先生と生徒のいかがわしいシリーズ

夏緒

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①先生とイケナイ授業、する? 1

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 ごつん、と保健室の長テーブルに額をつける。木製の丸椅子は硬い。五限目の始まるチャイムが聞こえる。
 換気のために半分だけ開けられた窓からは気持ちのいい風が入り込んでくる。そして長テーブルの上に置かれた、消毒アルコールを含んだ小さな綿球たちの匂い。オレは透明な瓶から漏れ出てくるこの匂いが好きだ。保健室~、って匂いがする。

「こぉら、橋本くん。早く教室に戻りなさーい。授業が始まっちゃうわよ」
 動きたくないオレの横に立って、佐々木先生はいつもの少し低い声で話しかけてくる。目をうっすら開けると、視界の端に先生のふんわりした茶色っぽい地味な色のスカートが見える。膝が隠れている。でも駄目だ先生、オレは今動きたくない。
「先生駄目だ、オレはもうここから一歩も動けない」
 長テーブルに額をつけたままそう言うと、佐々木先生は「なぁに言ってるの」、とオレを軽くあしらった。
「元気なんでしょ。失恋の心の傷は保健室では治せないの。ほら、教室に帰った帰った」
 ぽんぽん、と細い手で背中を叩かれたが、オレはどうしても教室に戻る気にはなれなかった。
「だってオレもう桜井と顔を合わせることなんて出来ないよ先生」
「そりゃあ、エッチに失敗して振られて気まずいのは分かるけど、でもそんな理由で授業をお休みさせるわけにはいかないわよ」
 ひでぇ先生だ、そんなにさらっと傷をえぐるようなことを言わなくても……と思いながら顔を上げると、佐々木先生は困ったように眉尻を下げてオレのことを見ていた。むっちりとした胸もと。くちびるの左下にあるエロ黒子がいつも目に留まる。
「ね~え~、頼むよ先生。五限目だけ。六限目はちゃんと戻るから」
「もう、仕方ないなぁ」
 昼休憩から続けた泣き言が効いたのか、佐々木先生は諦めたように軽く溜め息を吐いた。
「五限目だけだからね。あと、ちゃんとここでも勉強すること。授業なに? プリントをコピーしてきてあげるから。英語?」
 うちの保健室には各教科の資料が揃えられている。オレみたいな教室に戻りたくないやつがここでも勉強できるようにと、各学年、各教科ごとのほとんどの資料が印刷用に置いてある。佐々木先生はオレから離れてその棚をごそごそと触りだした。
「違う、世界史。でも先生、オレ多分やらないよ。保健体育の授業やって」
「保健体育? 杉崎先生、呼んできてあげようか?」
「違うって! やだよ! あの先生すげえ怒るもん! 佐々木先生が性教育やってよ、性教育。オレ、そんなに下手なのかなあ……」
 ああ、思い出したらまた悲しくなってきた。昨日の桜井の声が頭のなかに蘇る。

「いたい! きもい! ……ごめん橋本、あたしやっぱ無理だわ」

 そんなん言われたら、オレだってもう無理だわ。
 どうすんのオレのこのめった刺しにされたメンタル。あいつ、ぜってぇ今日周りの女子に言いふらしてんじゃん。こっちを見る目でわかんだかんな。くそ、傷つくわ。

 オレの沈黙をどう捉えたのか、佐々木先生はしばらく考え込むみたいに黙ってから、二年の世界史のプリント原本を片手にこっちまで戻ってきた。
 長テーブルを挟んだ向かい側の丸椅子によいしょ、と座って、やれやれと微笑む。
「別にいいじゃない、一回失敗したくらい。次の彼女を作ったら?」
「簡単に言わないでよ、オレだって一応それなりに桜井のこと、ちゃんと好きだったんだからさあ。そんなにすぐに切り替えられるわけないじゃん」
 長テーブルに腕を投げ出してふてくされると、佐々木先生は一つ結びにしてある長い髪の毛先をちょっと触りながら、
「どうせ急にがっついて嫌がられたんじゃないの? そしたら、謝ってもう一度させてもらったら?」
と、先生らしからぬアドバイスをしてきた。
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