聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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【35話】

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『さぁ!第4試合です!この試合で準決勝に進む4名が決まります!この華奢な体の何処にそれ程の力が隠されているのか!?謎の美貌の冒険者《リリー・オブ・ザ・ヴァリー選手》VS帝国騎士団所属、”赤い流星”《シャムロ・スカーレット選手》です!美形同士のこの対決!果たして勝利をするのはどちらかぁっ!?それでは試合開始―ーーーっ!!!』

 ゴーーーーン!

 銅鑼が鳴る。

 先に飛び掛かってきたのはシャムロであった。
 赤い髪に茶色の垂れ目。
 鍛え抜かれた190センチを超える長身に、ワイルドな褐色の肌。
 確かにこれは女性の心を掴むのも頷ける。

 使っている武器はクオンと同じく木剣だが形が違う。
 シャムロの木剣はレイピアのような形だ。
 スピードのある”突き”に特化しているのだろう。
 クオンにも負けないスピードでシャムロはサイヒの間合いに入り剣を突き出す。

 その突きをサイヒは上半身を少し捻る最小限の動作で躱す。

 ドドドドドドドドドドドドド!!

 シャムロが何連もの突きを繰り出す。
 しかしサイヒは上半身の僅かな動きの身で躱す。

「くっ、舐めるな餓鬼がぁっ!」

 ドドド!

 突きの範囲が足まで広がる。
 それをサイヒは変わらず足捌きだけで全て避ける。

「「「「シャムロ様ぁー頑張ってぇーーー♡」」」」

「「「「リリー君可愛いー!頑張れーーー♡」」」」

 女性の黄色い歓声が会場に響く。

 男らしいフェロモンをまき散らしているシャムロ。
 中性的ながら精悍な相貌を持つサイヒ。

 女性は2人の外見に興味津々だ。
 
 しかしオヤジ共は違った。

 最初は色男同士の対決をつまらなさそうに見ていた。
 しかしシャムロの突き。
 サイヒの体捌きを見ているとその戦闘の凄まじさが次第に伝わってくる。

『《シャムロ選手》凄まじい突き!赤い流星の名前は伊達ではありません!《リリー選手》は躱すので精一杯か!?1撃も反撃する事が出来ない!!』

(あぁサイヒ、頑張れ頑張れ!!)

 ルークはサイヒが一方的に攻撃されているのを見ていられずに目を瞑りそうになる。
 だがサイヒが勝利をルークに捧ぐと言ったのだ。
 サイヒは絶対に勝つ。
 そう信じて指を絡め祈りながらサイヒの闘いを見守る。

「あのレフリー分かってないな…」

 ルークの前に座るガタイの良い渋いオヤジが唸るように声を出した。

「どういう事ですかギルマス?」

「あのリリーとか言う餓鬼、動けないんじゃねぇ。動く必要性が無いから”動いていない”んだ」

「そう言えばあの位置を1歩も動いていませんね!」

「あぁあの餓鬼、ギルドで見た事ねぇが実力はS級並みだ。2つ名を持とうが一騎士程度が相手務まるような実力者じゃねぇぞ」

「元S級冒険者のギルドマスターがそこまで評価するなんて!」

「末恐ろしい餓鬼だな、綺麗な面で幾らでも金稼げるだろうに。わざわざ冒険者なんてするなんて相当なバトルジャンキーか!?」

「いや、あれは冒険者を装っているんだろう。あんなお綺麗な餓鬼の冒険者の噂なんて聞いたことも無いからな」

「でも付けてる防具、結構くたびれてますよ?」

「冒険者に見えるよう、そう装って来たんだろうな。あの実力、ぜひうちのギルドで登録して欲しいもんだ」

(凄いサイヒ!帝国のギルドマスターから絶賛されてる!あぁあの格好良いサイヒが私の半身なのだな。相手の男も中々整った顔だがサイヒには足元にも及ばん!戦闘の実力だってサイヒの方がずっと上だ!周りの女も皆サイヒに魅せられている。でもサイヒは私のものなんだぞ!サイヒには私の元で永久就職して貰うんだからな!お前たちにはあげんぞ!!)

 ギルドマスターが目の前にいたのは偶々だったが、ギルドマスターの解説のお陰でルークの周囲はサイヒの凄さが理解できていた。
 そしてその事に注意して見てみると、確かにサイヒは1歩も動いていない。

 はぁはぁはぁ

 シャムロが肩で息をする。
 突きも体力を使うのだ。
 剣を持った方の腕の筋肉はもうパンパンだろう。
 流石にシャムロもこれだけすれば実力差が分かる。

「はぁ、何者だ君は?もう実力差は分かった。ギブアップは騎士としてしたくない。君から引導を渡してくれないだろうか?」

「あぁ、そろそろ決着をつけよう。アンタの剣技は見事だった。受け身は取れよ?アンタに相応しい引導を渡してやる」

 サイヒが肩で息をするシャムロの方に、初めてサイヒから歩み寄る。
 
 サイヒがシャムアの肩を片手で掴む。
 そしてノーモーションでシャムアの体を、片手で持ち上げた。

「ラァッ!」

 そのまま振りかぶりシャムロの体を、舞台の中央から場外へと投げつけた。

 ドガッ!

 ボゴォッ!

「グッ!!」

 投げつけられたシャムロの体を中心に客席側の壁にクレーターが出来た。

『な、何と言う膂力ぅっ!《シャムロ選手》の攻撃を躱し切った反射神経と動体視力!自分よりも1周り以上も大きな体を片手で持ち上げそのまま場外迄投げつける力!恐るべき少年です!一体何者なのか!?謎の美少年冒険者《リリー・オブ・ザ・ヴァリー選手》の勝利です!!!』

「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」

「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♡♡♡」」」」」」」

 男の雄叫びと女の黄色い嬌声が会場に響いた。
 間違いなく今大会1番の好戦であった。

 サイヒがルークを見つめ拳をあげる。

「キャァ―――私によねアレ!?」

「アンタみたいなブスの訳ないじゃない!私に決まってるわ♡」

「貴方みたいなおばさんがリリー君に見初められる訳ないじゃない!アレは私によ!」

(はぁぁぁぁっ…サイヒ、格好良い♡魔の森で戦っているのを見ていたから実力は知っていたが、人と対戦するとあれほど美しく立ち回れるなんて…まるで闘いの神がサイヒを祝福している様だ……あぁ何て素晴らしい私の半身…その身も心も私だけのモノにしてしまいたい、そして私の全てを差し出したいと思ってしまうではないか…何と罪作りな♡♡♡)

 もうルークの顔はうっとりと蕩けまくっている。
 エメラルドの瞳は潤みキラキラ輝き。
 真っ白な肌理細やかな頬をバラ色に染めるルークは男女問わず魅了する色香があった。
 サイヒの【認識阻害】が働いてなかったら客席でも一波乱が起きていただろう。

(約束通り勝利を私に捧げてくれた。ご褒美は何が良いのだろう?本当は私自身をご褒美、とかやりたいのだが…流石にまだソレは出来そうにないし。どうするか誰かに相談してみようか?)

 ルークはサイヒの優勝を疑っていない。
 なのでサイヒが喜びそうなご褒美を必死に考えていた。
 主にサイヒの好みそうな男物のアイテムを。

 この直ぐ後、サイヒに送るのは男物のアイテムではないとマロンから驚愕の事実を伝えられる事を、この時はルークは予想もしていなかった。
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