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【16話】
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しなやかな腕が体に回されギュッ、と抱きしめられる。
暖かな体温が密着した体から伝わる。
「私の処に帰ってこい、ルーク」
大好きな声が聞こえて、その声の持ち主である親友の柔らかな唇が己の唇に押し当てられた。
:::
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
大声を叫んでルークは目を覚ました。
心臓がバクバクと大きな音を立てている。
顔どころか体中が熱くて真っ赤になる。
「殿下、大丈夫ですか!?」
「え、あ、クオンか」
自分は人魚に運河に沈められて、そこから記憶がない。
今居るのは自室のベッドの上だった。
「体が真っ赤です。熱があるのでしょうか?」
「いや、これは、違う…」
先程見た、夢を思い出して、更に赤くなる。
「やっぱり熱が!」
「だからこれは違うんだ……」
つい目が宙を動く。
ちょっと、いやかなり気まずい。
見てしまった夢が、あまりにも問題だと少しへこむ。
「私は運河に引き込まれたのでは?」
「それが【空間転移】で現れた謎の宦官が殿下をお助けされたと聞きました。殿下の危機に居合わせる事が出来なかったとは、俺とした者が何と言う不覚…」
「いや、それはクオンのせいでは無い。別の任務で隣国に行っていたのだろう?」
「それは、そうなのですが……」
「で、私を助けたのは宦官であったと?」
ルークの言葉にクオンの目が座る。
「そう宦官です。皇太子の後宮の宦官の衣装を纏った少年だったと伺っています。そう、皇・太・子・の・後・宮・の・宦・官ですよ、殿下!」
「うっ!」
クオンの目が怖い。
ルークの幼馴染であり現在では1番身近な側近で近衛兵でもある。
最近ではルークが昼間の一時、後宮に内密に入り浸っているために毎日撒かれているのでクオンは怒り心頭なのだ。
「その宦官に会いに後宮に行っていた訳ですね?」
「それは…その、」
「どんなに監視しても何時の間にか居なくなるのでおかしいと思っていましたが、その宦官はかなり魔術に長けているようですね?姿をくらます魔術でもかけて頂いているのですか?」
クオンがルークをジロジロと見る。
「魔術をかけられている様子はありませんね…となるとマジックアイテムですか?」
ルークが体をギクリと強張らす。
「そう言えばこのところ、ひどく大切そうに水晶のブレスレットを磨いていたとメイドが言っていましたね。後宮から帰ってきた日からと聞いていたので、皇太子妃の誰かからプレゼントされたのかと思っていましたが、その宦官に貰った訳ですね?」
有無を言わせぬ迫力がクオンにはある。
子供の頃から世話をされていたのでルークはクオンには頭が上がらない。
剣士としても優れており頭脳明晰で、唯一アンドュアイス以外でルークと対等に会話が出来た稀有な人物だ。
正直誤魔化せる気がしない。
「誰と会っていたんですか?と言うかその宦官は何者ですか?」
「サイヒは、新人の宦官だ。仕事は掃除を主にしていると言っていた。それ以外には好きな食べ物や魔術などが得意だと言う事しか知らない」
「…何で自分の部下を把握していないんですか。宦官とは言え皇太子の後宮で働いているなら殿下の部下でしょうが」
「いや、一緒に居るのが心地よくてつい聞き忘れた」
はぁ~、とクオンが大きなため息を吐く。
「殿下…ゲイだったのですか?」
「なっ、ちがっ!!」
「それなら全ての皇太子妃と白い結婚なのも理解できますね」
「だから違うと!」
「ではその宦官の事が好きなわけでは無いのですね?」
「………サイヒを、好き。私が?」
確かに一緒にいると居心地が良い。
とても好ましい性格だ。
食べてる姿を見るのが好きだ。
花が綻ぶ様な笑顔が好きだ。
落ち着いたアルトの声が好きだ。
香しい匂いが好きだ。
「私はサイヒを好きだったのか!?」
「無自覚だったのですか!?」」
驚くルークにクオンが驚いている。
