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月の箱庭
19 風と砂と
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アシャンティの放った矢は迷うことなく一点を目指していた。目標は多くの目の中で一つだけ色が違うものだった。
魔術を纏い、淡い魔術文字の光を放ちながら矢は速度を上げていく。グロウは咄嗟にアシャンティに視線を向けた。
矢にはかなりの魔力が込められている。つまりはアシャンティが無理をしたのではないかという懸念だった。だが、それは無駄な心配だった。アシャンティは前方を見詰め、矢の行き先を睨みつけている。
「分れて」
小さな呟きはグロウの耳に届いていた。分かれるとは何を意味しているのか。グロウには知る術がなかった。
三人は次々と現れる魔物を倒し続けなくてはならなかった。一匹でも逃せば、必ずアシャンティの元に向かう筈だ。それだけは避けなければいけなかった。
グウェンティアは時折、二人に視線を向ける。ゼディスは息が上がっていても慣れているのか何とかなるようだ。
問題はデュナミスだった。体力的にも技術的にも問題がありすぎた。ましてや、結界の外は過酷な世界だ。息をするのもきつい筈だ。何とか魔物を倒してはいるものの、体力が尽きるのは時間の問題だった。
魔物達も気が付いているようで、明らかにデュナミスを狙っている。グウェンティアは体勢を低くし一度に複数の魔物を仕留めていた。一匹ずつ倒していては埒があかない。
ゼディスも同様だった。横に剣を凪ぐと一度に複数の魔物が塵となり消えていく。両目を封印していても戦闘能力を疑うような要素を見出すことは出来なかった。
デュナミスに至ってはよく持ちこたえていると言っていい。気力で何とかなっているのは見ていて判る。援護をしたくとも、二人は際限なく現れる魔物に対応するだけで精一杯だった。
「デュナミスっ」
二人は同時に叫び声を上げた。いつの間にか三人は離れてしまっていた。戦い慣れているゼディスと、修羅場を切り抜けたことのあるグウェンティアは無意識に体が動くがデュナミスはそうではなかった。二人の叫び声に振り返った時には目の前に鋭い爪があった。黒く輝き確実にデュナミスを捕らえようとしている。
軽く目を見開いたデュナミスは咄嗟に体を捩った。鋭い痛みが右頬を走る。眉を顰め、デュナミスは振り向き様に魔物の首をはねた。少しの抵抗が手に残る。右頬を手をやり触れた。ぬめりを帯びた生暖かいものが触れる。
考えなくとも何であるかは想像出来たが、確かめずにはいられなかった。触れた指を確認する。赤い血が指先に存在し、デュナミスは自身が置かれている状況がどれ程危険であるかを本当の意味で理解した。
グウェンティアに釘を刺されても、実感が掴めなかった。それは、危険な状況になった事がなく安全な場所に今までいたのだと自覚するのには十分だった。この時、初めてデュナミスはどれ程、今の状況を軽く考えていたかを思い知ったのである。
体が辛いなどと言っている暇はなかった。ただ、生にしがみつくように、必死で目の前の敵を倒さなくてはならなかった。
アシャンティは放った矢を祈るような思いで見詰めていた。失敗は許されない。溢れかえるように現れる魔物が間違えなく矢を発見する。そうなれば、何本も射るのは無理であり、ましてや、魔術を施すことは無理だった。
魔力は無尽蔵ではない。一度に扱える魔術には限りがある。複雑であればある程、魔力の消費は激しい。何度も扱えないのには別の理由もある。特に今回は魔物の動きが止まった後、逃げなくてはならない。魔力を使い切ってしまっては、逃げる体力などないに等しい。
