男として育てられた公爵家の令嬢は聖女の侍女として第2の人生を歩み始めましたー友人経由で何故か帝国の王子にアプローチされておりますー

高井繭来

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本編で語られなかったイチャラブ事情

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 ひんやりと冷たい手に己の手を握られている。
 大きな武骨な手。
 その手が優しくルーシュの額に張り付いた前髪をかき上げる。
 汗で張り付いた前髪が取れて、額の気持ち悪さが遠のいた。
 トントン、と優しく柔らかな布で額を拭われる。

(あ~お母様がいた頃みたい…気持ちいいなぁ………)

 真っ暗だった意識が光を取り戻す。
 確か自分は腹の鈍痛のせいで倒れて…倒れて?

「アンドュ、様………?」

 瞼を上げると目の前にポロポロと大粒の涙を流す美丈夫の姿があった。

(格好いいのに、こんなに可愛いなんて反則なんじゃない……?)

「ルーシュ、大丈夫?ごめんね…僕、ルーシュが体調悪いの、気付いてあげられなかった………」

(涙がきらきら光って綺麗だなぁ…綺麗な人は泣き顔まで綺麗だ………)

 まだぼんやりした意識がルーシュが普段口にしない本音を漏らさせる。

「何で、泣いてるんですか、アンドュ様………?」

「ルーシュに酷いことしたから………」

「酷い事、してないですよ。したのは私です」

「ルーシュ体調悪いのに、お薬で我慢して僕に付き合ってくれてたんでしょ?なのに僕、気付かなかった。1番大切な人がしんどい時に気付いてあげれなかった…自分が楽しいのを先行してしちゃった………」

 ルーシュの手をアンドュが両手で握り込む。
 そして胸に抱きしめる。
 それは何処か祈りの姿に似ていた。

「泣かないで、アンドュ様、私も楽しみ、だったんです…アンドュ様が笑った顔が好きだから、少し無理しちゃいました。未来の皇妃失格ですね………」

「失格じゃないよ!大切な人の体調が悪いのに気付かない方が未来の皇帝失格だよ!」

 どちらも己が悪いと言い張る。
 本気で2人とも己が悪いと思っているのだ。
 互いのためにしたことを、自分の判断が間違っていたと。
 そこにあるのは確かに互いへのいたわりの精神であるのに。

「水掛け論ですね」

 クスクスとルーシュが笑った。
 少ししんどそうだけど、嬉しそうな笑みだった。

「ルーシュが笑ってくれた………」

「アンドュ様が可愛くて、愛おしいから」

「ルーシュの方が可愛いよ?」

 コテリ、とアンドュアイスが小首を傾げる。
 なぜ成人男性がこんな幼い仕草が似合うのか?
 似合うを通り越して可愛さは天真爛漫な子供にだって負けていない。
 少なくともルーシュの人生でこんなに可愛い存在は知らない。

「体調を隠していてすみません。でも事情が事情で………」

「事情て月の物の事?」

「はい、アンドュ様は女の身体が嫌いでしょ?だから女の月のモノなんて気持ち悪いだろうと思って、嫌われたくなくて隠してしましました………」

「何で?僕ルーシュの事嫌いにならないよ?月の物は女の人が赤ちゃん作るための準備なんでしょ?サイヒから教えて貰ったよ。
僕は女の人の身体の事は良く知っているけど、そう言うこと教えてくれる人は居なかったから。
だからサイヒにルーシュは月の物が重くてしんどいから気を付けてやってね、て言われてたの。
ルーシュの身体は僕のと赤ちゃんを産むために今頑張ってくれているんでしょう?それが気持ち悪いなんてありえないよ?
だって僕ルーシュが女の子っぽくないから好きなんじゃなくて、ルーシュだから女の子でも好きになれたんだもの。
だからそう言うの隠さないで、しんどい時は一緒にゆっくりしよう。
僕はルーシュの月の物があるからって気持ち悪くなったりしないから、こんな時は傍でルーシュが楽に寛いでもらいたいと思ってるんだから」

 ぎゅう、と握られた手に力が入る。
 アンドュアイスなりに自分の気持ちをルーシュに伝えるのに必死なのだ。
 ルーシュが自分に愛される自覚があまりに足りないから、何時かアンドュアイスへの気持ちが冷めて何処かにふらりと消えそうで心配なのだ。
 ルーシュがアンドュアイスに嫌われるのを恐れている以上に、幼い頃から汚れに触れて来たアンドュアイスの自己肯定感は低いから。
 だから必死にルーシュに伝える。
 こんなにも好きなんだと。
 力いっぱい握られた手が少し痛くても、アンドュアイスの緊張のせいで汗を掌にかいても気持ち悪くなんて無い。
 その手がいろ愛おしくて堪らない。

 何故この魅力の塊のような男が自分のような餓鬼を好きになってくれたのか?
 分からないけど、嫌われてないならそれで良いとルーシュは思った。
 女と言う存在が生理的に受け付けないアンドュアイスが、こんなにも言ってくれてる。
 2人の赤ちゃんの話まで持ち出してきた。
 己は確かに愛されているのだ。

 ルーシュはほぅ、と溜息を吐いた。
 安堵の溜息である。

「体が大分楽なんですが、何か処置しました?」

「サイヒに事前に貰ってた漢方薬飲ませたよ」

「何をしてるんだあいつは………」

 全能神、1人の人間にひいきしすぎじゃないか?
 そう思ったが、今は体が楽になって助かったので心友に素直に心の中で感謝した。

「意識無いのによく飲ませれましたね?」

「うん、口移しで簡単に飲ませれたよ」

 ニッコ――――ッ☆

 アンドュアイスが満面の笑みで答えた。

「へ、え、えぇぇぇぇぇっぇぇぇぇっぇっ!?」

 衝撃の言葉にルーシュの意識はまた白い世界に落とされた。
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