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「父上、宰相を罷免してください! この者は増長しています! 王家を脅すなど、臣下の行いではありません!」
「ここまでか……」
クロヴィスは玉座に座したまま、長い溜息をついた。
「レオン、増長していたのは我々の方だ。何故、公爵家が王家から手を引こうとしたと思う」
「父上、脅しに屈するのですか!」
「話を聞くんだ。お前のワガママはもう聞けぬ」
「……っ! リーナ!」
父から見放されたレオンが縋ったのは、リーナだった。
「私が悪かった! お前さえ頷けば状況は変わる! 愛していると言ってくれ!」
「あなたを愛したことなど一度もありません」
「婚約者だったはずだろう!? 私を裏切ってその男と幸せになるのか!」
「先に裏切ったのはあなたでしょう! 私は、アシル様と幸せになります」
「馬鹿な……。こんなことがあっていいはずがない」
レオンが崩れ落ちる。心的なダメージが大きすぎて、立っていることすら出来ないのだろう。
「父上、私が間違っていました」
「今さら過ちを認めても遅い。お前を――」
「私を廃嫡なさる前に聞いていただきたいことがあります」
レオンが父親の言葉を遮った。
(何だ?)
嫌な予感がする。頭の中で危険感知のアラートが鳴り響いている。
「今まで私を育てていただきありがとうございました。おかげで、こうして王になる準備が整いました」
「何を馬鹿なことを――」
最後まで言葉は続かなかった。
風の刃によって、腹部から肉体を両断された為だ。
玉座に向かって飛んだ魔法は、老齢の王を真っ二つにした。
「な、何を……」
サミュエルが呆然と玉座を見ている。椅子ごと断たれた国王が、ガクリと項垂れた。誰が見ても分かるくらい、終わってしまっている。一国の王の最期にしては、あまりに凄惨な光景だ。
「なるほど。文献で読んだ通りだ。黒鬼」
父親を手にかけた王子が呼び出した神獣。それは、暗黒を凝縮したかのような鬼だった。
「皮肉なものだ。忌まわしいと思っていた黒が、私の色だったなんてな」
「馬鹿な真似を! なぜ陛下を手にかけた!」
レオンは宰相の糾弾を涼しい顔で受け流している。
「分かりきったことを聞かないでくれ。私が王になるには、最早この手しか残されていなかった。全部、お前達のせいだ。偉そうに王を選ぶなんてのたまっていたが、この力を前にしても同じことが言えるかな?」
黒鬼を中心に部屋が黒く塗り潰されていく。物理的にこの部屋を遮断するつもりか?
「リーナ、必ず帰るとエレナに伝えてくれ」
「え?」
「愛してる。君に会えて良かった」
「待っ――」
転移魔法で俺とレオンを除いた全員を逃がす。レオンは舌打ちし、俺を睨んだ。
「聖剣の力を使ったのか。邪魔をしないでほしいな。サヴァール家には念入りに礼をしたかったのに」
「俺が許すと思うか?」
「君に許してもらう必要はないよ。聖剣一本じゃ私に勝てないからね」
黒鬼が刀に姿を変える。
俺は零式でレオンに接近し、首を跳ねようとした。だが、黒いオーラに阻まれて聖剣が停止する。
「無駄だよ。君、この程度で救世主なんて持てはやされてるんだ? 思ったより弱いな」
返す刀で袈裟斬りにされた。オーラを使って防ごうとしたが、あっさり破られた。これで残機-1か。
(なるほど。黒鬼のレベルが加算されてるのか)
レオンのレベルは99。俺は半分以下だ。スキルは通じず、打開できるような魔法も持ってない。
転移魔法を試したが、闇に覆われた謁見の間から逃れることはできなかった。
「今のを受けて無事とはな。さすがは救世主といったところか。だが、これは受けられるかな?」
黒刀に光が収束していく。
大技の予感がした。
冷静に危険感知を発動させて、薙ぎ払うように放たれた漆黒の閃光を回避する。
「上手くかわしたな。もっとも、苦痛を先延ばしにするだけだが」
戦力差はあるが、別にこちらのスキルが無効化された訳でもない。
攻撃手段はなくとも、回避を続けることはできる。
レオンの出力が下がることを祈りつつ、大技を回避する。
矢継ぎ早に放たれた魔弾を避けつつ、時々聖剣で斬り込みにいく。
「少し力を使うか」
黒鬼の刀剣状態が解除され、鬼が再度顕現する。
空間が振動する程の雄たけびを上げた黒鬼は、主であるレオンを光の膜で包んだ。
そして、先程の比ではない光を掌中に集中させた。
「究極魔法オメガだ。跡形もなく消えてくれ」
一瞬の光の明滅の後、発生したブラックホールがあらゆるモノを引き寄せる。
黒鬼の掌中に生まれた特異点を中心として、あらゆるものが引力の餌食となった。
俺の身体も例外ではない。身動きも取れないまま、特異点に吸い寄せられていく。
(何も為せずに負けるのか?)
