聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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【78話】

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「好きにかけてくれ」

 サイヒの私室に案内されたルークたちは、帝国の王族の部屋でも見れないような贅沢な調度品に驚きながらも、豪華なソファに腰かけた。
 ふかり、と柔らかく腰が沈む。

「まぁ何て柔らかい」

 マロンが嬉しそうに声をあげた。
 そんな婚約者の可愛らしい様子をクオンは微笑まし気に見つめる。

 ”俺の婚約者最高!!”

 ドヤ顔がソレを物語っている。
 マロンもマロンで、後宮居た時より楽しそうである。
 後宮を潰して、好きな者へ嫁がせて正解だったと言う訳だ。
 まだ嫁いではいないけど。

「紅茶だ。甘さとミルクは各自調整してくれ」

「サイヒが淹れたのか!?」

 ルークが驚きの声を出す。

「うん、まぁ、淹れたと言うのか…この場合?」

 よく分からない返事をサイヒが返す。

「頂きますねお兄様」

「では俺も」

「私も頂こう」

 3人が紅茶に口を付ける。
 1口含み、飲み下し。

「「「美味しい!!」」」

 声がハモった。

「あ~やはり美味しいか。適度な加減が出来ない物だな…」

「お兄様、お茶を淹れるのお上手だったのですね!」

 マロンが嬉しそうにはしゃぐ。
 その姿はとても可愛らしいのだが。

「いや、私の淹れる紅茶はマロンのものより劣るぞ」

「そんなことありません!この紅茶、とっても美味しいですわ!」

「いや、事実だ。この紅茶は神力で淹れたものだ」

「まぁ、そんな器用な事が神様になったらできますの?」

「いや、多分私だけだろうなぁ…」

 サイヒが遠い目をする。
 珍しく疲れて見える。
 公務の際でもこれ程の疲れた表情は見せなかったと言うのに。

「何か訳アリなのか?」

 流石はクオンである。
 質問のタイミングがばっちりだ。

「あぁ、まさか私も【全能神】の位が襲名性だとは思わなかったのだ…しかも能力も襲名性……今の私は【全知全能】の能力を持っている………」

「それは又、バケモノっぷりが上がったな……」

 クオンも若干憐れみを込めた視線でサイヒを見た。

「その襲名性のせいでサイヒが全能神をしているのか?」

「その通りだルーク。まさか全能神を倒したら力と格の全てがコチラに流れ込んでくるとは思わなかった…【全知全能】の能力がまさか紅茶に迄反映されるとは思わなかったぞ………」

「何と言うか…ご苦労だな……」

「そう、ご苦労なんだよ、私は神になるつもりなど無いのに!この襲名性のせいで地上に戻れない。試しに誰かに譲渡しようとしたがそれも不可能でな。実力で倒されないと譲渡できないらしい。
しかも能力を譲渡した後は、元持っていた能力の全ても次の全能神に受け継がれるらしい。」

「私はサイヒが能力など無くとも愛しているぞ!」

「有難うルーク。そう言ってくれると信じていたよ。なので私も適当に倒されて力を譲渡しようとしたのだが、戦闘が始まると手加減が出来ないよう設定されているのだ。そのせいで地上に帰る事も出来ない。
全能神だからと言って地上に行けない訳では無いようなのだが、ちゃんと神力を込めた書類上の襲名も必要でな、そのせいで一旦地上に帰る、と言う事も出来なかった訳だ」

「それが今回終わらせた事務なのか?」

「あぁ、これで漸く地上も行き来出来る。とは言っても仕事を放りだす訳にもいかないので生活の大半は天界で行う事になるだろうがな……」

「では地上で一緒に暮らす事は出来ないと…?」

「すまないルーク」

「いや、なら私が天界で住む!サイヒ、私をお前の横に置いてくれないか?それとも前の全能神を倒したから私への愛は無くなったか……?」

 ルークのエメラルドの瞳に恐れの色が宿る。
 そんな色を宿してもルークの瞳は綺麗だとサイヒは思った。
 こんなにベタ惚れなのに未だ気付いて貰えないとは…。

「神が弄ったのは遺伝子だけだ。確かに肉体的相性の良さで惹かれ合うが、心は別だ。私はちゃんと、私の意思でお前を愛しているよルーク」

「サイヒ……」

 蕩ける様な笑顔をルークが浮かべる。
 クオンとマロンは視線をさっと2人から離した。

「本当に愛らしい。あんな口付けだけでは全然物足りない…お前の全てが欲しいよルーク」

「私も…サイヒでいっぱいにして欲しい……」

 いや、照れるな魔王。
 クオンは思ったが言わなかった。
 まことに持って優秀な部下である。

 若干セリフが男女逆転の様な気もするが、これ以上胃を痛めたくないクオンは部屋を出る事を選択した。

「サイヒ、私も部屋を当てがって貰って良いか?」

「マロンと同室で良いか?」

「な、おまっ!」

「良いですわお兄様♡」

「マロン様!」

「これ以上、子ども扱いはさせませんわクオン様!」

 赤い顔をしてマロンに睨まれればクオンに勝ち目はなかった。

「では寝室を挟んで両隣の部屋を2人の部屋とする。寝室には部屋から入れるようになっているから、自室で寝るも、共同のベッドで寝るも2人の好きにしてくれ。
それとマロン、クオンはお前を大事にしているから手を出さないだけだ。少しは勘弁してやれ。まだまだ時間はあるのだから、急いで大人にならなくても良い」

「むぅ、お兄様のイジワル……」

 クスクスとサイヒが笑う。
 その笑顔を見てルークも幸せそうに微笑む。
 可愛らしいマロンとクオンのやり取りを見て、部屋の中が優しい温かさで包まれる。

 ようやく、皆の元に日常が帰って来たのであった。
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