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3.怨恨
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「せっかくだしデートでもしていくか」
「いいんですか!?」
「ただ、俺って嫌われてるからな。ロクなサービスを受けられないかもしれない。飲食店とかは怖くて入れないな……」
「心配しすぎですよ。行きましょう?」
ハイテンションなリーナに腕を引かれて、飲食店に入る。
店主は俺を見ると露骨に嫌な顔をしたが、「公爵令嬢のリーナです。席は空いてますか?」という先制攻撃を受けて白旗を上げた。
「空いてる席にどうぞ」
「ありがとうございます」
リーナは笑顔だが、この笑顔は「何かあったら許さんぞ?」という威圧も込めた笑顔だ。貴族は色んな種類の笑顔を使い分けるが、俺はまだその粋に達していない。
「カバネル領は確かワインが有名でしたね」
「リーナはあまり飲まないだろう?」
「ええ。あまり強くなくて……。でもせっかくですし頂いちゃおうと思います」
「そうか。無理はするなよ」
「大丈夫です。大好きなアシル様の前で醜態は晒せませんから」
ハッキリ愛してると言われると照れるな。なんて、甘酸っぱい感想を抱いてられるのは最初の内だけだった。ワインを一杯飲んだリーナは、「ふへへ」と怪しげな笑みを浮かべた。
「おいひーれすねぇ」
「嘘だろ……?」
リーナはワインに「少し弱い」と言っていたが、実際にはクソ雑魚だった。
一杯飲んだだけで呂律が怪しくなり、テーブルに肘をつき始めた。
「アシル様わぁ、リーナのことちゃんと愛ひてくれれまふはぁ?」
「え? なんて?」
「愛ひてるかひーれふんれすよぉぉぉ!!!!」
店主の方を見るとクッソ迷惑そうな顔で睨まれた。
そんなに強い酒でもないのに、この店の酒が原因で事故でも起こったら、公爵は店主の責任を追及するだろう。
俺は運ばれてきた料理をさっさと平らげると、リーナをおぶって外に出た。
近くにあった広場のベンチに2人で腰かけて、溜息をつく。
「はぁー」
平和といえば平和なんだが、地元に戻ってきてから、負の感情しかぶつけられてない現状に辟易とする。リーナが一緒だったから俺は耐えられたが、リーナにとっては良くない思い出になったかもしれない。
せっかく2人で出かけたのに、いや、道中まではまだ楽しかったんだけどな。
どうにかしてリーナを喜ばせてやれないかな。
可愛い俺のリーナ。
酔った彼女が俺の肩に寄り掛かってくる。
転移魔法で一度屋敷に戻るのも選択肢だ。
戻ってくるのが早すぎるとエレナは呆れるかもしれないが、こっちの方じゃ大した宿泊施設もないだろう。
ボーっと日が暮れつつある空を眺めてたら、「お兄様?」と声をかけられた。
二度と会うことはないだろうと思っていた妹が、呆然と立ちすくんでいた。
「どうしてアメリーが一人で……」
「私は魔法が得意だから、一人でも出歩けるんです」
「そうだったのか。俺達は邪魔だろうから行くよ」
「待ってください」
深呼吸を何度か繰り返してから、妹は言葉を紡いだ。
「お父様から聞いたんですけど、記憶を失くしたというのは本当なんですか?」
記憶を失くしたというのは、厳密には嘘になる。
『最初から記憶が無い』が正解だ。
最大の当事者である彼女には、真実を打ち明けるべきかもしれない。
「本当のことを話してもいいが、信用される自信がない」
「でしたら、ローライで聞かせてください。あちらでなら、嘘はつけませんよね?」
「分かった。ならば、転移魔法を使おう」
「そんな魔法があるんですか?」
「聖剣の力を借りれば使える。俺が信用できないならここで全てを話すが……」
