月の箱庭

善奈美

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月の箱庭

06 漆黒の書庫

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 グウェンティアは紫の書庫に立ち尽くしていた。あまりの事実に打ちのめされていた。始まりに何が起こったのか、彼女は口を噤むしかなかった。真実は余りに重い。一度のみの閲覧の理由が、グウェンティアにはよく判ったのである。
 
 グウェンティアは優れない顔色で藍の書庫に戻ってきた。音もなく開く扉に二人は視線を向ける。
 
「始まりは判ったのか」
 
 グロウはグウェンティアに歩み寄り、見上げた。グウェンティアは疲れた表情でグロウを見、次いでデュナミスを見た。
 
「神殿へ行く道を教えて」
 
 グロウの質問を無視し、有無を言わせぬ気配で問う。二人は顔を見合わせた。グロウは目を細め、視線を戻す。
 
「何故、神殿なんだ」
「漆黒がいる可能性があるから」
 
 言葉少なく答える。

「貴方も来るのよ。判っているわね。責任は果たしてもらうわ」
 
 デュナミスは小さく息を飲んだ。彼は出ていこうと思えば何時でも出て行けた。あえてそれをしなかったのは、恐怖の為だ。幽閉され外界から遮断され育った彼にとって、いまや塔の外は未知の世界だ。
 
「選択権はないわ。私がそうだったようにね。恨むなら自分を恨んで。痣を持ってしまった自分をね」
 
 グウェンティアはグロウに視線を移す。黒猫は金の瞳を細めたままだった。
 
「貴方は知らない。神殿の入り口を」
「知らないな。私が知らされた入り口は石碑だけだ。それ以上は知らない」
 
 グロウはきっぱりと言った。

 紫の書庫には、その事に関する記憶は存在しなかった。あくまで始まりとそれに伴うものであり、それ以外の記憶はなかったのである。
 
「呆けてないで、しゃんとしなさい。仮にも王子でしょう。知っているのなら、案内しなさい。貴方も行くんだから」
 
 グウェンティアは一喝した。時間を先延ばしにするのは、危険を増やす結果となる。自身もそうであり、この大地に住む全ての者も対象だ。
 
「王は取り込まれたわ。早くしなければ、貴方自身も危ないのよ。判る」
 
 グロウは冷静な視線を彼に向けた。今の言葉が理解出来ないようでは終わっている。

 連れて行ったとしても、自分が何をしなければいけないか、判らないのではないかと思わざるえない。
 
「判るよ。命はないと言いたいんだろう」
 
 デュナミスは静かな声音を発する。判りきった事だからだ。彼自身、王が取り込まれていると感じているのだ。例え、世間の者が死んでいると思っていても、実際は幽閉されているに過ぎない。
 
「水の森の結界と封印にはきちんと対応するよ」
「判っていればいいわ。それで、神殿への道は知っているの」
 
 グウェンティアは問い詰めた。デュナミスは持っていた本をグウェンティアに示した。

「調べていた」
 
 デュナミスはそう言い、本の頁を捲る。中には、石碑に刻まれていた文字で埋め尽くされていた。
 
 グウェンティアは待った。藍の書庫にある書籍は藍の三日月のみが閲覧出来る。もし、グウェンティアが見ようとしても、本は白紙だ。
 
 本を開くと同時に額にある藍の三日月が淡い光を発し始めた。手に持っている本の表紙を文字が横切っているのが見える。堪えず、閲覧者を確認しているようだ。
 
 封印の森もそうであったが、全て、痣を確認する術がかけられている。

「判るの」
 
 デュナミスは顔を上げ頷いた。
 
「漆黒の書庫から行ける」
 
 デュナミスは本を閉じ、所定の位置に戻した。
 
「この場所を始点として、方向は」
「この場所は城を中心に考えると北に位置する。だから、丁度、反対側だ」
 
 グウェンティアは頷き、更に問う。
 
「道は判るわけ」
「君がいればどの扉も開く筈だから、この書庫を出て左右どちらにも道が出来る筈だ」
 
 彼女は額に触れた。何もかもが、三日月に対応している。良く出来た仕掛けだ。痣がなければ、城の地下にある書庫には入れず、本の閲覧も出来ない。おそらく、謎とされている遺跡もそうだろう。いくら調べても謎が解明されない訳である。

