月の箱庭

善奈美

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月の箱庭

30 紅の炎

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 ゼディスは移動陣の上に立っていた。その場から辺りを見渡し、その光景に愕然とする。そこは赤く染め上げられた炎の世界だった。ただ、熱を感じない。赤い光が反射し鬱陶しい位だが、肌を焼くような暑さはなかった。
 
 ゆっくりと足を踏み出す。
 
 目の前に女神像があり、二つの水晶を持っていた。一つは魔力に満ち溢れ、一つは何も感じない。ただ、女神像の手の中で静かに存在しているだけだった。
 
 炎は幻のようで、触れても何一つ感じない。ただ、空気が痛いくらいに凝縮していることだけは理解出来た。手の中にある核が振るえている。何かを欲しているように蠢いているように感じた。

 ゼディスは女神像に視線を向け目を細めた。微かに感じる近しい者の気配。体の奥底で何かが触れている。
 
「そこにいるのは、誰だ」
 
 落ち着いた口調で問い掛ける。女神像は微かに震え、ゆっくりと何かが抜け出てきた。半透明に見える赤い髪。ゆっくりと顔を上げると、片方の目を封印布で覆っているのが確認出来た。完全に抜け出すと、不敵な笑みを浮かべている。
 
 だが、ゼディスは意に介していなかった。何故なら、紅は先が見える分、見下したように物事を見てしまう傾向にあるからだ。

『判っているようだな』
「ああ。彼奴等よりは判ってると思うぜ。グウェンティアを除いてだが」
 
 ゼディスは目を細め、手の中の核を無造作に炎に放り投げた。核は炎に絡め取られ空中で静止する。
 
『それも説明はいらないな』
「あの核は番人になるんだろ。見えたからな」
 
 男はゆっくりとゼディスに近付く。
 
『予言は受理される。レウディアは元の場所に戻ったんだな』
 
 確認されゼディスは頷く。
 
『紅の予知は殆ど外れないが、お前は知っているのか』
 
 男の言葉に首を傾げた。知ることが出来るものは全てでないにしても、だいたい知っている筈だ。

『紫の行く末を知っているか』
 
 その問いに、ゼディスは沈黙した。紫の三日月は彼が唯一読み切れない弱点でもあった。三人に出会う前、ゼディスは予め予知で知っていた。だからこそ、あの場に行き助けることが出来たのだが、知り得たのは藍と漆黒のみだった。その場に行き初めて第三の人物である紫を認識したのだ。
 
