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月の箱庭
25 荒廃
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グウェンティアは小さく喘いだ。太陽の強い日差しを避け、今は廃墟と化した建物に避難している。紅の村に行き着く時同様に、行動する時間には制限があった。
無理に動けば体力が奪われる。だが、先に進まなくては時間ばかりが過ぎていく。焦れば焦るほど時間ばかりが過ぎ、苛立ちが募った。
陽が陰り、空がまだ明るい時間帯に歩き出す。その繰り返しだった。移動中、襲いかかってくる魔物を倒しながら先を急ぐ。最初こそ口を開く者はいたが、徐々に無口になっていった。
あの日以来、四凶が現れないことが、かえって不安を募らせた。グウェンティアは辺りを見渡した。そこにあるのは乏しい色彩の景色だ。
建物は存在しているが、短期間に与えられた太陽の強い光と熱が全てを奪うのに十分な力を発揮していた。
「このまま行けばどれくらいで目的地に着く」
ゼディスが休憩中にグウェンティアに問うてきた。本来であれば、すぐに予測がつく。だが、今の状況は彼女が体験した事がなく、無数に現れる魔物が予測を困難にしていた。
グウェンティアが表情を曇らせたことを察したゼディスは軽く頭を振る。両目を塞いでいても、気配で判るのだ。
「正常な状態ならどれくらいだ。徒歩でだが」
グウェンティアは考えた。四凶から逃げ身を潜めた街から彼等は東に進路をとった。普通であれば徒歩で五日かかるかかからないかだ。
「つまりは、普通に移動する時間を費やして、半分来たか、来てないか位なんだな」
ゼディスの問いに、グウェンティアは頷くしかなかった。移動に制限があり、魔物の徘徊した世界を移動するのは困難だ。
「嫌な予感がする」
ゼディスは小さく呟いた。グウェンティアは紅の三日月の呟きに焦りを感じた。予言の一族であり、正確とも言える的中率をほこる。言葉の重さは他の者の比ではない。
「予言じゃない。直感だ。胸騒ぎがする」
ゼディスは三人と一匹に向けて言った。彼の言う嫌な予感は経験によるものだ。確かな感覚が、彼に警鐘を鳴らしていた。
「嫌な予感なんて、常時じゃない。今以上に悪くなると言うなら理解出来るわ」
グウェンティアは溜め息と共に言葉を吐き出した。これ以上、何が起こるというのか。実際、状況は悪くなる一方であり、好転する兆しなど見つかる筈もない。
「今、楽天的に考えて目的地の半分まで来たと仮定しよう。当面の問題は、移動時間だけじゃない。食料に水だ」
ゼディスは正論を口にした。
グウェンティアにも判っていた。移動に費やす時間が長くなれば長くなるほど、リスクは大きくなる。ましてや、デュナミスとアシャンティは本当の意味で過酷な状況に陥ったことがない。精神的に痛めつけられ、それは肉体にまで及ぶ。
どんな状況であったにしても、迅速に行動することが成功の鍵に違いなかった。だが、状況は悪くなる一方である。移動していて気が付いたことは、この世界は生物が住むには過酷な世界になってしまっだという事だ。
ただ、生きるという行為が苦痛なのだ。このまま、体を手放したくなるときがある。
「判っているわ。急がなければ潰れる。確実にね」
グウェンティアは視線を横に向けた。そこには憔悴仕切ったデュナミスとアシャンティの姿があった。
「方法は一つしかないわ」
グウェンティアはゼディスを見据えた。ゼディスは目を細める。
「太陽の下で行動するのは自殺行為だわ。ならば、夜、移動するしかない」
グウェンティアは険しい表情を見せた。夜、行動することは魔物の餌食になるのと一緒だ。しかし、ここ数日の魔物達の行動は少しおかしかった。
魔物は夜、活発に活動する。だが、夜だけではなく日中もあまり姿を現さなくなった。おそらく、状況からいって悪い兆しに違いなかったが、移動することだけに重点をおくと、幸運なことと言えた。
「魔物達が何処に行ってしまったのか、大体、想像は出来るけれど、構っていられないわ」
選択肢は必ずしも多くはない。限られた中で最良の結果を出すしかない。厳しい状況が好転することは多分ない。
