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28.裁き
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長い懺悔を終えたジェルマンは、最後をこう締めくくった。
「全ては国王レオンの治世の下で、女神教を飛躍させる為の布石でした。私は確かに権力に目が眩んでいました! ですが、全ては女神教団をより大きくする為の布石でもあったのです! いずれは国王レオンの治世の下でクーランへと赴き、彼らに女神教の素晴らしさを布教するつもりでした!」
「クーランの民は祈る形こそ違えど、女神様を信仰している。愚か者め。貴様の行為は分裂を招くだけだ」
「そんな……。私は教団に人生を捧げてきたのに……」
天使に叱責され、絶望した大司教からは老いを感じた。気力がみなぎっている印象だったのに、人生の目標を否定され、残ったのは裏切者という評価だけだ。
「アシルを救世主に認定するか否か。判断は地上に委ねるが、女神にとって、救世主は彼だけだ。努々忘れるでないぞ」
「天使様、我々も同じ考えです。これ程の奇跡を目の当たりにして、彼を認められぬ者がおりましょうか? 我々は必ずや、天の意思に沿います」
「フレデリク司教、お前には次の大司教に選ばれる未来が視える。信徒達をまとめ、救世主の力になりなさい」
フレデリクは丁寧に頭を下げた。
肩書きを得ることに喜ぶでもなく、冷静に受けとめている。
「では、私は天界へ戻ろう。皆に女神の加護があらんことを」
天使を見送ったあと、ジェルマンは教会が有する聖堂騎士に拘束され、王都に移送された。そして、査問委員会が開かれて罷免された。
大司教としての肩書きは愚か、聖職者としての地位まで失った形になる。
天使降臨と大司教の解任、そして救世主の誕生。
王国を揺るがす大事件は、吟遊詩人達によって瞬く間に広まった。
ジェルマンと懇意にしていた貴族達は例外なく立場を悪くしたが、一番のダメージはレオンに入った。大司教はレオンにとって後見人であり、そんな彼が女神によって叱責され、聖職者ですらなくなったんだ。立場が揺るがない方がおかしかった。
救世主になった俺は、国王によって招集された。
俺はリーナを連れて王宮に参じた。
俺を出迎えたのは国王であるクロヴィス陛下と、リーナの父である宰相サミュエル、そしてリーナの婚約者であるレオン王子だ。
メンツを見ただけでどんな会話が始まるかは想像できた。
「救世主アシル、それからリーナ嬢、今日はよくきてくれた。まずは救世主ならびに聖女就任おめでとう。王国としても大変喜ばしいことだと受け止めている」
「ありがとうございます」
「しかし、ジェルマンのことは残念だった。レオンも心を痛めていてな。後見人を失い、ますます後ろ楯の必要性が高まったと言える。王の治世を安定させるには、強い後ろ盾が必要だ。代々支えとなってくれた公爵家には感謝しているし、これからもそうであって欲しいと願っている」
結論から言えと言いたい。ノロノロと会話を引き延ばしているが、着地点は一つだろう。
「父上、やはり私から伝えます。リーナ嬢、婚約破棄は認められない」
「なっ……」
陛下が息子を凝視している。俺も耳を疑った。どう考えても今は下手に出るタイミングだろう。
「王子、認められないとはどういうことでしょう?」
真っ先に口火を切ったのはサミュエルだった。
「娘の髪色を理由に、散々な態度を取っていたのは御身のはずでは? 後見人を失ったから力を貸せとはおかしな話です」
「私にも愛する女性はいる。リーナは美人だし嫌いとまではいかないが、王家にとって黒がどういう意味を持つかは宰相も知っているだろう」
「ふざけるな! 当人を前にして愛も囁けぬような男に娘をやれるか! とんだ見込み違いだ!」
「すまぬ! 息子にはしっかりと言って聞かせる! どうか怒りを静めてくれ!」
やれやれ。残念な王子だとは思っていたが、ここまで傍若無人だとは思わなかった。自分の発言が与える影響を全く理解していない。
俺はリーナの盾になるようレオンと対峙した。
「リーナは俺を選びました。これ以上話し合いが必要ですか?」
「救世主殿、国の安定の為に彼女はお譲りいただきたい。あなたが世界の平和を守るという責務を与えられたように、共にこの国を支えることこそ、彼女に課せられた責任だったはずだ」
「後宮から殿下を支えろと?」
「リーナ、話を聞くんだ。私はクーランという国に対して、間違った認識を持っていた。自分の不明を恥じるばかりだが、今は反省しているし今後は態度を改めたいと思っている。すまなかった。君を愛すると誓うから、戻ってきてほしい」
