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追い詰められたコンラッドは、最終兵器に手を出します。
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「そのリョウタ・アメミヤ様は――シュバリエ皇国の使節団の皆さんならご存じであろう。ヴァーミリオン公爵夫人、ユリアーナ様のご先祖にあたる方である。……そのご縁で」
「え? じゃあ、お前も?」
シュバリエ皇国、ヴァーミリオン公爵騎士団の一人が、ある騎士へ視線を投げた。
「……まあ。実は、そう……なんだけど……」
歯切れの悪い返事。
「そういえばお前、アメシリア侯爵家の分家じゃなかったっけ? ユリアーナ様のこと、分かるよな!」
誰かの一声で、その騎士――ウェルナー・サイオンの周りへ、ほかの騎士たちまで押し寄せた。
まるでこの状況を解決してくれと言わんばかりの、期待の視線が突き刺さる。
「無理だって! ユリアーナ様は侯爵家だけど、うちは貧乏男爵家だぞ。血縁ったって、すごく薄いんだ。たぶん俺も――ほかの親戚だって、ユリアーナ様には会ったことがないはずだぞ? 第一――ユリアーナ様の父上は社交界に妹君のシャトレーゼ様を連れてきても、姉君であるユリアーナ様は一度も表に出さなかったはずだし。」
「……あの方か。」
騎士のひとりが、顔をしかめて吐き捨てる。
「勘違いが過ぎる。人を値踏みして、気に入らなければ平然と嘲る――」
「母君と二人で、好き放題していたって噂もあったな。品がないと。」
「元より学さえも怪しいものだしな……」
「常識無かったもんな……あの親子……」
その頃を思い出しているのだろうか。
みな、あきれかえってような顔をしている。
「身の程を弁えろ、って、陰で言われてた。……声に出す勇者はいなかったが。」
「貴族界隈じゃ、嫌われ者で有名だったからな。」
「『鏡を見てから出て来い』って、男連中にまで避けられてたって話もある。」
――だからこそ、皆が続けてこう言うのだ。『姉君はまるで違った』と。
(シャトレーゼって……そんなに)
初めて知る“元義妹”への評価に、ユーリは言葉を失った。
憎いとか、ざまあみろとか――そういう感情が、うまく湧いてこない。
ただ、胃の奥が重い。
「侯爵も婿養子のくせに、実の娘のユリアーナ様は放置で、愛人の子ばかり可愛がっていたって……」
「実は、ユリアーナ様の母君は侯爵に殺されたんじゃないかって……」
だからこそ、あの家で“まとも”だった二人が消えた理由も、皆うすうす察していた。
「ああ。聞いたことある。愛人の子がユリアーナ様と、2ヶ月しかお年が変わらないからだろう?」
「そうだよなあ。侯爵程度の男が、ユリアーナ様の母君のような美しくて聡明な人と結婚できるなんておかしいって、噂だったもんな……」
(すごい! その推理、当たっています!)
あながち貴族の噂もバカには出来ない者だと、このとき、ユーリは不覚にも感心してしまった。
「……ユリアーナ様の母君と、その父君だけは別だったな。悪く言うやつを見たことがない。」
「確かに。いつも穏やかで誰に対しても平等だったって、有名だったもんな。」
「使用人の名まで覚える方だったって話だ。」
「何故か突然、社交界から姿を消してしまったけれどな……」
ユーリは、息を吐いた。
――悪く言われていない。
たったそれだけのことが、救いに思えてしまう自分が、情けない。
「侯爵家の金を使い放題で、裏では常に資金繰りに苦労してたって……。」
「あんなにド派手な格好ばかりして、毎日買い物していたらそうなるんじゃね?」
「金銭感覚の麻痺した女は、手がつけられないというしな……」
(……噂って、残酷なくせに、妙に正確なのね)
貴族の噂話など、尾ひれ背びれで出来ているものだと思っていた。
けれど、それが“当たっている”と知ってしまうと、胸の内のどこかが冷える。
「ユリアーナ様は、あの方と違って慎ましかったし、住まわれてる屋敷も驚くほど質素だった。」
「高飛車でもなく、頭ごなしに怒鳴りもしなかったしな。」
「癇癪を起こして、下の者に当たり散らすようなことも、聞いたことがない。」
(……そんなことまで、していたの?)