「夜なら、移動するだけに重点をおくなら最適よ。寒さは厳しいけれど、日中の直射日光に比べたらましだわ」
グウェンティアは半ば諦めたように言い切った。食料も水も体力も気力も、ありとあらゆるものが失われつつある。例え、魔物の中に飛び込む行為になろうと、強行突破で突き進むしかない。
デュナミスとアシャンティは限界まできている筈だ。グウェンティアとて、例外ではない。極度に神経を研ぎ澄まし、休まるときがなくては人は駄目になっていく。精神が崩壊し、取り返しがつかなくなる。その前に、目的地に着くしかないのだ。
「グロウ、聞いてもいいかしら」
「何だ」
今まで大人しく休んでいたグロウに、グウェンティアは語りかけた。
「仮祭殿には結界がある。つまり、そこまで行けば、魔物から解放されるかしら」
「考え方は間違っていないが、結界が発動する前に入り込んだものはそこにいるぞ」
グウェンティアは爪を噛む。多少の魔物など問題ではない。無数に現れる魔物に比べれば可愛いものだ。
「行くわ。ぐずぐずしていては先を越されるだけよ」
グウェンティアは四凶の一人を思いだしていた。
悪臭を放つ巨大な四凶など可愛いと思えた人物。魔物と言い切るにはあまりにも人間的だった。
あの日から今まで、何一つ手を出してこないのは目的地を知っているからだ。魔物の数が減ったのも、おそらくあの魔物の仕業に違いない。
今行おうとしている行為は確実に自殺行為に違いなかったが、時間を引き延ばすこともまた、自殺行為に違いなかった。
「決めたのか」
グロウはグウェンティアに確認をする。この時点での決定権はグウェンティアにあるといっても過言ではなかった。
紫の三日月だからというよりも、彼女が持つ経験と何より、一番地理に詳しいことがあげられた。
だからといって、荒廃しすべてに於いて変化してしまった現状では、迷いは致命的だ。誰かが決断し、責任を負わねばならない。
「決めたわ。一気に目的地まで行くわよ。昼は休んで、それ以外の時間は移動する」
きっぱりと言い切り、グウェンティアは三人に視線を向けた。二人は小さく息をのみ頷いた。ゼディスはただ、そんなグウェンティアの決定に無言で認めるだけだった。
四人と一匹は立ち上がり、行動を開始した。
無理に動けば体力が奪われる。だが、先に進まなくては時間ばかりが過ぎていく。焦れば焦るほど時間ばかりが過ぎ、苛立ちが募った。
陽が陰り、空がまだ明るい時間帯に歩き出す。その繰り返しだった。移動中、襲いかかってくる魔物を倒しながら先を急ぐ。最初こそ口を開く者はいたが、徐々に無口になっていった。
あの日以来、四凶が現れないことが、かえって不安を募らせた。グウェンティアは辺りを見渡した。そこにあるのは乏しい色彩の景色だ。
建物は存在しているが、短期間に与えられた太陽の強い光と熱が全てを奪うのに十分な力を発揮していた。
「このまま行けばどれくらいで目的地に着く」
ゼディスが休憩中にグウェンティアに問うてきた。本来であれば、すぐに予測がつく。だが、今の状況は彼女が体験した事がなく、無数に現れる魔物が予測を困難にしていた。
グウェンティアが表情を曇らせたことを察したゼディスは軽く頭を振る。両目を塞いでいても、気配で判るのだ。
「正常な状態ならどれくらいだ。徒歩でだが」
グウェンティアは考えた。四凶から逃げ身を潜めた街から彼等は東に進路をとった。普通であれば徒歩で五日かかるかかからないかだ。
「つまりは、普通に移動する時間を費やして、半分来たか、来てないか位なんだな」
ゼディスの問いに、グウェンティアは頷くしかなかった。移動に制限があり、魔物の徘徊した世界を移動するのは困難だ。
「嫌な予感がする」
ゼディスは小さく呟いた。グウェンティアは紅の三日月の呟きに焦りを感じた。予言の一族であり、正確とも言える的中率をほこる。言葉の重さは他の者の比ではない。
「予言じゃない。直感だ。胸騒ぎがする」
ゼディスは三人と一匹に向けて言った。彼の言う嫌な予感は経験によるものだ。確かな感覚が、彼に警鐘を鳴らしていた。
「嫌な予感なんて、常時じゃない。今以上に悪くなると言うなら理解出来るわ」
