聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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【34話】

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 ゴーーーーンッ!!

 銅鑼が大きな音を立てる。
 闘技場には8人の予選を勝ち抜いた猛者たちが揃っていた。

 石でできた丸い舞台。
 かなりの大きさがある。
 この舞台から落ちたら失格となる。
 他には”ギブアップ”をする。
 戦闘不能になる。
 
 が、勝敗を決める。

 ルークは客席で舞台の上のサイヒを見ていた。

(やっぱりサイヒが1番格好良い)

 8人いるうちの6人は筋骨隆々だ。
 サイヒとクオンのみスラリとした立ち姿だ。
 クオンは顔の上部を隠す仮面を着けている。
 背が高く無駄な筋肉のないクオンは中々の存在感だ。
 むさ苦しい中に1人だけ女性の理想像のような体型のクオンは、既に女性客の1部の心を掴んでいる様だ。

 そしてサイヒ。
 8人の中に入ると随分と小柄に見える。
 身長は皆より20センチ以上低いし、体も細身だ。
 1人だけ少女が紛れているのかと思うほどだ。

 だがサイヒが女と疑うものはこの場に居なかった。

 空色の髪。
 翡翠色の瞳。
 性別を感じさせない整った顔。
 だがその眼差しは精悍さを備えている。

 ルークの周りの女性たちもサイヒを見て黄色い声をあげている。

(うんうん、やはり周囲から見てもサイヒが1番格好良いのだな!まぁサイヒは私の半身だから悪いが其方たちの声援には答えられぬが、その分私がサイヒの応援をするので黙っててくれても良いのだぞ?)

 自慢と少しの嫉妬。
 己の半身が人気があるのは嬉しいが、サイヒが誰かを気に入ってしまうのでは?と少しのネガティブ思考がルークにそんな事を思わせる。

『まずは第1試合!剣術の達人《コーン・ポンタージュ選手》と素手でトロールを倒した男《バンチョ・コンゴン選手》です!柔と剛、果たしてどちらが準決勝に進むのかぁーーーーーっ!!!!!』

 【音声拡大】の魔道具でレフリーが選手を紹介する。
 大きな声が会場中に響き、会場の熱気が高まる。
 男も女も大きな声で気に入った選手に声を送る。
 選手には聞き取れないだろうが、その声援は間違いなく選手の気分を向上させる。

「随分細い兄ちゃんだがそんな也で剣を振るえるのかい?今なら傷つかずに逃げれるぞ?」

「生憎、お前如きに負けるわけにはいかないのでな。俺はとある淑女に勝利を捧げると誓っている」

「おいおいおい、女に捧げる勝利てか?色ボケした野郎に負けるつもりはないぜぇ!愛しの女の前でボコボコにしてやるよ!!」

「弱い犬ほど良く吠える……」

 試合が始まる前から両者の間に火花が散っている。

『それでは他の選手は控え室兼閲覧席にお戻り下さい!それでは第1回戦初めっ!!』
 
 ゴーーーーン!!

 銅鑼が鳴った。
 
 クオンが剣を構える。
 剣と言っても武道大会は武器は木製しか認められていない。
 木剣を構えたクオンにバンチョが大きな図体でありながらも、かなりのズピードでクオンに迫りくる。
 クオンを掴みかかろうとした瞬間、クオンが視界から消えた。
 
 クオンの身はバンチョの頭上を飛び跳ねていた。

「「「「「おおーーーーーーっ!!」」」」」

 鮮やかなクオンの身のこなしに会場から声が上がる。

「逃げているだけじゃ俺は倒せんぞ!」

 バンチョが振り返り1歩進もうとして、

 ハラハラハラ…

 バンチョのピチピチのバトルスーツが切り裂かれ宙を舞っていた。

「んなぁぁぁぁぁっ!?」

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」

「「「「「いやぁーーーーーーっ!!」」」」」

 野太い男の声はそのクオンの剣術の凄まじさに興奮して大声をあげ、女性の心からの悲鳴が木霊した。

 これがイケメンの脱がされた姿なら女性の悲鳴は嬉しい叫びになっていたであろう。
 だが厳つい顔にスキンヘッド、体中筋肉に覆われた達磨のような、2メートル越えの大男の裸を見て喜ぶ淑女は存在しなかったようだ。

「まだやるか?」

「ぐぅぅぅぅぅぅぅ…俺の、負け、だ……」

 バンチョが頭まで真っ赤に染めてギブアップした。
 禿げ頭なのでまさに茹蛸だ。
 恥ずかしさと悔しさだろう。

『勝者!コーン・ポンタージュ選手ですっ!!!』

「「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」」」」」

 会場が震える様な大きな声が上がる。
 第1回戦からとんでもない実力者が出て来たのだ。
 会場も沸くと言うモノだろう。

 クオンは皇族が座っている特別な閲覧席に綺麗な礼をした。
 仮面越しだがその眼差しは間違いなくマロンに注がれていた。

(私の勝利はマロン妃に捧げます)

 口が弧を描いている。
 マスクを着けていても、その下の顔の造詣が整っているのだろうと言う事が伺える。

(コーン様、素敵です。でも怪我はしないでくださいね)

 マロンはクオンの礼が自分に向けられていることを知っているので、その頬をバラ色に染めていた。

「あら、あの剣士こちらに礼をするなんて私に気があるのかしら?」

「うふふ、この距離では胸の大きさは目立ちませんからぁ、カスタット様が言うようにし、そう言ったことがありえないとも言いかねませんわねぇ」

 バチィッ!

 カスタットとマカロの間に火花が散る。
 その熱気は武道会場にも負けていない。

「いつの世も女性は強い男性が好きですわね」

 クスクスと美しい銀髪にサファイアの瞳の麗しい婦人が笑う。

「ふん、あの程度私の若い時に比べればまだまだよ!」

 金髪にエメラルドの瞳の40代半ば位の野性的男が吐き捨てるように言った。

「えぇ、勿論1番お強いのは武王と呼ばれた貴方だと思っていますわ」

 成人した子供がいるとは思えない美しい皇妃はふんわりとした笑顔を浮かべる。
 その笑顔に帝国の支配者である皇帝は顔の上気を誤魔化すようにそっぽを向いた。

 :::

「お疲れ様、ではないな。見事な動きだったコーン」

「決勝でお前に当たるまでは体力を温存したかったからな。スピード勝負で決めさせて貰った。当然お前も決勝に上がるつもりだろうリリー?」

「ルークに優勝を捧げる約束をしたからな」

「俺も勝利はマロン妃に捧げると誓った。お前が相手でも負けんぞ」

 翡翠色の目と青緑の目の間で火花が散る。
 好敵手と書いてライバルと読む。
 男同士の熱い友情を今、クオンは感じていた。

「ところでコーン。ファミリーネームはもう少し何とかならなかったのか…?」

 コーン・ポンタージュ
 まんまスープである。

「ルーク様がコレで良いだろうと勝手に選手名を登録していた……」

 ちょっぴり胃がキリッとしたが、その程度の胃痛クオンには無いも同然だった。

「ルーク…名前つけるセンスは無かったのだな……」

 もしルークとの間に子供が出来た時は、自分が名付けようとサイヒは思った。
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