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月の箱庭
12 紅
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グウェンティアは記憶が曖昧だった。荒野の中で旅をし、魔物に襲われた。命をかけるような魔術を使いなんとか倒した記憶が残っている。体力、気力共に使い果たし、その後の記憶がなかった。
「目が覚めたのか」
下の方から聞こえてくる声に、視線を向ける。黒の肢体を持つ、大型の肉食獣が目に入った。
「グロウ」
グウェンティアは確認するように呟いた。改めて、周りをよく見てみる。今、横たわっているのは清潔なシーツのベットの上だ。壁にも布がかけられ、風が吹く度に優しく揺れる。
「此処は、何処なの」
いきなり変わった環境に、頭がついていかなかった。気だるい体が思うように動かない。
「紅の村だ」
グロウは短く答えた。
†††
デュナミスとアシャンティは目の前にいる人物に視線を向けていた。今いる場所は風がよく通る室内だ。木造の建物に布で仕切りを付けている。
「よく、無事に此処まで来れたな。感心する」
目隠しをしている人物は可笑しそうに口を歪めて笑っていた。二人は不愉快な気分になったが、そこは堪えるしかなかった。
赤い髪を後ろで一つに縛っている人物が、どういう存在であるか判っていたからでもあった。前髪から覗く三日月は隠しようがない。
圧倒的な存在感を放っていた。目隠しに使われいる布は絶えず文字が踊っている。アシャンティは見ただけで、文字が持つ意味を理解していた。
「あの魔物は手強い奴だった。何度か手合わせをしたが捕食された者が何人もいた」
彼は腕を組み深刻な口調で言った。
「見ていただけなんですね。僕達が戦っている時に」
デュナミスは非難めいた口調で言った。もし、あの時、手を貸してくれていれば、グウェンティアが倒れる事はなかった筈だ。
彼は溜息を吐いた。何も判っていないデュナミスに対して、呆れているようにも見える。
「手を貸したかったが、無理だった」
彼は大きくはないが、よく通る声で答えた。
「紫は魔術を発動させていた。下手に手を出せば仇になる。紫の使う振動魔術は特殊なものだ。人の手に余るほどの力を持っている。反面、邪魔が入ると魔術の構成がおかしくなってしまう」
彼は見えていない筈の目でデュナミスを凝視しているように感じた。
「お前達が箱庭から出てきたのは、結界と封印の均衡が崩れたためだな」
彼の問いに二人は頷いた。頷くしかなかった。
「目的は紅の三日月か」
彼は呟き、自虐的に笑った。両の目を封印し、長い年月を生きてきた。
紅は預言者の一族でもある。こうなることは判っていたが、実際に目の前に突き付けられると可笑しさがこみ上げてくる。
何より、二人は殆ど判っていない。何のために旅をし、何のために紅の三日月を捜すのか。漠然と結界と封印の為であることは判っているようだが、それ以上は知らないように見えた。
「始まりを知っているのか」
彼は問い掛けた。二人は顔を見合わせる。
「この世界が何故こうなったのか、理由を知っているか訊いている」
少し苛ただし気に吐き捨てた。
「すまない。何も知らないんだ」
デュナミスはうなだれた。知ろうとしたがグウェンティアが拒絶をしていた。短い付き合いだが、性格は把握しているつもりだ。必要以上の情報を語ろうとはしない。おそらく、外の世界を知らずに育った二人に無駄な知識を植え付けないためだったに違いない。
「紫は慎重なのか」
「違うと思います。グウェンティアさんは私達があまりに無知だから、それを懸念したんだと思います」
アシャンティは唇を噛み、両手を握り締め俯いた。
「つまり、紫に訊けば、判るんだな」
彼は少し冷たく言った。両目が塞がっていても視線が冷たいことは判る。
彼は立ち上がると、歩き出す。二人は慌てて立ち上がった。すると、彼は振り返る。