次から次へと出てくる妹の話は、どれも苦い。
ユーリは、胸の奥でひっそりと頭を下げた。
(知らなかったとはいえ……申し訳ないです)
と。
そう。
ユリアーナは、社交界デビューさえしていない。
――もっとも、実家の援助はほとんどなく、身の回りのことはすべて自分で賄わねばならなかった。
それどころではなかったのだ。
それよりも。
ごちゃつく騎士たちを横目に、ユーリは胸の内で、ぽつりと呟いた。
(……私、親戚がいたんだ)
母にも、祖父にも――聞いたことすらなかった。
母と祖父が死に、仕えてくれていた少数の侍女たちまでもが亡くなり、自分はひとりぼっちだと思っていた。
この地に来て初めて、仲間ができて、家族ができた。
そう信じていたのに――突然現れた「親戚」という言葉に、驚きを隠せない。
だが、感傷に浸る暇はない。
騎士たちはなおも、話を続ける。
この場を――ユーリを救う“証言”を無意識に重ねていく。
「確かに……公爵家へ嫁入りするまでの数日間、俺たちはずっとユリアーナ様の屋敷の警護をしていた。けど、一度もお顔を拝見したことがなかった。」
別の騎士が、そう言って記憶をなぞる。
「だって、閣下がさ。『お前らがユリアーナを見るな! 穢れる!』だの、『ユリアーナが気を遣うだろうが! 近寄るな!』だの……。小さな子供の焼きもちみたいな命令を出すから……。」
「そういえばそのせいで、うちの騎士はほとんど誰も、ユリアーナ様を見たことないんだよな……。」
「遠目なら、あるんだけどな。」
騎士たちは思い出した。
――そういえば、自分たちは主君の命令で、彼の妻であるユリアーナの顔をきちんと拝見したことがない。
「綺麗な銀色の長い髪くらいしか、わからないよな?」
「アメジスト色の瞳と言われても、お顔を拝見したことないし……」
だからこそ、今この場でコンラッドがユーリをユリアーナだと言い張っても、誰も同意できないでいるのだ。
(まさか……あのときの判断が、こんな形で返ってくるとは)
コンラッドは、がくりと肩を落とした。
――だが。
(……待てよ)
彼の脳裏に、ひとつの名が浮かぶ。
「ディーバリー」
「……私なら無駄ですよ、閣下。私がユリアーナ様に近づこうものなら、あなたは今にも斬りかかりそうな目で威嚇してきたじゃありませんか。毎日夫人の世話をしていた侍女たちならまだしも、私だって、間近で拝見したことはありません。――あのとき、あなたが“つまらない独占欲”さえ出さなければ、こんなことには……」
ディーバリーは、まるで「知らんがな」と言わんばかりに、わざとらしく両手を上げて見せた。
「う……」
今度こそコンラッドは完全に、言葉に詰まってしまった。
ディーバリーが何も言わずに目を伏せた。
それが、最終通告に見えた。
ならば――残された道は一つだけだった。
「それでは、国王陛下殿。その秘宝とやらは、すぐに使えるのだろうか?」
もう、その未知なるものに頼るしかなかった。
「急がれる……よな?」
エリオット国王は、チラリとコンラッドを盗み見た。
「ええ。出来ればすぐにでも。」
コンラッドの返事は、力強いものだった。
「では今日、イシャロット帝国の“元”皇族を一掃してくれた礼として、貴殿に特別に貸し出そう。もっとも、あの者たちは自滅しただけだがな。」
「では、『王族生誕の間』にて、すぐに使えるよう、すぐに準備をさせよう。」
そういうと、国王の後ろに控えていた一人が、スーッと前にで出来た。
「では準備が次第、儀式を執り行う。我が国の秘宝――当時、この国へ新婚旅行に来ていた、初代賢者リョウタ・アメミヤが作った発明品名――『親子だっちゅーの!』を使うことを許可する!」
(何か由緒ある、立派な名前なんですよね? ご先祖様……)
秘宝の名前を聞いた途端、ユーリは何故か嫌な胸騒ぎがした。
どんな意味を持つ名称なのかは分からない。
――この世界の言葉じゃないからだ。
ご先祖様が、異国の言葉をそのまま置いていった。
