捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希

文字の大きさ
43 / 67

ヨナリウスは、世界一強いというおじさんと、母様に会いに行きます。

しおりを挟む
 混乱する周りをよそに、コンラッドとヨナリウスの会話だけが、先へ進んでいく。

「その前にヨナリウス。一つ確認しておきたいことがある。」

「な~に~?」

「この前みたいに、また黙って出てきたんじゃないよな?」

 公爵の問いに、ヨナリウスははっとし、思わず口をつぐむ。

「その様子じゃ、またやったんだな?」

「ごめんなさい……。」

 しょんぼりとうなだれるヨナリウス。

 そんなヨナリウスの頭をコンラッドはやさしくポンポンとたたき、一人の若い騎士を手招きで呼び寄せた。

「どうされましたか?」

「悪いが、このダンジョンを出たら、すぐにこの子の家に行って、事情を話してきてほしい。すべては私が責任を取ると。」

「公爵はこの子の家がどこにあるのか、ご存じなのですか?」

「ああ。そうだったな?ヨナリウス、家はどこだ?」

「うんとね~、へんきょうはくさまのおうち。」

「辺境伯様? ああ、ローウェン・ヴァレン辺境伯様のことですね?」

「そう! そうなの!」

 『正解~!』と言わんばかりに、ヨナリウスが声を上げた。

「でも俺、場所を知りませんよ?」

「きっと、知り合いとかが探しているはずだ。そいつらに聞けばいい。」

「はあ……」

 命令された騎士は、不安そうな顔をしていた。

「では早急にこのダンジョンを抜け出し、王都へ向かおう! ヨナリウス、ダンジョンの外まで案内できるかな?」

「うん!できるよ!」

 ヨナリウスは、公爵の腕の中からぴょんと、飛び出し、ミー君のもとへととと……と駆け出した。

「ミー君、母様のところに行こう!」

 嬉しそうに自分にまたがるヨナリウスを見て、ミー君は首を振り、土を揺らすように、身体をくねらせて、うれしそうに答えた。

 しかし、いつもならすぐに出られるはずのダンジョンを、今回に限り、なかなか出ることができなかった。

 ミー君が消臭していないところでは、まだあの悪臭が漂っていたからだ。

 悪臭を消しながら先頭を行くミー君めがけて、というよりも匂いのしないこちらの一行めがけて、次々と襲いかかる魔物たち。

 彼らは必死だった。
 美味しい空気を求めて。

 しかし。

 行き着く先で、彼らは次々とドロップ品に姿を変えていく。

「今日はこの辺りで野営をしよう。」

 公爵の指示で仕方なく、ダンジョン内で一泊することとなった。
 ドロップ品のおかげで、食事の材料は豊富にある。

 新鮮なお肉の入った美味しい夕食を食べ、彼らは英気を養った。

 結局ダンジョンから出られたのは、翌日の昼前だった。

 そして今は、いつもフリーダム一行と休憩する広場で、使節団一行とヨナリウスは、お昼ご飯を食べている。
 魔法庁が開発した、長期遠征時にも携帯可能な固いパンと、乾燥野菜に粉末状にしたスープの素のような粉を入れて作ったスープだ。

 ちなみにスープの中には、昨日ダンジョン内でゲットした、ドットラビットの肉が入っているため、いつもの薄味スープよりは、味がしっかりしている。
 
「ヨナリウス、君は食べ盛りなのに、昨日から同じ物ばかりですまないな。」

「ぼくだいじょうぶだよ。ぜいたくはしょみんのてきなの。」

 固いパンをスープに浸して柔らかくし、それに昨日ミー君がたくさん採ってくれた蜂蜜をたっぷりつけ、小さい口をまるで子リスのように、はぐはぐ動かしながら、必死に食べていた。

 その様子を使節団一行は、微笑ましい様子で眺めながら食事を取っていた。

「癒やされる……。」

「この姿だけなら、見ていたい……。」

 周りはヨナリウスのかわいらしさに、メロメロであった。

 食事が終わると、今後の予定について軽い打ち合わせが始まった。
 
「ヨナリウスは、ここからどう行ったら、王都に行けるか分かるかな?」

 コンラッドの質問に、ヨナリウスはその小さな腕を胸の前で組み、うーんとうなりながら考えた。

「かわいい……」

「かわいいけど、公爵……」

「ミニチュア公爵……」

 周りの生暖かい目に見守られながら、ヨナリウスは一生懸命考える。

 そして。

「ミー君!」

 自分の背もたれになってくれているミー君に呼びかけた。
 ミー君は「な~に?」と言いたそうに、あるかどうかも分からない耳を向けるように体を折り曲げ、ヨナリウスの顔のそばへと自分の上半身を持ってきた。

