っているのだから問題ないだろう。君は元々は侯爵家の令嬢だし、王太子妃になっておかしなことは何もない」
「そ、そういう意味ではそうかもしれないけど……」
「相手が俺では不満か?」
「だから不満とかじゃなくて、私たち、別にそういう関係じゃないでしょう」
「俺を利用したらどうだ? 俺は王太子だぞ? 忘れているかもしれないが」
「……忘れているわけがないでしょう」
「そうかな? 普通大抵の女子は俺が王太子という肩書を持ってじっとその瞳を見つめれば熱のこもった眼差しで見返してきてくれるのだがどうやら君はそうではないのでな」
「……随分な自信ね」
私は小さくため息をつく。
「今回その元婚約者を追い払ったとしてもこれから先も君の身には恐らく勝手な縁談が持ち込まれてくるのではないか? そのたびに手をわずらわされるのはうんざりだろう? 自分で生きていく力を身につけて夢を実現したい君にとって俺は最強の政略結婚の相手だと思うが?」
フェリクスの言うことは一理ある。お父様は恐らくこれから先も私が誰かと結婚するまで私を自身の家を繁栄させるための駒として縁談を強要し続けるに違いない。
フェリクスは私の不都合な身の上に同情してそこまで言ってくれているのだろうけど、フェリクスは本当にそれでいいのかしら? 他に好きな女の子がいたりするんじゃ……。そう考えて、なんだか胸がきゅうと痛んだ。……なにかしら、これ。
「あ、あなたが私を救うためにそこまで言ってくれるのはありがたいけど……あなたは大切な友達だもの。私の事情で愛してもいない私なんかと政略結婚させるなんてできないわ」
私の返事にフェリクスはハトが豆鉄砲でもくらったような表情をする。そして次の瞬間、さもおかしそうに声を立てて笑い始めた。
「き、君って人は本当に面白いな、なるほど、愛してもいない女とね……! 君と言う人は本当に観察力があるんだかないのだか、鋭いのだか鈍いのだかさっぱり分からないな」
「な、なにがおかしいの……?!」
フェリクスがあんまり笑うのでなんだか恥ずかしくなってきた。なんだかよくわからないけれど完全にからかわれているみたい。
ひとしきり笑った後で呼吸を落ち着かせながらフェリクスが言う。
「俺の方は別になんの問題もないさ。俺だってどうせ国王である父上からあれこれと妃候補をすすめられるに違いない。そんなのはうんざりだからな。気心知れた君とのほうがずっと上手くやれそうだ」
その返答を聞いてなんだか複雑な気持ちになる。……フェリクスって案外軽いのね。そんな風に結婚相手を決めてしまうなんて。愛してなくても私がフェリクスにとっても都合がいいということよね? そう思ったらなんだか胸がチクリと痛かった。……さっきから心臓がおかしいわ。なんなのかしら?
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