アシャンティは目の端に入ってきたものに視線を移した。魔物が数匹向かってくる。素早く弓に矢をつがえ狙いを定め放った。
グロウも気が付き、すぐに行動に移した。大地を蹴り、アシャンティが射抜いた後ろの魔物の喉元を噛み千切る。
一人と一匹は確実に魔物を倒していく。
アシャンティは時々、自身の放った矢に視線を向けた。何度目かに向けた視線の先に、求めていた結果を見出し思わず笑みがこぼれた。
グロウはその表情を見た後、視線の先を確認する。それは、予想もしなかった結果だった。
グウェンティアは何匹かの魔物がアシャンティに向かうのを目撃した。追撃したくとも、溢れかえる魔物がそれを許してはくれなかった。
四凶である魔物は容赦なく魔物を送り込んでくる。いくら倒しても無尽蔵に溢れかえる魔物を完全に消し去るのは無理だった。
流石に息が上がり始める。
ゼディスは体力的に問題はなくとも、先が見えない戦闘は戦意を消失させる。倒してもすぐにそれ以上の魔物が襲いかかってくる。
デュナミスは意識があるのかもはっきりしてはいなかった。ただ、襲いかかってくる魔物を機械的に倒していく。
今の彼なら、目の前に人が現れても平気で剣を振るうだろう。自身の命と襲いかかってくる者の命を天秤にかけ、選択するのは自分の命だ。
グウェンティアは強い力を感じ慌てて上空に視線を移した。そこには魔力を帯びた矢が一本、否、二本存在していた。一本は実体があり、もう一本は強い魔力を帯びた幻の矢だった。
最初は同じ速度で目的の場所を目指していた矢が、違う動きを見せる。魔術で作り上げられた矢は実体を離れ、目的を達するために速度を上げる。光の軌跡を残し、幻の矢は激しく何かに激突した。
グウェンティアはそれを目撃した後、二人に視線を向けた。
「伏せてっ」
大声で叫ぶ。二人はすぐには反応が出来なかった。しかし、感じる魔力に視線を上空に向け把握した。素早く地面に体を伏せる。
瞬間、激しい衝撃が駆け抜けた。硝子が砕けるような激しい音を立て、何かが崩れ落ちたようだった。
衝撃はその場にいた魔物を飲み込んだ。あれ程いた魔物達は衝撃に耐えられず、消滅していく。
衝撃の後、実体を持つ矢は速度を落とすことなく、目的の場所に吸い込まれていった。
鈍い音が耳に届く。
鋭い耳障りな声音が辺りに響き渡った。
矢は確実に役目を果たすように、更に奥深くに入り込んでいく。
四凶は抵抗するように、激しく体を波立たせていたが矢は更に深く突き刺さっていく。
何かが砕けるような音が辺りを満たした。
グウェンティアは素早く立ち上がると、魔物を仰ぎ見る。目を細め、魔物の体内を探った。漆黒の魔術の波動は確実に核を捕らえていた。
アシャンティはグロウに視線を向けた。彼女が放った矢は役目を果たしたようだった。
グロウは頷くと三人に向かって走り出す。アシャンティも結界を素早く解除し、荷物を拾い上げると走り出した。
グウェンティアは剣を一振りし、鞘に納める。ゼディスも同様に剣を納めた。
ただ、デュナミスだけが違っていた。安全だと気が付いたとたん、意識を失い握っていた剣が大地に突き刺さった。体が倒れていく。
グウェンティアは眉を顰めた。これから、走らなくてはならないが、デュナミスの今の状態では無理だ。
グロウはデュナミスの姿を視界に納めると、更に速度を上げる。倒れ込む一瞬前に何とか体を受け止めた。
それを感じたゼディスは素早くデュナミスの元に走り寄り剣を拾い上げ鞘に納めた。
追いついたアシャンティに目で合図し、走り出す。時間は少ししか残されていない。一瞬、四凶に視線を走らせ急いでその場を後にする。
一行は逃げるという選択しかない事実に歯痒い思いを味わいながら、走り去るしかなかった。