「あのね……」

 ヨナリウスには、そんなことまで分かっているのだろうか。
 耳があるであろう場所に顔を近づけ、手を添えて、こそこそと話している。

「ジェントワームに耳ってあったっけ?」

「あの位置が耳なのか?」

 一行が首をかしげている中、ヨナリウスの声がした。

「ミー君なら、これでわかるかなって。」

 ヨナリウスとミー君が、見つめ合っている。
 ミー君は一瞬動きを止めたかと思うと、上半身をブンブンと上下に振り、突然、土の上に自分の頭の上部をこすりつけ、匂いを嗅ぐような仕草をして、うろうろとし始めた。

「ヨナリウス、ミー君は何をしているのかな?」

 シュバリエ皇国使節団一行全員が思っているであろう疑問を、コンラッドが代表して質問した。

「えっとねー、においをかいでいるの~。」

「におい?」

「母様のにおいを追いかけたら、おうとに着くかなーって思ったの。」

 ヨナリウスは、コンラッドを見上げて言った。

「そ、そうなのか?」

 コンラッドは困惑した。
 ジェントワームにそんな機能が備わっているなど、聞いたこともない。
 魔法庁から借りた魔法士たちに視線を送るも、彼らも知らないとばかりに両手を挙げ、首を左右に振る。

「ジェントワームに、鼻があるのか?」

「嗅覚があるのか?」

「なのに、なんであんな悪臭を放てるんだ?」

 使節団一行は、ますます困惑の沼に引きずり込まれていく。

 しばらくの間。
 一行は物珍しそうに、ミー君の動きをただ眺めていた。

 ミー君は、何かを確かめるようにその動きを繰り返した後、急にヨナリウスの元へと戻ってきた。

「ミー君、わかったの?」

 ヨナリウスの質問に、ミー君は首を上下に激しく振った。

「ミー君、わかったって。これで母様のところに行けるね!」

 ヨナリウスは、よほど嬉しかったのか、満面の笑みをコンラッドに向けた。

「では、そろそろ出発しようか。早くしないと、日が暮れてしまう。」

 コンラッドの一言で、使節団一行は再び動き出した。
 ヨナリウスはミー君にまたがり、使節団を先導するかのように、一番前を走っている。

「ジェントワームって、移動速度がこんなに速いものでしたっけ?」

「普通は、地中に穴を掘って移動するのだが……」

 背中に大量の蜂蜜をのせたリュックを背負い、その上、ヨナリウスまで乗せているミー君。
 しかし、その重さをものともせず、馬がやっとのことで追いつける勢いで、どんどん前に進んでいく。

 が、突然。
 ミー君が、その場にピタリと止まった。

「どうしたんだ?」

 コンラッドが馬を下り、ミー君の元へと駆け寄る。
 そこには、睡魔に負け、眠ってしまったヨナリウスの姿があった。

「昨日から、いろいろあったからな。」

 苦笑するコンラッドは、そのままヨナリウスを抱き上げた。

「まだ、こんなに小さいもんな。」

 見た目には、二、三歳くらいなのだろう。
 コンラッドを含め、使節団一行はそう思っていた。

 ヨナリウスは、普通の四歳児よりも一回り小さかった。
 ウィリアムと並んでも小さく、よく弟に間違われるくらいである。

 コンラッドは、そのまま魔法士たちの乗っている馬車に乗り込むと、ヨナリウスを自分のすぐそばに寝かせ、羽織っていたマントを体に掛けて、

「トン……トン……」

 と、無意識に一定のリズムで、起こさないように優しくその小さな背中に触れていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの

鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」 そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。 ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。 誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。 周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」 ――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。 そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、 家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。 だが、彼女の予言は本物だった―― 数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。 国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、 あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。 「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」 皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、 滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。 信じてもらえなかった過去。 それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。 そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。 ――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

七年目の裏切り 〜赴任先の夫から届く愛の手紙は、愛人の代筆でした〜

恋せよ恋
恋愛
「君は僕の最愛だ。もう二度と、君を危険に晒したくない」 命懸けの出産後、涙を流して私を抱きしめた夫ジュリアン。 その言葉通り、彼は「私を大切にするため」に夜の営みを断った。 私は、女としての寂しさを「愛されている誇り」に変え、 隣国へ赴任した夫を信じて二人の子供と家を守り続けていた。 毎週届く、情熱的な愛の手紙。タイプライターで綴られた その愛の言葉を、私は宝物のように抱きしめていた。 ……しかし、その手紙は「裏切り」だった。 夫が異国の地で、愛人と肌を重ねながら綴らせていた「偽りの愛」。 身分を隠して夫の赴任先の隣国へと向かった私が見たのは……。 果たして、貞淑な妻・メラニアが選んだ結論は……。 子供たちのため結婚生活の継続か、それとも……。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

処理中です...