「来なくていい。紫と二人で話したいことがある。休んでおくんだな」
それだけ告げると、さっさと出て行った。取り残された二人は途方にくれたように、床に座り込んだ。
†††
グウェンティアはだるい体を起こし、何とか座ることに成功した。グロウは心配気に視線を向ける。
「無理をしない方がいいんじゃないか」
グロウの問い掛けに、グウェンティアは首を振った。好きで起き上がった訳ではない。気配が近付いているからだ。放たれた気配は、魔術を発動させる時に感じたものだった。
強い魔力を含んだ気配だ。
扉代わりの布が跳ね上がり、一人の人物が入ってきた。赤い髪は腰までの長さがあり、一つに束ねている。かなりの長身で、成人した男性である事は見ただけで判った。額にある紅の三日月が彼女が捜し求めていた人物であると告げていた。
「教えてもらおうか。何故、二人に何も告げない」
入るなり質問を投げつける。グウェンティアは目を細めた。
「貴方は知っているわけね。始まりを」
グウェンティアは静かに言葉を口にのせた。落ち着きを払い、彼を観察する。
魔術を発動させる時に感じた気配は彼であると確信出来た。
「紅の一族は伝え続けていたからな」
グウェンティアは自虐的に微笑んだ。箱庭と呼ばれているあの場所は特殊な空間だ。結界に護られ、少しずつ外の世界を飲み込んでいく。
「私から言うつもりはないわ」
静かに答えた。グウェンティアは見知った事を二人に告げるつもりはなかった。告げる人物は別の者だ。
「何も判らずにいることが最善だとは思えないぞ」
「私はそうは思えないわ。知らずにいる方がいい。自分達の世界が破壊された世界だと、普通の神経を持った者が聞いたら気がふれるわよ」
大きくはない声で告げた言葉は、胸に突き刺さる。
彼はグウェンティアのもとに歩み寄る。隠された目は何かを語っているに違いない。だが、グウェンティアには判らなかった。
「私は好きで此処に来たわけではないわ。はっきり言えば手を引きたいくらいよ」
グウェンティアは素直に言った。本来なら、避けて通るつもりだった。しかし、それが許されない立場でもあった。三日月の痣は生まれたときから使命を突きつけていたからだ。
「貴方には嫌だと言っても来てもらうわ。引きずってでもね」
グウェンティアはきっぱりと言った。
彼は眉を顰めた。紅の予言は外れたことがない。箱庭の中にある遺跡は今回の事が判っていたからこそ造られたのだ。
紅だけが外に出たのは魔眼のせいでもあったが、今回の事を示唆しているせいでもあった。予言の力を持つが故、狙われる可能性があったからだ。
「暗殺されかけたせいか」
彼は問う。グウェンティアは苦笑した。そんな理由ではない。根本的なことだ。
「生まれたこと、それが理由よ」
グウェンティアは言い切った。三日月が生まれなければおそらく、何も起きなかった。しかし、何の因果なのか、グウェンティアに白羽の矢がたったのだ。祖父からも依頼を受け、逃げるに逃げられなくなったのだ。
「早く出発したほうが良さそうだな。一つ訊く」
彼は深刻な口調で問い掛けた。
「何」
「お前は今回の事が無事終わったら、姿をくらませるつもりだな」
単刀直入に訊かれた言葉にグウェンティアは声を出して笑った。紅の予言の力は確かなものだった。
「その通りよ。私は人と関わって生きていくつもりはないわ。今回の事が無事すんだら、消えるわ」
グウェンティアは笑いながら告げた。生まれてから三日月に振り回されるばかりの人生だった。
当事者達はもういない。ただ、血を引き三日月と魔力を継承しただけで全ての責任を背負わせた。彼等に恨み言を言いたいところだが、生きているのは一人だけだ。しかも、その一人も深い眠りの中にいる。
「私はもう、振り回されたくないのよ。何に対してもね」
グウェンティアはグロウに視線を移した。グロウは金色の目を細める。
「訊きたいことがあるわ。名前は」
彼は息を飲んだ。
「私は紫だの藍だのと敬称で呼び合うのは嫌よ。一人の人として名前は必要だわ」
