聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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【14話】

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 魔の森。
 それはガフティラベルの王都から数キロほど離れたところにある魔物が生息する森である。
 瘴気が濃く、普通の人間では瘴気に当てられるだけで体調を崩す。
 主に冒険者などがレベルアップや、魔物の素材を手に入れるために入る森である。
 
 そんな森をスタスタと平然な顔をしてサイヒとルークは歩いていた。

「サイヒの法術は便利だな」

「他の者の結界を見たことが無いので何とも言えんが便利なのかコレは?」

「術者の体にこれ程までに張り付く結界は見たことは無いぞ?」

「もう1枚服を着るイメージで作っているからな。移動式の結界と言うのはこう言うものだと思っていた」

「多分違うと思う」

 確かに移動式の結界はある。
 しかしそれは空間に作用するもので、人1人ずつに作用するものなんてなんて現在の大陸にそんな法術の使い手は存在しない。
 今ここにいるサイヒを除いて。

「まぁ私が出来るのだから大陸中探せば他に出来る者も居るのではないか?」

「そう言うものなのか?」

「そう言うものだ」

 すでにこのやり取りは2人の様式美になりつつある。

「しかし魔物が寄ってこないな…?」

「この結界が強すぎるのではないか?」

「かなり出力は抑えたつもりなのだが…」

 ルークの言う通り、サイヒの法術が効きすぎて魔物が一定距離以上寄ってこないのだ。

「仕方ない、強制的に呼ぶか」

 【芳香】

 新たにサイヒが術を重ねる。

「何をしたんだ?」

「魔物に対して効力を発する”旨そうな匂い”を周囲にばらまいた」

 ガサッ

「ほら来たぞ」

 ニヤリとサイヒが笑う。

 ガサガサと音を立て周囲が膨大な数の生き物に取り囲まれたのが気配で分かる。

 そこからはサイヒの独断場だった。

 :::

 マフィンをもぐもぐしながらしながらサイヒとルークは休憩を取っていた。

「まさか本当に体術しか使わないとは思ってもみなかった…」

「武術大会は魔術も法術も禁止なのだろう?腕慣らしとはいえ術を使っては練習にならないではないか」

「それはそうなのだが…まさかA級の魔物の群れ迄も素手で倒すとは思わなかったからな…」

「S級が居なかったのが残念だ」

「まぁサイヒだから問題ないか。今更常識を訪ねても無駄な気がする」

 ついに天然の気があるルーク迄にもサイヒは”普通”のカテゴリーから外れてしまった。
 今まで見て来たのは魔術や法術だったのでルークもサイヒの腕に”そんなものか”と思っていたのだが、自分の専門分野の肉弾戦において常識外れの強さを見せつけられて流石のルークもサイヒが普通でないと認識した。

「それにしても1匹も殺さなかったな。素材を売ればA級ならかなりの金額になったぞ?」

「こちらの運動解消に付き合って貰っているんだ。殺すのは悪いだろう?特に悪さをされた訳でも無いのだし。テリトリーに勝手に入ったのはこっちだ。殺すのは理にかなわない」

 言っていることは聖人のようだがマフィンを頬張っているのでいまいち絵にならない。
 それに殺しはしないが強制的に呼びつけておいて半殺しにはしている。

 天然なルークはそれに気づかず心の中でサイヒの優しさに感動しているのだが…。

「だがコレで分かった。魔物相手では練習にならん。ルーク、これからは昼食の後腹ごなしに訓練に付き合って貰いたい」

「私がか!?」

「お前かなり動けるだろう?さっきも私に何かあれば即座に動けるようにしていたの気が付かないと思ったのか?」

「まぁ無駄骨に終わったんだが…。私なんかでサイヒの訓練の相手になるのか?」

「まぁ今日のは久しぶりにどれくらい動けるのか試しに来ただけだけだからな。対人戦の訓練なら人とやる方がよっぽど良い。ルークのお手並みも拝見したいしな」

「あまり期待はしないでくれ。訓練は裏の広場か?」

「いや、闘いの余波で後宮に傷つける訳にはいかないから今日みたいに王都から少しは離れる。また空の旅になるが付き合ってくれるか?」

 コテリ、とサイヒが小首を傾げる。
 その仕種にルークの心臓が跳ねる。

(何か、サイヒが可愛い気がする…宦官とは言え男に対して何を思っているのだ私は……)

「ルーク、ダメか?」
 
 ズイ、とサイヒが身を乗り出してルークに近づく。

(近い!距離が近い!…あ、睫毛が意外と長いのだな…青銀の瞳が光を受けた海の水面の様に綺麗だ…唇も小さくて血色が良くて、触れたら気持ちいだろうか……?)

「ルーク、どうした固まって?」

「い、いや何でもない!私で良ければ訓練に付き合おう。しばらく剣を握っていなかったので最初のうちは私のリハビリになるだろうが。と言うか私は剣で良いのか?徒手空拳はつかえないぞ?」

「ルークは剣を得意とすなら剣で良い。それに万が一のため徒手空拳でも戦えるよう私がルークに護身術を教えよう。剣が無い場で襲われても対処できるようにな。ついでに法術の簡単な物も覚えてみるか?」

「私に術を?適正はあるのだろうか?今まで術は習ったが使えた試しがない…」

「ソレは教えた方が無能だな。ルークには法術の適正はあるぞ?私がしっかり教えよう。【治癒】【解毒】【浄化】辺りは覚えておくと便利だからな」

「ではご教授お願いする。私がサイヒの訓練を付き合うはずなのにコレでは立場が反対だな」

「訓練に付き合って貰う礼みたいなものだ」

 フワリと花がほころぶ様にサイヒが微笑む。
 たまにするサイヒのこの微笑みにルークは弱い。
 頬が上気し胸が高鳴るのだ。

 そしてこの微笑みが向けられるのが自分だけであれば良いと思ってしまう。

(サイヒにはマロン嬢がいるのに何を考えているのだ私は…)

「では明日からよろしく頼むぞルーク」

「あぁ、期待に添えられるよう努力しよう」

 サイヒにはマロンがいるが、親友として自分が1番近い位置に居れるならそれで良い、とルークは自分自身を説得する。
 初めての”親友”が出来たことで強い執着を抱いてしまっているだけなのだろうと。

(時が来ればおのずとサイヒへの執着も昇華されるだろう)

 ルークはその日が来て欲しいのか来て欲しくないのか、自分でも分からずにそれでも何とか自分自身を納得させるしかなかった。
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