『紫は虹になる宿命を持っている。複雑な色である紫はその魔力も複雑だ。故に紅が予言出来ない種族でもある』
「紫は他の三日月とやはり違うのか」
 
 男は頷くと核に視線を向けた。

『紫は要の種族だ。月の民がいる世界は魔力をもつ者達がいるせいか何時も不安定だ。そのバランスを取るために紫から虹が誕生する』
 
 男は視線をゼディスへ戻す。
 
『虹は生涯微睡みの中で生き、次代に継承されていく。紫が紅の予知能力に触れないのはそのせいであると言われているが、はっきりとは判っていない』
 
 ゼディスは眉を顰めた。
 
『そして、これは我等、紅しか知り得ないことだがお前に話そう』
 
 男は改まったように口火を切る。ゼディスは嫌な予感がしていた。それは予知能力ではなく、直感的なものだった。

『最初の過ちは紫からだと言われているが実は違う』
「どういう事だ」
『紅はある予知を隠した。紅全ての者が予知したのにも関わらず』
 
 男は語り始めた。
 
 紅は季節の節目に必ず一族を上げて予知をしていた。それは、裏の世界の危機をいち早く察知することが目的であり、回避するためだった。
 
 何時の頃からかある予知が頻繁にされるようになった。その予知は彼等からすれば有り得ない内容であり、また、有り得ないことだった。
 
『毎回、その予知はされ、しかし、口を噤んだ。混乱することが判っていたからだ』
 
 男は俯いた。古い記憶を無理矢理引き上げる。

『予知されたのは三つ。一つは純粋なる白が誕生する。一つは二つの世界が交わり崩壊する』
 
 男はそこで言葉を切った。小さく息を吐き出し、視線を泳がせる。あの時、その後悔は今でも持ち続けているが、今更何を言ったところで変わりはしない。
 
『もう一つは全てを飲み込む紫が誕生する。破壊と殺戮を象徴する者』
 
 ゼディスは表情が険しくなるのを隠せなかった。もし、早くに対応していれば回避出来たのではないか。だが、もう一つの可能性もあった。紅の予知はほぼ、間違いのない未来の道筋だ。予知された時点で回避出来るものと出来ないものがある。

 もし、後者であった場合、語ることで混乱を招き更に酷いことになってしまう場合があるのだ。
 
『我々は口を噤み続け、あの時を迎えたのだ』
 
 元凶が誕生した瞬間、紅の三日月は過去からの予知の真の理由に気が付いた。だが、元凶は誕生と同時に歯車を回し始め、そして、運命の時を迎える。
 
『元凶は全ての魔力を奪われ、そして、成人の儀に魔力が戻され、悲劇が始まったのだ』
 
 魔力は人格を破壊し、理性さえ失ってしまった。溢れ出す魔力を排出するために、破壊行動を始めることになる。
 
 紅は驚愕しまた、恐怖した。知らせるべきであったのではないかと、戦々恐々になったのである。

 だが、賽は投げられてしまった。二つの世界が交わるの予知を知らせるべきか思案しているうちに、更なる悲劇が幕を開けていた。
 
『元凶は次の世界の扉を開けてしまった。ある者を手中におさめて』
 
 男は強く右手を握り締めた。
 
「どうやって手中におさめたんだ」
 
 ゼディスは問い掛けた。初代王が言っていたことが真実なら、どのような手で唆したのか。
 
『それは』
 
 男が口ごもる。
 
「初代王、レウディアが関与したことは知ってる。判らないのは、仮にも紫だ。たとえ兄であろうと利用されれば気付く筈だ」
 
 ゼディスは核心に迫る。

「気になったんだが、何故、元凶と言う。初代王は名で呼ぶのにだ。おかしいんじゃないか」
 
 男は顔を歪めた。そして、強い視線をゼディスに投げ掛ける。ゼディスは目を細め、先を促した。
 
『名は呼ばれた者を縛り付ける。それが一般的だ。だが、元凶は違った。不用意に名を口にすれば支配される』
 
 ゼディスはその言葉に驚愕した。普通ならば名を支配した者が主導権を手にする。だが、今の説明はその逆だ。その名を口にしたとき、全てを奪われる。
 
「つまり、不用意に名を口にすれば操られる」
『そうだ』
 
 月の民は元凶に手を焼き始めていた矢先の出来事だった。

 時空壁に穴が開き、本来なら表裏一体で存在していた世界が繋がってしまった。直接交わらないからこそ保たれていたバランスが少しずつ狂い始め、表の世界が破壊された影響が裏の世界にも出始めてしまった。
 
『我々はそこで初めて予知について紫に知らせたのだ。確かに遅すぎたのかもしれない。だが、真実を知らせることで、次の予知に繋がるのではないかと、藁にもすがる思いだった』
 
 紫は黙って紅の話を聞いていた。聞き終わった後、口を吐いたのは溜め息だった。起こってしまった現実は変えられない。ならば、未来を知る方が利口だ。紅は一流の予知能力を持ち、出来れば確信した状態で対処したいのが本音だった。

 仲違いしている余裕など、この時にはなかったのである。
 
『我々は一族をあげて予知に挑んだ。最良の道筋を探るために』
 
 そして出た結論は意外であったが理にかなっていた。表の世界を放置すれば共倒れになる。早急に対応しなければ、痛い目を見るのは月の民だった。表の世界の日の民はほぼ、命を留めておらず、少数とはいえ絶えてしまえば取り返しが付かない。
 