きっぱりと言い切り、視線を戻す。鋭い視線で、彼を射た。
「ゼディスだ」
「じゃあ、ゼディ。目隠しを外して、見せて」
グウェンティアはゼディスが動揺したことが判った。目隠しは魔眼を封印している物だ。不用意に外すことは許されていない。視界に入るもの全てに魔術が発動する。
「確かめたいのよ。魔眼というものを」
グウェンティアは落ち着き払った口調で言った。
「物好きな奴だな」
グロウは気だるげに呟く。魔眼を見たがるなど正気の沙汰とは思えない。魔眼は狂気の魔術だ。意志の力が弱ければ、周りに被害が及ぶ。そのための封印布なのだ。それを外すなど、想像も出来なかった。
「外して」
グウェンティアは更に促す。ゼディスは大きく息を吐き出した。意を決し、封印布に手を掛ける。
露わになった瞳に、グウェンティアは目を細めた。
ゼディスは目隠しを元に戻した。両の目を覆う。
「瞳の色は一緒。でも、猫の目のような虹彩ね」
グウェンティアは平然とゼディスの瞳について感想を述べる。グロウは一度、ゼディスの顔を見たが、直ぐに眠りに入ってしまった。
ゼディスは平然と自身の目を直視したグウェンティアに驚愕した。紫の三日月の持つ魔力は確かに紅の魔力を上回る。だが、魔眼だけは別だ。紅の魔眼は魔力よりも瞳の持つ特殊な力だ。魔力の有無は関係あるがそれだけではない。
「何ともないのか」
ゼディスは声が震えているのが判った。それは紫の三日月の持つ、底知れない魔力にだ。一度だけ見た魔術の発動は強い印象を彼に焼き付けていた。
今まで、何度挑んでも返り討ちにあっていた魔物だ。それを、体力すらあやしい状態で魔術を使い、狙いを間違えずに獲物を仕留めた。強い精神力と意志の力がなければ無理だ。
「目隠しをする必要はないんじゃない。もう、制御くらい出来るでしょう」
グウェンティアは軽い調子で言ってのける。ゼディスは身震いをした。そんな事は考えたこともない。
「はっきり言って、これからはそれを外してほしいわ」
グウェンティアには判っていた。
彼女のいた世界は魔物で溢れている筈だ。目隠しをして対処出来る状態ではないだろう。
「目を隠している場合ではないわ」
グウェンティアは冷たく言い放った。それは、ゼディスにとって未知の世界だった。
「目が覚めたのか」
下の方から聞こえてくる声に、視線を向ける。黒の肢体を持つ、大型の肉食獣が目に入った。
「グロウ」
グウェンティアは確認するように呟いた。改めて、周りをよく見てみる。今、横たわっているのは清潔なシーツのベットの上だ。壁にも布がかけられ、風が吹く度に優しく揺れる。
「此処は、何処なの」
いきなり変わった環境に、頭がついていかなかった。気だるい体が思うように動かない。
「紅の村だ」
グロウは短く答えた。
†††
デュナミスとアシャンティは目の前にいる人物に視線を向けていた。今いる場所は風がよく通る室内だ。木造の建物に布で仕切りを付けている。
「よく、無事に此処まで来れたな。感心する」
目隠しをしている人物は可笑しそうに口を歪めて笑っていた。二人は不愉快な気分になったが、そこは堪えるしかなかった。
赤い髪を後ろで一つに縛っている人物が、どういう存在であるか判っていたからでもあった。前髪から覗く三日月は隠しようがない。
圧倒的な存在感を放っていた。目隠しに使われいる布は絶えず文字が踊っている。アシャンティは見ただけで、文字が持つ意味を理解していた。
「あの魔物は手強い奴だった。何度か手合わせをしたが捕食された者が何人もいた」
彼は腕を組み深刻な口調で言った。
「見ていただけなんですね。僕達が戦っている時に」
デュナミスは非難めいた口調で言った。もし、あの時、手を貸してくれていれば、グウェンティアが倒れる事はなかった筈だ。
彼は溜息を吐いた。何も判っていないデュナミスに対して、呆れているようにも見える。
「手を貸したかったが、無理だった」
彼は大きくはないが、よく通る声で答えた。