「あなたの子を孕みたくないので、適当な男爵令嬢でも捕まえてください」
そう言って、リーナはあからさまに胸を押しつけてきた。
宰相は顔をしかめているが止めない。
「そ、そのようにくっつくものじゃない。君は私の婚約者なんだから。アシル殿も、救世主なら弁えた行動を取るべきだと思わないか。世界を救済するのが君の役割なのだし、王子である私の婚約者を奪うなど、女神様だってきっと許さないはずだ」
「天使様は止めにきませんね。特に問題ないのでは?」
レオンは唇を噛んだ。
「くっ……。どいつもこいつも」
「ああ、もう見ていられん。お前達、我が息子に至らぬところがあったのは認めよう。しかし、こんな者でも次期国王なのだ。どうか支えてやってほしい。この通りだ」
玉座の王が頭を下げる。しかしもう手遅れだ。
「支えるというのは具体的に何を指しているのでしょうか? まさか、娘の気持ちを無視して王子に嫁がせろと?」
「リーナ嬢の気持ちは大事だ。しかし、もし考え直してくれるなら、王家としても最大限のサポートはさせてもらうつもりだ」
「私はアシル様のことしか考えられません。彼は私に優しくしてくれたんです。この身はアシル様に捧げると決めました」
「狂ってるのか!? お前は私に嫁ぐ為に幼少期から妃教育をこなしてきたんだろ!?」
レオンはヒステリックに叫んだ。あまりの惨めさに誰も何も言えないでいる。
いずれレオンの人生を破壊するつもりでいた俺も、自滅を繰り返すレオンに対して何も言えない。下手に関わるよりも見守った方がより破滅してくれると分かってしまったからだ。
「リーナ、もう一度よく考えてみてくれ! 確かに救世主という肩書きは世界にとって大きな意味を持つ! 彼を支えたいという気持ちになってもおかしくはない。しかし、君もシルヴェストルの民ならこの国の未来を一番に考えるべきだ!」
「あなたにだけは言われたくありません。国を思うならミーシャへの想いは断ち切って、後ろ盾である私達との縁を重んじるべきでした。今まで散々、私のことを軽んじておいて、最善を考えろとは片腹痛いです。アシル様の仰るとおりですね。視野が狭すぎて、自分の足下すら見えてない。とても王の器だとは思えません。陛下、後継者選びは真剣に取り組まれた方がよろしいのでは?」
元婚約者にここまで言わせるかってくらい言われてるな。そして、娘がつけた傷口に塩を塗りたくるように、サミュエルは言葉を引き継いだ。
「あくまでご子息の王位に拘るようであれば、我々は今後王家への援助を一切行いません。王宮で雇っている騎士から従者に至るまで、誰が給料の支払いをしているかはご存知でしょう?」
「そんなことになれば王家は滅びる! 他国に攻め入る隙を与える気か!?」
「天使が降臨し、救世主が誕生したばかりの国に攻め入る国家があればの話ですよね? むしろ、王家の首を挿げ替えるには絶好のタイミングではありませんか。我々はシャイエ王朝が潰えたとしても一向に構いません。解体して、また新たに王家を作ればいいだけです」
「……本気なのだな」
「これ以上、臣下を失望させないでください。ご子息が生まれるまで、あなたの治世に間違いはなかった」
「全ては国王レオンの治世の下で、女神教を飛躍させる為の布石でした。私は確かに権力に目が眩んでいました! ですが、全ては女神教団をより大きくする為の布石でもあったのです! いずれは国王レオンの治世の下でクーランへと赴き、彼らに女神教の素晴らしさを布教するつもりでした!」
「クーランの民は祈る形こそ違えど、女神様を信仰している。愚か者め。貴様の行為は分裂を招くだけだ」
「そんな……。私は教団に人生を捧げてきたのに……」
天使に叱責され、絶望した大司教からは老いを感じた。気力がみなぎっている印象だったのに、人生の目標を否定され、残ったのは裏切者という評価だけだ。
「アシルを救世主に認定するか否か。判断は地上に委ねるが、女神にとって、救世主は彼だけだ。努々忘れるでないぞ」
「天使様、我々も同じ考えです。これ程の奇跡を目の当たりにして、彼を認められぬ者がおりましょうか? 我々は必ずや、天の意思に沿います」
「フレデリク司教、お前には次の大司教に選ばれる未来が視える。信徒達をまとめ、救世主の力になりなさい」
フレデリクは丁寧に頭を下げた。
肩書きを得ることに喜ぶでもなく、冷静に受けとめている。
「では、私は天界へ戻ろう。皆に女神の加護があらんことを」
天使を見送ったあと、ジェルマンは教会が有する聖堂騎士に拘束され、王都に移送された。そして、査問委員会が開かれて罷免された。
大司教としての肩書きは愚か、聖職者としての地位まで失った形になる。
天使降臨と大司教の解任、そして救世主の誕生。