「いいえ。真実だという確証を持って話が聞きたいと思います。私もローライに連れていってください」
「分かった。ならば一緒に行こう」
聖剣の力を借りて転移する。
転移先は、ローライの教会だ。
静謐な雰囲気の礼拝堂は、今は俺達しかいない。
「少し待っててくれるか? アメリーが加護を受けられるよう司教と交渉してみる」
言って、俺は司教の執務室に転移し、鐘を鳴らすよう交渉した。
救世主の願いを断るような教会関係者はいない。
あっさり希望は通り、妹も加護の対象になった。
諸々のやり取りを終えて礼拝堂に戻る。
「何から話すべきかな。まず、俺はアシルの身体をもらいうけた異世界人だ。本当の名はミトという」
「異世界の方? だったら、私の兄はどこに……」
「それは女神にしか分からないことだ。俺は魔神王を打ち倒す為に異世界から転生してきた。転生先は君のお兄さんの身体で、それ以上のことは分からないんだ」
「あなたは、偶然兄の身体を与えられた他人ということですか?」
「そうなるな。信じがたい話だとは思うが」
アメリーが小首を傾げる。
「あの、あなたは罪を犯してないのに謝罪にきてくださったんですか?」
「記憶を失くしたのはこちらの都合だ。アシルの名を継いだ時に、罪も背負うと決めたんだ」
「兄とは違って真面目な方なんですね。それでも、私はあなたが嫌いです。その顔が、声が、私にとっては苦痛なんです」
幼い少女の言葉に胸が痛む。アメリーが受けた苦痛を思うと、何とも言えない気持ちになった。
「先程、リーナ様は安心してお兄様に寄り掛かっていました。今の関係性を見てれば、あなたが別人だということには頷けます。それでも、私はあなたがアシルという入れ物に入っている限り、反射的に怒りを抱いてしまいます」
「許してほしいとは思わない。俺が君にしてあげられることは、お兄さんの代わりに恨まれてやることだけだ」
初めて、本気でアシル・カバネルのことを許せないと感じた。
最低な行為によって、こんな年端もいかない少女を理不尽に傷つけ、恨みを植えつけた。地獄に堕ちるべきだと思う。
「私の兄があなただったら良かったのに」
「いいんですか!?」
「ただ、俺って嫌われてるからな。ロクなサービスを受けられないかもしれない。飲食店とかは怖くて入れないな……」
「心配しすぎですよ。行きましょう?」
ハイテンションなリーナに腕を引かれて、飲食店に入る。
店主は俺を見ると露骨に嫌な顔をしたが、「公爵令嬢のリーナです。席は空いてますか?」という先制攻撃を受けて白旗を上げた。
「空いてる席にどうぞ」
「ありがとうございます」
リーナは笑顔だが、この笑顔は「何かあったら許さんぞ?」という威圧も込めた笑顔だ。貴族は色んな種類の笑顔を使い分けるが、俺はまだその粋に達していない。
「カバネル領は確かワインが有名でしたね」
「リーナはあまり飲まないだろう?」
「ええ。あまり強くなくて……。でもせっかくですし頂いちゃおうと思います」
「そうか。無理はするなよ」
「大丈夫です。大好きなアシル様の前で醜態は晒せませんから」
ハッキリ愛してると言われると照れるな。なんて、甘酸っぱい感想を抱いてられるのは最初の内だけだった。ワインを一杯飲んだリーナは、「ふへへ」と怪しげな笑みを浮かべた。
「おいひーれすねぇ」
「嘘だろ……?」
リーナはワインに「少し弱い」と言っていたが、実際にはクソ雑魚だった。
一杯飲んだだけで呂律が怪しくなり、テーブルに肘をつき始めた。
「アシル様わぁ、リーナのことちゃんと愛ひてくれれまふはぁ?」
「え? なんて?」
「愛ひてるかひーれふんれすよぉぉぉ!!!!」
店主の方を見るとクッソ迷惑そうな顔で睨まれた。
そんなに強い酒でもないのに、この店の酒が原因で事故でも起こったら、公爵は店主の責任を追及するだろう。
俺は運ばれてきた料理をさっさと平らげると、リーナをおぶって外に出た。