「紫は魔術を発動させていた。下手に手を出せば仇になる。紫の使う振動魔術は特殊なものだ。人の手に余るほどの力を持っている。反面、邪魔が入ると魔術の構成がおかしくなってしまう」
彼は見えていない筈の目でデュナミスを凝視しているように感じた。
「お前達が箱庭から出てきたのは、結界と封印の均衡が崩れたためだな」
彼の問いに二人は頷いた。頷くしかなかった。
「目的は紅の三日月か」
彼は呟き、自虐的に笑った。両の目を封印し、長い年月を生きてきた。
紅は預言者の一族でもある。こうなることは判っていたが、実際に目の前に突き付けられると可笑しさがこみ上げてくる。
何より、二人は殆ど判っていない。何のために旅をし、何のために紅の三日月を捜すのか。漠然と結界と封印の為であることは判っているようだが、それ以上は知らないように見えた。
「始まりを知っているのか」
彼は問い掛けた。二人は顔を見合わせる。
「この世界が何故こうなったのか、理由を知っているか訊いている」
少し苛ただし気に吐き捨てた。
「すまない。何も知らないんだ」
デュナミスはうなだれた。知ろうとしたがグウェンティアが拒絶をしていた。短い付き合いだが、性格は把握しているつもりだ。必要以上の情報を語ろうとはしない。おそらく、外の世界を知らずに育った二人に無駄な知識を植え付けないためだったに違いない。
「紫は慎重なのか」
「違うと思います。グウェンティアさんは私達があまりに無知だから、それを懸念したんだと思います」
アシャンティは唇を噛み、両手を握り締め俯いた。
「つまり、紫に訊けば、判るんだな」
彼は少し冷たく言った。両目が塞がっていても視線が冷たいことは判る。
彼は立ち上がると、歩き出す。二人は慌てて立ち上がった。すると、彼は振り返る。
「来なくていい。紫と二人で話したいことがある。休んでおくんだな」
それだけ告げると、さっさと出て行った。取り残された二人は途方にくれたように、床に座り込んだ。
†††
グウェンティアはだるい体を起こし、何とか座ることに成功した。グロウは心配気に視線を向ける。
「無理をしない方がいいんじゃないか」
グロウの問い掛けに、グウェンティアは首を振った。好きで起き上がった訳ではない。気配が近付いているからだ。放たれた気配は、魔術を発動させる時に感じたものだった。
強い魔力を含んだ気配だ。
扉代わりの布が跳ね上がり、一人の人物が入ってきた。赤い髪は腰までの長さがあり、一つに束ねている。かなりの長身で、成人した男性である事は見ただけで判った。額にある紅の三日月が彼女が捜し求めていた人物であると告げていた。
「教えてもらおうか。何故、二人に何も告げない」
入るなり質問を投げつける。グウェンティアは目を細めた。
「貴方は知っているわけね。始まりを」
グウェンティアは静かに言葉を口にのせた。落ち着きを払い、彼を観察する。
魔術を発動させる時に感じた気配は彼であると確信出来た。
「紅の一族は伝え続けていたからな」
グウェンティアは自虐的に微笑んだ。箱庭と呼ばれているあの場所は特殊な空間だ。結界に護られ、少しずつ外の世界を飲み込んでいく。
「私から言うつもりはないわ」
静かに答えた。グウェンティアは見知った事を二人に告げるつもりはなかった。告げる人物は別の者だ。
「何も判らずにいることが最善だとは思えないぞ」
「私はそうは思えないわ。知らずにいる方がいい。自分達の世界が破壊された世界だと、普通の神経を持った者が聞いたら気がふれるわよ」
大きくはない声で告げた言葉は、胸に突き刺さる。
彼はグウェンティアのもとに歩み寄る。隠された目は何かを語っているに違いない。だが、グウェンティアには判らなかった。
「私は好きで此処に来たわけではないわ。はっきり言えば手を引きたいくらいよ」
グウェンティアは素直に言った。本来なら、避けて通るつもりだった。しかし、それが許されない立場でもあった。三日月の痣は生まれたときから使命を突きつけていたからだ。
「貴方には嫌だと言っても来てもらうわ。引きずってでもね」