そこに残された魔物は微動だにしていない。風に煽られ、乾いた砂が体を打ち付けていた。
『情けないな』
魔物の近くで声がする。その呟きが更なる恐怖の始まりである事を一行はまだ、知らなかった。
魔術を纏い、淡い魔術文字の光を放ちながら矢は速度を上げていく。グロウは咄嗟にアシャンティに視線を向けた。
矢にはかなりの魔力が込められている。つまりはアシャンティが無理をしたのではないかという懸念だった。だが、それは無駄な心配だった。アシャンティは前方を見詰め、矢の行き先を睨みつけている。
「分れて」
小さな呟きはグロウの耳に届いていた。分かれるとは何を意味しているのか。グロウには知る術がなかった。
三人は次々と現れる魔物を倒し続けなくてはならなかった。一匹でも逃せば、必ずアシャンティの元に向かう筈だ。それだけは避けなければいけなかった。
グウェンティアは時折、二人に視線を向ける。ゼディスは息が上がっていても慣れているのか何とかなるようだ。
問題はデュナミスだった。体力的にも技術的にも問題がありすぎた。ましてや、結界の外は過酷な世界だ。息をするのもきつい筈だ。何とか魔物を倒してはいるものの、体力が尽きるのは時間の問題だった。
魔物達も気が付いているようで、明らかにデュナミスを狙っている。グウェンティアは体勢を低くし一度に複数の魔物を仕留めていた。一匹ずつ倒していては埒があかない。
ゼディスも同様だった。横に剣を凪ぐと一度に複数の魔物が塵となり消えていく。両目を封印していても戦闘能力を疑うような要素を見出すことは出来なかった。
デュナミスに至ってはよく持ちこたえていると言っていい。気力で何とかなっているのは見ていて判る。援護をしたくとも、二人は際限なく現れる魔物に対応するだけで精一杯だった。
「デュナミスっ」
二人は同時に叫び声を上げた。いつの間にか三人は離れてしまっていた。戦い慣れているゼディスと、修羅場を切り抜けたことのあるグウェンティアは無意識に体が動くがデュナミスはそうではなかった。二人の叫び声に振り返った時には目の前に鋭い爪があった。黒く輝き確実にデュナミスを捕らえようとしている。
軽く目を見開いたデュナミスは咄嗟に体を捩った。鋭い痛みが右頬を走る。眉を顰め、デュナミスは振り向き様に魔物の首をはねた。少しの抵抗が手に残る。右頬を手をやり触れた。ぬめりを帯びた生暖かいものが触れる。
考えなくとも何であるかは想像出来たが、確かめずにはいられなかった。触れた指を確認する。赤い血が指先に存在し、デュナミスは自身が置かれている状況がどれ程危険であるかを本当の意味で理解した。
グウェンティアに釘を刺されても、実感が掴めなかった。それは、危険な状況になった事がなく安全な場所に今までいたのだと自覚するのには十分だった。この時、初めてデュナミスはどれ程、今の状況を軽く考えていたかを思い知ったのである。
体が辛いなどと言っている暇はなかった。ただ、生にしがみつくように、必死で目の前の敵を倒さなくてはならなかった。
アシャンティは放った矢を祈るような思いで見詰めていた。失敗は許されない。溢れかえるように現れる魔物が間違えなく矢を発見する。そうなれば、何本も射るのは無理であり、ましてや、魔術を施すことは無理だった。
魔力は無尽蔵ではない。一度に扱える魔術には限りがある。複雑であればある程、魔力の消費は激しい。何度も扱えないのには別の理由もある。特に今回は魔物の動きが止まった後、逃げなくてはならない。魔力を使い切ってしまっては、逃げる体力などないに等しい。
アシャンティは目の端に入ってきたものに視線を移した。魔物が数匹向かってくる。素早く弓に矢をつがえ狙いを定め放った。
グロウも気が付き、すぐに行動に移した。大地を蹴り、アシャンティが射抜いた後ろの魔物の喉元を噛み千切る。