意味を知らない者たちが、音だけを“秘宝”として崇めてきた名前。
(どうか、まともな名前でありますように……)
ユーリは心の底から願うしかなかった。
「え? じゃあ、お前も?」
シュバリエ皇国、ヴァーミリオン公爵騎士団の一人が、ある騎士へ視線を投げた。
「……まあ。実は、そう……なんだけど……」
歯切れの悪い返事。
「そういえばお前、アメシリア侯爵家の分家じゃなかったっけ? ユリアーナ様のこと、分かるよな!」
誰かの一声で、その騎士――ウェルナー・サイオンの周りへ、ほかの騎士たちまで押し寄せた。
まるでこの状況を解決してくれと言わんばかりの、期待の視線が突き刺さる。
「無理だって! ユリアーナ様は侯爵家だけど、うちは貧乏男爵家だぞ。血縁ったって、すごく薄いんだ。たぶん俺も――ほかの親戚だって、ユリアーナ様には会ったことがないはずだぞ? 第一――ユリアーナ様の父上は社交界に妹君のシャトレーゼ様を連れてきても、姉君であるユリアーナ様は一度も表に出さなかったはずだし。」
「……あの方か。」
騎士のひとりが、顔をしかめて吐き捨てる。
「勘違いが過ぎる。人を値踏みして、気に入らなければ平然と嘲る――」
「母君と二人で、好き放題していたって噂もあったな。品がないと。」
「元より学さえも怪しいものだしな……」
「常識無かったもんな……あの親子……」
その頃を思い出しているのだろうか。
みな、あきれかえってような顔をしている。
「身の程を弁えろ、って、陰で言われてた。……声に出す勇者はいなかったが。」
「貴族界隈じゃ、嫌われ者で有名だったからな。」
「『鏡を見てから出て来い』って、男連中にまで避けられてたって話もある。」
――だからこそ、皆が続けてこう言うのだ。『姉君はまるで違った』と。
(シャトレーゼって……そんなに)
初めて知る“元義妹”への評価に、ユーリは言葉を失った。
憎いとか、ざまあみろとか――そういう感情が、うまく湧いてこない。
ただ、胃の奥が重い。
「侯爵も婿養子のくせに、実の娘のユリアーナ様は放置で、愛人の子ばかり可愛がっていたって……」
「実は、ユリアーナ様の母君は侯爵に殺されたんじゃないかって……」
だからこそ、あの家で“まとも”だった二人が消えた理由も、皆うすうす察していた。
「ああ。聞いたことある。愛人の子がユリアーナ様と、2ヶ月しかお年が変わらないからだろう?」
「そうだよなあ。侯爵程度の男が、ユリアーナ様の母君のような美しくて聡明な人と結婚できるなんておかしいって、噂だったもんな……」
(すごい! その推理、当たっています!)
あながち貴族の噂もバカには出来ない者だと、このとき、ユーリは不覚にも感心してしまった。
「……ユリアーナ様の母君と、その父君だけは別だったな。悪く言うやつを見たことがない。」
「確かに。いつも穏やかで誰に対しても平等だったって、有名だったもんな。」
「使用人の名まで覚える方だったって話だ。」
「何故か突然、社交界から姿を消してしまったけれどな……」
ユーリは、息を吐いた。
――悪く言われていない。
たったそれだけのことが、救いに思えてしまう自分が、情けない。
「侯爵家の金を使い放題で、裏では常に資金繰りに苦労してたって……。」
「あんなにド派手な格好ばかりして、毎日買い物していたらそうなるんじゃね?」
「金銭感覚の麻痺した女は、手がつけられないというしな……」
(……噂って、残酷なくせに、妙に正確なのね)
貴族の噂話など、尾ひれ背びれで出来ているものだと思っていた。
けれど、それが“当たっている”と知ってしまうと、胸の内のどこかが冷える。
「ユリアーナ様は、あの方と違って慎ましかったし、住まわれてる屋敷も驚くほど質素だった。」
「高飛車でもなく、頭ごなしに怒鳴りもしなかったしな。」
「癇癪を起こして、下の者に当たり散らすようなことも、聞いたことがない。」
(……そんなことまで、していたの?)
