12 / 12
エンディング
しおりを挟む
結界によって魔王が葬られた後、世界には信じ難い変化が起こった。
魔王が破壊したはずの街並みが、人間達が、一部世界へ戻ってきたのである。
レールディアの父母は戻ってこなかったが、世界への帰還を果たした人々は、一様に聖女の奇跡だと褒め称えていた。
「いったい何が起こったのでしょうか」
「……魔王の正体は魔法だったからな。こういうことも起こりうるのだろう」
全てが片付いた後、元の日常と変わらず畑を見ていた聖女、レールディアにユージンは自分の考えを伝える。
「魔法、とりわけ古い魔法はデタラメなモノが多い。因果と過程と結果の順番が入れ替わって、壊れたモノが戻ってくることもあるということだ」
「でも、戻ってこれない方もいたのね……」
「消えた人間は普段から愛想が悪く、周囲に対して攻撃的だったらしい。世界が、彼らが戻ってくることを拒絶したのかもな」
「じゃあ、その人達……」
「今も魔王の胃袋の中かもしれない」
……沈黙。
「がおー」
「ユージン様?」
「……何でもない」
照れくさそうにするユージンが可愛く見えて、レールディアは抱き着いた。
「おい、何だ」
「ユージン様と一緒に過ごせて嬉しいです」
「可愛い奴だな。……これからもずっと一緒に居させてくれ」
事件の後、教会から聖女認定されたレールディアを、王都へ戻すようにという声も上がっていた。
しかし、ユージンは王都が魔王に攻め込まれた際、彼らを辺境へ受け入れたことを理由に、それらの要求を突っぱねたのだ。
賢王クードリファが聖女を王都へ移すべきではないと判断したこともあり、ふたりは今までどおりに悠々とスローライフを送っていた。
「お前は優しい、いい女だ。お前がいなかったら俺も優しさなんて持ち合わせないまま、魔王に喰われて戻ってこなかったかもな」
「そんな未来は嫌です」
「ああ、そうはならなかった。お前のお陰だ」
「……私なんてどこにでもいる普通の女ですよ?」
「それが、俺には愛しい。きっとこの世界だって、お前みたいな普通の人間を愛しているはずだ。才能なんかなくとも。人として当たり前の優しささえあれば、俺たちはここにいてよかったんだ」
二人は手を繋いで屋敷へ戻っていく。
子供を連れた領民とすれ違い、笑顔でレールディアが手を振ると、嬉しそうに振り返される。
「いつか俺達にも欲しいな」
「ふふ、そう遠くない未来に見れるかもしれませんよ?」
「どういうことだ?」
「ユージン様との愛の結晶が、ここにいる気がするんです」
ユージンが突然、膝が汚れるのも気にせずしゃがみだして、レールディアのお腹に耳をあてる。
「まだ気のせいかもしれませんよ?」
「……いたらいいな。俺たちの子が」
ユージンが土を払って立ち上がった。
「そういえば、お前の妹が学園での研究成果を持って会いに来たいと言ってたぞ。誰も研究してない土壌と魔法の関係性について調べているらしい。学園では馬鹿にされているが、すごい成果なんだと手紙で息巻いていた」
「ふふ、すっかり甘えるようになってしまって」
あの時、レールディア以外の全員が、アズナの処刑に賛成した時、レールディアだけが懇願し、もしも妹の口から謝罪の言葉が聞けたら、見逃して欲しいと頭を下げていたのだ。
結果的にアズナは姉に謝罪し、彼女を生かす結果につながった。
「ユージン様は反対ですか? 私が妹と親しくすることに」
アズナは深く反省し、自分を生かした姉に恩を返そうと真剣に学問に取り組んでいる。
ユージンはアズナのことを思い、「さあな」と呟く。
「お前が妹だけではなく俺のことも構ってくれるなら構わないが」
「私の一番はユージン様ですよ」
「俺もだ。お前と、お前が将来産んでくれる俺の子以上に大切なものなどない」
硬く手を握り合う。
見渡す限り何もない、快晴の空がふたりの世界を見守っているようだった。
魔王が破壊したはずの街並みが、人間達が、一部世界へ戻ってきたのである。