グウェンティアは溜め息と共に言葉を吐き出した。これ以上、何が起こるというのか。実際、状況は悪くなる一方であり、好転する兆しなど見つかる筈もない。
「今、楽天的に考えて目的地の半分まで来たと仮定しよう。当面の問題は、移動時間だけじゃない。食料に水だ」
ゼディスは正論を口にした。
グウェンティアにも判っていた。移動に費やす時間が長くなれば長くなるほど、リスクは大きくなる。ましてや、デュナミスとアシャンティは本当の意味で過酷な状況に陥ったことがない。精神的に痛めつけられ、それは肉体にまで及ぶ。
どんな状況であったにしても、迅速に行動することが成功の鍵に違いなかった。だが、状況は悪くなる一方である。移動していて気が付いたことは、この世界は生物が住むには過酷な世界になってしまっだという事だ。
ただ、生きるという行為が苦痛なのだ。このまま、体を手放したくなるときがある。
「判っているわ。急がなければ潰れる。確実にね」
グウェンティアは視線を横に向けた。そこには憔悴仕切ったデュナミスとアシャンティの姿があった。
「方法は一つしかないわ」
グウェンティアはゼディスを見据えた。ゼディスは目を細める。
「太陽の下で行動するのは自殺行為だわ。ならば、夜、移動するしかない」
グウェンティアは険しい表情を見せた。夜、行動することは魔物の餌食になるのと一緒だ。しかし、ここ数日の魔物達の行動は少しおかしかった。
魔物は夜、活発に活動する。だが、夜だけではなく日中もあまり姿を現さなくなった。おそらく、状況からいって悪い兆しに違いなかったが、移動することだけに重点をおくと、幸運なことと言えた。
「魔物達が何処に行ってしまったのか、大体、想像は出来るけれど、構っていられないわ」
選択肢は必ずしも多くはない。限られた中で最良の結果を出すしかない。厳しい状況が好転することは多分ない。
「夜なら、移動するだけに重点をおくなら最適よ。寒さは厳しいけれど、日中の直射日光に比べたらましだわ」
グウェンティアは半ば諦めたように言い切った。食料も水も体力も気力も、ありとあらゆるものが失われつつある。例え、魔物の中に飛び込む行為になろうと、強行突破で突き進むしかない。
デュナミスとアシャンティは限界まできている筈だ。グウェンティアとて、例外ではない。極度に神経を研ぎ澄まし、休まるときがなくては人は駄目になっていく。精神が崩壊し、取り返しがつかなくなる。その前に、目的地に着くしかないのだ。
「グロウ、聞いてもいいかしら」
「何だ」
今まで大人しく休んでいたグロウに、グウェンティアは語りかけた。
「仮祭殿には結界がある。つまり、そこまで行けば、魔物から解放されるかしら」
「考え方は間違っていないが、結界が発動する前に入り込んだものはそこにいるぞ」
グウェンティアは爪を噛む。多少の魔物など問題ではない。無数に現れる魔物に比べれば可愛いものだ。
「行くわ。ぐずぐずしていては先を越されるだけよ」
グウェンティアは四凶の一人を思いだしていた。
悪臭を放つ巨大な四凶など可愛いと思えた人物。魔物と言い切るにはあまりにも人間的だった。
あの日から今まで、何一つ手を出してこないのは目的地を知っているからだ。魔物の数が減ったのも、おそらくあの魔物の仕業に違いない。
今行おうとしている行為は確実に自殺行為に違いなかったが、時間を引き延ばすこともまた、自殺行為に違いなかった。
「決めたのか」
グロウはグウェンティアに確認をする。この時点での決定権はグウェンティアにあるといっても過言ではなかった。
紫の三日月だからというよりも、彼女が持つ経験と何より、一番地理に詳しいことがあげられた。
だからといって、荒廃しすべてに於いて変化してしまった現状では、迷いは致命的だ。誰かが決断し、責任を負わねばならない。
「決めたわ。一気に目的地まで行くわよ。昼は休んで、それ以外の時間は移動する」
きっぱりと言い切り、グウェンティアは三人に視線を向けた。二人は小さく息をのみ頷いた。ゼディスはただ、そんなグウェンティアの決定に無言で認めるだけだった。
四人と一匹は立ち上がり、行動を開始した。
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