捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希

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まさか、ご先祖様のファンがこんな身近にいたなんて……。

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「……なあ、お前の先祖様のつけただろうあの名前、いったいどんな意味があるんだ?」

「確か異世界人じゃなかったっけ?」

「他国の王族に納めるんだ、なんかこう……神々しい意味のある名称なんだろうな……。」

 ヴァーミリオン侯爵騎士団は、長い廊下を移動しながら、小さな声で話をしていた。
 その瞳は期待に膨らんでいるためか、キラキラと輝いている。

 そしてそれは、ヨルムンド共和国側でも同じだった。
 皆、秘宝を自分の目で見られることに浮き立ち、目を輝かせている。

 儀式を行う『王族生誕の間』と呼ばれる部屋への移動中、皆足取りがとても軽かった。

「あの有名な大賢者様のお作りになった作品が、まさか我が国にもあったとは……。」

 特に喜んでいたのは、なんとローウェンだった。
 感動が大きすぎて、その場で体を震わせ、周りをドン引きさせている。
 彼は、初代賢者リョウタ・アメミヤの信者だった。

 一通り感動に浸りきったローウェンは、突然、クルリと親友エリオット国王に向き直った。

「……なぜ、教えてくれなかったんだ?」

 声も低く、顔は笑顔なのに何故か怖い。

「……それはだな。」

 国王の話によると……。
 
 千年前、この国は王位継承権を巡る争いが絶えなかった。
 王の子でない者まで名乗りを上げ、国が割れかけた時。
 運悪く、新婚旅行にこの地を訪れていた大賢者『リョウタ・アメミヤ』と、聖女『ユキナ・マツシロ』夫妻。

 これをチャンスだとみた一人の男が、行動を起こした。

 本当は王族の血筋を持たない男が、国王の座を得るため、『ユキナ・マツシロ』を強引に自分の妻にしようとしたのだ。

 そうすれば民衆を味方につけ、自分がすんなり国王になれるのだと思ったのだろう。

 しかし、夫である『リョウタ・アメミヤ』がそれを許さなかった。
 
 愛妻家=『ユキナ・マツシロ』以外の女性には、興味が一切無い男である。

 ユキナに求婚した男を見た瞬間、リョウタの心は決まった。

(よし! こいつ消そう!)
 
 と。
 だが。

 心優しいユキナはきっと、自分の行動を諫め止めるだろう。
 そんな生やさしいことでは、この世界を無事に渡っていけないことは、リョウタは重々承知していた。

 そこで考えたのだ。

(こいつ、明らかに王家の血が入っていないんだから、それを証明する道具をここの王家に渡せばいいじゃん?)

 と。

(これで社会的にも、あのバカはこの世から抹消されるだろう……)

 そこですぐさま作り出し、この国の王家に献上したのが、『親子だっちゅーの!』だった。

 その装置を使えば100%の確率で、親子か否かが分かるのだ。
 いつも後継者争いで悩んでいた王族は、大いに喜んだ。

 そして予想通り、ユキナに求婚した男は、王族の血を一滴たりとも引いていなかった。
 母である側妃と、その護衛との、一夜限りの過ちで出来た子だったらしい。

 親子共々断罪され、この国は由緒正しい血筋の男性が、国王に就いたのだという。
 それからこの国では、王族に子が出来ると、必ずこの装置を使って血縁関係を確認するようになったのだ。

「……ただ、あの秘宝を我が王族がもらい受けるには、条件があったんだ……」

「条件?」

 ローウェンは、エリオットの言葉にゴクリ……と唾を飲み込んだ。

「この装置のことを王族以外に漏らさないこと……それが条件だったんだ。」

「なぜ?」

 そんなローウェンに、エリオットは突然、体をピタリとすり寄せた。

「な……」

 慌てて離れようとするローウェンの耳元で、エリオットは小さな声で答えた。

「他国に作れと迫られるのが面倒くさいから! ……だそうだ。」

「……」

 ローウェンは、信仰の対象が急に俗っぽくなった現実を、受け止めきれずにいた。

 その話を偶然にも聞いてしまったユーリは、内心思った。

(どうしよう、絶対にめんどくさがって、適当につけた名前にしか思えない……)

 ユーリは知っていた。
 自分のご先祖である、『リョウタ・アメミヤ』という男は、『ユキナ・マツシロ』に関すること以外は大雑把で適当だった、ということを。

(これが原因で、外交問題に発展しませんように……)

 心の中で神に必死に願った。
 
 そして彼女は確信していた。

(親子鑑定だってきっと、うまくいきそうなところで失敗するはずだ!)

 と。

 なぜなら。
 自分で体験したからだ。

 五年前。
 ターニャ様がくれた、三枚の魔方陣の描かれた紙。
 
 そのご先祖様が作成したという『転移魔法』が施された紙切れは、ユーリの思ってた場所と、異なる位置に移動した。

 そこでゴブリンの群れに囲まれ、死にそうになったのだ。

(まあそのおかげで、フリーダムメンバーと会うことが出来て、幸せな五年間を満喫できたのだけれど)

 その件に関してだけは、ご先祖様に感謝しているユーリである。

(……大丈夫)

 自分に言い聞かせる。
 根拠のない言葉を、無理矢理、口の中で転がす。

(「うっかりのほほんてんねん」――ターニャ様は笑って言った。天才のくせに、肝心なところで――)

 うまくいかない。
 うまくいかないはずだ。
 そうでなければ困る。

 そう信じるしかないのに、心の底のもうひとりが囁く。

(もし、うまくいってしまったら?)

 ――ヨナが、奪われる。

 ユーリの喉がひりついた。
 ヨナリウスの手を握りしめる手に、自然と力が入ってしまう。

「母様?」

 その強さに、ヨナリウスが不安そうな顔で、ユーリを見上げていた。

「ふふ。大丈夫よ。早く疑いを晴らして、おうちに帰りましょうね?」

 ヨナを不安にさせてはいけない……ユーリは必死に笑顔を作った。

「うん。ぼくおうちに帰ったら久しぶりに、母様の作ったクリームシチューが食べたい!」

「ええ。とびっきり美味しいのを作ってあげるわ。」

 自分に対し、無邪気に微笑むヨナリウスを見て、ユーリは心の底から願った。

(失敗しますように! それしか選択肢はありませんからね? ご先祖様……)

 と。

 そして……。

 到着した、『王族生誕の間』へは、ヨルムンド共和国の王族と、ローウェン兄弟が。
 シュバリエ皇国の使節団一行からは、コンラッドと、ディーバリー副団長、そしてユリアーナの親戚筋のウェルナー・サイオンが。

 フリーダムからは、ユーリとヨナリウス、そしてドモンとケイオスが部屋に入ることとなった。

 全員で中に入ると、入り口の扉が、重苦しい音を立てて閉じられた。
 
 部屋の中心に位置する床には、青白く光り輝く巨大な魔方陣が描かれており、その中央に、大理石で出来た台が置いてあった。

 その台の上に、布が被せられた、何かがある。

「では、始めようか。」

 エリオット国王の一言で、布が取り除かれた。

「い、いよいよ拝見できるのだな……」

 ローウェンは興奮して、いつもとは違い鼻息が荒い。

「兄上……落ち着いてください……」

 弟のハーバードが必死になだめる。

 しかし……。

「? これはどうやって使うんだ?」

 姿を表した装置を見てローウェンを初め、その姿を初めて見る者たちは困惑したのだった。
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