近くにあった広場のベンチに2人で腰かけて、溜息をつく。
「はぁー」
平和といえば平和なんだが、地元に戻ってきてから、負の感情しかぶつけられてない現状に辟易とする。リーナが一緒だったから俺は耐えられたが、リーナにとっては良くない思い出になったかもしれない。
せっかく2人で出かけたのに、いや、道中まではまだ楽しかったんだけどな。
どうにかしてリーナを喜ばせてやれないかな。
可愛い俺のリーナ。
酔った彼女が俺の肩に寄り掛かってくる。
転移魔法で一度屋敷に戻るのも選択肢だ。
戻ってくるのが早すぎるとエレナは呆れるかもしれないが、こっちの方じゃ大した宿泊施設もないだろう。
ボーっと日が暮れつつある空を眺めてたら、「お兄様?」と声をかけられた。
二度と会うことはないだろうと思っていた妹が、呆然と立ちすくんでいた。
「どうしてアメリーが一人で……」
「私は魔法が得意だから、一人でも出歩けるんです」
「そうだったのか。俺達は邪魔だろうから行くよ」
「待ってください」
深呼吸を何度か繰り返してから、妹は言葉を紡いだ。
「お父様から聞いたんですけど、記憶を失くしたというのは本当なんですか?」
記憶を失くしたというのは、厳密には嘘になる。
『最初から記憶が無い』が正解だ。
最大の当事者である彼女には、真実を打ち明けるべきかもしれない。
「本当のことを話してもいいが、信用される自信がない」
「でしたら、ローライで聞かせてください。あちらでなら、嘘はつけませんよね?」
「分かった。ならば、転移魔法を使おう」
「そんな魔法があるんですか?」
「聖剣の力を借りれば使える。俺が信用できないならここで全てを話すが……」
「いいえ。真実だという確証を持って話が聞きたいと思います。私もローライに連れていってください」
「分かった。ならば一緒に行こう」
聖剣の力を借りて転移する。
転移先は、ローライの教会だ。
静謐な雰囲気の礼拝堂は、今は俺達しかいない。
「少し待っててくれるか? アメリーが加護を受けられるよう司教と交渉してみる」
言って、俺は司教の執務室に転移し、鐘を鳴らすよう交渉した。
救世主の願いを断るような教会関係者はいない。
あっさり希望は通り、妹も加護の対象になった。
諸々のやり取りを終えて礼拝堂に戻る。
「何から話すべきかな。まず、俺はアシルの身体をもらいうけた異世界人だ。本当の名はミトという」
「異世界の方? だったら、私の兄はどこに……」
「それは女神にしか分からないことだ。俺は魔神王を打ち倒す為に異世界から転生してきた。転生先は君のお兄さんの身体で、それ以上のことは分からないんだ」
「あなたは、偶然兄の身体を与えられた他人ということですか?」
「そうなるな。信じがたい話だとは思うが」
アメリーが小首を傾げる。
「あの、あなたは罪を犯してないのに謝罪にきてくださったんですか?」
「記憶を失くしたのはこちらの都合だ。アシルの名を継いだ時に、罪も背負うと決めたんだ」
「兄とは違って真面目な方なんですね。それでも、私はあなたが嫌いです。その顔が、声が、私にとっては苦痛なんです」
幼い少女の言葉に胸が痛む。アメリーが受けた苦痛を思うと、何とも言えない気持ちになった。
「先程、リーナ様は安心してお兄様に寄り掛かっていました。今の関係性を見てれば、あなたが別人だということには頷けます。それでも、私はあなたがアシルという入れ物に入っている限り、反射的に怒りを抱いてしまいます」
「許してほしいとは思わない。俺が君にしてあげられることは、お兄さんの代わりに恨まれてやることだけだ」
初めて、本気でアシル・カバネルのことを許せないと感じた。
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