「サイヒは男だぞ!?」
「だから殿下はゲイなのかと聞いたではないですか!!」
「私はゲイではない!」
「でもその宦官の事が好きなのでしょう!?」
「それは―――――…」
ルークが顔を真っ赤にさせて瞳を潤ませる。
「さすがに綺麗な顔をしていても、男が顔を赤らめるのを見て喜ぶ趣味は俺には無いですが?」
「私だってない!」
「その宦官が相手でも?」
赤くなって瞳を潤ませるサイヒ。
「それは…見てみたい……い、いや違う!本当に私はゲイではない!サイヒにしかこんな感情浮かんだ事はない!」
「ではその宦官に対してだけ好意を抱いていると」
「……そうかも知れない」
もうここまで来たら認めるしかなかった。
ルークはサイヒが好きである。
その心をルークは恋と名付けてしまった。
いや、気づいてしまった。
「私はサイヒが好きだったのか」
気づいてしまえば、何故サイヒに触れたくなるのか。
その唇に口付けたくなるのか理解できた。
だからと言ってサイヒにキスをされる夢を見てしまうとは。
「で、何処迄進んでいるのですかその宦官と?」
「変な聞き方をするな!サイヒとは友人として過ごしている。一緒に食堂で食事をしたり、手合わせをしたりするくらいだ」
「成程、宦官の名前はサイヒと言うのですか。それにしても殿下と友達として過ごすなど、下心を抱いていた可能性は無いんですか?
【空間転移】を使用できる魔術師が後宮で宦官をしているなんて意味が分かりません。それだけの力があったら何処の国の城でも雇って貰えるでしょうに。
何故宦官などしているのか?思惑があり殿下に近づこうとしたとしか考えられませんね」
「それは無い!」
「何故言い切れるのです?」
「サイヒは私を、皇太子とは知らないんだ」
「はぁ?」
「だから1個人として付き合っている」
「意味が分かりません!」
「意味が分からなくてもそうなのだから仕方ないだろう!」
「明日、俺も後宮に向かいます。紹介して下さいますよね、そのサイヒさんとやらを?」
剣呑な光を宿した目をしたクオンに脅されて、ルークは断れるだけの言葉を見つける事は出来なかった。
暖かな体温が密着した体から伝わる。
「私の処に帰ってこい、ルーク」
大好きな声が聞こえて、その声の持ち主である親友の柔らかな唇が己の唇に押し当てられた。
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「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
大声を叫んでルークは目を覚ました。
心臓がバクバクと大きな音を立てている。
顔どころか体中が熱くて真っ赤になる。
「殿下、大丈夫ですか!?」
「え、あ、クオンか」
自分は人魚に運河に沈められて、そこから記憶がない。
今居るのは自室のベッドの上だった。
「体が真っ赤です。熱があるのでしょうか?」
「いや、これは、違う…」
先程見た、夢を思い出して、更に赤くなる。
「やっぱり熱が!」
「だからこれは違うんだ……」
つい目が宙を動く。
ちょっと、いやかなり気まずい。
見てしまった夢が、あまりにも問題だと少しへこむ。
「私は運河に引き込まれたのでは?」
「それが【空間転移】で現れた謎の宦官が殿下をお助けされたと聞きました。殿下の危機に居合わせる事が出来なかったとは、俺とした者が何と言う不覚…」
「いや、それはクオンのせいでは無い。別の任務で隣国に行っていたのだろう?」
「それは、そうなのですが……」
「で、私を助けたのは宦官であったと?」
ルークの言葉にクオンの目が座る。
「そう宦官です。皇太子の後宮の宦官の衣装を纏った少年だったと伺っています。そう、皇・太・子・の・後・宮・の・宦・官ですよ、殿下!」
「うっ!」
クオンの目が怖い。
ルークの幼馴染であり現在では1番身近な側近で近衛兵でもある。
最近ではルークが昼間の一時、後宮に内密に入り浸っているために毎日撒かれているのでクオンは怒り心頭なのだ。
「その宦官に会いに後宮に行っていた訳ですね?」
「それは…その、」
