聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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【50話】

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※女性特有のアレの話が書いてあります。
 生々しくはしていないつもりですが、生理的に受け付けない方は読まないことをお勧めします。

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 本日サイヒは女装をして街に出ていた。
 サイヒはまごうこと無き女のなので女装は違う気がするが、ソレがしっくり当て嵌まってしまうのだからそう表現するしかない。

 普段ならマロンに頼む物資を買い付けに来たのだ。
 マロンは今忙しい。
 何でも朝の早くから王宮のパティシエに技術を学びに行っているらしい。
 今でも十分美味しい菓子に預かれているのだが。
 だが本人がやる気なら止めるのは無粋なものだ。

 将来クオンにでも手の凝った菓子を振舞ってやりたいのかも知れない。

 サイヒはそう思いマロンのパティシエ修業を温かい目で見守っていた。
 まさか自分とルークの結婚式にウェディングケーキを作るためにパティシエ修業しているとは微塵も気が付いていなかった。

 流れ弾的感覚でクオンが哀れにも思われる。
 最終的にはマロンの菓子にあり付けるのだから幸せ者ではあるのだろうが…。

 まぁそんな訳でサイヒは街に女でないと買えない物を買い出しに来ていた。
 女でないと買えない物。
 月の物の消耗品である。

 サイヒだって年頃の少女なのだから月の物くらいはあるのだ。

「それにしてもスカートはスースーして気持ちが悪い…これでは蹴り技も繰り出せないではないか……」

 普通の一般女子は蹴り技は繰り出さない。
 やはりサイヒは一般女子とは価値観がかけ離れているらしい。

 本日のサイヒの格好は町娘が着る様なシンプルなワンピースだ。
 勿論【認識阻害】はかけてある。
 色が変わったところで【認識阻害】をかけねばサイヒの存在感は圧倒的すぎる。
 髪の色は黒のまま。
 瞳の色だけ翠に変えている。

 瞳の色が800年も前の《癒しの聖女》の色であることはサイヒも流石に知らない。

 サイヒが知らないだけで、その血はかなりのサラブレットである。
 様々な血を隔世遺伝で受け継いだ。
 1番顕著なのは青銀色の瞳だろう。
 1000年前異世界から召喚されたという”海の名の大聖女”の伴侶の瞳の色らしい。
 そうして様々な隔世遺伝で受け継いだ力、その結果が”神に特別愛されている”と言われるほどの能力の数々だ。
 ちなみに隔世遺伝なので姉のマーガレットは一般的な能力の持ち主だ。
 父や母も同じくである。

 閑話休題

 そしてサイヒは薬局で目当ての物を買った。
 一般的な女は布製の物を使っているが、1度使い捨てを使ってしまえば、その手軽さから布製の物に戻そうとは思わない。

 ”ナプキン”と呼ばれている使い捨てのコレは大聖女が発明したものだ。
 正確には異世界の文化である。
 現在はカカン以外ではスクワラル商会が商品を手掛けている。
 なのでサイヒにとってはマロンに性別が知られるまでは、後宮では布製の物を使っていた。
 
 初潮の時から”ナプキン”を使っていた身としては、これはかなりの面倒臭いものだった。
 マロンに性別が知られてからはマロンに譲って貰っていたが。
 忙しいマロンにそんな事で手を煩わせるのも悪い。

 そう思いサイヒは女装して街に繰り出したのである。

 :::

 目当ての物を買えてサイヒはホクホクである。
 宦官の仕事は何時もの如く【式神】が行っているし、ルークが来るまでにはまだ少し時間がある。
 サイヒが街を探索してみようと思ったのも当然である。

 何せガフティラベル帝国に来てから街の探索は”建国祭”での1度きりだ。

 サイヒは好奇心の促すままにフラフラ街を歩き回った。
 そうして興味本位で足を運んだ裏通りで、見つけてはいけないモノを見つけてしまった。

 地面に腰を落とし壁にもたれ掛かる男。
 身なりは良く、このままでは宜しくない思想をお持ちの方々に身包みを剥がされるのも時間の問題だろう。
 具合が悪いのかぐったりしている。

 何だかんだとお人よしの気質があるサイヒは見過ごすと言う選択肢は浮かばなかった。

「アンタ、大丈夫か?」

 声をかける。
 男が俯いていた顔を上げた。
 同時にフードがハラリと落ちる。

 現れたのは金髪碧眼の美しくも凛々しい顔の男。

(何でこんなトコに居るんだアンドュアイス!?)