グウェンティアはきっぱりと言った。
彼は眉を顰めた。紅の予言は外れたことがない。箱庭の中にある遺跡は今回の事が判っていたからこそ造られたのだ。
紅だけが外に出たのは魔眼のせいでもあったが、今回の事を示唆しているせいでもあった。予言の力を持つが故、狙われる可能性があったからだ。
「暗殺されかけたせいか」
彼は問う。グウェンティアは苦笑した。そんな理由ではない。根本的なことだ。
「生まれたこと、それが理由よ」
グウェンティアは言い切った。三日月が生まれなければおそらく、何も起きなかった。しかし、何の因果なのか、グウェンティアに白羽の矢がたったのだ。祖父からも依頼を受け、逃げるに逃げられなくなったのだ。
「早く出発したほうが良さそうだな。一つ訊く」
彼は深刻な口調で問い掛けた。
「何」
「お前は今回の事が無事終わったら、姿をくらませるつもりだな」
単刀直入に訊かれた言葉にグウェンティアは声を出して笑った。紅の予言の力は確かなものだった。
「その通りよ。私は人と関わって生きていくつもりはないわ。今回の事が無事すんだら、消えるわ」
グウェンティアは笑いながら告げた。生まれてから三日月に振り回されるばかりの人生だった。
当事者達はもういない。ただ、血を引き三日月と魔力を継承しただけで全ての責任を背負わせた。彼等に恨み言を言いたいところだが、生きているのは一人だけだ。しかも、その一人も深い眠りの中にいる。
「私はもう、振り回されたくないのよ。何に対してもね」
グウェンティアはグロウに視線を移した。グロウは金色の目を細める。
「訊きたいことがあるわ。名前は」
彼は息を飲んだ。
「私は紫だの藍だのと敬称で呼び合うのは嫌よ。一人の人として名前は必要だわ」
きっぱりと言い切り、視線を戻す。鋭い視線で、彼を射た。
「ゼディスだ」
「じゃあ、ゼディ。目隠しを外して、見せて」
グウェンティアはゼディスが動揺したことが判った。目隠しは魔眼を封印している物だ。不用意に外すことは許されていない。視界に入るもの全てに魔術が発動する。
「確かめたいのよ。魔眼というものを」
グウェンティアは落ち着き払った口調で言った。
「物好きな奴だな」
グロウは気だるげに呟く。魔眼を見たがるなど正気の沙汰とは思えない。魔眼は狂気の魔術だ。意志の力が弱ければ、周りに被害が及ぶ。そのための封印布なのだ。それを外すなど、想像も出来なかった。
「外して」
グウェンティアは更に促す。ゼディスは大きく息を吐き出した。意を決し、封印布に手を掛ける。
露わになった瞳に、グウェンティアは目を細めた。
ゼディスは目隠しを元に戻した。両の目を覆う。
「瞳の色は一緒。でも、猫の目のような虹彩ね」
グウェンティアは平然とゼディスの瞳について感想を述べる。グロウは一度、ゼディスの顔を見たが、直ぐに眠りに入ってしまった。
ゼディスは平然と自身の目を直視したグウェンティアに驚愕した。紫の三日月の持つ魔力は確かに紅の魔力を上回る。だが、魔眼だけは別だ。紅の魔眼は魔力よりも瞳の持つ特殊な力だ。魔力の有無は関係あるがそれだけではない。
「何ともないのか」
ゼディスは声が震えているのが判った。それは紫の三日月の持つ、底知れない魔力にだ。一度だけ見た魔術の発動は強い印象を彼に焼き付けていた。
今まで、何度挑んでも返り討ちにあっていた魔物だ。それを、体力すらあやしい状態で魔術を使い、狙いを間違えずに獲物を仕留めた。強い精神力と意志の力がなければ無理だ。
「目隠しをする必要はないんじゃない。もう、制御くらい出来るでしょう」
グウェンティアは軽い調子で言ってのける。ゼディスは身震いをした。そんな事は考えたこともない。
「はっきり言って、これからはそれを外してほしいわ」
グウェンティアには判っていた。
彼女のいた世界は魔物で溢れている筈だ。目隠しをして対処出来る状態ではないだろう。
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