次から次へと出てくる妹の話は、どれも苦い。
ユーリは、胸の奥でひっそりと頭を下げた。
(知らなかったとはいえ……申し訳ないです)
と。
そう。
ユリアーナは、社交界デビューさえしていない。
――もっとも、実家の援助はほとんどなく、身の回りのことはすべて自分で賄わねばならなかった。
それどころではなかったのだ。
それよりも。
ごちゃつく騎士たちを横目に、ユーリは胸の内で、ぽつりと呟いた。
(……私、親戚がいたんだ)
母にも、祖父にも――聞いたことすらなかった。
母と祖父が死に、仕えてくれていた少数の侍女たちまでもが亡くなり、自分はひとりぼっちだと思っていた。
この地に来て初めて、仲間ができて、家族ができた。
そう信じていたのに――突然現れた「親戚」という言葉に、驚きを隠せない。
だが、感傷に浸る暇はない。
騎士たちはなおも、話を続ける。
この場を――ユーリを救う“証言”を無意識に重ねていく。
「確かに……公爵家へ嫁入りするまでの数日間、俺たちはずっとユリアーナ様の屋敷の警護をしていた。けど、一度もお顔を拝見したことがなかった。」
別の騎士が、そう言って記憶をなぞる。
「だって、閣下がさ。『お前らがユリアーナを見るな! 穢れる!』だの、『ユリアーナが気を遣うだろうが! 近寄るな!』だの……。小さな子供の焼きもちみたいな命令を出すから……。」
「そういえばそのせいで、うちの騎士はほとんど誰も、ユリアーナ様を見たことないんだよな……。」
「遠目なら、あるんだけどな。」
騎士たちは思い出した。
――そういえば、自分たちは主君の命令で、彼の妻であるユリアーナの顔をきちんと拝見したことがない。
「綺麗な銀色の長い髪くらいしか、わからないよな?」
「アメジスト色の瞳と言われても、お顔を拝見したことないし……」
だからこそ、今この場でコンラッドがユーリをユリアーナだと言い張っても、誰も同意できないでいるのだ。
(まさか……あのときの判断が、こんな形で返ってくるとは)
コンラッドは、がくりと肩を落とした。
――だが。
(……待てよ)
彼の脳裏に、ひとつの名が浮かぶ。
「ディーバリー」
「……私なら無駄ですよ、閣下。私がユリアーナ様に近づこうものなら、あなたは今にも斬りかかりそうな目で威嚇してきたじゃありませんか。毎日夫人の世話をしていた侍女たちならまだしも、私だって、間近で拝見したことはありません。――あのとき、あなたが“つまらない独占欲”さえ出さなければ、こんなことには……」
ディーバリーは、まるで「知らんがな」と言わんばかりに、わざとらしく両手を上げて見せた。
「う……」
今度こそコンラッドは完全に、言葉に詰まってしまった。
ディーバリーが何も言わずに目を伏せた。
それが、最終通告に見えた。
ならば――残された道は一つだけだった。
「それでは、国王陛下殿。その秘宝とやらは、すぐに使えるのだろうか?」
もう、その未知なるものに頼るしかなかった。
「急がれる……よな?」
エリオット国王は、チラリとコンラッドを盗み見た。
「ええ。出来ればすぐにでも。」
コンラッドの返事は、力強いものだった。
「では今日、イシャロット帝国の“元”皇族を一掃してくれた礼として、貴殿に特別に貸し出そう。もっとも、あの者たちは自滅しただけだがな。」
「では、『王族生誕の間』にて、すぐに使えるよう、すぐに準備をさせよう。」
そういうと、国王の後ろに控えていた一人が、スーッと前にで出来た。
「では準備が次第、儀式を執り行う。我が国の秘宝――当時、この国へ新婚旅行に来ていた、初代賢者リョウタ・アメミヤが作った発明品名――『親子だっちゅーの!』を使うことを許可する!」
(何か由緒ある、立派な名前なんですよね? ご先祖様……)
秘宝の名前を聞いた途端、ユーリは何故か嫌な胸騒ぎがした。
どんな意味を持つ名称なのかは分からない。
――この世界の言葉じゃないからだ。
ご先祖様が、異国の言葉をそのまま置いていった。
意味を知らない者たちが、音だけを“秘宝”として崇めてきた名前。
(どうか、まともな名前でありますように……)
ユーリは心の底から願うしかなかった。
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