聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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2章

【プロローグ ???Side】

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 ソレは怒っていた。
 前全能神が破れ、今代の全能神に変わってから世界に混沌が薄れたのだ。
 サイヒは全能神としてちゃんと仕事しているのである。
 だがソレを面白くないと思う輩もいる。

 ソレは1度、世界に混沌の種を撒くべく地上に関与したことがある。

 魔族と人間を争わせたのだ。
 だがそれも全能神の加護と寵愛を受けた『雷帝』なるモノを中心に阻まれた。
 現在、魔族が人間に牙を剝くことは無い。
 知能の低い魔物は別であるが、人間と対等にやり合える魔族はすっかり人間の支配する大陸に干渉しなくなった。

 それから20年以上も混沌の薄れていく統治が全能神によって行われている。

 何と腸が煮えくり返そうな女であるか。
 力を持たないなら自分のモノにしてしまいたいくらいの美女であるのだ全能神は。
 だがソレがいくら膨大な力を持とうといえ、全能神たるサイヒには勝てない。
 比べるのもはばかれる位、今代の全能神の力は強い。
 前、全能神はとんでもない化け物を作りあげたものだ。
 天界と地上を治めるだけで満足していれば良いものを、余計なことをしてからに。
 苛立ちがソレを苛む。

 全能神に対抗する術はない。

 だがその周りはどうだ?
 全能神は身内に甘い事で有名だ。
 そのお気に入りたちは、ソレでも操れるほどの力しか持ち合わせていない。
 人間にしては優秀だが、ソレの足元にも及ばない力しかない。
 恐竜と蟻を比べる様なものだ。
 ソレは、全能神ほどではないが膨大な力を持っているのだ。

 寵愛を与える人間すべてを滅ぼしてやろうか?
 封印された身でもそれくらいは行える。 
 しかし2回目は封印では済まないだろう。
 全能神の寵愛を与えるものを殺して、それだけで終わりだ。
 ソレの命を葬り去って、それで終わるのだ。
 全能神は傷つくだろうが、それで終わりなのだ。

 それはソレの求める結末と違う。

 ソレは混沌が欲しいのだ。
 黒も白も闇も光もぐちゃぐちゃに混ぜ合わせた、血で血を見る生き物たちの命を懸けた醜い姿を見るのが好きなのだ。
 そしてその人間や他の生き物たちの憎悪の感情は、ソレにとって甘美なる餌となる。
 ソレは負の感情を喰らうのだ。
 あぁ、もう20年以上喰らっていない。
 負の感情が喰らいたい。
 腹が朽ちてしかたない。
 誰か美味なる汚い想いを喰らわせてくれ。

 もしその穢れた感情が全能神のモノなら、それはどれ程美味であろうか?

 ソレは思った。
 あの忌々しい全能神の、憎悪の感情を、悲しみの感情を、穢れた感情を喰らいたい。
 生まれて来てから食べた全てのものよりそれは甘美な味をしているだろう。

 幸い全能神は、己が幾ら強くても愛する者を庇護する余り弱点は多い。
 そして唯一無二の弱点は伴侶の魔王であろう。
 神の身で魔王を伴侶にした全能神。
 それにも腹が立つ。
 本当ならこの魔王によって、地上に混沌が齎されているはずだったのだ。

 ソレの楽しみを悉く奪う全能神。

 その全能神が伴侶の魔王を奪われれば、どんな反応をするであろうか?

 ソレはクツクツと笑う。

 ソレは偉大な力を宿しているのだ。
 封印されていても、他者に干渉できるくらいには。
 そして、ソレの手は魔界にも及ぶ。

 魔界には主を奪われて全能神を憎んでいる悪魔も少なくない。
 少しばかり傾倒している、悪魔としてどうかと言う半端な輩も存在するが。
 だが居る筈だ。
 全能神を憎み、力を持つ存在が。
 それを見つけ出そう。 
 そして力を与えよう。
 全能神から魔王を奪ってしまおう。

 それがいい。
 そうしよう。

 ソレは己の思案に満足し、暗闇の中でケタケタと狂ったように笑った。
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