一人と一匹は確実に魔物を倒していく。
アシャンティは時々、自身の放った矢に視線を向けた。何度目かに向けた視線の先に、求めていた結果を見出し思わず笑みがこぼれた。
グロウはその表情を見た後、視線の先を確認する。それは、予想もしなかった結果だった。
グウェンティアは何匹かの魔物がアシャンティに向かうのを目撃した。追撃したくとも、溢れかえる魔物がそれを許してはくれなかった。
四凶である魔物は容赦なく魔物を送り込んでくる。いくら倒しても無尽蔵に溢れかえる魔物を完全に消し去るのは無理だった。
流石に息が上がり始める。
ゼディスは体力的に問題はなくとも、先が見えない戦闘は戦意を消失させる。倒してもすぐにそれ以上の魔物が襲いかかってくる。
デュナミスは意識があるのかもはっきりしてはいなかった。ただ、襲いかかってくる魔物を機械的に倒していく。
今の彼なら、目の前に人が現れても平気で剣を振るうだろう。自身の命と襲いかかってくる者の命を天秤にかけ、選択するのは自分の命だ。
グウェンティアは強い力を感じ慌てて上空に視線を移した。そこには魔力を帯びた矢が一本、否、二本存在していた。一本は実体があり、もう一本は強い魔力を帯びた幻の矢だった。
最初は同じ速度で目的の場所を目指していた矢が、違う動きを見せる。魔術で作り上げられた矢は実体を離れ、目的を達するために速度を上げる。光の軌跡を残し、幻の矢は激しく何かに激突した。
グウェンティアはそれを目撃した後、二人に視線を向けた。
「伏せてっ」
大声で叫ぶ。二人はすぐには反応が出来なかった。しかし、感じる魔力に視線を上空に向け把握した。素早く地面に体を伏せる。
瞬間、激しい衝撃が駆け抜けた。硝子が砕けるような激しい音を立て、何かが崩れ落ちたようだった。
衝撃はその場にいた魔物を飲み込んだ。あれ程いた魔物達は衝撃に耐えられず、消滅していく。
衝撃の後、実体を持つ矢は速度を落とすことなく、目的の場所に吸い込まれていった。
鈍い音が耳に届く。
鋭い耳障りな声音が辺りに響き渡った。
矢は確実に役目を果たすように、更に奥深くに入り込んでいく。
四凶は抵抗するように、激しく体を波立たせていたが矢は更に深く突き刺さっていく。
何かが砕けるような音が辺りを満たした。
グウェンティアは素早く立ち上がると、魔物を仰ぎ見る。目を細め、魔物の体内を探った。漆黒の魔術の波動は確実に核を捕らえていた。
アシャンティはグロウに視線を向けた。彼女が放った矢は役目を果たしたようだった。
グロウは頷くと三人に向かって走り出す。アシャンティも結界を素早く解除し、荷物を拾い上げると走り出した。
グウェンティアは剣を一振りし、鞘に納める。ゼディスも同様に剣を納めた。
ただ、デュナミスだけが違っていた。安全だと気が付いたとたん、意識を失い握っていた剣が大地に突き刺さった。体が倒れていく。
グウェンティアは眉を顰めた。これから、走らなくてはならないが、デュナミスの今の状態では無理だ。
グロウはデュナミスの姿を視界に納めると、更に速度を上げる。倒れ込む一瞬前に何とか体を受け止めた。
それを感じたゼディスは素早くデュナミスの元に走り寄り剣を拾い上げ鞘に納めた。
追いついたアシャンティに目で合図し、走り出す。時間は少ししか残されていない。一瞬、四凶に視線を走らせ急いでその場を後にする。
一行は逃げるという選択しかない事実に歯痒い思いを味わいながら、走り去るしかなかった。
そこに残された魔物は微動だにしていない。風に煽られ、乾いた砂が体を打ち付けていた。
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