「行くわ」
 
 グウェンティアは出口に向かう。それを止めたのはグロウだ。
 
「始まりは判ったのか」
 
 再度、問い掛ける。
 
「判ったわ、でも、私の口からは言えない。それが答えよ」
 
 グウェンティアは背を向けたまま、素っ気なく答えた。
 
「知らない方がいい。知れば、迷いが生まれるわ」
 
 振り返り、デュナミスに視線を向けた。グロウにならば告げても問題はないだろう。魔法生物であるグロウは事実として受け止める。たが、デュナミスは違う筈だ。人の感情は複雑だ。平然と受け止める者もいれば、そうでない者もいる。そんな冒険をグウェンティアはするつもりはない。

「その内、嫌でも判ってくるわ。今はやらなければいけないことをするべきよ」
 
 グウェンティアは額の三日月を壁に向けた。音もなく目の前の壁は消失する。目の前に広がる闇に目か馴れる頃、足を踏み出した。
 
「一つ言うわ。誤解だけはしないで。秘密にするつもりはないけど、今は知らない方がいいってだけよ。貴方は外の世界を知らない。今から、ありとあらゆる現実って情報が入ってくるの」
 
 グウェンティアは淡い光を背にしたデュナミスを見据えた。
 
「大量に流れ込む情報に付いていくだけで精一杯だわ。書物とは違うのよ」
 
 辛辣な言葉を吐き、グウェンティアは洞窟に目を凝らした。

「先と少し違っているようだな」
 
 グロウはグウェンティアの前に歩き出て呟く。
 
「そのようね。前にあった道が消えてるわ」
 
 グウェンティアは気配を探った。嫌な嫌悪感は洞窟内に満ちている。
 
「左は右より嫌な感じがするわ」
 
 率直に告げる。振り返り、デュナミスを見た。
 
「右の道を行くわ。ちゃんとついてきて」
 
 グウェンティアは有無を言わせず歩き出した。デュナミスは慌てて後を追う。今まで、明るい場所で生活していた彼には、殆ど、視界がないといってよかった。よりによって、グウェンティアの服は闇に溶けてしまう。

 グロウが時々、振り返り、両の目が見えて初めて距離が測れた。必死について行くしかなかった。
 
「少し、歩をゆるめた方がいいぞ」
 
 グロウは見るに見かね、グウェンティアに言った。グウェンティアは最初、判らなかったのだが、振り返り理解する。デュナミスの息は明らかに上がっていた。今まで動きが制限されていたのだ。無理もないだろう。
 
「速いかしら」
「彼にとっては速いのではないか」
 
 グウェンティアは溜息をつく。どうしても、デュナミスの力は必要なのだ。

 邪険に扱うのは得策ではない。いざ、必要な時に使いものにならないでは、目も当てられない。
 
「目は慣れた」
 
 グウェンティアはデュナミスに問いかけた。デュナミスは反射的に顔を上げる。だが、目の前にあるのは薄闇でしかない。
 
「すまない。あまり見えていない。少し待ってくれないかな」
 
 グウェンティアは引き返してくる。
 
「体力をつけてもらうわよ。もし、最後までついてくる気があるならだけど」
「ついていくよ。僕は恥ずかしい話、世間においては無知そのものだから」
 
 デュナミスは喘ぎながら言う。

「本当なら、休憩をしてあげたいけど、ちょっと無理よ。また、気配が近付いてきてる」
 
 グウェンティアは後方に視線を向けた。邪悪な気配が着実に近付いてきている。グロウもデュナミスの近くまで寄ってくる。
 
「先のとは違うようだ」
 
 グウェンティアは舌打ちした。追いつかれたくはない。ただでさえ狭く、二人の人間で道は塞がれているに近い。
 
「グロウ、走るわ」
 
 グロウは顔を上げた。無理ではないかと、そんな表情をしている。
 
「はっきり言わせてもらうと、前と同じになりそうよ。しかも、さっきより速い」
 
 グウェンティアはデュナミスの腕を取った。

「申し訳ないけど走るわよ。転ばないように気をつけて」
 
 グウェンティアは走り出す。後方にいた追跡者は、それに気付いたようだ。更に、速度を上げている。
 
 デュナミスもやっと、後方から聞こえてくる音に気が付いた。二人は必死で走った。夜目のきくグウェンティアに手を引かれていなければ、デュナミスは動くことすら出来ないだろう。
 