王国を揺るがす大事件は、吟遊詩人達によって瞬く間に広まった。
ジェルマンと懇意にしていた貴族達は例外なく立場を悪くしたが、一番のダメージはレオンに入った。大司教はレオンにとって後見人であり、そんな彼が女神によって叱責され、聖職者ですらなくなったんだ。立場が揺るがない方がおかしかった。
救世主になった俺は、国王によって招集された。
俺はリーナを連れて王宮に参じた。
俺を出迎えたのは国王であるクロヴィス陛下と、リーナの父である宰相サミュエル、そしてリーナの婚約者であるレオン王子だ。
メンツを見ただけでどんな会話が始まるかは想像できた。
「救世主アシル、それからリーナ嬢、今日はよくきてくれた。まずは救世主ならびに聖女就任おめでとう。王国としても大変喜ばしいことだと受け止めている」
「ありがとうございます」
「しかし、ジェルマンのことは残念だった。レオンも心を痛めていてな。後見人を失い、ますます後ろ楯の必要性が高まったと言える。王の治世を安定させるには、強い後ろ盾が必要だ。代々支えとなってくれた公爵家には感謝しているし、これからもそうであって欲しいと願っている」
結論から言えと言いたい。ノロノロと会話を引き延ばしているが、着地点は一つだろう。
「父上、やはり私から伝えます。リーナ嬢、婚約破棄は認められない」
「なっ……」
陛下が息子を凝視している。俺も耳を疑った。どう考えても今は下手に出るタイミングだろう。
「王子、認められないとはどういうことでしょう?」
真っ先に口火を切ったのはサミュエルだった。
「娘の髪色を理由に、散々な態度を取っていたのは御身のはずでは? 後見人を失ったから力を貸せとはおかしな話です」
「私にも愛する女性はいる。リーナは美人だし嫌いとまではいかないが、王家にとって黒がどういう意味を持つかは宰相も知っているだろう」
「ふざけるな! 当人を前にして愛も囁けぬような男に娘をやれるか! とんだ見込み違いだ!」
「すまぬ! 息子にはしっかりと言って聞かせる! どうか怒りを静めてくれ!」
やれやれ。残念な王子だとは思っていたが、ここまで傍若無人だとは思わなかった。自分の発言が与える影響を全く理解していない。
俺はリーナの盾になるようレオンと対峙した。
「リーナは俺を選びました。これ以上話し合いが必要ですか?」
「救世主殿、国の安定の為に彼女はお譲りいただきたい。あなたが世界の平和を守るという責務を与えられたように、共にこの国を支えることこそ、彼女に課せられた責任だったはずだ」
「後宮から殿下を支えろと?」
「リーナ、話を聞くんだ。私はクーランという国に対して、間違った認識を持っていた。自分の不明を恥じるばかりだが、今は反省しているし今後は態度を改めたいと思っている。すまなかった。君を愛すると誓うから、戻ってきてほしい」
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そう言って、リーナはあからさまに胸を押しつけてきた。
宰相は顔をしかめているが止めない。
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「天使様は止めにきませんね。特に問題ないのでは?」
レオンは唇を噛んだ。
「くっ……。どいつもこいつも」
「ああ、もう見ていられん。お前達、我が息子に至らぬところがあったのは認めよう。しかし、こんな者でも次期国王なのだ。どうか支えてやってほしい。この通りだ」
玉座の王が頭を下げる。しかしもう手遅れだ。
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「あなたにだけは言われたくありません。国を思うならミーシャへの想いは断ち切って、後ろ盾である私達との縁を重んじるべきでした。今まで散々、私のことを軽んじておいて、最善を考えろとは片腹痛いです。アシル様の仰るとおりですね。視野が狭すぎて、自分の足下すら見えてない。とても王の器だとは思えません。陛下、後継者選びは真剣に取り組まれた方がよろしいのでは?」
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「そんなことになれば王家は滅びる! 他国に攻め入る隙を与える気か!?」
「天使が降臨し、救世主が誕生したばかりの国に攻め入る国家があればの話ですよね? むしろ、王家の首を挿げ替えるには絶好のタイミングではありませんか。我々はシャイエ王朝が潰えたとしても一向に構いません。解体して、また新たに王家を作ればいいだけです」
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