「どんなに監視しても何時の間にか居なくなるのでおかしいと思っていましたが、その宦官はかなり魔術に長けているようですね?姿をくらます魔術でもかけて頂いているのですか?」
クオンがルークをジロジロと見る。
「魔術をかけられている様子はありませんね…となるとマジックアイテムですか?」
ルークが体をギクリと強張らす。
「そう言えばこのところ、ひどく大切そうに水晶のブレスレットを磨いていたとメイドが言っていましたね。後宮から帰ってきた日からと聞いていたので、皇太子妃の誰かからプレゼントされたのかと思っていましたが、その宦官に貰った訳ですね?」
有無を言わせぬ迫力がクオンにはある。
子供の頃から世話をされていたのでルークはクオンには頭が上がらない。
剣士としても優れており頭脳明晰で、唯一アンドュアイス以外でルークと対等に会話が出来た稀有な人物だ。
正直誤魔化せる気がしない。
「誰と会っていたんですか?と言うかその宦官は何者ですか?」
「サイヒは、新人の宦官だ。仕事は掃除を主にしていると言っていた。それ以外には好きな食べ物や魔術などが得意だと言う事しか知らない」
「…何で自分の部下を把握していないんですか。宦官とは言え皇太子の後宮で働いているなら殿下の部下でしょうが」
「いや、一緒に居るのが心地よくてつい聞き忘れた」
はぁ~、とクオンが大きなため息を吐く。
「殿下…ゲイだったのですか?」
「なっ、ちがっ!!」
「それなら全ての皇太子妃と白い結婚なのも理解できますね」
「だから違うと!」
「ではその宦官の事が好きなわけでは無いのですね?」
「………サイヒを、好き。私が?」
確かに一緒にいると居心地が良い。
とても好ましい性格だ。
食べてる姿を見るのが好きだ。
花が綻ぶ様な笑顔が好きだ。
落ち着いたアルトの声が好きだ。
香しい匂いが好きだ。
「私はサイヒを好きだったのか!?」
「無自覚だったのですか!?」」
驚くルークにクオンが驚いている。
「サイヒは男だぞ!?」
「だから殿下はゲイなのかと聞いたではないですか!!」
「私はゲイではない!」
「でもその宦官の事が好きなのでしょう!?」
「それは―――――…」
ルークが顔を真っ赤にさせて瞳を潤ませる。
「さすがに綺麗な顔をしていても、男が顔を赤らめるのを見て喜ぶ趣味は俺には無いですが?」
「私だってない!」
「その宦官が相手でも?」
赤くなって瞳を潤ませるサイヒ。
「それは…見てみたい……い、いや違う!本当に私はゲイではない!サイヒにしかこんな感情浮かんだ事はない!」
「ではその宦官に対してだけ好意を抱いていると」
「……そうかも知れない」
もうここまで来たら認めるしかなかった。
ルークはサイヒが好きである。
その心をルークは恋と名付けてしまった。
いや、気づいてしまった。
「私はサイヒが好きだったのか」
気づいてしまえば、何故サイヒに触れたくなるのか。
その唇に口付けたくなるのか理解できた。
だからと言ってサイヒにキスをされる夢を見てしまうとは。
「で、何処迄進んでいるのですかその宦官と?」
「変な聞き方をするな!サイヒとは友人として過ごしている。一緒に食堂で食事をしたり、手合わせをしたりするくらいだ」
「成程、宦官の名前はサイヒと言うのですか。それにしても殿下と友達として過ごすなど、下心を抱いていた可能性は無いんですか?
【空間転移】を使用できる魔術師が後宮で宦官をしているなんて意味が分かりません。それだけの力があったら何処の国の城でも雇って貰えるでしょうに。
何故宦官などしているのか?思惑があり殿下に近づこうとしたとしか考えられませんね」
「それは無い!」
「何故言い切れるのです?」
「サイヒは私を、皇太子とは知らないんだ」
「はぁ?」
「だから1個人として付き合っている」
「意味が分かりません!」
「意味が分からなくてもそうなのだから仕方ないだろう!」
「明日、俺も後宮に向かいます。紹介して下さいますよね、そのサイヒさんとやらを?」
剣呑な光を宿した目をしたクオンに脅されて、ルークは断れるだけの言葉を見つける事は出来なかった。
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