聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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そして全能神は愉快犯となった

【156話】

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「ユラさんの初恋って何時だったんですか?」

 優しい笑顔でドラジュが聞いた。
 現在全能神家族はお茶の時間である。
 此処にはサイヒもルークもクオンもマロンも居る。
 人前で尋ねる事で逃げ場をなくす。
 ドラジュはやはり腹黒だ。

「え、え、え…これ言わないといけない流れ!?」

「まぁ確かに気にはなりますね。ユラさん理想高すぎて今まで恋愛成就しなかった気がしますから」

 サイヒの言う事は的を得ていた。
 そうユラはお付き合いを前提にお友達になっても、お付き合いに発展しない。
 余程理想が高いのではないか?
 そう思うのも仕方なかった。

 まぁウチの息子はその理想を遥かに上まっているんですけど?
 サイヒは心の中で、ユラの初恋の君にマウンティングをかけた。

「本当に、普通の初恋よ?特に理想高くないからね!」

「私も気になりますわ。ユラ様ほど魅力的な方が今までお相手が居なかったことがずっと不思議でしたの」

「マロンちゃんも敵認定」

「あらあら、敵認定されてしましました」

 ニコニコ笑顔でかわすマロンは流石は元皇太子妃。
 話を誘導するのもスルーするのも一流の腕だ。
 そのニコニコ笑顔に何か圧を感じる。
 ”お兄様の問いに答えない訳ないですわよね?”が笑顔の裏側に透けて見える。
 マロンは何処までもお兄様至上主義なのである。

 ちなみに扉の前に立っているクオンは胃をキリキリさせている。
 愛しい妻のお兄様至上主義、辛い…。

「え~と、いとこなのよ相手。1歳年上の、優しくて強くて頭が良くて、すっごく身内に甘くて恰好良い人だったの」

「成程、初恋がそれでは理想が高くなるのは仕方ないですね」

 サイヒが答えた。
 ドラジュの眉間には皺が寄っている。
 優しげな美しい顔が台無しであるが、ドラジュの執着心は凄まじい。
 今は居ない初恋の君にすら嫉妬全開なのである。

「でもある日兄妹で消えちゃったの」

「家出ですか、神隠しですか?」

「多分神隠しの方。学校の帰宅途中に居なくなったから…お兄さんの方の鞄が道端に落ちてたから計画的に居なくなったわけでは無いと思うの」

「犯罪の線は?」

「8年調べつくして犯人らしき人物も居なかったし、恨みを買うような人達じゃなかったから。結局神隠しで話が付いたの。その頃、数年前から神隠しが各所で起きてたりしたから」

「そう、ですか……」

 ドラジュの顔が曇る。
 まだユラがその初恋の君に心があるのではないかと考えたのだ。
 だからと言ってユラを諦めるなど絶対にないが。
 ようやく手に入れたユラを微塵たりとも他の輩に心をやるつもりはない。

「深海君と鳴海ちゃん、何処に行っちゃったのかなぁ…どこかで無事に居ててくれたなら、私の心配も杞憂に終わるのになぁ」

 叶わなかった初恋は心に残る。
 告白すらしていない秘めた淡い恋心は、相手が姿を消したことで余計に記憶に残るのだ。

「フカミにナルミ…もしかして苗字はサザナミですか!?」

「え、何でサイヒちゃんが知ってるの?」

「マジか…その2人、千年前にこの世界に召喚されてますよ………」

「えええええええ、嘘、でしょ?」

「妹の方がカカンの大聖女、私の祖先ですが過去からの召喚者です。神話時代の知識をフル活用して滅びそうだった国を立て直した上に、魔物から国を守る大聖結界の発案者です」

「嘘ぉ、深海君と鳴海ちゃんがこの世界に存在してたなんて……」

「と言うか、ユラさんが好きだったのはフカミの方なんですよね?ナルミではなく」

「うん、深海君、だけど?」

 サイヒははぁ、と息を吐き出した。

「それ妹の大聖女の方じゃないですか」

「「「「はい?」」」」

 ルーク、ドラジュ、クオン、マロンの声がはもった。

「女の子だったけどすっごい恰好良かったのよ!」

「良かったなドラジュ、初恋が女ならノーカンだろう?」

「女の人でも僕にとっては悔しいですよ。ところでユラさん、その大聖女と僕は似ているんですか?」

「深海君とドラジュ君?全然似てないわよ?ドラジュ君の方が優しい顔だし、逞しい体してる、し…あ、後半のは忘れて!」

「そうですか、似てないですか。で、僕の方が逞しい体してるんですね」

 一気にドラジュの機嫌が良くなった。
 先祖に似ているから好きになって貰ったでは意味が無いのだ。
 そしてユラはドラジュの方が優しい顔で逞しい体と言った。
 自分の姿はユラにはそれなりに魅力的に映っているようだと安心したのだ。

「こんな偶然あるんですねぇ…」

 マロンが驚きで開いた口を手で隠す。
 呆けた顔を晒さないあたり、マロンはこの場で1番淑やかな淑女であろう。

「ユラさん、本当にウチの血筋が好きなんですねぇ」

 サイヒがクツクツと喉を震わせて笑う。
 その言葉にユラは真っ赤になった。

「血筋だからドラジュ君の事好きになった訳じゃないからね………」

「ユラさん!!」

 2人掛けのソファで隣に座っていたユラの体を己に引き寄せて、ドラジュはユラの髪に口づけを落とした。

「ななななななあなんあなsんあななああっぁっっ!!」

「ドラジュ、嬉しいのは分かったが止めてやれ。ユラさんは初心なんだぞ?あまり辱めてやるな」

「嬉しくてつい」

「サイヒ、私もしたい」

「ルークは後でたっぷり可愛がってやるから今は我慢な」

「後でたっぷり………」

 頬を染めるルークは乙女そのものだ。
 とてもではないが2児の父とは思えない。
 まぁ今更なのだが。
 この両親にしてこの子アリ、だ。

 これからしばらくドラジュの激甘なアプローチが続くだろう。

 クオンは痛い胃をさすりながら、それでも主の息子が幸せになってくれた事を良かったと思うのであった。
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