 流石に王位継承権第2位の男が裏通りで地面と仲良くしていたら驚こうものである。

「私に触るな女っ!」

「うっさいっ!!」

 ゴスッ!

 サイヒの拳がアンドュアイスの脳天に落ちた。

「!?!?!?」

 頭を押さえ驚いた顔でアンドュアイスはサイヒを見上げる。
 驚いた顔が少しルークと似ている気がして、サイヒは余計に見捨てられなくなってしまった。
 色々拗れているとは言え、やはりルークとアンドュアイスの血は繫がっているのである。

「アルコール臭い、酒の飲み過ぎか。とっとと治すからアンタは城に帰れ」

 【解毒】

 正確には酒は毒でないがこの法術で抜けるのだから問題は無いだろう。
 酔い過ぎて土色だったアンドュアイスの顔色が良くなる。

「ほら、治したぞ。とっとと消えろ」

「褒美は欲しくないのか?」

「別に金に困っていない」

「私に抱かれたいとは思わないのか?」

「本命以外には欲情せん性質だ」

「私を美しいとは思わないのか?」

「お綺麗な顔をしていると思うが、それが何か問題でもあるのか?」

 ポロポロポロ

 アンドュアイスの碧の瞳から涙が流れた。
 その表情は唖然としていて、自分でも泣いている事に気付いていない様だった。

(血筋か?何処となくルークの泣き方に似ている気がする…放っておけんな流石に……)

「!?」

 サイヒはアンドュアイスの体を抱きしめ、空いている手でアンドュアイスの頭を撫でる。

「何か良くは分からないが、アンタがそんなに泣くほどの事があったのは可哀想と思う。泣く子供は心音を聞かせて撫でるに限る」

「気持ち悪く…ない……女の体なのに?」

「何だアンタ女が嫌いなのか?」

「嫌いだ女など!気持ち悪い!触れられたくない!甘ったるい声も匂いも全て嫌いだ!!」

 女を嫌いと言いながら、アンドュアイスは女のサイヒに抱き着いてポロポロと涙を流す。
 矛盾している光景であるが、サイヒはアンドュアイスの好きにさせていた。

「そうか、辛かったのだな…」

「辛かった…逃げ出したかった……でも許されなかった……」

「頑張ったのだな。偉かったな」

「ふっ…うっぅ………」

 その後、アンドュアイスが泣き止む迄10分、サイヒはアンドュアイスを抱きしめてやっていた。

「落ち着いたようだな。それでは私はもう行く。時間が押しているんでいるんでな」

「其方、名前は何と言うのだ?また、会えるのか!?」

「フワーラだ。会えるかどうかは時の運だな」

 もう大丈夫だろうとサイヒは判断し、アンドュアイスを置いて後宮へ踵を返した。
 急がなければルークが来る時間になってしまう。

(…これは浮気に入るのだろうか?少しばかり情が移ってしまったぞ……私はアホ犬系にも弱いが、健気な大型犬にも弱いのだよなぁ……)

 全部ルークに話すべきか、クオンに相談してから話すべきかサイヒは悩んだ。
 サイヒなりにクオンの事を信頼しているのである。
 クオンの胃の心配は一切しないスタンスだが。

 取り合えず帰ったら即着替えよう。
 アンドュアイスの涙の染み込んだ服でルークに会うのは些か気持ちが咎めた。

「さて、困ったものだな」

 全く困っていない表情と声でサイヒはそう言い放つのだった。
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