脳裏に敗北の2文字が浮かぶ。
それは、強烈なストレスとなって俺を襲った。
負けて命を落とすことが恐ろしかったんじゃない。
エレナとリーナを失う未来が、背筋が凍るほど恐ろしかった。
何でもいい。
レオンに勝てるスキルを――
オメガの引力に抗い切れず、特異点に吸い込まれる。
そして、肉体は圧縮されて塵芥となった。
だが、直後に残機の効果で肉体は蘇る。例え勝ち目はなくとも、残り98回の残機が俺を甦らせる。
「バケモノじみてるね。あの状態からどうやって戻ったんだい?」
力の差を理解した。オメガを一発撃ったレオンだが、息切れ一つしてない。それどころか、湯水のように魔力が溢れ出ている。
俺は、神獣を得たレオンには勝てない。
(なぜ、女神は俺を地上に召喚したんだ?)
この転生に何の意味があったのか分からない。
現地人に比べれば遥かに強くなった俺だが、神域の力には手が届かなかった。
「女神よ。この有様を見てたら答えてくれ。俺は負けるしかないのか?」
『…………』
女神の息遣いが聴こえた気がした。
返事はないが、恐らく俺を視ている。
「女神様、レオンを討つ方法があるなら俺を使ってくれ。どんなリスクだって構わない。2人を守りたいんだ」
『方法はあります。ですが、その方法を取れば、あなたは確実に死にます』
(……死ぬのか)
女神カナエル。俺を転生させた女神。
スキルは与えてくれたが、それだけではレオンに勝てないことは明白だ。
もう1段階、俺を強くする方法はあるのだろう。
その結果、俺は死に至る。
『最後のスキル、天魔降臨を使えば、あなたは魂さえも残さずに消滅します』
苦笑いが込み上げてくる。死ぬことよりも恐ろしい結末だ。怖くない訳がない。なぜ自分がという理不尽に対する怒りも沸いてきた。
だが、それでも不思議と恨みはない。
(初めて恋をした。そして、愛を知れた)
たったそれだけのことで、水に流せてしまうようだ。
「女神様。俺を使ってくれ。必ず魔神王は倒す」
「まさか、女神の干渉か?」
「ここまでか……」
クロヴィスは玉座に座したまま、長い溜息をついた。
「レオン、増長していたのは我々の方だ。何故、公爵家が王家から手を引こうとしたと思う」
「父上、脅しに屈するのですか!」
「話を聞くんだ。お前のワガママはもう聞けぬ」
「……っ! リーナ!」
父から見放されたレオンが縋ったのは、リーナだった。
「私が悪かった! お前さえ頷けば状況は変わる! 愛していると言ってくれ!」
「あなたを愛したことなど一度もありません」
「婚約者だったはずだろう!? 私を裏切ってその男と幸せになるのか!」
「先に裏切ったのはあなたでしょう! 私は、アシル様と幸せになります」
「馬鹿な……。こんなことがあっていいはずがない」
レオンが崩れ落ちる。心的なダメージが大きすぎて、立っていることすら出来ないのだろう。
「父上、私が間違っていました」
「今さら過ちを認めても遅い。お前を――」
「私を廃嫡なさる前に聞いていただきたいことがあります」
レオンが父親の言葉を遮った。
(何だ?)
嫌な予感がする。頭の中で危険感知のアラートが鳴り響いている。
「今まで私を育てていただきありがとうございました。おかげで、こうして王になる準備が整いました」
「何を馬鹿なことを――」
最後まで言葉は続かなかった。
風の刃によって、腹部から肉体を両断された為だ。
玉座に向かって飛んだ魔法は、老齢の王を真っ二つにした。
「な、何を……」
サミュエルが呆然と玉座を見ている。椅子ごと断たれた国王が、ガクリと項垂れた。誰が見ても分かるくらい、終わってしまっている。一国の王の最期にしては、あまりに凄惨な光景だ。
「なるほど。文献で読んだ通りだ。黒鬼」
父親を手にかけた王子が呼び出した神獣。それは、暗黒を凝縮したかのような鬼だった。
「皮肉なものだ。忌まわしいと思っていた黒が、私の色だったなんてな」
「馬鹿な真似を! なぜ陛下を手にかけた!」
レオンは宰相の糾弾を涼しい顔で受け流している。
「分かりきったことを聞かないでくれ。私が王になるには、最早この手しか残されていなかった。全部、お前達のせいだ。偉そうに王を選ぶなんてのたまっていたが、この力を前にしても同じことが言えるかな?」
黒鬼を中心に部屋が黒く塗り潰されていく。物理的にこの部屋を遮断するつもりか?