『無謀な賭けだった。元凶を捕らえ拘束し利用する。それらを現実にするのは』
 
 早口で言った。

 表の世界に向かう者達の選出は紫に一任されたが、ほぼ決まっていたと言っても過言ではなかった。時空壁に穴を開ける手伝いをしてしまったレウディアは勿論、本人の意志と他の意見で決定していた。
 
 そうなると必然的に藍も決まってくる。恋人同士であった二人は離れることを考えなかった。漆黒と紅もまた、二人の友人が名乗りを上げた。結局、月の民は皆何かしらの責を負わねばならなかった。
 
『紅は常時予知をし続け、もしもの時に備えた。他の種族も何時かは訪れる現実のため魔力を蓄えることになった』
 
 月の民は全てを未来のために投げ出さなくてはならなくなった。

 たった一人の存在のために、全てが狂っていく様は、当事者達にしてみればたまったものではなかった。しかし、逃げられる筈もない。
 
『我々はもっとも犠牲になる者になにもしてあげることが出来ない』
 
 その言葉にゼディスは嫌な予感がした。おそらく、今の言葉は一人に向けられたものだ。
 
「グウェンティアか」
 
 ゼディスの問い掛けに、男は頷いた。ゼディスもデュナミスもアシャンティも確かに犠牲者だがグウェンティアのそれは三人とは全く違っていたのだ。風の森が他の森と明らかに違うのが理由だった。

『核は本来月の民が使役を目的のために作り出す、言わばもう一人の自分だ。決して、自分勝手に使って良いものではない』
 
 男は炎の中の核に再び視線を走らせる。核は息づき形をとり始めていた。
 
『魔法生物はたとえ、創られたものだとしても、命に変わりはない。ある程度の規則は仕方がないが、基本的に自由である必要がある』
 
 ゼディスは男に静かな視線を向けていた。
 
『核は創り手の命を使う。長い寿命をもつ月の民だからこそ出来ることだが、それでも一生のうちで創れるのは一つが限界だ』
「だが、元凶は違った」
 
 ゼディスの言葉に男は頷く。

 底のない魔力は命すらも無限に近いものにしていた。魔力は消費されてもすぐに補充される。際限なく溢れる魔力は元凶の狂気に拍車をかけていた。
 
 四つの核を創り出し配下を手に入れた元凶に、月の民は驚嘆した。核はいくら魔力が強くても創り出せるのは一つだという定説を完全に無視していた。
 
『元凶の核を利用するよう提案したのは俺だ』
 
 ゼディスは核に視線を向けた。脈打ち核は一つの姿を確実に浮かび上がらせていた。浅黒い肌、燃えるような赤い髪。耳は尖っており、体格もがっしりとしている。それは人の姿を写し取ってはいたが異質な部分もあった。

 閉じられていた瞼が震える。膝を抱え丸くなっていた体が伸び、幻炎の中でしっかりと立ち上がった。手足の指の爪は鋭く尖り、ゆっくりと開かれた瞳は深紅を宿していた。
 
『終わったようだな』
 
 男は確認するように呟き、近付いた。魔物は目敏く気が付くと好戦的に睨み付けた。だが、男は意に介することもなく幻炎の中に手を差し入れ、予告もなしに額に何かを押し付けた。
 