レールディアの父母は戻ってこなかったが、世界への帰還を果たした人々は、一様に聖女の奇跡だと褒め称えていた。
「いったい何が起こったのでしょうか」
「……魔王の正体は魔法だったからな。こういうことも起こりうるのだろう」
全てが片付いた後、元の日常と変わらず畑を見ていた聖女、レールディアにユージンは自分の考えを伝える。
「魔法、とりわけ古い魔法はデタラメなモノが多い。因果と過程と結果の順番が入れ替わって、壊れたモノが戻ってくることもあるということだ」
「でも、戻ってこれない方もいたのね……」
「消えた人間は普段から愛想が悪く、周囲に対して攻撃的だったらしい。世界が、彼らが戻ってくることを拒絶したのかもな」
「じゃあ、その人達……」
「今も魔王の胃袋の中かもしれない」
……沈黙。
「がおー」
「ユージン様?」
「……何でもない」
照れくさそうにするユージンが可愛く見えて、レールディアは抱き着いた。
「おい、何だ」
「ユージン様と一緒に過ごせて嬉しいです」
「可愛い奴だな。……これからもずっと一緒に居させてくれ」
事件の後、教会から聖女認定されたレールディアを、王都へ戻すようにという声も上がっていた。
しかし、ユージンは王都が魔王に攻め込まれた際、彼らを辺境へ受け入れたことを理由に、それらの要求を突っぱねたのだ。
賢王クードリファが聖女を王都へ移すべきではないと判断したこともあり、ふたりは今までどおりに悠々とスローライフを送っていた。
「お前は優しい、いい女だ。お前がいなかったら俺も優しさなんて持ち合わせないまま、魔王に喰われて戻ってこなかったかもな」
「そんな未来は嫌です」
「ああ、そうはならなかった。お前のお陰だ」
「……私なんてどこにでもいる普通の女ですよ?」
「それが、俺には愛しい。きっとこの世界だって、お前みたいな普通の人間を愛しているはずだ。才能なんかなくとも。人として当たり前の優しささえあれば、俺たちはここにいてよかったんだ」
二人は手を繋いで屋敷へ戻っていく。
子供を連れた領民とすれ違い、笑顔でレールディアが手を振ると、嬉しそうに振り返される。
「いつか俺達にも欲しいな」
「ふふ、そう遠くない未来に見れるかもしれませんよ?」
「どういうことだ?」
「ユージン様との愛の結晶が、ここにいる気がするんです」
ユージンが突然、膝が汚れるのも気にせずしゃがみだして、レールディアのお腹に耳をあてる。
「まだ気のせいかもしれませんよ?」
「……いたらいいな。俺たちの子が」
ユージンが土を払って立ち上がった。
「そういえば、お前の妹が学園での研究成果を持って会いに来たいと言ってたぞ。誰も研究してない土壌と魔法の関係性について調べているらしい。学園では馬鹿にされているが、すごい成果なんだと手紙で息巻いていた」
「ふふ、すっかり甘えるようになってしまって」
あの時、レールディア以外の全員が、アズナの処刑に賛成した時、レールディアだけが懇願し、もしも妹の口から謝罪の言葉が聞けたら、見逃して欲しいと頭を下げていたのだ。
結果的にアズナは姉に謝罪し、彼女を生かす結果につながった。
「ユージン様は反対ですか? 私が妹と親しくすることに」
アズナは深く反省し、自分を生かした姉に恩を返そうと真剣に学問に取り組んでいる。
ユージンはアズナのことを思い、「さあな」と呟く。
「お前が妹だけではなく俺のことも構ってくれるなら構わないが」
「私の一番はユージン様ですよ」
「俺もだ。お前と、お前が将来産んでくれる俺の子以上に大切なものなどない」
硬く手を握り合う。
見渡す限り何もない、快晴の空がふたりの世界を見守っているようだった。
16
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(6件)
あなたにおすすめの小説
【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?
咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。
※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。
※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。
※騎士の上位が聖騎士という設定です。
※下品かも知れません。
※甘々(当社比)
※ご都合展開あり。
妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~
サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――
辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~
サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――
【完結】巻き戻したのだから何がなんでも幸せになる! 姉弟、母のために頑張ります!
金峯蓮華
恋愛
愛する人と引き離され、政略結婚で好きでもない人と結婚した。
夫になった男に人としての尊厳を踏みじにられても愛する子供達の為に頑張った。
なのに私は夫に殺された。
神様、こんど生まれ変わったら愛するあの人と結婚させて下さい。
子供達もあの人との子供として生まれてきてほしい。
あの人と結婚できず、幸せになれないのならもう生まれ変わらなくていいわ。
またこんな人生なら生きる意味がないものね。
時間が巻き戻ったブランシュのやり直しの物語。
ブランシュが幸せになるように導くのは娘と息子。
この物語は息子の視点とブランシュの視点が交差します。
おかしなところがあるかもしれませんが、独自の世界の物語なのでおおらかに見守っていただけるとうれしいです。
ご都合主義の緩いお話です。
よろしくお願いします。
婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?
鶯埜 餡
恋愛
バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。
今ですか?
めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?
もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?
当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。
ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。
対して領民の娘イルアは、本気だった。
もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。
けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。
誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。
弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。
【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです
果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。
幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。
ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。
月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。
パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。
これでは、結婚した後は別居かしら。
お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。
だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。
王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!
奏音 美都
恋愛
ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。
そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。
あぁ、なんてことでしょう……
こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
感想いただき感謝ー! ホントに読んでいただけるなんて!
書いてるうちに悪役に感情移入しちゃって、救いをあげちゃうことが多々あるかもです。
商業作品とかだと悪癖になっちゃいそうですが、趣味で書いてるのでいいかなと思っちゃってます。
ただ、自分のなかで悪役として許されるボーダーラインがあるので、それを超えると……って感じですね(笑)
初めてプロットを準備して書いた短編なので、綺麗めにできて良かったです。
前回の感想で一単語に拘ってしまってごめんなさいです
でもお陰で変に考え込む事無く、読み進めるようになりました!
盛り上がった土の分、下がれば穴になるのか、うん、物理的に正しいな、などと考え込んでしまったが為、誤字です!と言いきれなくて。ほんと、すいません&対応ありがとうございましたm(_ _)m
お話的に、最後の最後での死を覚悟した妹のひと言、良かったです。
姉様は辺境の地で旦那様と仲睦まじく暮らしてくんだろうなぁと伺えて、ホッコリしました。
♡ ( ๑⃙⃘ˊᵕˋ๑⃙⃘ ) ♡ハッピーエンドが良いです。
いえ、ご指摘本当にありがたかったです!
教えてもらわなかったら今後もどこかで隆起させてたかもしれないので!
しかも読み直していただいたみたいで、本当に助かります。
ありがとうございます。
死を覚悟した妹のシーン読み直したら、説教してた騎士さんは年配で、娘がいる父親だったのかなぁとか思いました。
なるべく生かしたいから説教した上でひと言を絞り出させたのかなぁと(妄想)
どちらにせよ、不真面目な騎士にあたらなくて良かったですね。
やっぱりハッピーエンドがいいです。
初めはどうなる事かと思いましたがあっというまにラブラブカップルに
しかも本当に悪い人=屑親以外が幸せな終わりでほっこりしました!
感想ありがとうございます!
親を除けば根は悪い人達じゃなかったので、救いのある話になりました。
ほっこりしていただいて嬉しいです。
今後も救いのある話を書きたいなって思ってます。ありがとうございます。