 グウェンティアは前を凝視し、壁がある事を願った。ここに着いたときと同じ仕掛けがあれば、休むことが出来るからだ。
 
 グロウは二人の後ろから付いていく。時々振り返り、後ろとの距離を計っているようだ。ある程度見極めると、グウェンティアの傍まで近寄る。

「追い付かれる」
「判ってるっ」
 
 グウェンティアは叫び、目の前に現れた壁に手をついた。急ぎ、壁を調べる。目を閉じるとはっきりと判る術の気配。同じ仕掛けだった。
 
 急いで、印を見つけだし、合わせる。慌てて壁から離れると、音もなく視界が開けた。グウェンティアは乱暴にデュナミスを前方に放り、自身も転がり込む。グロウも続いた。
 
 三人が通り抜けると、壁は元に戻った。グウェンティアは安堵の息を吐き出す。デュナミスは驚き、大地に手をついたまま彼女を見た。グロウは壁に視線を向けたままだ。

 数分後……壁に何かが激突する。
 
「よかった」
 
 グウェンティアは息を整えながら呟く。気が付いた事は、安全の為なのか、もしくは、四凶を封じる為か、幾つもの術が施されている事だった。
 
「間に合ったな。運がいいとも言うが」
 
 グロウは現実を口にする。
 
「運も必要っ」
 
 グウェンティアは叫ぶと、デュナミスに視線を向けた。かなり、乱暴に放り投げた。怪我をされたらたまったものではない。
 
「怪我は」
「ないよ。運良くってことなのかな」
 
 デュナミスな立ち上がった。壁の外では今でも何かが、壁を攻撃している。

「とんでもないものが、城の地下にいたようだね。だてに、四凶と言われてないわけだ」
 
 デュナミスはある意味、冷静だった。
 
「千年前に封じるんじゃなくて、抹殺するぐらいしてほしかったわ」
 
 ぼやきながら、まだ、続く道に視線を戻す。どれくらいの距離があるのか、はっきりとしない。地下に潜ってからは時間の感覚もない。それどころか、紫の書庫に入っていたせいか体内時計が狂ってしまったようだった。何時もの彼女なら考えられない事だ。
 
「調子狂うなぁ。今、朝か昼かも判んないし、あの書庫にどれくらいいたかも判んないからなぁ」
 
 グウェンティアは爪をかんだ。

「危険はない筈よ。進みましょう」
 
 三人はとりあえず進んだ。魔術の気配が濃く、あまりいい環境とはいえないが、息をする分には問題はない。
 
「漆黒の書庫は藍の書庫と同じ造りな訳」
 
 沈黙することに馴れてはいたが、情報は必要だ。
 
「紫の書庫以外は同じ筈だよ。閲覧出来るか、出来ないかだけだよ」
「じゃあ、移動するのに使うのは、書庫中央にあった移動陣って訳」
 
 うんざりしたように呟く。
 
「あまりいい移動方法ではないけどね。意識を保ってないと、持っていかれる」
 
 デュナミスの言葉が真実であることは判っている。一度、体験しているのだ。あの感覚は、早々味わえるものではない。

「とりあえず急ぐわ。城の地下にいる魔物にはうんざり」
 
 黙々と歩き続け、どれくらい歩いたのか見当もつかなかったが壁が立ちはだかった。
 
 グウェンティアは呼吸を整える。目を閉じ、魔術の気配を探る。足元にグロウの気配があり、隣にはデュナミスを感じる。そして、左手にある壁にあの気配があった。彼女は目を開き、額の印を壁に合わせる。
 
「覚悟を決めてよ。これからなにが起こるか予測不可能なんだから」
 
 そう告げ、扉は音もなく開かれた。
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