 魔物は目を見開く。
 
 額に走ったのは有り得ないくらいの鋭い痛み。脈打つように支配されるような感覚が魔物を包み込む。痛みに喘ぎ、憎しみのこもった瞳が怪しく光った。

『幻炎から出ろ』
 
 その口調は威圧的だった。ゼディスは息を飲む。魔物の額に涙型の石が埋まっていた。その石に色はない。無色透明の純粋なただの入れ物のように感じた。
 
「何をする」
 
 唸るような声が発せられた。
 
『早く出るんだ』
 
 魔物は渋々従った。態度は尊大だが、何かを感じているらしくかなり警戒している。
 
『名を差し出せ』
 
 次々に突き付けられる要求に魔物の形相が変わった。怒りを露わにし体は震えている。ゼディスはただ見守っていた。下手に口を出せばややこしいことになりかねない。

「何故、命令されねばならんのだ」
『俺が命令する立場じゃないが、こいつはお前の主だぞ』
 
 男がゼディスを指差した。
 
「我の主は違う」
 
 魔物は言い終わった後、眉間に皺を寄せた。
 
『この幻炎はあの男を束縛するためのものだ。お前はそれに触れ再生された』
 
 魔物は驚き、今いる場所と状況を把握しようとしている。この場所にあるのは熱を感じない幻の炎。邪悪なものとは無縁の、正の魔力だと言えた。
 
 ゼディスを凝視し置かれた状況を冷静に考えてみる。何故、この様なことになったのか。

 遠い昔、捕らわれの身となり、最近与えられた苦痛。痛みよりも、自分が何故誕生し、何のために命を与えられたのか。それを知ったときの絶望は計り知れなかった。
 
 そして、奪われた自分自身。
 
『名を渡せば利益はある』
「何」
 
 男の言葉に魔物は反応した。今の状況はどう見てもよい傾向ではない。それどころか、前よりも酷いことになっているのではないか。男は見下すような笑みを見せ、自分の額を指差した。
 
 魔物はつられ、初めて自分の額に触れる。それは明らかに無意識だった。指先に触れる冷たく固い感触。滑らかな表面が感じ取れた。だが、指先に感触はあったが、魔力の波動を感じない。

「これはなんだ」
 
 指先に触れた固い物に魔物は怪訝な表情をした。先与えられた激痛の正体であることは判るが、見えない以上、推し量ることも出来ない。
 
 男はゼディスを顎で呼びつける。態度がぞんざいで鼻持ちならないところがあるが、何も判らない以上従うしかなかった。
 
 近くまで来ると曖昧な姿であるにもかかわらず、はっきりとした存在感でゼディスの左手首を掴むと魔物の額に甲を押し当てた。いきなり手の甲を襲った激痛に顔が歪む。魔物も再度訪れた違和感に眉を顰めた。
 
 男はゼディスの手を確認すると満足気に頷いた。何が起こったのか理解出来ず、咄嗟に左手を右手で庇った。

 そのとき感じた違和感に、視線が自然に手の甲に向けられた。
 
 手の甲には魔物の額ある水晶と同じ物が存在していた。違うところがあるなら、水晶の中に何かが蠢いている。
 
 ゼディスは驚き魔物の額に視線を向けた。先までその水晶は何もない入れ物だった。今はゼディスの水晶同様、何かが蠢いている。
 
「何をしたんだ」
 
 ゼディスは困惑した。
 
『核を有する魔法生物は自由が約束される』
「それはさっき聞いた」
 
 ゼディスは言葉を吐き捨てた。魔物でなくとも、説明がない状態で行われた行為に憤りを感じていた。

『紅ならば見えていた筈だ。違うか』
 
 そう問われ、ゼディスは記憶の蓋を開ける。数多くの予知をし、余りの多さと意味不明なものが多く、忘れていることもある。眉間に皺を寄せ、自身の奥底に眠るものを無理矢理引き上げる。
 
 その予知はいつ行ったのか定かではない。何故なら、あまりに意味不明であった上に、彼は幼かった。
 
「涙型の水晶は道」
 
 ゼディスの呟きに男は頷いた。
 
「体内に取り込むことで、意志の疎通、互いの目線でものを捉えることが出来る」
『そうだ』
 
 頷き、男は魔物を見た。

『お前はこの森の中でのみ自由でいられる。だが、外に出ることは出来ない』
 
 男は淡々と告げた。
 
『魔法生物は基本的に自由だが、名を支配している者に従わねばならない』
「矛盾しているのではないか」
 
 魔物の言葉に男は薄く笑った。
 
『確かにな。だが、お前達がこの世界に刻みつけた傷跡がどれほど酷いものか、想像したことがあるか』
 
 魔物の顔色が変わった。苦痛に歪み、ただ、前を凝視している。
 
『再生にかかる年数が判らないほどだ』
 
 ゼディスは世界が一番酷い姿をしている場所を見続け成長した。干上がり生命すら育まれない大地。乾いた風が吹き、全てが餓えていた。

「償えと言うのか」
 
 魔物は唸るように言葉を絞り出した。
 
『少し違うな。償うべきは元凶であってお前達ではない』
「お前達」
 
 魔物はその言葉が複数を示していることに気が付いた。つまり、仲間であった者達が同じ境遇にいる。仲間という意識が薄かったことは事実だが、同じ創造主から誕生したことは間違いない。
 