「リーナ、必ず帰るとエレナに伝えてくれ」
「え?」
「愛してる。君に会えて良かった」
「待っ――」
転移魔法で俺とレオンを除いた全員を逃がす。レオンは舌打ちし、俺を睨んだ。
「聖剣の力を使ったのか。邪魔をしないでほしいな。サヴァール家には念入りに礼をしたかったのに」
「俺が許すと思うか?」
「君に許してもらう必要はないよ。聖剣一本じゃ私に勝てないからね」
黒鬼が刀に姿を変える。
俺は零式でレオンに接近し、首を跳ねようとした。だが、黒いオーラに阻まれて聖剣が停止する。
「無駄だよ。君、この程度で救世主なんて持てはやされてるんだ? 思ったより弱いな」
返す刀で袈裟斬りにされた。オーラを使って防ごうとしたが、あっさり破られた。これで残機-1か。
(なるほど。黒鬼のレベルが加算されてるのか)
レオンのレベルは99。俺は半分以下だ。スキルは通じず、打開できるような魔法も持ってない。
転移魔法を試したが、闇に覆われた謁見の間から逃れることはできなかった。
「今のを受けて無事とはな。さすがは救世主といったところか。だが、これは受けられるかな?」
黒刀に光が収束していく。
大技の予感がした。
冷静に危険感知を発動させて、薙ぎ払うように放たれた漆黒の閃光を回避する。
「上手くかわしたな。もっとも、苦痛を先延ばしにするだけだが」
戦力差はあるが、別にこちらのスキルが無効化された訳でもない。
攻撃手段はなくとも、回避を続けることはできる。
レオンの出力が下がることを祈りつつ、大技を回避する。
矢継ぎ早に放たれた魔弾を避けつつ、時々聖剣で斬り込みにいく。
「少し力を使うか」
黒鬼の刀剣状態が解除され、鬼が再度顕現する。
空間が振動する程の雄たけびを上げた黒鬼は、主であるレオンを光の膜で包んだ。
そして、先程の比ではない光を掌中に集中させた。
「究極魔法オメガだ。跡形もなく消えてくれ」
一瞬の光の明滅の後、発生したブラックホールがあらゆるモノを引き寄せる。
黒鬼の掌中に生まれた特異点を中心として、あらゆるものが引力の餌食となった。
俺の身体も例外ではない。身動きも取れないまま、特異点に吸い寄せられていく。
(何も為せずに負けるのか?)
脳裏に敗北の2文字が浮かぶ。
それは、強烈なストレスとなって俺を襲った。
負けて命を落とすことが恐ろしかったんじゃない。
エレナとリーナを失う未来が、背筋が凍るほど恐ろしかった。
何でもいい。
レオンに勝てるスキルを――
オメガの引力に抗い切れず、特異点に吸い込まれる。
そして、肉体は圧縮されて塵芥となった。
だが、直後に残機の効果で肉体は蘇る。例え勝ち目はなくとも、残り98回の残機が俺を甦らせる。
「バケモノじみてるね。あの状態からどうやって戻ったんだい?」
力の差を理解した。オメガを一発撃ったレオンだが、息切れ一つしてない。それどころか、湯水のように魔力が溢れ出ている。
俺は、神獣を得たレオンには勝てない。
(なぜ、女神は俺を地上に召喚したんだ?)
この転生に何の意味があったのか分からない。
現地人に比べれば遥かに強くなった俺だが、神域の力には手が届かなかった。
「女神よ。この有様を見てたら答えてくれ。俺は負けるしかないのか?」
『…………』
女神の息遣いが聴こえた気がした。
返事はないが、恐らく俺を視ている。
「女神様、レオンを討つ方法があるなら俺を使ってくれ。どんなリスクだって構わない。2人を守りたいんだ」
『方法はあります。ですが、その方法を取れば、あなたは確実に死にます』
(……死ぬのか)
女神カナエル。俺を転生させた女神。
スキルは与えてくれたが、それだけではレオンに勝てないことは明白だ。
もう1段階、俺を強くする方法はあるのだろう。
その結果、俺は死に至る。
『最後のスキル、天魔降臨を使えば、あなたは魂さえも残さずに消滅します』
苦笑いが込み上げてくる。死ぬことよりも恐ろしい結末だ。怖くない訳がない。なぜ自分がという理不尽に対する怒りも沸いてきた。
だが、それでも不思議と恨みはない。
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