聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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そして全能神は愉快犯となった

【182話】

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 サイヒとルークの共同の寝室に近づく者は居ない。
 2人して2人だけのプライベート空間を侵されることを厭うからだ。
 なので専ら掃除はサイヒの式神がしている。

 この寝室が使われなくなって半年。
 サイヒも寝室の管理をしていない。
 使われないものまで管理する暇はない。
 意外と全能神は忙しいのだ。

 それは良い訳だが。

 サイヒがその気になれば全世界の人間の考えを同時に読み解いて天啓を授ける事だって出来る。
 化け物じみた、その能力。
 全能神は化け物でなければ務まらないのだ。
 それでもサイヒはまだ能力を使い切るに至らない。
 平然とお茶を飲みながらソレをやって見せるだろう。
 もうマルチタスクの域を超えている。
 スーパーコンピューターが内蔵されていてももう少し可愛げがあるだろう。

 なので寝室の管理はルークがしている。
 秘密裏に。

 ルークが作ったサイヒの香りのする巣だ。
 誰にも入られたくない。
 そしてルークはサイヒが巣に気付いたことに気付いていない。
 今日も寝るためにルークは寝室の扉を開いた。

「良い晩だな、ルーク」

 寝室のバルコニー。
 満月に照らされて酒を煽るサイヒが居た。
 柔らかな風になびく夜の闇と同化しそうな黒髪が綺麗だった。
 月の光の下で白い皮膚が発光しているように見えた。
 月そのものの淡い光のように。
 何よりも青銀の瞳が美しかった。
 ルークが何よりも好きな青銀の瞳。

「何で、サイヒがここに………?」

「ここは私の寝室でもある。居てもおかしくは無かろう?」

「そう、だが……」

 チラリ、とルークはベッドを見た。
 ルークの作った巣は撤去されていない。
 コレを見てサイヒはどう思っただろうか?
 ルークはサイヒに捨てられるのではと言う恐怖を感じた。

「何故、そのようなモノを作ったんだ?」

「サイヒの香りが無いと、眠れないのだ」

「お前にはもう私の香りも体温も必要ないだろう?」

「何故サイヒがソレを決める?決めるのは私だ!」

 ルークのエメラルドの瞳に凍り付きそうな蒼い炎が宿る。
 忘れてはいけない、ルークは魔王だ。
 天界でサイヒに次いで力ある者なのだ。

「クオンに聞いた」

「あぁ、そうか。では私がどう言う理由でソレを行ったか分かったろう?」

「分からない」

「クオンは喋ったのだろう?」

「あぁ、クオンは喋ってくれた。サイヒに全て聞けと」

「私が何をしたのか、喋らなかったのか!?」

「心友との約束で話す訳にはいかないと。あのクオンが、だぞ?お前たちの間にある特別なつながりに少し嫉妬する」

「嫉妬などしなくても、お前と私は誰よりも強い縁で繋がっているではないか?運命共同体では足りんか?」

「足りない、全然足りないよサイヒ。お前が欲しい。お前の何もかもが欲しい。お前以外いらない。お前が居てくれればそれでいい。だから、運命の番など探さずに私を選んでくれサイヒ。私が選ぶのもサイヒ、お前だ」

 サイヒの青銀の瞳が見開かれた。
 手からスルリとグラスが落ちて衝突する寸前で、ルークが魔力でソレを止めた。
 グラスは静かに床に鎮座する。
 中身の液体もタプン、と音を立ててグラスの中に注がれていった。

「何故?私なんだルーク!?私との間に作られたのは歪な関係だ!お前には、幸せになる権利がある!私でなくとも、お前にはお前の運命がある筈だ!
その為に私は、お前が私に向けてしまった歪な恋心を奪ったと言うのに………」

 今度はルークの目が見開かれる番だった。

「私の恋心を奪った?」

「あぁ、そして無意識で魅了される遺伝子情報も感じ取れなくした。今の私はお前にとっては魅力のない女に映っているはずだ」

「お前は誰よりも魅力的だよサイヒ」

「何で………?」

「奪った恋心、返さなくていい。また宿った恋心を奪っても良い。だが、私はお前に何度でも恋をする。愛する。お前以外いらない。遺伝子なんて関係ない。運命なんて関係ない。何度でも…何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でもお前に恋をする。
その度お前は私の恋心を奪うが良い!そして私の恋心でいっぱいになった私の流す涙の海で一生溺れ続けろ!他の誰も見る暇がないくらいに、何度でも私はお前に恋して涙を流すのだから!」

「私ではお前を幸せに出来ない………」

「私が勝手にお前の隣で幸せになるから良い」

「お前をまた泣かせてしまう」

「大丈夫だ、それはきっと嬉し泣きの涙だ」

「私はお前の笑顔を奪わないだろうか?」

「私の笑顔を奪うのがお前なら、私を笑顔にするのもお前だと覚えてくれ」

 青銀とエメラルドが混じる。

「ルーク………」

「何?」

「愛している」

「あぁ、私もだ」

 ブワリ、とサイヒからエメラルド色の光の渦が現れてソレがルークの中に消えていった。
 そしてルークの瞳からポロポロ涙が流れる。

「あぁ、そうだ…私はこのようにお前を愛でていた。20年と半年間の齟齬が酷いな、昔の私を今の私が嫉妬して、半年間の私を昔の私が嫉妬している。馴染むまで時間がかかりそうだ。
だが帰ってきた。私の恋心、思い出、サイヒとの全てが。あぁ、全てが愛おしくて仕方ない。お前がやらかした酷い事も、私の為だと分かっているから、それすら愛おしくて仕方がない。
言った通りだろう?お前の隣で流す涙は何時だって嬉し涙だ」

 ルークがサイヒを腕の中に閉じ込める。
 サイヒも抵抗しなかった。

「また、私の恋心を奪っても良いのだぞ?何度でも私はお前に恋をするのだから」

 半年ぶりのサイヒとの口付けは、今までで1番心地良いものだった。
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