『この森には番人が必要だ。魔力が強いな』
 
 男は目を細めた。何かを思案し、目を閉じる。
 
『番人は核から誕生し、森の結界と封印を維持出来る魔力を持つ者と繋がらなくてはならない』
「理由は」
 
 魔物はその理由を訊きたかった。

 もし、元凶と同じ理由なら拒絶するつもりでいた。たとえ、消滅する運命になろうと。
 
『二つの魔術を完成させるために、こいつは太陽の魔力を渡さなければならないが、そのままだと月の魔力まで奪われる』
 
 男は冷静に語り出す。
 
『番人と魔力の主が繋がることで、太陽の魔力のみ引き出せる』
「おかしいだろ。何故、太陽の魔力のみ引き出せると言い切れる」
『簡単だ。お前が月の魔力と命で出来ているからだ』
 
 ゼディスの中の二つの魔力は絡み合っている。絡み合うことで、バランスを保っていた。その魔力を解き、女神像の水晶に魔力を込めなくてはならない。

「我に利益があるのか」
 
 魔物は訝しんだ。今まで自由だと思っていたが、いきなり突きつけられた現実が全てを否定していた。
 
『利益ならある。お前はこの森の中でなら自由でいられる。そして、名を与えることで外の世界を見ることが出来るようになる』
「条件付きの利益か」
 
 ゼディスは二人をただ静かに見ていた。微かに映像が脳裏を掠める。はっきりと像を結ばず、だがはっきりと何かが触れてくる。
 
「ジーン」
 
 ゼディスは呟いた。いきなり現れた言葉は魔物を驚きの中に突き落とす。息を飲みゼディスを凝視した。

「何故だ」
 
 魔物の声は震えていた。
 
「判らない。何かが触れてきた。体の奥底に炎のような何かが」
 
 ゼディスはただ呟く。絶えず体の中で炎が踊り、ゼディスを包み込もうとしている。
 
『無意識に渡したな』
 
 男は微笑した。
 
「無意識だと」
 
 魔物は納得いかないのか首を傾げている。
 
『目を閉じてみろ。見えてくる筈だ』
 
 男は魔物に告げる。まだ、納得はしていなかったが、素直に目を閉じた。閉じた瞬間は暗闇だった。だが、徐々に像を結び始める。視界が変わる。別の角度から男を見ている自分がいた。それは不思議な感覚だった。

 ゼディスもまた、不思議な感覚を感じていた。強いて言うならもう一組の目を手に入れたような感覚だった。
 
『納得したか』
「府には落ちないが仕方がない」
 
 魔物は大きな溜め息を吐いた。否定したとしても聖域とも言える場所で再生され、ゼディスと繋がってしまった以上どうすることも出来ない。
 
「一つ訊きたいのだが」
 
 魔物はゼディスに声を掛けた。ゼディスは首を傾げ怪訝な表情をした。
 
「お前は我を支配するつもりか」
 
 その問いはもっともな問いだった。不本意にも敵であった者の手に落ち、有無を言わせず使命を与えられた。

 支配されたとしても文句も否定も出来ない。名を知られてしまった以上、逃げるのは困難だ。
 
「するつもりはないな。したとして利益があるか。面倒なだけだ」
 
 ゼディスは素っ気なく答えた。
 
「必要以上に干渉しなければ、好きにしていい」
 
 簡潔な言葉に魔物、ジーンは頷いた。男はそれを見届けると、ゼディスに女神像の水晶に左手を乗せるよう指示した。ゼディスは少し息を飲み、女神像の水晶に近付く。
 
『帰りは来たときの移動陣を使え』
 
 ゼディスは頷き、水晶に手を乗せた。
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