銀の鳥籠

善奈美

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銀の鳥籠SS

021 過去編 失われし刻の欠片 前編

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 俺は生まれた時から決められていた相手がいた。おそらく、魔法使いの中で一番の力を持つ者。だが其奴は、高等部に上がる時には狂っていた。久々に面と向かって顔を合わせれば、顕著にそれが分かった。
 
「今更、必要ないよ」
「だろうな。無駄な事をしたと猛烈に後悔している」
 
 俺はそう言い捨て、其奴の前から立ち去る。俺にあてがわれた相手。波打つ銀の髪、明るい菫の瞳。シミ一つない白い肌。十八歳にして長身。見目はすこぶる良い。既に大人の魅力を放っていた。その理由を、間近で見て理解した。
 
 奴は狂ってしまっている。
 
 有り余る魔力とそれに見合った能力。頭の良さは誰もが認めていた。そう、騙されているのだ。
 
 俺の名前はアカリ(朱莉)。家業は魔法使いの杖を作る事。白髪に近い灰色の髪と黒の瞳。肌は魔法使いにありがちの白。容姿は魔力の関係かそれなりの見た目だ。魔力の質はほんの少しの破壊の魔力と後は強い癒しの魔力を持っている。
 
 そして、狂ってしまった彼奴。名前はユズハ(柚花)。破壊の魔力しか持たない。特殊な存在だった。少しずつ狂っていく。更に狂気に彩られている。それなのに、周りの大人達は気が付かない。
 
「アカリ。ちょっといいかな?」
 
 そう声を掛けてきたのは、同じ特Aの二人。何時も一緒に居る二人は、循環の魔法を使い合った存在だ。誕生日と共に魔力の循環をした。それは、魔法学校に来る者達の悲願でもある。学生時代に相手を得られるのは幸運なのだ。その為に、大人達は似たような能力の子供達を一か所に集めている。
 
「なんだ?」
「ユズハが狂ってる事に気が付いてるよね?」
 
 最初に声を掛けて来たのはツキト(月都)。黒髪に蒼瞳。象牙色の肌をしている。確か、家業が占術師だっただろうか。次いで声を掛けて来たのはヒヅキ(日莵來)。此方は有名な預言者の一族だ。茶の髪と緑の瞳。白い肌。鼻の上には薄く雀斑が散っている。
 
「両親には話したんだ。でも、信じてもらえなかった」
「預言者の一族が、息子の言葉を否定するのか?」
 
 ヒヅキは悲しそうに俯いた。ユズハは大人達から一目置かれている。つまり、盲目になり、本来見なければいけない本質を見誤っているのだ。
 
「アカリは」
「彼奴は狂ってるよ。俺ではお手上げだ」
「分かってる。だから、手を打ちたいんだ」
 
 ツキトの言葉に俺は眉間に皺を寄せた。
 
「遠い未来に、ユズハは大変な事をしでかすんだ」
「視たのか?」
 
 ヒヅキは頷いた。おそらく、何度も嘘であると信じたかったのではないだろうか。だが何度試しても結果は変わらなかった。ツキトも別の方法で確認したのだろう。予言と占術。その二つの結果が、ほぼ同じだったのだろう。
 
「ユズハは自分の血族の子孫に干渉する。同じ存在を作り出してしまう。それは、破壊の魔力を更に高みに持っていく為に」
 
 俺は目を見開いた。今でさえ、誰の手にも負えない魔力の持ち主なのだ。それなのに、更に強さを求める。
 
「破壊の魔力のみは人格破壊を引き起こす。誰も知らなかったんだ。何度説明しても、誰も信じてくれなかったっ」
「それで、どうるするって? 言っとくが、俺には何も出来ないぞ」
「出来る。杖を作って欲しい」
「は?」
 
 ツキトの言葉に疑問しか浮かばなかった。いきなり杖と言われても、理解出来ない。
 
「僕達の子孫は二つの血筋に分かれる。遠い未来に魔力を持たない一族になる。そして、分かれた血筋が一つになる時、稀なる存在が現れる」
「ユズハの血族から誕生する、干渉を受ける命は破壊の魔力のみの存在だよ。でもね、その時にはユズハの影響で管理されるから狂うまでに時間が掛かる」
 
 二人の言い分はこうだ。大人達は聞く耳を持たない。ユズハが攻撃的になり、手がつけられなくなって初めて気が付く。だが、それでは遅い。完全に手遅れだ。ユズハは大人達の目を掻い潜り、妖魔と魔力の循環をしている。つまり、精神的に破綻する速度は加速する一方だと言う。
 
「見た目が穏やかだから、完全に騙されている」
「色々、手を尽くしてみたけど、大人達は分かってくれない」
 
 二人は詠んだ。どう動くべきか。詠みに詠み出た結論。それは特殊な杖を作り、未来に託す選択だ。決して、血筋が迷子にならないよう、魔法を使い特殊な家系図を作り上げる。それを、魔法省の記録部屋に保管してもらう。その家系図は二人の子孫が生まれる度に、自動的に記されていくものだ。禁呪ではないが、かなり高度な魔法だ。
 
「で、俺が杖を作って解決するのかよ?」
「するよ。君の作る杖は余程でないと使い手が現れない」
「特殊な核で作ってもらいたい。それも、一つの核を六に割って」
「待てよっ」
 
 杖の核は一般的な物から特殊なものまで多種多様だ。だが、六に割って普通に機能する核など多くはない。
 
「知らないのかも知れないが、杖の核は強い物が使われる。だが、割ってまで能力を持つ核は殆ど無いっ」
「分かってるよ。使うのはドラゴンの心臓だ」
 
 俺は目を見開く。息を呑み、何を言い出すのかと疑った。
 
「番のドラゴンがいる。片方が予知をするドラゴンだ。詠んだ未来に偽りがないなら、おそらく、協力してくれる」
「協力?! 命を差し出せと言われて、ハイと差し出すモノなどいる訳がない!」
 
 ドラゴンは長命だ。生きるのに飽きると言っているドラゴンもいる。だが、それはあくまで、飽きているだけで死にたいわけではないのだ。
 
「絶対に協力してくれる。遠い未来で、片割れも協力をしてくれる。それは直接的な協力ではなくとも、二頭はいつかは同じ場所で時を共にする」
「信じて欲しいんだ。この世界が妖魔の餌食とならない為に」
 
 妖魔の言葉に固まった。二人がこれだけ言うのだ。偶々、妖魔が此方の世界に来ると言うわけではないだろう。
 
「ユズハは妖魔界と人間界に穴を開ける。妖魔が此方側に溢れて、大変な事態になる。全ては今の時代の大人達の過ちで。それなのに、責を担うのは僕達の子孫なんだっ。お願いだから、ドラゴンの心臓で杖を作ってっ」
 
 ヒヅキが両手で顔を覆う。一体、どんな映像を視たのか。二人の悲痛な表情。本当に俺が作る杖が役に立つのだろうか。両親にすら、俺が作り上げる杖の特殊さに、使い手が現れないと言っているのに。
 
「本当に俺が作る杖を使える奴が生まれるんだな」
 
 俺は二人に念を押す。二人はゆっくりと頷いた。
 
「分かった。その依頼、受けてやるよ」
「杖は何時もの店に納品してもらって構わない。その場所が杖と使い手の接点だから」
 
 俺は小さく頷く。この俺達の行動が遠い未来に何を齎すのか。確かな確信もなく、行動するしかなかった。
 
 
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